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糖尿病患者の手術前休薬ガイド|SGLT2阻害薬とメトホルミン

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結論から言うと

この手術前休薬ガイドの結論:手術が決まったら、SGLT2阻害薬(フォシーガ・ジャディアンス・フォクシーガ等)は日本糖尿病協会のRecommendationにより「術前3日前から休薬」、メトホルミンは外科手術(食事制限のない小手術を除く)の前後は禁忌とされている[1]。自己判断で飲み続けると正常血糖ケトアシドーシスや乳酸アシドーシスという命に関わる合併症のリスクが上がる。

どちらも「いつ止めるか」だけでなく「いつ再開するか」を誤ると危険という点が共通しており、造影剤検査を併用する場合はさらに別のルールが加わる。休薬の最終判断は必ず手術担当医・麻酔科医・糖尿病主治医が行うため、この記事は「診察で聞くべき質問」を整理する目的で作成した。

要点まとめ

  • SGLT2阻害薬は術前3日前から休薬、食事が十分とれるようになってから再開するのが日本糖尿病協会の目安[1]
  • メトホルミンは全身麻酔を伴う外科手術(食事制限のない小手術を除く)の前後は禁忌[2]
  • ヨード造影剤検査を受ける場合、eGFR30〜60の患者は造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開しない[2]
  • 米国FDAはSGLT2阻害薬について「術前3日(エルツグリフロジンは4日)」の休薬を求めており、日本の目安とほぼ一致する[4]
  • 再開後に息苦しさ・吐き気・強い倦怠感が出たら、血糖値が正常でもケトアシドーシスの可能性がありすぐに受診する[1]

編集方針:JHO編集部がAIツールの支援を受け、公益社団法人日本糖尿病協会・日本医学放射線学会・米国糖尿病学会(ADA)・FDAの公表資料と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別診断・処方判断の代わりにはなりません。休薬期間は術式・腎機能・施設方針によって調整されるため、必ず主治医・手術担当医・麻酔科医の指示に従ってください(2026年8月時点の情報)。

〈本記事は「手術前に主治医へ確認すべきチェックリスト」を⑩章に用意しています。糖尿病治療薬の一覧を印刷して手術説明の際に持参してください〉

この記事で扱う「休薬」は、糖尿病治療薬をやめること自体が目的ではない。手術という短い期間だけ薬を止め、体調が落ち着いたら再開する「一時的な措置」である。目的を取り違えて自己判断で長く止め続けると、今度は血糖コントロールが乱れるリスクがあるため、休薬と再開は必ずセットで確認する。

この確認がなぜ重要かというと、休薬のタイミングを誤ったときに起こりうる合併症が、いずれも「気づいたときには進行している」タイプの緊急事態だからである。手術という一大イベントを前に、患者本人も家族も、麻酔・出血・術後の痛みといった手術そのもののリスクに意識が向きやすい。その陰で「ふだん飲んでいる糖尿病の薬をどうするか」という、地味だが命に関わりうる確認事項が後回しになりやすい点にも注意したい。日本糖尿病協会のRecommendationが指摘するとおり、SGLT2阻害薬による正常血糖ケトアシドーシスは、血糖値という最もわかりやすい指標が正常のまま進むため、患者本人はもちろん、血糖値だけを確認した医療者でも見逃しやすい[1]。同じく日本糖尿病協会のメトホルミンに関するRecommendationによれば、メトホルミンによる乳酸アシドーシスも、初期症状が吐き気や倦怠感といった「よくある不調」と区別しにくいという特徴がある[2]。どちらも頻度自体は高くないが、いったん起これば集中治療が必要になりうる合併症であり、「休薬を忘れていた」「再開を急いでしまった」という管理面の見落としが引き金になりうる点で、事前の確認によって防ぎやすいタイプのリスクでもある。

