妊娠糖尿病の検査と絶食:いつから、何を、どのように?妊婦さんのための完全ガイド
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妊娠糖尿病の検査と絶食:いつから、何を、どのように?妊婦さんのための完全ガイド

妊娠期間は、喜びに満ちた時間であると同時に、ご自身の体と赤ちゃんの健康について多くの疑問や不安が生まれる時期でもあります。特に、多くの妊婦さんが経験する「妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus、以下GDM)」の検査については、「絶食が必要なの?」「いつから何を食べちゃいけないの?」といった具体的な質問が後を絶ちません。本記事は、日本の妊婦さんとそのご家族が、妊娠糖尿病の検査、特に「75g経口ブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test、以下OGTT)」に安心して臨めるよう、医学的根拠に基づいた正確な情報と具体的な行動計画を網羅した完全ガイドです。検査の必要性から、絶食の正しい方法、結果の解釈、そして診断後のステップまで、専門家の視点から徹底的に解説します。この情報が、皆様の不安を和らげ、健やかなマタニティライフの一助となることを心から願っています。


この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性です。

  • 日本糖尿病学会、日本糖尿病・妊娠学会、日本産科婦人科学会: 本記事における妊娠糖尿病(GDM)の定義、診断基準(75gOGTTの数値など)、および「妊娠中の明らかな糖尿病」との区別に関する指針は、これらの学会が合同で策定した公式ガイドラインに基づいています12
  • テルモ株式会社、アキュチェック(ロシュDCジャパン合同会社): 妊娠糖尿病の管理方法、特に食事療法、運動療法、血糖自己測定の重要性に関する解説は、これらの企業が提供する医療従事者および患者向けの情報資材を参考にしています34
  • 米国産科婦人科学会(ACOG): GDMのリスク、スクリーニング方法、および管理に関する国際的な視点の一部は、ACOGが発行する診療指針に基づいています5
  • 厚生労働科学研究: 日本における妊娠糖尿病のスクリーニング方法に関する議論や背景情報は、国の研究データベースの成果を参考にしています6

要点まとめ

  • 妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中に初めて発見される糖代謝異常で、日本の妊婦の約10~12%が経験します7。母子の健康を守るため、全妊婦が検査対象です1
  • 確定診断には「75gOGTT」が行われ、正確な結果のために検査前夜から最低8時間以上、通常10~12時間の厳格な絶食(水のみ可)が不可欠です89
  • 診断基準は「空腹時92mg/dL以上」「1時間後180mg/dL以上」「2時間後153mg/dL以上」のいずれか1つを満たすことです1
  • GDMと診断されても、多くは食事療法と運動療法で管理可能です10。「一汁三菜」を基本としたバランスの良い食事や食後の軽い運動が効果的です3
  • GDM経験者は将来2型糖尿病になる危険性が約7倍高いため11、出産後も健康的な生活習慣を続けることが極めて重要です。

妊娠糖尿病とその検査の基本を理解する

検査の詳細に入る前に、なぜこの検査が重要なのか、そして日本でどのような流れで行われるのかを理解することが、不安を解消する第一歩です。

妊娠糖尿病(GDM)とは?- なぜすべての妊婦さんが検査を受けるのか

妊娠糖尿病(GDM)とは、「妊娠中にはじめて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常」と日本糖尿病・妊娠学会などによって定義されています1。これは、妊娠前にすでに診断されている糖尿病や、妊娠中に「明らかな糖尿病」と診断されるケースとは明確に区別されます。

妊娠すると、胎盤から分泌されるホルモンが、血糖値を下げる働きを持つインスリンの効果を弱めてしまうことがあります(インスリン抵抗性)3。多くの妊婦さんは、膵臓からのインスリン分泌量を増やすことでこの変化に対応しますが、一部の妊婦さんではその対応が追いつかず、血糖値が上がりやすい状態になります。これがGDMの発症機序です。この状態を放置すると、母体には妊娠高血圧症候群や早産、帝王切開の危険性が高まり、赤ちゃんには巨大児(出生時の体重が4000g以上)、新生児低血糖、肩甲難産(分娩時に赤ちゃんの肩が産道に引っかかる状態)などの危険性が生じる可能性があります3

