糖尿病性腎症のメカニズムとは?腎臓が壊れる仕組みを解説
この記事でわかること
目次
糖尿病が腎臓を壊すのは、高血糖が続くことで腎臓の「ろ過フィルター」である糸球体の毛細血管がじわじわ傷むためです。日本透析医学会の統計では、透析を新たに始めた患者の原疾患のうち38.3%、透析を続けている患者全体では39.5%が糖尿病性腎症であり、依然として透析導入原因の第1位です[3]。
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怖いのは、この壁の傷みが何年もかけてゆっくり進み、初期にはほぼ無症状だと厚生労働省が報告している点です[1]。しかし壊れ方には順序があり、日本には2023年に糖尿病性腎症合同委員会が改定したばかりの「糖尿病性腎症病期分類」という共通のものさしがあります[2]。今どの段階にいるかが分かれば、何をすべきかも見えてきます。この記事では「なぜ腎臓が壊れるのか」という仕組みから、最新の病期分類、国内外のガイドラインの視点の違いまで、公的資料に基づいて徹底的に解説します。
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点)。
糖尿病はどうやって腎臓を壊すのか?糸球体で起きていること
厚生労働省 e-ヘルスネットの解説によれば、腎臓の中には「糸球体」と呼ばれる毛細血管の塊が、片方の腎臓だけでおよそ100万個も存在します[1]。糸球体は血液をろ過して尿のもとを作る、いわば体内の精密フィルターです。同資料は、高血糖の状態が長く続くと、全身の細い血管が傷みますが、糸球体はまさにこの「細い血管の塊」そのものであるため、真っ先に影響を受けると報告しています[1]。
厚生労働省 e-ヘルスネットは、糖尿病性腎症のメカニズムについて「糖尿病で高血糖の状態が長く続くと、全身の小さな血管が傷んで、血管が詰まったりします」「一つの腎臓に100万個ある糸球体と呼ばれる小さな濾過装置は、細い血管でできているため、細小血管症が起こりやすい」と説明しています[1]。同資料によれば、糸球体のフィルターが壊れ始めると、本来は血管の中に留まるはずの蛋白(アルブミン)が、壊れた壁の隙間を通り抜けて尿の中に漏れ出すようになります。これが最初のサインである「微量アルブミン尿」だと厚生労働省は説明しています[1]。
上の図はJHO編集部が作図。厚生労働省 e-ヘルスネットの解説をもとに、健康な糸球体と糖尿病で壁が傷んだ糸球体の違いを示している[1]。
大阪大学の研究によれば、この過程でとくに重要なのが「糸球体過剰濾過」と呼ばれる現象です。高血糖の初期段階では、糸球体に血液を送り込む輸入細動脈が広がる一方、血液を送り出す輸出細動脈はあまり広がらないため、糸球体の内部の圧力(糸球体内圧)が上昇すると報告されています[5]。日本腎臓学会のガイドによれば、この輸出細動脈の収縮には、体内の血圧調整システムであるレニン・アンジオテンシン系のホルモン、アンジオテンシンIIが深く関わっていると考えられており、アンジオテンシンIIが輸出細動脈を収縮させることで糸球体内圧をさらに押し上げ、メサンギウム細胞の増殖や線維化に関わる物質を介して糸球体硬化を進めていくと報告されています[8]。厚生労働省の資料は、この状態が続くと、糸球体の毛細血管の壁そのものが物理的なダメージを受け続け、やがて糸球体そのものが硬くなる「糸球体硬化」に至ると説明しています[1]。壁が壊れるほど、蛋白の漏出は微量アルブミン尿から、より量の多い「顕性アルブミン尿」・持続性蛋白尿へと進み、同時にろ過そのものを行う糸球体の数自体が減っていくため、老廃物を尿へ捨てる力(GFR、糸球体濾過量)も低下していくと厚生労働省は報告しています[1]。
厚生労働省が所管する国立国際医療研究センターの糖尿病情報センターも、「高血糖の状態が長く続いた場合に腎臓が傷んでしまうことで発症します」「早期の段階では無症状ですが、進行するとからだがむくんだり、気分が悪くなったりするなどのさまざまな症状を引きおこします」と述べており[4]、初期に自覚症状で気づくことがいかに難しいかを裏付けています。
このメカニズムを踏まえると、「なぜ血糖コントロールだけでなく血圧管理も同じくらい重視されるのか」という疑問にも答えが見えてきます。日本腎臓学会のガイドは、高血圧はそれ自体が糸球体内圧をさらに押し上げる方向に働くため、血糖・血圧の両方を管理しない限り、糸球体への圧力負荷は下がりきらないと報告しています[8]。次の章では、この血圧管理の目標値と、それを支える薬の仕組みを具体的に見ていきます。
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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
糖尿病性腎症病期分類2023——数字で見る進行度