なぜ手術前に糖尿病の薬を止める必要があるのか? 休薬しないと何が起きる仕組み

日本外科学会雑誌に掲載された周術期の血糖管理の解説によれば、手術を受けると、体は「絶食」「痛みや炎症によるストレスホルモンの増加」「輸液や麻酔による血流の変化」という、ふだんと違う状態になる[5]。この状態で血糖降下薬をふだん通り服用し続けると、薬の種類によって正反対の危険が起こりうる。

日本糖尿病協会のRecommendationによれば、SGLT2阻害薬は、腎臓から尿へ糖を排出させて血糖値を下げる薬である[1]。手術前後の絶食・脱水・侵襲(体への負担)が重なると、体はインスリンの効きが悪くなった状態で脂肪をエネルギー源として使おうとし、血液中にケトン体が増える。通常の糖尿病性ケトアシドーシスは高血糖を伴うが、SGLT2阻害薬を服用中はこの「糖を尿に捨てる」作用のせいで血糖値が正常に近いまま進行する「正常血糖ケトアシドーシス」が起こりやすいことが知られている[1]。血糖値だけを見ていると異常に気づきにくく、発見が遅れて重症化しやすい点が最大の問題である[1]。

一方メトホルミンは、肝臓での糖の産生(代謝メカニズム)を抑えて血糖値を下げる薬である。腎機能障害・脱水・シックデイ・心血管や肺の機能障害・手術前後・肝機能障害・高齢といった状態が重なると、体内に乳酸がたまる「乳酸アシドーシス」のリスクが上がることが、乳酸アシドーシス症例の解析から示されている[2]。日本糖尿病協会は、全身麻酔を伴う外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)の前後についてはメトホルミンを禁忌としている[2]。

図:公益社団法人日本糖尿病協会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」をもとにJHO編集部が作図[1][2]

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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。

SGLT2阻害薬・メトホルミンの手術前休薬の目安 — 日本糖尿病協会のガイドライン

実際に「何日前から」「いつ再開するか」は薬の種類と検査の有無で異なる。以下は公益社団法人日本糖尿病協会が公表している適正使用Recommendationの記載をもとにした目安である。実際の指示は主治医・手術担当医によって前後するため、あくまで診察で確認する際の出発点として使ってほしい。

薬剤 休薬のタイミング 再開の目安
SGLT2阻害薬(フォシーガ・ジャディアンス等) 予定手術:術前3日前から休薬 食事が十分摂取できるようになってから再開[1]
SGLT2阻害薬(緊急手術の場合) 休薬は必須ではない 再開後はケトアシドーシス症状に留意[1]
メトホルミン(全身麻酔を伴う外科手術) 飲食物の摂取が制限されない小手術を除き、手術前後は禁忌 経口摂取が十分に回復し、腎機能に問題がないことを確認後[2]
メトホルミン(ヨード造影剤検査、eGFR 30〜60) 検査前に休薬 造影剤投与後48時間は再開しない。腎機能悪化が懸念される場合はeGFRを再評価してから再開[2]
メトホルミン(eGFR 30未満) そもそも投与禁忌 該当なし[2]

出典:公益社団法人日本糖尿病協会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」[1][2]

なお、同じ薬でも、学会が示す「原則」と、実際に手術を受ける病院の「運用」が完全に一致するとは限らない。個々の病院では「休薬指示の煩雑さを避けるため」に、薬剤ごとに異なる目安を1つの期間へ統一している施設もある。たとえば香川県立中央病院の運用指針では、SGLT2阻害薬の術前休薬期間について「日本糖尿病学会Recommendationにおいて術前3日前から休薬とされているが、医薬品安全管理委員会で検討を行い、休薬指示や管理の煩雑さを回避するため、ビグアナイド製剤と休薬期間を統一し、術前2日前とした」と説明している[3]。つまり「学会の目安」と「実際にかかる病院の運用」は同じとは限らないという点が重要で、必ず自分の手術を担当する病院の指示を確認する必要がある。