日本産科婦人科学会などの指針に基づき、日本ではこうした危険性を未然に防ぐため、特定の高危険度な妊婦さん(肥満、糖尿病の家族歴、高齢など)だけでなく、すべての妊婦さんを対象にスクリーニング検査を行うことが推奨されています1。危険因子だけでは見逃されるケースが多いため、全員を検査することが母子双方の健康を守る上で最も効果的な戦略と考えられているのです1。群馬大学医学部附属病院の研究報告によると、日本のGDMの有病率は約10%程度と推定されており7、また別の資料では12%に達するとも報告されており12、決して珍しい状態ではありません。特に2010年に診断基準が国際基準に合わせて改訂され、より早期の段階で発見できるようになったため、診断される人の数は増加傾向にあります3。これは、病状が悪化しているわけではなく、むしろ、よりきめ細やかな管理を行うことで合併症を予防しようという、積極的な医療戦略の表れと理解することが重要です。

日本における検査の流れ:スクリーニングから診断まで

日本の多くの産科施設では、GDMの発見のために「二段階法」と呼ばれるプロセスを採用しています1

ステップ1:スクリーニング検査(初期・中期)

まず、GDMの「疑いがある人」を見つけ出すための初期検査が行われます。これは通常、絶食の必要がない簡単な血液検査です。

  • 時期: 妊娠初期(初診時~10週頃)と妊娠中期(24~28週頃)の2回行われるのが一般的です1
  • 方法: 食事時間に関係なく採血する「随時血糖検査」や、50gのブドウ糖液を飲んで1時間後の血糖値を測定する「50gグルコースチャレンジテスト(GCT)」などがあります6

厚生労働科学研究の報告によると、随時血糖値でのスクリーニングが広く行われています6。このスクリーニング検査で血糖値が基準値(例:随時血糖で100mg/dL、50gGCTで140mg/dLなど)を超えた場合に、次の確定診断のための精密検査に進みます13

ステップ2:確定診断検査(75gOGTT)

スクリーニングで陽性となった場合に行われるのが、GDMかどうかを最終的に診断するための「75gOGTT」です。この検査では、正確な結果を得るために厳格な絶食が必要となります。


75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):絶食の「なぜ」と「どのように」

このセクションでは、検査の核心である「絶食」について、その理由と具体的な方法を詳しく解説します。

正確な診断に絶食が不可欠な理由

75gOGTTの目的は、体がブドウ糖という「負荷」をかけられたときに、それを正常に処理できるかどうかを評価することです9。この評価を正確に行うために、絶食は科学的に不可欠な要素となります。

検査はまず、食事の影響を全く受けていない状態の血糖値、すなわち「空腹時血糖値」を測定することから始まります8。この値が、あなたの体の「基準点(ベースライン)」となります。もし検査前に食事や糖分を含む飲み物を摂取してしまうと、このベースラインが人為的に高くなってしまいます。その状態で75gのブドウ糖を摂取すれば、その後の血糖値はさらに高く測定され、実際には糖代謝能力に問題がなくても「妊娠糖尿病」と誤って診断されてしまう可能性があるのです14

GDMの診断は、「空腹時 92mg/dL 以上」といった非常に厳密な数値基準に基づいて行われます1。この基準値自体が、正しく絶食した人々から得られたデータに基づいています。したがって、絶食というルールを守ることは、単なる「お願い」ではなく、検査結果の信頼性を担保し、ご自身が不要な治療や不安を抱えることを避けるための、最も重要な「患者さん自身の役割」と言えるのです。数時間にわたる検査を有効なものにするためにも、絶食は厳密に守る必要があります14

【最重要】推奨される絶食時間とルール

絶食のルールは、検査を受ける医療機関によって若干の違いがある場合がありますが、基本となる原則は共通しています。

  • 絶食時間: 検査前日の夜から、最低でも8時間以上、通常は10~12時間の絶食が必要です9
  • 食事終了時間: 多くの医療機関では、検査前日の夜9時(21時)または10時(22時)以降の食事を禁止するよう指示します8
  • 飲んで良いもの: 絶食期間中に飲んで良いのは、原則として「水」のみです15。一部の施設では糖分やカロリーを含まないお茶(緑茶など)を許可している場合もありますが、自己判断は禁物です8
  • 禁止されるもの: 食事は一切禁止です。水以外の飲み物(ジュース、牛乳、コーヒー、清涼飲料水など)、アメやガム、糖やアミノ酸を含む栄養ドリンクやサプリメントもすべて禁止です15