この病気の進み方を医療現場で共通言語として扱うために、日本糖尿病学会・日本腎臓学会・日本透析医学会が合同で「糖尿病性腎症病期分類」を定めています。もっとも新しい版は2023年に糖尿病性腎症合同委員会が改定した「糖尿病性腎症病期分類2023」です[2]。同委員会の報告によれば、この分類は、尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)または尿蛋白・クレアチニン比(UPCR)と、推算糸球体濾過量(eGFR)の組み合わせで病期を決めます[2]。
| 病期 | 尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR、mg/g)あるいは尿蛋白・クレアチニン比(UPCR、g/g) | eGFR(mL/分/1.73m²) |
|---|---|---|
| 正常アルブミン尿期(第1期) | UACR 30未満 | 30以上 |
| 微量アルブミン尿期(第2期) | UACR 30〜299 | 30以上 |
| 顕性アルブミン尿期(第3期) | UACR 300以上あるいはUPCR 0.5以上 | 30以上 |
| GFR高度低下・末期腎不全期(第4期) | 問わない | 30未満 |
| 腎代替療法期(第5期) | 透析療法中あるいは腎移植後 | ― |
出典:糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」糖尿病66巻11号797-805頁、2023年[2]
合同委員会の報告によれば、この2023年分類の要点は病期の「名前」の変更です。2014年分類の「第1期(腎症前期)」は「正常アルブミン尿期(第1期)」に、「第4期(腎不全期)」は「GFR高度低下・末期腎不全期(第4期)」に改められました[2]。同委員会によれば、数値の区切り(UACRやeGFRのカットオフ)そのものは2014年分類から変えていません[2]。名前を変えた理由について合同委員会は、日本腎臓学会のCKD重症度分類や国際的な表記との整合性を重視したためだと報告しています[2]。
同委員会が注意すべき点として明記しているのは、「正常アルブミン尿期は糖尿病性腎症の存在を否定するものではなく、この病期でも糖尿病性腎症に特有の組織変化を呈している場合がある」という点です[2]。つまり尿検査でアルブミンが出ていないからといって、腎臓がまったく無傷とは言い切れません。また委員会の報告は「糖尿病性腎症は必ずしも第1期から順次第5期まで進行するものではない」とも注記しており[2]、アルブミン尿をほとんど伴わないまま急にeGFRが下がるタイプの患者が一定数いることも報告されています。
血圧管理という「もう一つの糸球体保護」——降圧目標と薬の使い分け
糸球体内圧を上げないためには、血糖管理と並んで血圧管理が欠かせません。日本腎臓学会の「CKD診療ガイド-高血圧編」では、CKD全体の降圧目標を「130/80mmHg未満」としたうえで、糖尿病性腎症や糸球体腎炎については蛋白尿の量に応じてさらに細かく目標を分けています[8]。
| 原疾患 | 尿蛋白量の目安 | 降圧目標 | 推奨される降圧薬 |
|---|---|---|---|
| 糖尿病性腎症・糸球体腎炎 | 1g/日以上 | 125/75mmHg未満 | RA系抑制薬(ACE阻害薬・ARB)を優先 |
| 1g/日未満 | 130/80mmHg未満で可 | ||
| 腎硬化症・多発性嚢胞腎・間質性腎障害 | 正常〜低値 | 130/80mmHg未満 | 薬の種類は特に問わない |
出典:日本腎臓学会「CKD診療ガイド-高血圧編」表1 CKDの原疾患別にみた蛋白尿レベルと降圧療法の目安[8]
日本腎臓学会のガイドは「糖尿病性腎症や糸球体腎炎では、高血圧がなくとも腎保護のためにRA系抑制薬が使用されることがある」と述べる一方、「蛋白尿を伴わないCKDに対するRA系抑制薬の腎保護作用は確立していない」とも明記しており[8]、蛋白尿の有無によって薬の使い方が変わることが分かります。同ガイドによれば、ACE阻害薬・ARBは、輸出細動脈を収縮させるアンジオテンシンIIの働きを抑えることで、輸入細動脈よりも輸出細動脈を優位に拡張させ、糸球体内圧そのものを引き下げると報告されています[8]。血糖降下薬とは異なる経路で腎臓を守っている点は、SGLT2阻害薬と共通する発想だと言えます。
ACE阻害薬・ARBを飲み始めると、血清クレアチニン値が一時的に上昇することがあります。この点について日本腎臓学会のガイドは「CKDにRA系抑制薬(ACE阻害薬やARB)を投与すると、血清クレアチニン値が上昇することがある。しかし、前値から30%未満の上昇なら、そのまま継続投与してよい(例:血清クレアチニン1.34mg/dLの患者なら、治療後1.74mg/dLまでの上昇を許容範囲と考える)」と具体的な数値で報告しています[8]。数値だけを見て自己判断で中断せず、必ず主治医の指示に従うことが重要です。
見逃すと危険なサイン——すぐに受診が必要な変化(受診の目安)