すぐに受診・連絡が必要なサイン — 休薬中・再開後に注意すること

受診の目安 — 次の症状が出たら、血糖値が正常でもすぐに医療機関へ連絡する

  • 日本糖尿病協会のRecommendationが挙げる正常血糖ケトアシドーシスのサイン:吐き気・嘔吐が続く、強い腹痛がある[1]
  • 同じく息苦しさ、呼吸が速くなる(過呼吸)[1]
  • 強い倦怠感、意識がぼんやりする[1]
  • SGLT2阻害薬を再開した後にこれらの症状が出た場合 — 「血糖値が高くないから大丈夫」と自己判断しない。正常血糖ケトアシドーシスは血糖値が正常域でも起こりうる[1]
  • メトホルミン服用中に脱水(下痢・嘔吐・食事がとれないなど、いわゆるシックデイ)が重なったとき — いったん服薬を中止し主治医に相談する[2]

日本と米国のガイドライン比較 — 休薬期間はどちらも「日数」で決めている

日本の目安(日本糖尿病協会)と、米国FDA・米国糖尿病学会(ADA)が示す目安を並べると、SGLT2阻害薬については日数の考え方が近い一方、メトホルミンの扱いには違いが見える。

項目 日本(日本糖尿病協会) 米国(FDA/ADA)
SGLT2阻害薬の休薬 術前3日前から休薬[1] カナグリフロジン・ダパグリフロジン・エンパグリフロジンは術前3日、エルツグリフロジンは術前4日以上休薬[4]
メトホルミンの休薬 全身麻酔を伴う外科手術(小手術除く)の前後は禁忌[2] 米国側の文献では手術の規模や施設ごとの慣習により運用が異なるとされる(本記事で検証できた一次情報はないため、具体的日数は主治医に確認)

SGLT2阻害薬については「3日前後」という日数の考え方が日米で近く、薬の半減期(体から半分が消えるまでの時間)から逆算した休薬という共通の理屈にもとづいている[4]。FDAが同じSGLT2阻害薬の中でもエルツグリフロジンだけを4日以上と長めに設定しているのは、この薬の半減期が他のSGLT2阻害薬より長く、体から抜けるまでにより時間がかかるためとされる[4]。日本国内で処方されている薬(ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなど)については「術前3日」という目安が中心だが、今後新しい薬が登場した場合は薬ごとの半減期によって日数が変わりうるという考え方自体は覚えておく価値がある。一方でメトホルミンは、日本が「外科手術前後は原則禁忌」という明確な期間を示しているのに対し、米国側の運用は本記事で検証できた一次情報がなく、施設ごとに慣習が異なる可能性がある。この記事はどちらが正しいかを判定するものではなく、担当医がどちらの考え方に沿って指示を出しているかを確認する材料として比較している。

造影剤検査(CT・血管造影)を受ける場合の追加ルール

手術の前後に、造影剤を使うCT検査や血管造影検査が入ることは珍しくない。この場合、メトホルミンについては手術そのものとは別に「造影剤ルール」が加わる。日本医学放射線学会は、ヨード造影剤とビグアナイド系糖尿病薬(メトホルミンを含む)の併用について注意喚起を出しており、腎機能に応じた休薬・再開の目安を示している[6]。

日本糖尿病協会のRecommendationでは、メトホルミンの腎機能基準についてeGFR30未満は禁忌、eGFR30〜45はリスクとベネフィットを勘案した慎重投与、eGFR30〜60の中等度腎機能障害では添付文書上の用量調整に加え、「ヨード造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開せず、腎機能の悪化が懸念される場合にはeGFRを測定し腎機能を評価した後に再開する」としている[2]。脱水・ショック・急性心筋梗塞・重症感染症の場合などはeGFRが急激に低下することがあるため、適切なタイミングで腎機能をチェックすることも合わせて求められている[2]。

個々の医療機関では、この考え方をもとにさらに具体的な運用(たとえば「検査2日前から休薬」など)を定めている場合がある[3]。検査を受ける施設によって細部の運用が異なりうるため、「造影剤を使う検査があるかどうか」を手術前の問診で必ず伝える必要がある。腎機能(eGFR)は直近の血液検査の数値で判断されるため、古い数値しか手元にない場合は事前に採血をお願いすることになる。糖尿病性腎症で腎機能が低下している人ほど、この造影剤ルールの影響を受けやすい。