最も重要なアドバイスは、「ご自身が検査を受ける医療機関からの指示に厳密に従うこと」です。 インターネット上の情報や他人の経験談は参考程度にとどめ、病院から渡された説明書をよく読み、不明な点は必ず事前に確認してください。

検査当日の流れ:ステップ・バイ・ステップ解説

75gOGTTは、合計で2~3時間ほどかかる検査です。当日の流れを把握しておくと、落ち着いて検査に臨むことができます。

  1. 来院・受付: 絶食状態のまま、朝、指定された時間に医療機関へ行きます15
  2. 1回目の採血(空腹時): まず、空腹時の血糖値を測定するために、1回目の採血が行われます8
  3. ブドウ糖液の摂取: 採血後、75gのブドウ糖が溶けた液体(例:トレーランG)を飲みます。これは通常、非常に甘いサイダーのような飲み物です13。指示された時間内(通常5分程度)に飲み干します9
  4. 待機: ブドウ糖液を飲んだ後、院内の待合室などで安静にして待ちます。この待機時間中も、食事や喫煙は禁止です。水の摂取については、施設の指示に従ってください。読書などでリラックスして過ごしましょう。
  5. 2回目の採血(1時間後): ブドウ糖液を飲んでからちょうど1時間後に、2回目の採血が行われます8
  6. 3回目の採血(2時間後): ブドウ糖液を飲んでからちょうど2時間後に、最後の採血が行われます8
  7. 検査終了: 3回目の採血が終われば、検査は終了です。食事を摂ることができます。

検査結果の見方と診断基準

検査が終わると、結果がどのように評価されるのかが気になります。日本の診断基準は国際的な基準に準拠しており、非常に明確です。

数値を読み解く:日本の妊娠糖尿病診断基準

日本では、75gOGTTにおける3回の採血のうち、いずれか1つでも以下の基準値以上であった場合に「妊娠糖尿病(GDM)」と診断されます1

75gOGTTによる妊娠糖尿病の診断基準
測定タイミング 診断基準値
空腹時 ≥ 92 mg/dL
1時間後 ≥ 180 mg/dL
2時間後 ≥ 153 mg/dL
出典: 日本糖尿病学会、日本糖尿病・妊娠学会、日本産科婦人科学会による合同の診断基準116

例えば、空腹時が 88mg/dL、1時間後が 190mg/dL、2時間後が 145mg/dL だった場合、1時間後の値が基準値(180mg/dL)を超えているため、GDMと診断されます。3つのうち1つでも当てはまれば診断となる点がポイントです。

「妊娠糖尿病」と「妊娠中の明らかな糖尿病」の違い

妊娠中の糖代謝異常には、「GDM」の他に、より血糖管理が厳格に必要となる「妊娠中の明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)」という状態があります1。これは、妊娠前から存在した糖尿病が見逃されていたケースなどが含まれ、GDMとは区別して管理されます10

「妊娠中の明らかな糖尿病」は、以下のいずれかの基準を満たす場合に診断されます1

  • 空腹時血糖値 ≥ 126 mg/dL
  • HbA1c値 ≥ 6.5%

妊娠中に「糖尿病」という言葉を聞くと、非常に大きな不安を感じるかもしれません。しかし、この2つの状態を区別して理解することが重要です。例えば、空腹時血糖値が 95mg/dL で「GDM」と診断されたとしても、それは「明らかな糖尿病」の基準である 126mg/dL とは大きな隔たりがあります。GDMは、本格的な糖尿病になる前の段階で、赤ちゃんとお母さんのために早期に介入しましょう、という積極的なサインと捉えることができます。この違いを理解することは、いたずらに不安を煽ることなく、前向きに治療に取り組む助けとなります。