すぐにかかりつけ医・腎臓専門医に相談すべきサイン(受診の目安)
糖尿病情報センターは、腎機能が低下すると「カリウムというミネラルがからだにたまってしまい、不整脈の原因になることがある」と述べています[4]。また同センターは、糖尿病性腎症の発症・進行に関わるリスク要因として「血糖コントロールの不良、高血圧、脂質異常、喫煙」を挙げており[4]、逆にいえばこれらは自分でコントロールできる余地がある要因でもあります。さらに同センターは「感染症や脱水も腎症を進行させることがありますので、感染症対策や水分摂取を心がけましょう」とも助言しています[4]。
厚生労働省 e-ヘルスネットは「きちんと検査や治療を行うことで、糖尿病性腎症は予防することが可能です」「医療機関で定期的な微量アルブミン尿検査を行い、尿の中にタンパク質(アルブミン)が現れていないか確認することが大切です」と述べています[1]。同資料によれば、むくみや倦怠感といった自覚症状が出るのは、多くの場合すでに顕性アルブミン尿期(第3期)以降に進んでからだと報告されています[1]。つまり「症状がないから大丈夫」という判断がもっとも危険で、年に1回以上の尿検査こそが早期発見の柱になると厚生労働省は報告しています[1]。糖尿病性腎症がどのような兆候から始まり、どう進行していくかをさらに詳しく知りたい方は、糖尿病性腎症の全体像をまとめたこちらの記事もあわせてご覧ください。
ガイドラインの比較——日本とKDIGO(国際基準)の視点の違い
糖尿病性腎症を含む慢性腎臓病(CKD)の評価方法は、国内と国際でまったく同じというわけではありません。国際的な腎臓病の診療指針を出しているKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)は、2024年に改訂した「KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」の中で、CKDをアルブミン尿区分(A1〜A3)とGFR区分(G1〜G5)を組み合わせたグリッド(マトリクス)で評価する方式を推奨しています[6]。日本腎臓学会が定めるCKD重症度分類も同様にA区分とG区分を組み合わせる方式を採用しており、糖尿病性腎症合同委員会の報告では、糖尿病性腎症病期分類2023はこのCKD重症度分類との整合性を重視して名前を改めた経緯があると説明されています[2][7]。
| 比較項目 | 日本(糖尿病性腎症病期分類2023) | KDIGO(国際基準、2024年版) |
|---|---|---|
| 評価の軸 | UACR/UPCR × eGFR、5段階の病期名で表示[2] | アルブミン尿区分(A1〜A3)× GFR区分(G1〜G5)のグリッド[6] |
| 透析導入の考え方 | 「腎代替療法期(第5期)」として区分[2] | eGFRに加え、5年以内の腎不全リスクを予測式で評価し紹介時期を判断[6] |
| 正常アルブミン尿でeGFRが低い例 | 第1期の定義に含まれるが、他の腎臓病との鑑別が必要と注記[2] | CKD G3〜G5として独立して評価[6] |
出典:糖尿病性腎症合同委員会「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」[2]/KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for CKD[6]
かかりつけ医から腎臓専門医への紹介をどのタイミングで判断するかについても、日本の指針と国際基準では強調点が異なります。詳しい比較は次の通りです。
| 学会・ガイドライン | 推奨クラス | 対象・条件 |
|---|---|---|
| 日本腎臓学会(JSN) エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 1-4-2(2023) 原文PDF |
GFR区分×蛋白尿区分の早見表 | G1・G2はA3(高度蛋白尿)で紹介/G3aは40歳未満なら区分を問わず紹介、40歳以上はA2以上で紹介/G3b以降はすべて紹介、というカットオフ表による一律判定 |
| Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO) KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for CKD Recommendation 2.2.1 / Practice Point 2.2.1(2024) 原文PDF |
外部検証済みリスク予測式による個別判定(推奨度1A) | CKD G3〜G5の患者には、外部で検証された腎不全リスク予測式(Kidney Failure Risk Equationなど)を用い、eGFR基準に加えて「5年以内に腎不全に至るリスクが3〜5%」であれば腎臓専門医への紹介を検討してよいとする |