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

手術前後、糖尿病の血糖コントロール自体はどう管理されるのか

休薬される飲み薬の代わりに、手術前後の血糖値はどのように管理されるのか。周術期(手術前後の期間)の糖尿病管理では、内服薬を中止しインスリンで血糖を調整することが基本方針とされ、少なくともメトホルミン・SGLT2阻害薬は中止し、スルホニル尿素薬も高用量であれば手術2〜3日前までに中止しておくことが望ましいとされている[5]。周術期の血糖コントロール目標について確立された基準は限られるが、多くのガイドラインは血糖値180mg/dL以下を目安としており、特に高齢者では低血糖のリスクを重視し、厳格すぎるコントロールより安全性を優先した管理が行われる[5]。

絶飲食の状態でふだん通りに血糖降下薬を内服・注射してしまうと、今度は低血糖になる危険もある[5]。周術期の目標血糖値は、日常の血糖コントロールの指標であるHbA1cとは別の考え方で決められる点にも注意したい。薬をどう扱うかは、薬の種類・患者の状態・手術の内容によって、糖尿病内科医と麻酔科医が個別に判断する。だからこそ「いつ止めて、いつ再開するか」を自己判断せず、事前に確認しておくことが重要になる。

SGLT2阻害薬・メトホルミン以外の糖尿病治療薬は手術前どうなるのか

手術前の休薬が話題になりやすいのはSGLT2阻害薬とメトホルミンだが、糖尿病治療薬は種類によって手術前後の扱いが異なる。日本外科学会雑誌に掲載された周術期の血糖管理の解説では、「基本的に内服薬を中止し、インスリンで行うことが望ましく、少なくともメトホルミン、SGLT2阻害剤は中止し、スルホニル尿素薬も高容量であれば手術2〜3日前までに中止しておく必要がある」とされている[5]。低血糖を起こしやすい薬・作用時間が長い薬ほど、より早めの休薬が必要になる傾向がある。

薬の種類 手術前後で問題になりやすい理由 周術期の基本的な扱い(目安)
SGLT2阻害薬 正常血糖ケトアシドーシスのリスク 術前3日前から休薬[1]
メトホルミン 乳酸アシドーシスのリスク 外科手術前後は原則禁忌(小手術除く)[2]
スルホニル尿素薬(高用量) 絶食中の低血糖リスク 手術2〜3日前までに中止が望ましい[5]
インスリン 絶食中でも血糖の変動に細かく対応する必要がある 内服薬に代わり周術期の血糖管理の中心として使用[5]

出典:日本外科学会雑誌「周術期の血糖管理」、公益社団法人日本糖尿病協会 各Recommendation[5][1][2]

ここに挙げた以外の薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)についても、手術の規模や絶食期間によって扱いが変わりうる。どの薬を、いつまで飲んでいいかは自己判断せず、糖尿病内科の主治医と手術担当医の双方に処方薬リストを見せて確認することが基本になる。

手術前休薬の対象になる薬かどうかを確認する方法

この章では、手術前休薬の対象になりやすい薬の一般名・商品名を整理する。

お薬手帳や処方薬の説明書には「一般名(成分名)」と「商品名(製品名)」の両方、あるいはどちらか一方が記載されている。手術前の問診票に薬剤名を書く際は、商品名だけでなく一般名も確認しておくと、後発品(ジェネリック医薬品)に切り替わっていても取り違えにくい。同じ「糖尿病の薬」でも作用の仕組みが異なるため、自分が飲んでいる薬がどちらのグループに入るか分からない場合は、薬局でもらう薬剤情報提供文書(薬の説明書)に書かれている分類名を確認するか、薬剤師に直接尋ねると確実である。

薬の種類 一般名の例 日本で処方される商品名の例
SGLT2阻害薬 ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン フォシーガ、ジャディアンス、カナグル、スーグラ、ルセフィ、デベルザ
ビグアナイド薬(メトホルミンなど) メトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩 メトグルコ、グリコラン、ジベトス