【行動計画】検査に向けた万全の準備

正確な検査結果を得るために、ご自身でできる準備は万全にしておきましょう。ここでは、具体的な行動計画をチェックリスト形式で示します。

検査前日の食事と飲み物の注意点

検査前日の過ごし方が、検査結果を左右します。以下のチェックリストを参考に、準備を進めてください。

検査前日の準備チェックリスト
タイミング やるべきこと・注意点 関連資料
検査前日(夕食)
  • 夕食はいつも通りバランス良く、脂質や糖分の多いものは避ける
  • アルコールは禁止
  • 夕食は夜9時頃までに済ませる
8
検査前日の夜9時以降
  • 絶食開始。食べ物は一切口にしない
  • 飲み物は水のみ(またはクリニックの指示に従う)
8
検査当日の朝
  • 絶食を継続。朝食は食べない
  • 水以外の飲み物(お茶、ジュース、牛乳など)は飲まない
  • リラックスしてクリニックへ向かう
8

食事以外に気をつけること:睡眠、ストレス、運動の影響

検査結果は食事だけでなく、心身の状態にも影響を受けることがあります。これらは見過ごされがちですが、血糖値を左右する重要な「分析前要因」です14

  • 睡眠とストレス: 急な精神的ストレスや睡眠不足は、体を緊張状態にし、血糖値を上昇させる可能性があります14。検査前夜はできるだけリラックスして、十分な睡眠をとるよう心がけましょう。
  • 運動: 日常的な運動は健康に良いですが、検査直前の激しい運動は血糖値に影響を与えることがあります。検査前日や当日の朝は、いつもと違う特別な運動や、強度の高いトレーニングは避けて、普段通りに過ごすのが最善です14

要するに、OGTTはあなたの体の「普段の」糖代謝能力を測るための検査です。したがって、検査前の24時間は、食事、睡眠、活動量において「普段通り、かつ穏やかに」過ごすことが、最も正確な結果につながるのです。


【行動計画】診断後の次なるステップ

もしGDMと診断されても、決して自分を責めないでください。これは妊娠に伴う生理的な変化が原因で起こる、よくある合併症の一つです12。大切なのは、ここから適切な管理を始めることです。

診断を受けたら:まず知っておきたいこと

診断後の目標は、血糖値を適切な範囲内にコントロールし、母子ともに安全な出産を迎えることです4。幸いなことに、適切な管理を行えば、合併症のリスクは大幅に減らすことができます3。管理の基本は、「食事療法」「運動療法」「血糖自己測定」の三本柱です。多くの場合、インスリン注射などの薬物療法に至る前に、生活習慣の改善だけで良好な血糖コントロールが可能です10

管理の三本柱:日本食を基本とした食事療法、運動、血糖自己測定

診断後は、医師や管理栄養士の指導のもと、具体的な管理が始まります。

1. 食事療法:日本食の知恵を活かす

日本食の基本である「一汁三菜」の考え方は、GDMの食事療法に非常に適しています。

妊娠糖尿病における食事療法のポイント
原則 具体的な実践方法 関連資料
バランス 毎食「主食(ごはん)・主菜(肉魚)・副菜(野菜)」を揃える。 17
食べる順番 「ベジファースト」を徹底。野菜・きのこ類(副菜)→肉・魚(主菜)→ごはん(主食)の順で食べる。 17
低GI食品の選択 白米より玄米や麦ごはん、食パンより全粒粉パンやライ麦パンを選ぶ。 17
分割食 1日3食で食後血糖値が高い場合、食事を1日5~6回に分けて、1回量を減らすことを検討する。 18
間食の工夫 1日200kcal以下を目安に。果物、ナッツ、無糖ヨーグルトなどを選ぶ。 17

2. 運動療法:無理なく続ける

必ず医師の許可を得てから、安全な範囲で運動を取り入れます。

  • 種類: ウォーキング、マタニティスイミング、マタニティヨガなどの有酸素運動が推奨されます19
  • 頻度と時間: 週に5日以上、1回30分程度の適度な運動が目標です20。特に、食後15~30分程度の軽い散歩は、食後血糖値の上昇を抑えるのに非常に効果的です3

3. 血糖自己測定(SMBG)

自宅で指先から少量の血液を採り、自分で血糖値を測定します10。測定器の使い方は病院で指導されます。通常、起床時(空腹時)と毎食後1~2時間後など、1日に4~7回測定し、その値を記録します4。この記録は、食事や運動の効果を確認し、治療方針を調整するための非常に重要なデータとなります。

