妊娠中に梨は食べても大丈夫？管理栄養士が教える効果と適量、15品種の選び方

【結論】妊娠中に梨は食べてもOK！ただし量と食べ方にポイントが

結論として、梨は妊娠中に安心して食べられる果物です。厚生労働省と農林水産省が共同で策定した「妊産婦のための食事バランスガイド」でも、果物はバランスの取れた食事の重要な一部として推奨されています¹。むしろ、梨には妊娠中に起こりがちな便秘やむくみといった不快な症状を和らげるのに役立つ栄養素が豊富に含まれています。ただし、どんな食品も同様ですが、「食べ過ぎ」には注意が必要です。この記事で解説する「適量」と「注意点」を守って、美味しく健康的に梨を楽しみましょう。

梨が妊婦さんに嬉しい5つの理由｜科学的根拠から解説

梨がなぜ妊娠中におすすめなのか、その理由を科学的な視点から詳しく見ていきましょう。

1. 頑固な便秘をWの効果でスッキリ！【食物繊維とソルビトール】

妊娠中は、女性ホルモンの影響で腸の動きが鈍くなったり、大きくなった子宮が腸を圧迫したりすることで、多くの方が便秘に悩みます。梨には、この問題を解決する二つの強力な成分が含まれています。

• 物理的アプローチ：石細胞（せきさいぼう）の刺激作用
  梨特有のシャリシャリとした食感。この正体は「石細胞」と呼ばれる硬い細胞です。石細胞は消化されにくい不溶性食物繊維の一種で、腸までそのまま届き、腸壁を優しく刺激してぜん動運動を活発にします。これにより、便の排出が促されます³。
• 化学的アプローチ：ソルビトールの保水作用
  梨には「ソルビトール」という天然の糖アルコールが豊富に含まれています²。ソルビトールは、腸内で水分を引き寄せて保持する働きがあり、便を柔らかくして排出しやすくします。この作用は、医療現場で便秘薬として利用されることもあるほどです³。

この「物理的刺激」と「化学的保水」という二重の作用により、梨は妊娠中の便秘解消に非常に効果的なのです。

2. つらい「むくみ」を軽減【カリウム】

妊娠中は体内の血液量が最大で50%近く増加するため、体内に水分が溜まりやすく、足や手がむくみやすくなります。梨には、このむくみを軽減するのに役立つミネラル「カリウム」が100gあたり140mgと豊富に含まれています²。カリウムには、体内の余分なナトリウム（塩分）を尿として排出するのを助ける働きがあります。これにより、体内の水分バランスが整い、むくみの予防・改善につながるのです。塩分を摂りすぎがちな日本の食生活において、カリウムの摂取は特に重要です。

3. 「つわり」の時期でも食べやすい【クエン酸とさっぱりした風味】

食欲がなくなったり、吐き気に悩まされたりする「つわり」の時期。多くの妊婦さんから「梨ならさっぱりしていて食べられた」という声が聞かれます⁷。その理由は、梨の成分にあります。梨に含まれるクエン酸やリンゴ酸には、胃の働きを助け、爽やかな風味をもたらす効果が期待できます。また、約88%が水分であるため²、水分補給にもなり、脱水症状の予防にも役立ちます。

4. 疲労感を回復し、エネルギー補給【アスパラギン酸と果糖】

妊娠中は体が疲れやすく、だるさを感じやすいものです。梨に含まれるアミノ酸の一種「アスパラギン酸」は、体内でエネルギーを生み出すサイクルをスムーズにし、疲労の原因となる乳酸の分解を助ける働きがあります。また、梨の甘みの主成分である果糖やブドウ糖は、体内で速やかに吸収されてエネルギー源となるため、手軽なエネルギー補給にも適しています。

5. 虫歯リスクの軽減【ソルビトール】

妊娠中は、つわりで歯磨きが十分にできなかったり、唾液の性質が変化したりすることで、虫歯や歯周病のリスクが高まります。梨に含まれる糖アルコール「ソルビトール」は、虫歯菌がエネルギー源として利用しにくい糖質です。そのため、甘いものが欲しくなった時に、砂糖を多く含むお菓子やジュースの代わりに梨を選ぶことで、虫歯リスクの低減に繋がる可能性があります。もちろん、食後の歯磨きは基本です。

【時期別】梨の適量は？厚労省ガイドラインに基づく目安

梨が体に良いことは分かりましたが、どれくらい食べても良いのでしょうか。ここでは、厚生労働省と農林水産省が策定した「妊産婦のための食事バランスガイド」を基に、具体的な目安量を見ていきましょう¹。このガイドでは、1日の食事の目安を「つ（SV=サービング）」という単位で示しています。果物については、妊娠時期に応じて以下の量が推奨されています。