商品名は一般的に流通している例であり、処方内容によって異なる。自分の薬が該当するか不明な場合は、お薬手帳を薬剤師・医師に見せて確認する。

手術前休薬は手術の規模・緊急度によってどう変わるか

「手術」とひとくちに言っても、日帰りの小さな処置から、全身麻酔で数時間かかる大手術まで幅がある。休薬の考え方も、この規模によって変わる。

メトホルミンについて、日本糖尿病協会のRecommendationは「外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌」としている[2]。つまり、局所麻酔で行い当日から食事がとれるような小さな処置であれば、必ずしも休薬の対象にならない場合がある。一方、全身麻酔を要する手術や、術後しばらく絶食が続く消化器の手術などでは、休薬の対象になりやすい。どちらに該当するかは自己判断が難しいため、処置や手術の内容を医師に伝えたうえで確認する必要がある。

緊急手術の場合は、あらかじめ休薬する時間的な余裕がないことが前提になる。SGLT2阻害薬については、日本糖尿病協会のRecommendationが「緊急手術の場合には、休薬は必須ではないが、再開については予定手術の場合と同様とし、再開後のケトアシドーシスの症状に留意する」としている[1]。つまり緊急手術のために服用を続けたこと自体を過度に心配する必要はないが、手術後に薬を再開する・あるいは継続する際は、正常血糖ケトアシドーシスの症状(吐き気、息苦しさ、強い倦怠感)が出ていないかを医療者側が注意深く観察するという運用になる。患者側としては、術後に体調の変化があれば、血糖値の数字にかかわらず速やかに伝えることが重要になる。

入院を伴わない日帰り手術・検査でも、麻酔の種類や絶食時間によっては休薬が必要になることがある。「入院しないから薬は普段どおりでよい」と自己判断せず、日帰りの処置であっても糖尿病治療薬を服用していることは必ず事前に申告する。忙しさや緊張から言い忘れることもあるため、問診票に薬剤名を記入する欄があれば必ず書き込み、口頭でも念のため確認しておくと安心である。歯科の抜歯や内視鏡検査など、一見「手術」という言葉が使われない処置でも、全身麻酔や静脈麻酔を使う場合、絶食を伴う場合には同じ考え方が当てはまることがある。手術という言葉のイメージだけで対象になるかどうかを判断せず、「この処置の前後、糖尿病の薬はどうしたらいいですか」と、処置の種類にかかわらず確認する習慣が安全につながる。

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再開のタイミングを誤るとどうなるか — 「止める」だけでなく「戻す」判断も重要

休薬の話題は「いつ止めるか」に注目が集まりやすいが、日本糖尿病協会のRecommendationがくり返し強調しているのは「食事が十分摂取できるようになってから再開する」という再開側の条件である[1]。まだ十分に食事がとれない段階でSGLT2阻害薬を再開すると、体はまだ手術の侵襲から回復しきっておらず、脱水や食事量の不足が残ったままケトン体が作られやすい状態が続く可能性があるため、再開のタイミングにも根拠がある。

メトホルミンについても同様に、ヨード造影剤を使った検査の後は「投与後48時間はメトホルミンを再開せず、腎機能の悪化が懸念される場合にはeGFRを測定し腎機能を評価した後に再開する」とされている[2]。造影剤は腎臓を通って排出されるため、腎機能が一時的に低下している間にメトホルミンを再開すると、体内に薬が蓄積し乳酸アシドーシスのリスクが上がる可能性がある。「もう時間が経ったから」と自己判断で再開日を早めず、指示された日数と、必要であれば採血の結果を待つことが求められる。