⚖️ 見解が分かれる点:GFR区分(G1〜G5)と蛋白尿区分(A1〜A3)の数値の境界線自体は日本と国際基準で完全に一致していますが、「紹介すべきかどうか」を最終的にどう決めるかの方法論が異なります。日本腎臓学会は年齢とGFR区分・蛋白尿区分を組み合わせたカットオフ表で一律に判定するのに対し、KDIGO2024年版は、それに加えて外部検証済みの腎不全リスク予測式を使い、個人ごとの5年以内の腎不全リスクを計算したうえで紹介を検討するという、より個別化されたアプローチを推奨(推奨度1A)しています。日本国内で腎不全リスク予測式が広く臨床導入されているわけではないため、実務上は多くの医療機関がカットオフ表を用いていますが、この違いを知っておくと「なぜ今回は紹介されなかったのか/されたのか」を医師に質問しやすくなります。
※ JHO編集部が各学会の原文PDFを直接確認して作成(確認日:2026-07-16)。 ガイドラインは改訂されることがあります。
どちらの基準を用いるかは主治医の判断に委ねられますが、KDIGOのガイドラインとの違いを知っておくと「なぜ今回は紹介されなかったのか」を診察の場で質問しやすくなると考えられます[6][7]。
なぜ薬が糸球体を守るのか——SGLT2阻害薬の作用機序
糖尿病性腎症の治療薬というと血糖を下げる薬だと思われがちですが、大阪大学の研究によれば、近年注目されているSGLT2阻害薬は、血糖降下作用とは別の経路で腎臓そのものを保護すると考えられています[5]。2024年に同研究グループが発表した内容によれば、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)は「糸球体過剰濾過を改善することで、尿細管へのアルブミン曝露量を減少させ、オートファジー障害を改善する」ことが明らかになりました[5]。同研究の報告では、具体的には、糸球体内圧の低下によってメガリンを介したアルブミンの再吸収量が軽減され、尿細管細胞のオートファゴソームの働きが改善し、リソソームへの負担が解除されるという一連の流れが示されています[5]。
この研究では「EMPAはオートファジーを亢進させるのではなく、リソソーム負担を解除し、オートファジー障害を改善させることで腎保護効果を発揮する」と強調されており[5]、単に血糖を下げるだけでは説明できない、糸球体内圧そのものを下げる仕組みが腎保護の中心にあると報告されています[5]。さらに研究グループは、この機序について「糖尿病の有無を問わず、オートファジー障害を生じる多くの腎疾患に対し幅広い効果が期待される」との見解を示しています[5]。つまりメカニズムを理解しておくと、「なぜ血糖値が目標範囲でも腎臓を守る薬を追加で使うことがあるのか」という疑問にも納得しやすくなります。実際にどの薬をどう使い分けるかという具体的な各薬剤の解説は、糖尿病治療薬全体をまとめた薬の種類ガイドで解説しています。
糖尿病情報センターの報告によれば、食事の面では、蛋白質の摂りすぎが腎臓に負担をかける可能性があると考えられており、病期が進んだ段階ではたんぱく質の摂取量を見直すことが治療の柱の一つになります[4]。摂取量の具体的な目安やJDS基準に基づく制限量については、たんぱく質摂取量の記事で詳しく解説しています。また運動療法・体重管理を含めた食事全体の考え方はこちらの食事療法ガイドを参照してください。
薬だけでなく——生活習慣で糸球体にかかる負担を減らす
糸球体内圧を上げる要因は血糖・血圧だけではありません。日本腎臓学会の「CKD診療ガイド-高血圧編」は、生活習慣の改善策として食塩制限・蛋白制限・禁煙の3つを具体的な数値目標つきで挙げています[8]。
| 生活習慣 | 具体的な目標 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 食塩摂取量 | 6g/日未満 | 学会報告:血圧低下・蛋白尿減少・心血管疾患発症抑制・RA系抑制薬の効果を増幅[8] |
| 蛋白摂取量 | 0.6〜0.8g/kg標準体重/日(0.8g/kgから開始し、可能なら0.6g/kgまで) | 学会報告:蛋白尿減少・CKD進行抑制・尿毒症状の軽減[8] |
| カロリー摂取量 | 30〜35kcal/kg標準体重/日(蛋白異化を防ぐため。肥満患者は個別に調整) | 学会報告:蛋白制限中の栄養状態の維持[8] |
| 禁煙 | 禁煙の徹底 | 学会報告:腎保護に加え、CKDで高まっている心血管リスクの軽減[8] |
出典:日本腎臓学会「CKD診療ガイド-高血圧編」表2 CKDの降圧療法時に重要な生活習慣の改善策[8]
ここで注意したいのは、「進行した腎機能低下例や高齢者、間質性腎障害では急速な食塩制限は腎機能を悪化させることがあるので要注意」と日本腎臓学会のガイドが明記している点です[8]。塩分を極端に、かつ急に減らせばよいというものではなく、医師や管理栄養士と相談しながら段階的に進めることが望ましいと考えられています。同様に蛋白制限についても同ガイドは「急激に蛋白制限すると初期に腎機能が悪化することがあるが、経過観察でよい」と報告しており[8]、数値だけを見て自己流で厳しい制限を始めるのではなく、専門職の指導のもとで進めることが安全につながります。蛋白摂取量の考え方や、病期ごとの目安量をさらに詳しく知りたい方はたんぱく質摂取量の記事を参照してください。
