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がん・腫瘍疾患 26分で読める 11回

肺がん 遺伝する?|EGFR変異は子に伝わるのか正しく解説

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American Cancer Societyの解説によれば、肺がんの大部分は生活習慣や偶然の積み重ねで生じる「後天的な変化」であり、親から子へそのまま受け継がれる「遺伝性のがん」に該当するのはごく一部です。[6]

国立がん研究センターによると、肺がんの罹患者数がもっとも多い最大の原因は今も喫煙で、喫煙者は非喫煙者に比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍なりやすいことが分かっています[2]。一方でAmerican Cancer Societyの説明では、治療薬を選ぶために調べる「EGFR」「ALK」といった遺伝子変異は、多くの場合その人が生きている間に肺の細胞だけに後天的に生じたものであり、子どもに伝わるものではありません[6]。ただし、ごく少数ながら生まれつき持っている変異(生殖細胞系列変異)が関係する遺伝性のケースも報告されており、家族に肺がんが多い場合は自己判断せず、まず主治医または遺伝の専門家に相談することが勧められます[4]。

この記事の要点(「肺がん 遺伝する」で調べている方向け)

  • 喫煙は肺がんの最大の危険因子——喫煙者は非喫煙者より男性4.4倍・女性2.8倍なりやすい[2]
  • 治療薬選びで調べるEGFR・ALKなどの変異は、ほとんどが「がん組織だけの後天的な変化(体細胞変異)」で子には伝わらない[6]
  • 親から子に本当に伝わりうるのは「生殖細胞系列変異」で、Li-Fraumeni症候群など、ごく稀な遺伝性腫瘍症候群の一部としてまれに肺がんも報告されている[7]
  • 体細胞変異と生殖細胞系列変異は、調べる検査方法自体が違う(がん組織を調べる体細胞遺伝子検査/血液など正常組織を調べる遺伝学的検査)[5]
  • 血縁者に肺がんが複数いる、若い年齢で発症した親族がいる場合は、自己判断せず遺伝の専門家(臨床遺伝専門医・遺伝性腫瘍専門医・認定遺伝カウンセラー)に相談を[5]

編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年8月時点)。

肺がん 遺伝するのか?——まず結論の理由を仕組みから理解する

「肺がん 遺伝する」のかどうか、「肺がんは遺伝しますか」という質問には、実は2つのまったく違う意味が混ざっています。1つは「親が肺がんだったから自分もなりやすいのか」という体質・家系の話。もう1つは「肺がんの検査で見つかった遺伝子変異は、子どもに伝わるのか」という話です。この2つを分けずに考えると、不安だけが膨らんでしまいます。

American Cancer Societyの解説では、肺がんに限らず、がんは細胞の中の遺伝子(DNAの設計図)に傷(変異)が積み重なることで発生します[6]。ACSの説明によれば、がんはDNAの変化によって「がん遺伝子(oncogene)」がオンになったり、「がん抑制遺伝子(tumor suppressor gene)」がオフになったりすることで起こり、肺がんを引き起こすには通常、多くの異なる遺伝子に変化が積み重なる必要があるとされています[6]。1つの変異だけでがんになるわけではなく、喫煙などによる長期間の刺激が、細胞の中に少しずつ傷を蓄積させていく——このイメージを持つと、「遺伝子異常=生まれつき」という誤解が解けやすくなります。しかし、その変異が「どこで」起きたかによって、子どもに伝わるかどうかがまったく変わります。変異が起きる場所は大きく分けて2種類あります。

American Cancer Societyによれば、1つ目は、生まれる前、受精卵の段階からすでに持っている変異で、「生殖細胞系列変異(germline mutation)」と呼ばれます。この変異は体のすべての細胞に存在し、卵子や精子にも同じ変異が含まれるため、一定の確率で子どもに伝わる可能性があります[6]。

American Cancer Societyによれば、2つ目は、生まれたときには存在せず、喫煙や有害物質への曝露、加齢などをきっかけに、生きている間に肺の一部の細胞だけに後天的に生じる変異で、「体細胞変異(somatic mutation)」と呼ばれます。この変異は精子や卵子には存在しないため、子どもには伝わりません[6]。

肺がんの治療でEGFR・ALK・ROS1・KRASといった遺伝子名を医師から聞いて「遺伝子異常があるなら子どもに遺伝するのでは」と不安になる方は非常に多いのですが、これらの多くは2つ目の「体細胞変異」であり、その人の肺がん組織だけに存在するものです[6]。下の図で、この2つの違いを整理します。

生殖細胞系列変異(上)は全身の細胞・卵子精子にも存在し子に伝わる可能性があるが、体細胞変異(下)は肺の一部の細胞だけに後天的に生じ子には伝わらない。出典:国立がん研究センター「がん医療における遺伝子検査」[5]・American Cancer Society「What Causes Lung Cancer?」[6]/JHO編集部が作図

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肺がんの発生に関わる要因——遺伝子異常だけが原因ではない

国立がん研究センターは、肺がんの発生要因について「環境や遺伝子異常などさまざまなものがあり、環境の中には喫煙や受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)が含まれます」と説明しています[1]。ここでいう「遺伝子異常」とは、前章で述べた体細胞変異を含む、がん細胞の中で起きている変化全般を指しており、「親から遺伝する異常」だけを意味する言葉ではない点に注意が必要です。