〈手術前休薬チェックリスト — 診察に持参する〉
□ 現在服用中の糖尿病治療薬をすべて書き出す(薬剤名・用量・服用タイミング)
□ 直近のeGFR(腎機能)の数値を確認しておく
□ 手術の前後に造影剤を使う検査(CT・血管造影など)が予定されているか確認する
□ 「いつから休薬するか」「いつ再開してよいか」を主治医と手術担当医の双方に確認する
□ 休薬中に低血糖・高血糖が起きた場合の対処法を確認する
□ 再開後に息苦しさ・強い倦怠感・吐き気が出た場合の連絡先を確認する

妊娠中・授乳中の患者における周術期のSGLT2阻害薬・メトホルミンの休薬の考え方、および小児患者における休薬期間の目安については、今回参照した資料には具体的な記載が見当たりませんでした。該当する場合は産科・小児科・糖尿病内科・麻酔科での個別の相談が必要です。また、透析を受けている患者や、腎移植後の患者における休薬の考え方についても、本記事で引用したRecommendationは一般的な外来通院患者を主な対象としており、個別性の高い判断が必要になるため、詳細は主治医に確認してください。

退院後・自宅療養中の手術前休薬フォローアップ

手術を終えて退院した後も、休薬の話は終わりではない。日本糖尿病協会のRecommendationが示す再開条件に沿えば、自宅で食事量が戻りきらないうちにSGLT2阻害薬を自己判断で再開すると、入院中と同じ理由で正常血糖ケトアシドーシスのリスクが残る[1]。退院時に「いつから再開してよいか」を具体的な日付や条件(例:1日3食を安定してとれるようになってから)で確認しておくと、自宅で迷わずに済む。

また、日本糖尿病協会のメトホルミンに関するRecommendationが脱水・シックデイ時の対応として示すとおり、退院後に発熱・下痢・嘔吐などで食事や水分がとれない「シックデイ」の状態になった場合は、休薬期間が終わって薬を再開した後であっても、メトホルミンについてはいったん服薬を中止し主治医に相談することが推奨されている[2]。手術直後は体力が落ちて感染症にもかかりやすい時期であるため、シックデイのルールを手術前とあわせて確認しておくと安心である。何らかの症状が出た場合、「まだ本調子ではないから様子を見よう」と自己判断せず、休薬中と同様に早めに医療機関へ連絡する姿勢が重要になる。