進行して腎代替療法期(第5期)に至った場合——透析療法の実際
糖尿病性腎症合同委員会の分類によれば、糸球体の破壊が進み、GFR高度低下・末期腎不全期(第4期)を経て腎代替療法期(第5期)に至ると、人工的に腎臓の機能を補う透析療法や腎移植が必要になります[2]。糖尿病情報センターの報告では、透析には大きく分けて血液透析と腹膜透析の2種類があり、生活への影響も大きく異なるとされています。
| 項目 | 血液透析 | 腹膜透析 |
|---|---|---|
| 頻度・時間の目安 | センター報告:週3回、1回3〜5時間[4] | センター報告:毎日自宅で実施(就寝中など)[4] |
| 通院の目安 | 週3回(施設で施行) | センター報告:月1回程度[4] |
| 体への処置 | センター報告:腕に血管シャントを作製[4] | センター報告:お腹にカテーテルを埋め込む手術[4] |
| 主な注意点 | センター報告:シャントのトラブル、不均衡症候群、血圧低下[4] | センター報告:腹膜炎、カテーテル関連の感染症[4] |
出典:糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)「腎症」[4]
糖尿病情報センターによれば、血液透析は「血液ポンプで血液を体外に出し、機械で老廃物と余分な水を除去した後、体内に戻す」方法で、週3回・1回3〜5時間を施設に通って受ける必要があります[4]。同センターによれば、一方の腹膜透析は自分の腹膜を利用して透析液をお腹に注入・排出する方法で、通院は月1回程度で済む一方、毎日自宅での管理が必要になると報告されています[4]。どちらを選ぶかは、生活スタイルや残された腎機能、合併症の有無によって主治医と相談しながら決めることになります。
透析導入後は医療費の負担も大きな関心事になりますが、糖尿病情報センターの報告では、日本には「特定疾病療養受療証」「身体障害者手帳」「高額療養費制度」「介護保険制度」といった医療費支援の仕組みが用意されています[4]。高額療養費制度の具体的な自己負担限度額の目安は次の通りです。
病期分類の変遷——1991年から2023年まで、数字はどう変わってきたか
糖尿病性腎症合同委員会の報告によれば、糖尿病性腎症の分類は一度も変わらなかったわけではありません。むしろ約30年かけて3回改定されており、その変遷を知ることは「今の基準がどこまで確からしいか」を理解する助けになります[2]。
| 制定年 | 主な内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1991年分類 | 第1期(腎症前期)〜第5期(透析療法期)。第3期はAとBに細分 | 尿蛋白(アルブミン)とGFRによる分類の原型[2] |
| 2002年分類 | 1991年分類をごくわずかな表現の変更にとどめて踏襲 | 大きな枠組みの変更なし[2] |
| 2014年分類 | eGFRとUACR/UPCRの数値基準を初めて明確化。第3期のA/B区分を廃止 | 厚生労働省研究班の予後データに基づき数値基準を新設[2] |
| 2023年分類(現行) | 数値基準は2014年から変更せず、病期の「名前」をCKD重症度分類・国際表記と整合させて改称 | 「正常アルブミン尿期」など5つの新名称[2] |
出典:糖尿病性腎症合同委員会「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」糖尿病66巻11号797-805頁、2023年[2]
とくに2014年分類の策定時には、厚生労働省科学研究費の腎疾患対策事業の一環として、10施設・4,355名の糖尿病患者を対象にした前向き試験が行われ、正常アルブミン尿期の患者で腎イベントや総死亡のリスクが有意に上昇するのはeGFRが30未満の患者に限られる、という結果が参考にされたと報告されています[2]。数値の区切りは思いつきで決められたものではなく、実際の日本人患者のデータに基づいて設定されている点は、患者として知っておく価値があります。
なお、東京女子医科大学が行った横断調査では、腎症第1期(正常アルブミン尿期)の日本人2型糖尿病患者18,774名のうち、eGFRが30以上60未満だった患者は1,814名(9.7%)、65歳以上に限ると5,924名中1,268名(21.4%)に上ったと報告されています[2]。高齢化が進む中で、アルブミン尿がなくてもeGFRだけが下がっている患者は決して少数ではないという点は、今後の分類のあり方にも影響すると考えられています[2]。
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
