はじめに
上咽頭の両側に位置する扁桃のうち、粘膜やリンパ組織が集まる部分には、細菌や粘液、食べかすなどが溜まりやすいくぼみがあります。そのため、これらの物質が長期間堆積・硬化して形成されるのが「扁桃結石(いわゆる扁桃腺の石、またはアーミダン結石)」です。見た目は白色や黄色がかった塊で、基本的に小さなサイズが多いものの、目視で確認できるほど大きくなるケースもあります。一般的には、健康上の大きなリスクに直結することは少ないものの、石が大きくなると口臭の原因となったり、のどの違和感や痛みが生じることがあります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
日常生活のなかで「のどがイガイガする」「口臭が気になる」などの症状が長引く場合、思いがけず扁桃に石ができていることもあるため、放置せずに状態を把握しておくことが大切です。本記事では、扁桃結石の基本的な特徴、主な原因、治療方法、および予防につながる習慣などを詳しく解説します。扁桃結石自体はあまり耳にしない方も多いかもしれませんが、決して珍しいものではありません。特に口内環境や咽頭に悩みを抱える方は、ぜひ最後まで読み進めてみてください。

専門家への相談
本記事の内容はあくまで参考情報であり、個々の症状に対して具体的な診断を下すものではありません。特に扁桃結石による痛みや反復する口臭が日常生活の質を下げる場合は、医療機関での受診をおすすめします。診療の際、咽頭や口腔の専門家(耳鼻咽喉科など)が内視鏡や画像検査を行い、石の有無や大きさ、炎症の程度を正確に把握し、最適な治療方針を提案してくれます。なお、本記事の医療情報部分については、医療現場で総合的な経験をもつ内科医のBác sĩ Nguyễn Thường Hanhによる監修を踏まえつつ、近年の文献や各種ガイドラインを参考にしています。
扁桃結石とは何か
扁桃結石の概要
扁桃結石とは、扁桃(いわゆる「アーミダン」)の表面や内部に形成される固形物です。色は白や黄色が多く、硬さには多少のばらつきがあります。大きさは米粒程度の非常に小さいものから、ブドウほどのサイズに育つものまで存在し、大きくなると扁桃そのものを圧迫して不快症状を引き起こす場合があります。目視で確認しづらいため、ほとんど気づかないケースも少なくありません。
よくみられる症状
-
強い口臭
扁桃結石の最大の特徴として挙げられるのが、普通の口臭とは異なる強い悪臭です。実際、日本国内で口臭を訴える患者に対する耳鼻咽喉科外来の調査では、扁桃に結石がある患者の多くが自覚的・他覚的な口臭を伴う傾向が報告されています。
また、国際的にも口臭外来を扱う医療施設や学術論文の解析で、扁桃結石がない人と比べて明らかに不快な臭いの度合いが強い例が確認されており、口臭が気になる方の一因として扁桃結石の有無が注目されています。 -
のどの痛みや違和感
結石が大きい場合、のどの奥に異物感や痛みを感じやすくなります。なお、もともとの扁桃炎を伴うケースでは、痛みが増幅される可能性があります。 -
嚥下困難(飲み込みづらさ)
結石が扁桃を圧迫し、大きさや位置によっては飲み込む際に違和感を覚えることがあります。ただし、小さな結石ではほとんど症状が出ないことが多いです。 -
耳に広がる痛み
咽頭周囲の神経分布は耳とも連動しているため、結石がのどの痛点を刺激すると耳奥の痛みとして感じる場合があります。 -
慢性的なせき
扁桃周辺に刺激があると、むせたり、こまめにせき込んでしまうことも報告されています。
これらの症状は、もちろん扁桃炎や別の口腔内の問題が原因の場合もあります。そのため、自己判断だけで対処しようとせず、症状が長引く場合は専門医に相談することが大切です。

扁桃結石ができる理由
形成のメカニズム
扁桃には多数のくぼみや小さなトンネル状の凹凸構造があり、ここに細菌や食べかす、粘液、剥離した粘膜細胞などが溜まりやすくなります。これらが凝集・固化し、最終的に石灰化を経て「結石」となるのです。特に唾液量が少なかったり、口腔衛生が十分でなかったりすると、微生物と有機物が結びついて塊になりやすくなります。
具体的な原因要素
-
口腔ケアの不十分さ
歯磨きや舌の清掃が行き届いていないと、食べかすや細菌が口内に留まる時間が長くなります。これらが扁桃に付着・蓄積し、結石化のリスクを高めると考えられています。 -
偏った食生活・習慣
乳製品を大量に摂取する食事を頻繁に行うと、乳由来のカルシウムやリンなどが粘液を増やし、石の形成を助長する可能性が指摘されています。また、喫煙や過度の飲酒で咽頭が慢性的に乾燥すると、口腔内環境が変化して結石が生じやすくなるという報告もあります。 -
扁桃の解剖学的特徴
生まれつき扁桃のくぼみが深い方や、過去の炎症によって表面が凸凹になっている方は、物質が溜まりやすく結石を形成しやすい傾向があります。