この表から分かるように、妊娠中期以降は1日に梨を1.5個食べても良い計算になります。しかし、栄養バランスを考えると、様々な種類の果物から多様なビタミンやミネラルを摂ることが理想的です。日本の妊婦を対象とした研究でも、多様な果物や野菜の摂取が出生体重に良い影響を与える可能性が示唆されています⁸。

妊娠中に梨を食べる際の3つの注意点

梨は安全で有益な果物ですが、いくつか知っておきたい注意点があります。

1. 食べ過ぎによる下痢と体の冷え

梨に含まれる「ソルビトール」には、便を柔らかくする効果がありますが、一度にたくさん食べ過ぎるとお腹が緩くなり、下痢を引き起こす可能性があります³。特に、もともと胃腸がデリケートな方は注意しましょう。また、梨は水分が非常に多い果物であるため、「体を冷やす」と感じる方もいます。妊娠中の冷えが気になる場合は、冷蔵庫から出して少し常温に戻してから食べたり、温かい飲み物と一緒に楽しんだりする工夫も良いでしょう。

2. アレルギーの可能性（口腔アレルギー症候群）

梨はアレルギーを起こしにくい果物とされていますが、シラカバ（白樺）やハンノキの花粉症をお持ちの方は注意が必要です。これらの花粉と梨に含まれるタンパク質の構造が似ているため、梨を食べた後に口の中や喉にかゆみやイガイガ感、腫れといった症状が出る「口腔アレルギー症候群（OAS）」を発症することがあります。心当たりのある方は摂取を控えるか、加熱調理（アレルギーの原因となるタンパク質が変性するため、症状が出にくくなる）を検討してください。

3. 食べる前の洗浄は必須

妊娠中は免疫機能が通常時と異なるため、食中毒への注意がより一層必要です。米国産科婦人科学会（ACOG）も、全ての生の果物や野菜を十分に洗浄することを強く推奨しています⁴。梨の表面には、流通過程で付着した細菌や、残留農薬の可能性があります。皮をむいて食べる場合でも、必ず食べる直前に流水で表面を丁寧に洗いましょう。これにより、皮をむく際に包丁を介して果肉に菌が移るのを防ぐことができます。

【迷信？】「梨は流産する」は本当？昔の言い伝えと現代の医学

「おばあちゃんから『梨は体を冷やすからダメ』『流産する』と言われて不安…」
このような話を聞いたことがあるかもしれません。実際に、栃木県高根沢町の古い記録には「梨を食べると胎児が墮りてしまう」といった俗信が存在したことが記されています⁶。

もっと梨を楽しむ！品種選びから簡単レシピまで

日本の梨（和梨）品種ガイド｜旬の時期と味の特徴

日本には美味しい梨がたくさんあります。スーパーで選ぶ際の参考に、代表的な品種の特徴を知っておきましょう。（品種情報は参考文献¹⁰, ¹¹を参考に作成）

美味しい梨の見分け方【プロのコツ】

美味しい梨を選ぶには、簡単な4つのポイントがあります。

1. 形： 左右対称に整っており、お尻の部分がどっしりと広く、ふっくらしているものを選びましょう。果実全体に栄養が行き渡っている証拠です。
2. 重さ： 同じくらいの大きさなら、手に持った時にずっしりと重みを感じるものがおすすめです。水分が豊富でみずみずしい梨です。
3. 皮の張り： 皮にハリがあり、色ムラがないものが新鮮です。皮のザラザラした斑点（果点コルク）は熟すにつれて滑らかになります。赤梨は少し赤みがかったもの、青梨は少し黄色みがかったものが甘みが増しているサインです。
4. 軸： 軸がしっかりとしていて、黒ずんだり干からびたりしていないものを選びましょう。

管理栄養士おすすめ！妊娠中向け簡単アレンジレシピ

そのまま食べても美味しい梨ですが、少しアレンジを加えることで、栄養価もアップし、気分転換にもなります。

よくある質問 (FAQ)

結論

妊娠中の梨の摂取について、多角的に解説しました。梨は、正しい知識を持って賢く食生活に取り入れることで、妊娠中に起こりがちな不快な症状を和らげ、心と体に潤いを与えてくれる素晴らしい果物です。本記事で紹介した情報を参考に、旬の美味しさを楽しみながら、健やかで快適なマタニティライフをお送りください。