出産後と、その先の健康管理:将来の糖尿病を防ぐために

GDMの管理は、出産で終わりではありません。むしろ、ご自身の長期的な健康について考える絶好の機会となります。

  • 産後の再評価: 出産後、胎盤が排出されるとインスリン抵抗性は急速に改善し、ほとんどの人の血糖値は正常に戻ります。しかし、その確認のために、産後6~12週の時期に再度75gOGTTを受けることが強く推奨されています3
  • 将来の糖尿病リスク: ここが最も重要なポイントです。GDMを経験した女性は、経験しなかった女性に比べて、将来2型糖尿病を発症する危険性が約7倍高いことがわかっています11。また、次の妊娠でもGDMを再発する可能性が高い(約50%)とされています121

この事実は、決してあなたを怖がらせるためのものではありません。むしろ、GDMという経験は、あなたの体が糖代謝異常を起こしやすい体質であることを教えてくれる「早期警告」なのです。これは、他の誰よりも早く、ご自身の将来の健康リスクを知り、予防策を講じるための「知識という贈り物」と捉えることができます。

産後の検査で血糖値が正常に戻ったとしても、それで安心するのではなく、バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持といった健康的な生活習慣を継続することが、将来の2型糖尿病を予防または発症を遅らせるための最も効果的な方法です22。授乳も、母体の将来の糖尿病リスクをわずかに下げる可能性が示唆されています22

健康に関する注意事項

本記事で提供される情報は、一般的な知識の提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。妊娠中の運動や食事療法を開始する前には、必ず主治医や担当の医療専門家にご相談ください。特に切迫早産のリスクがある場合や、他の合併症がある場合は、自己判断で運動を行うことは避けてください。

よくある質問

Q1: うっかり絶食時間を破って、何か食べてしまいました。どうすればいいですか?

A1: 正直に医療機関に申し出てください。食べたものや時間によっては、検査を延期する必要があります。不正確な結果に基づいて診断が進むよりも、日を改めて正しい条件で検査を受ける方が、あなたと赤ちゃんにとって安全です。

Q2: 絶食中にガムを噛んだり、アメをなめたりしてもいいですか?

A2: いいえ、いけません。たとえ砂糖不使用(シュガーレス)のものであっても、甘味料などがインスリン分泌に影響を与える可能性があるため、避けるべきです。絶食中は水以外、何も口にしないのが原則です。

Q3: ブドウ糖液を飲んだ後、気分が悪くなったらどうなりますか?もし吐いてしまったら?

A3: ブドウ糖液は非常に甘いため、気分が悪くなる方もいます。その場合は、すぐに看護師やスタッフに伝えてください。もし吐いてしまった場合、ブドウ糖が体に吸収されていないため、その日の検査は中止となり、後日再検査となることがほとんどです。

Q4: 自覚症状は全くないのに、なぜ検査で陽性になったのですか?

A4: 妊娠糖尿病は、自覚症状がほとんどないのが特徴です。そのため、検査で初めて発見されることがほとんどです。「元気だから大丈夫」というわけではなく、症状がないうちから血糖値を管理することが、合併症予防のために非常に重要です。

結論

本記事で詳述したように、妊娠糖尿病の確定診断に用いられる75gOGTTにおいて、絶食は科学的に不可欠です。検査前夜からの10時間程度の絶食、そして水以外の摂取を控えるというルールを厳密に守ることが、正確な診断と適切なケアへの第一歩となります。

妊娠糖尿病という診断は、不安を伴うものかもしれません。しかし、それは決して個人の責任ではなく、妊娠という特別な期間に起こりうる一般的な合併症です。そして何より、それは管理可能な状態です。正しい知識を持って検査に臨み、もし診断された場合には、食事や運動といった生活習慣を見直すことで、あなたと赤ちゃんの健康を守ることができます。さらに、この経験は、出産という大きな節目を越えた後も、ご自身の長期的な健康を守り続けるための貴重なきっかけとなります。

この情報が、皆様の疑問や不安を解消し、自信を持って妊娠期間を過ごし、健やかな未来へと歩んでいくための一助となることを、専門家チーム一同、心より願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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