最近の研究による追加情報
近年、口腔内の常在細菌叢(マイクロバイオーム)と扁桃結石との関連を調べる研究が少しずつ増えています。ある2021年の国際論文(Chiesa-Estomba CMら, 2021, Ear, Nose & Throat Journal, 100(2_suppl), 170S–179S, doi:10.1177/01455613211004013)では、特定の嫌気性菌が扁桃内部でバイオフィルムを形成しやすい環境下にあると、結石の発生率が高まると報告されています。この研究はヨーロッパの複数施設から参加した200名以上の被験者を対象とした観察研究で、日本人を含むアジア人種にも同様の傾向がみられる可能性が指摘されています。扁桃結石の治療や予防において、口腔内細菌叢のマネジメントが注目されているのは、こうしたデータの蓄積によるものです。
扁桃結石の診断方法
医療機関での検査
扁桃結石は小さいものだと肉眼で確認しにくく、検査時に口を大きく開けてもらいペンライトや内視鏡で細部を観察して初めて判明するケースがあります。以下のような検査が利用されることがあります。
-
視診・触診
耳鼻咽喉科などでは、まずは口腔内と咽頭部を直接見て、くぼみに白や黄色の塊がないかを確認します。 -
画像診断(CTやMRIなど)
結石が奥まった箇所に隠れていたり、明らかに大きな塊が疑われたりする場合は、CTやMRIなどで状態をより正確に把握することがあります。 -
迅速検査(細菌検査など)
炎症や感染が疑われる場合、扁桃部分の分泌物を採取し、細菌種や炎症マーカーを確認することがあります。これは、結石と関連する細菌感染の把握や抗生物質の適切な選択に役立ちます。
扁桃結石の治療と対策
自宅でできるケア
-
うがい(生理食塩水など)
生理食塩水でのうがいは、のどの痛みや違和感を軽減するのに役立ちます。特に結石が小さい場合は、うがいの勢いなどで外れやすくなることもあります。 -
強めのせきやくしゃみ
自然と結石がとれるきっかけになることがあります。ただし、無理にのどを傷つけるほど強くせきをし続けるのは好ましくありません。
医療機関での処置
-
結石の除去
医師による物理的な除去が行われることがあります。小さな鉗子(かんし)や吸引器具で結石を摘み取る方法が一般的です。 -
レーザーを用いた除去
近年ではレーザー装置を使って結石部位を焼灼し、くぼみごと平滑化する方法もあります。特に周囲組織を過度に傷つけずに処置できる点がメリットですが、設備のある医療機関でのみ実施されます。 -
扁桃摘出手術
扁桃自体を切除する手術は根治的な方法といえます。ただし、扁桃は免疫機能の一部を担っているため、手術後に喉の防御力が低下するリスクや手術に伴う出血、術後痛などのデメリットも考慮されます。結石が大きく、反復的に炎症を起こす場合などに検討されることがあります。 -
抗生物質の使用
結石そのものを消すわけではありませんが、細菌感染や炎症が顕著なときに抗生物質を使用して一時的に悪化を防止するアプローチもあります。長期的には結石が再発し得るため、抗生物質だけで完全に改善するわけではありません。
合併症のリスクと対応
扁桃結石による重篤な合併症はまれとされていますが、以下の状況では注意が必要です。
-
扁桃周囲膿瘍(周囲組織への感染)
結石が大きくなって扁桃の組織を圧迫・破壊したり、常在菌が深部へ侵入したりすると、強い炎症や膿瘍を形成する可能性があります。発熱や強い喉の痛み、嚥下困難がある場合は早めの受診が望ましいです。 -
慢性的なのどの炎症
繰り返す扁桃炎や咽頭炎が続くことで、周辺粘膜に瘢痕が残り、さらに石が溜まりやすい状態になることがあります。炎症のコントロールと口腔衛生の維持が重要です。
扁桃結石を防ぐためのポイント
口腔内の清潔維持
-
ていねいな歯磨きと舌苔ケア
食事のあとにしっかりと歯を磨くほか、舌専用ブラシを使って舌苔(舌の汚れ)をやさしく取り除く習慣を身につけると、口臭や扁桃結石の原因となる細菌や食べかすの蓄積を減らせる可能性があります。 -
十分な水分摂取
乾燥した口腔・咽頭環境は細菌が繁殖しやすく、粘液がべったりと溜まりがちになります。特に睡眠中は唾液の分泌量が減るため、就寝前や起床後に水分を取る習慣を心がけることで、口腔内のうるおいを保てます。
健康的な食生活
-
バランスのとれた食事
カルシウムや乳製品そのものが悪いわけではありませんが、大量に摂りすぎないように注意したり、野菜や果物などを組み合わせて全体の栄養バランスを整えたりすることが、口臭や結石形成を抑えるうえで有益と考えられます。 -
過度の喫煙・飲酒を控える
タバコの煙やアルコールは咽頭を乾燥させ、炎症や細菌繁殖を助長する可能性があります。慢性的に喉が渇く状態は扁桃結石のみならず多様な口腔咽頭トラブルに繋がりやすいです。