まとめ——今日からできることは何か
厚生労働省と日本腎臓学会の資料をもとに、糖尿病が腎臓を壊す仕組みを一言でまとめると、「高血糖と高血圧が糸球体という毛細血管のフィルターに圧力をかけ続け、フィルター自体を壊していく」というプロセスです[1][8]。この仕組みが分かると、血糖値・血圧・尿アルブミンという3つの数字を定期的にチェックすることの意味が具体的に見えてきます。糖尿病性腎症合同委員会が定めた2023年の病期分類は、その進み具合を「正常アルブミン尿期」から「腎代替療法期」までの5段階で示す共通のものさしであり[2]、大阪大学と日本腎臓学会の報告によれば、SGLT2阻害薬やACE阻害薬・ARBといった薬は、いずれも糸球体内圧そのものを下げるという共通の狙いを持っています[5][8]。厚生労働省によれば、むくみや倦怠感といった自覚症状を待つのではなく、年1回以上の尿アルブミン検査を習慣にすることが、今日からできる最も確実な対策だと報告されています[1]。
糖尿病性腎症合同委員会の報告によれば、正常アルブミン尿でありながらeGFRが急激に低下していく患者が一定数存在することは分かっていますが[2]、その全員に共通する原因(遺伝的な要因か、他の腎疾患の合併か)については、今回参照した資料には確定的な記載が見当たりませんでした。この点は現時点で見解が分かれており、結論は出ていません。また、大阪大学の研究によれば、SGLT2阻害薬の腎保護メカニズムについても、オートファジー改善という経路が示された一方、その効果がすべての患者・すべての病期で同じ大きさで得られるとは限らない可能性があり、個々の患者でどの程度の差が出るかはまだ十分な根拠はまだそろっていないと報告されています[5]。数値・分類は今後の研究で見直される可能性があることをご理解のうえお読みください。
よくある質問
健康診断で「尿蛋白(+)」と言われました。すぐに糖尿病性腎症ということですか?
糖尿病性腎症は治りますか?
eGFRとクレアチニンは何が違うのですか?
むくみが出てきたら、もう手遅れなのでしょうか?
血圧はどこまで下げればいいのですか?120台なら安心ですか?
ACE阻害薬・ARBを飲み始めたらクレアチニンが上がりました。薬をやめるべきですか?
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病性腎症」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/metabolic/ym-038.html
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」糖尿病66巻11号797-805頁、2023年 https://www.jds.or.jp/uploads/files/article/%e7%b3%96%e5%b0%bf%e7%97%85/66_797.pdf
- 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)」日本透析医学会雑誌57巻12号543頁、2024年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/57/12/57_543/_article/-char/ja/
- 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)「腎症」https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/070/01.html
- 大阪大学「SGLT2阻害薬による腎保護作用の新メカニズムを解明」2024年 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2024/20241021_1
- KDIGO「2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」2024年 https://kdigo.org/wp-content/uploads/2024/03/KDIGO-2024-CKD-Guideline.pdf
- 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023刊行のお知らせ」2023年 https://jsn.or.jp/medic/newstopics/fromjsn/ckd2023-1.php
- 日本腎臓学会「CKD診療ガイド-高血圧編」https://jsn.or.jp/jsn_new/news/CKD-kouketsuatsu.pdf
最終更新:2026年7月19日。本記事の内容に誤りや古い情報がございましたら、下記お問い合わせよりぜひお知らせください。
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