よくある質問

SGLT2阻害薬は手術の何日前から休薬すればいいですか?
日本糖尿病協会のRecommendationでは、予定手術の場合「術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する」とされている[1]。ただし施設によっては運用上、他の薬と期間をそろえて2日前としている場合もあるため[3]、自分の手術を担当する病院の指示を必ず確認する。
緊急手術で休薬が間に合わなかった場合はどうなりますか?
日本糖尿病協会のRecommendationは、緊急手術の場合には休薬は必須ではないとしつつ、再開については予定手術の場合と同様の考え方をとり、再開後のケトアシドーシス症状に留意するとしている[1]。
メトホルミンは手術当日だけ休めばいいですか?
日本糖尿病協会は、全身麻酔を伴う外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)の前後の期間はメトホルミンを禁忌としており、「当日だけ」より広い期間を想定している[2]。具体的に何日前から止めるかは施設の運用によって異なるため、主治医の指示に従う[3]。
造影剤を使うCT検査を受けるだけでも休薬は必要ですか?
腎機能によって扱いが異なる。日本糖尿病協会のRecommendationでは、eGFR30〜60の患者は造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開しないとされ、eGFR30未満の患者ではメトホルミン自体が禁忌とされている[2]。検査だけでも事前に糖尿病治療薬を申告する必要がある。
血糖値が正常なのに具合が悪い場合、ケトアシドーシスの可能性はありますか?
ある。SGLT2阻害薬は尿に糖を排出させる作用があるため、血液中の糖が正常に近い値でもケトアシドーシスが進行する「正常血糖ケトアシドーシス」が起こりうる[1]。血糖値だけで安心せず、吐き気・呼吸の速さ・強い倦怠感などの症状があれば連絡する。
メトホルミンの乳酸アシドーシスは、どんな人でリスクが上がりますか?
腎機能障害(透析患者を含む)、脱水・シックデイ・過度のアルコール摂取、心血管や肺の機能障害、手術前後、肝機能障害、高齢であることがリスクを高める要因として挙げられている[2]。高齢者に限らず、若年でも少量投与でこれらの状態が重なると発現が報告されている[2]。
SGLT2阻害薬とメトホルミンを両方飲んでいる場合、休薬のタイミングは合わせていいですか?
学会が示す目安の日数はそれぞれ異なる(SGLT2阻害薬は術前3日、メトホルミンは外科手術前後という広い期間)[1][2]が、実際の指示は病院ごとに管理を簡素化するため統一されている場合がある[3]。自己判断で合わせず、必ず処方医・手術担当医から出される休薬指示書に従う。
手術前にインスリンへ切り替えると言われました。飲み薬より安全なのですか?
周術期は内服薬を中止しインスリンで血糖を調整することが基本方針とされている[5]。絶食や輸液で血糖の変動が大きくなる時期に、量を細かく調整しやすいインスリンの方が管理しやすいためであり、飲み薬が「危険だから」というより、周術期という特殊な状況に合わせた一時的な切り替えである。
アメリカと日本で休薬のルールは違いますか?
SGLT2阻害薬については、米国FDAもカナグリフロジン・ダパグリフロジン・エンパグリフロジンで術前3日、エルツグリフロジンで術前4日以上の休薬を求めており[4]、日本糖尿病協会の「術前3日」という目安と近い考え方である[1]。一方メトホルミンは、日本が外科手術前後という広い期間を禁忌としている。米国側の具体的な運用については本記事で検証できた一次情報がないため、対象となる手術の規模や施設の方針によって主治医の指示を確認する必要がある。
休薬している間、血糖値が上がってしまわないか心配です
周術期は内服薬の代わりにインスリンなどで血糖を管理する体制に切り替わることが基本方針とされている[5]。休薬中も血糖値そのものが放置されるわけではなく、絶食や手術のストレスに合わせて医療者側が細かく調整する。心配な場合は、休薬中の血糖測定の頻度や、対応するインスリンの使い方についても事前に確認しておくと安心できる。
休薬の指示を忘れてしまいそうです。何か対策はありますか?
口頭の説明だけでは忘れやすいため、多くの医療機関では休薬の対象になる薬と日数を記載した「休薬指示書」を渡している。受け取った指示書はお薬手帳と一緒に保管し、いつから飲むのをやめて、いつから再開してよいかを家族など周囲の人にも共有しておくと、飲み忘れ・再開忘れの両方を防ぎやすい。本記事の⑩章のチェックリストも、診察の際にその場で確認する用途で使える。

更新日:2026年8月11日/内容に誤りを見つけられた場合はご連絡ください。

参考文献

  1. 公益社団法人日本糖尿病協会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」 https://www.nittokyo.or.jp/modules/information/index.php?content_id=22
  2. 公益社団法人日本糖尿病協会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」 https://www.nittokyo.or.jp/modules/information/index.php?content_id=23
  3. 香川県立中央病院「糖尿病用薬(ビグアナイド製剤、SGLT2阻害薬)の術前休薬期間」2023年2月改訂 https://www.chp-kagawa.jp(術前休薬期間PDF)
  4. American College of Cardiology「Preoperative Cessation of SGLT2i」(FDA推奨の引用) https://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2022/10/07/17/21/preoperative-cessation-of-sglt2i
  5. 日本外科学会雑誌「周術期の血糖管理」 https://journal.jssoc.or.jp/articles/text/1240020163.html
  6. 公益社団法人日本医学放射線学会「ヨード造影剤(尿路・血管用)とビグアナイド系糖尿病薬との併用注意について(第2報)」 https://www.radiology.jp/content/files/994.pdf
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本記事はAI技術を活用し、厚生労働省・WHO等の公的医療機関の情報に基づいて作成されています。医療専門家による個別の監修は受けておりません。健康上の判断や治療については、必ず医師にご相談ください。詳しくは編集ポリシーをご覧ください。

Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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