日常生活での観察
-
のどの奥の違和感に注意
嚥下時の引っかかりや口臭の変化などが続く場合には、早めに自己チェックや歯科・耳鼻咽喉科受診を検討しましょう。結石が潜在していることも少なくありません。 -
うがいやせき払い
普段からうがいを習慣化し、食後に軽くせきをして口内を清潔に保つといった細やかな習慣は、結石予防に役立つ可能性があります。
予防と対策の実践例
上記で挙げたような対策を組み合わせることで、結石の再発リスクや口臭を抑える効果が期待できます。たとえば、下記のような生活習慣が推奨されています。
-
朝起床直後にコップ1杯の水を飲む
口腔内が乾燥している時間帯に水分をとることで、粘液や菌の繁殖を抑制し、結石が溜まりにくい環境づくりが期待できます。 -
就寝前の丁寧な歯みがきと舌苔ケア
食べかすや舌表面の汚れが一晩中残らないようにすることで、口臭や結石の原因物質を減らせます。 -
1日数回のうがい(生理食塩水)
診療の現場では、食後や外出後に塩分濃度0.9%程度の生理食塩水でのうがいを推奨する声も多く聞かれます。すぐにできる実践法として、特に扁桃結石の再発に悩む方には取り入れやすいといえます。 -
禁煙・節酒の検討
結石に限らず、口腔および全身の健康維持のためにも有益です。耳鼻咽喉科の専門家からも、喫煙や多量飲酒による粘膜ダメージが確認されています。
日本人における扁桃結石の視点
日本では、定期的に歯科検診や健康診断を受ける文化がありますが、扁桃は歯科医師よりも耳鼻咽喉科領域の検査で詳しく診断されることが多いです。日常的に歯科医院で指摘されることは少ないため、口腔内衛生をきちんと行っていても扁桃部分の状態を見落としがちです。のどの不調を感じるようであれば、耳鼻咽喉科を受診し、口腔だけでなく咽頭全体のチェックを受けることが望まれます。
よくある疑問への回答
-
Q1: 扁桃結石は一度できると必ず再発するのでしょうか?
A: 再発のリスクはあります。ただし、口腔ケアや生活習慣の改善を徹底すれば、再発しにくい口腔・咽頭環境を作ることは十分可能です。 -
Q2: 痛みがないのに口臭だけが気になる場合、扁桃結石の可能性はありますか?
A: 大いにあります。結石が小さいうちは痛みや嚥下障害を伴わず、口臭だけが唯一の症状になることが少なくありません。 -
Q3: 手術で扁桃を取れば二度と結石はできない?
A: 扁桃を摘出すれば扁桃結石そのものはできなくなります。しかし、扁桃は体の免疫に関わる部位でもあるため、摘出するかどうかは医師とよく相談してから決定する必要があります。
結論と提言
扁桃結石は、小さいうちは自覚症状がほとんどなく、自宅ケアだけでも改善が期待できるケースがあります。しかし、石が大きくなるにつれて強い口臭やのどの痛みなど生活の質を下げる要因となりかねません。日常的な口腔衛生の徹底や、飲料水の摂取、バランスの良い食習慣、そして禁煙・節酒などの健康的なライフスタイルが、扁桃結石の予防につながります。症状が気になる方は、まずは耳鼻咽喉科を受診し、専門的な診断を受けると安心です。
最終的には、扁桃結石による感染症リスクや頻回の再発状況、合併症の可能性などを総合的に判断して、医療機関で適切な治療を受けるか、自宅ケアを中心に行うかを決めるのが望ましいでしょう。
また、本記事で述べた情報は一般的なガイドラインや近年の研究を参考にまとめたものであり、個々のケースには当てはまらない場合があります。最終的な判断は必ず専門医療者と相談することをおすすめします。
参考文献
- Tonsil stones.
Healthline
アクセス日: 2020年4月7日 - Tonsil stones.
Medical News Today
アクセス日: 2020年4月7日 - Tonsil stones.
WebMD
アクセス日: 2020年4月7日 - Chiesa-Estomba CM, Lechien JR, Calvo-Henriquez C, Melchor-Hernandez J, Mayo-Yanez M, de Vito A, Saussez S. (2021)
“Tonsil stones: from halitosis to a systematic approach for management.”
Ear, Nose & Throat Journal, 100(2_suppl), 170S–179S. doi:10.1177/01455613211004013
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や状況に合わせた診断・治療を行うものではありません。気になる症状がある場合や治療を希望する場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。