数字で見ると、環境要因の影響の大きさがよく分かります。国立がん研究センターによると、喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍肺がんになりやすく、喫煙を始めた年齢が若く、喫煙量が多いほど危険性が高くなります。また、自分は吸わなくても周囲のたばこの煙を吸う「受動喫煙」も、肺がんになる危険性を2〜3割程度高めるとされています[2]。喫煙以外にも、アスベストなどの有害物質への長期間の曝露、肺結核、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎なども肺がんの発生の危険性を高めると報告されています[2]。禁煙を始めてから10年後には、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることも分かっています[2]。

つまり、「遺伝子」という言葉が使われていても、その大半は日々の環境や生活習慣によって後天的に積み重なる変化であり、「家系だから仕方ない」と考えて禁煙や検診を後回しにする理由にはなりません。

組織型によって遺伝子異常の出やすさが違う——腺がん・扁平上皮がん・小細胞がん

肺がんは1つの病気ではなく、がん細胞の顔つき(組織型)によって性質が大きく異なります。国立がん研究センターは、肺がんを大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分け、非小細胞肺がんはさらに「腺がん」と「扁平上皮がん」などに分類しています[1]。

組織型 特徴
腺がん(非小細胞肺がん) 肺がんの中で最も多い組織型。扁平上皮がんと比べて、治療対象になる特定の遺伝子異常(EGFR・ALKなど)を認めることが多い[1]
扁平上皮がん(非小細胞肺がん) 咳や血痰などの症状があらわれやすく、喫煙との関連が大きい[1]
小細胞がん 増殖が速く転移しやすい。喫煙との関連が大きい[1]

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「肺がんについて」表1 主な肺がんの組織型とその特徴[1]

国立がん研究センターの記載でここで注目したいのは「腺がんは扁平上皮がんと比べて、治療対象になる特定の遺伝子異常を認めることが多い」という点です[1]。この「遺伝子異常」とは、EGFR・ALK・ROS1などの体細胞変異のことであり、腺がんという組織型そのものが遺伝で決まるわけではありません。喫煙との関連が強い扁平上皮がん・小細胞がんに比べ、非喫煙者にも比較的多い腺がんで、こうした体細胞変異が高頻度に見つかる——という組織学的な傾向を示しているにすぎません。組織型と体細胞変異の頻度、そして「遺伝するかどうか」は、それぞれ別の軸で理解する必要があります。

体細胞遺伝子検査と遺伝学的検査——同じ「遺伝子」でも調べる目的がまったく違う

項目 体細胞遺伝子検査(がん遺伝子検査) 遺伝学的検査
調べる目的 その人の肺がんに効く治療薬(分子標的薬など)を選ぶため[5] 体質的にがんにかかりやすいかどうかを調べるため[5]
調べる検体 がんの組織/血液・骨髄液[5] 血液(正常組織)[5]
見つかる変異の種類 体細胞変異(がん細胞だけの変異) 生殖細胞系列変異(生まれつき持っている変異)
子どもに伝わるか 伝わらない[6] 伝わる可能性がある[6]
代表的な対象遺伝子 EGFR・ALK・ROS1・MET・RET・BRAF・NTRK・KRASなど[6] TP53・BRCA1・CHEK2・ATM・APC・PALB2など(まれに肺がんと関連)[6]

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん医療における遺伝子検査」(2022年11月24日更新)[5]/American Cancer Society「What Causes Lung Cancer?」[6]

国立がん研究センターは、保険診療で行われるがんに関連した遺伝子検査には「がんの中で生じた遺伝子の異常を解析する遺伝子検査(体細胞遺伝子検査)」と「体質的にがんにかかりやすいかどうかや、薬の効果や副作用等を解析する遺伝子検査(遺伝学的検査)」の2種類があり、体細胞遺伝子検査では「がんの組織」や「血液/骨髄液」を、遺伝学的検査では「血液(正常組織)」を用いると説明しています[5]。つまり、同じ「遺伝子検査」という言葉でも、何を調べているかによって意味がまったく異なるのです。

また、市販の遺伝子検査の中には「がんのかかりやすさ」を判定するとうたうものもありますが、国立がん研究センターは「これらの多くは、遺伝を専門とする医師の判断がなされず、検査結果やその解釈、推奨される対策などの信頼性に欠けるものもある」と注意を呼びかけており、遺伝性のがんに関連した検査を希望する場合は、遺伝の専門家(臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍専門医、認定遺伝カウンセラーなど)に相談することが望ましいとしています[5]。

こんな場合は、まず主治医または遺伝の専門家に相談を

  • 血縁者(親・兄弟姉妹など)に肺がんを含む複数の種類のがんにかかった人が2人以上いる
  • 40〜50歳未満など、比較的若い年齢で肺がんと診断された血縁者がいる
  • 非喫煙者なのに肺がんと診断された、または診断された血縁者がいる
  • 担当医から「生殖細胞系列変異の可能性」「遺伝性腫瘍症候群」について検査を勧められた[5]

これらに当てはまるからといって必ず遺伝性というわけではありませんが、遺伝の専門家に相談することで、ご自身や血縁者にとって本当に必要な検査・対策が見えてきます[5]。

肺がん 遺伝する家系は本当にあるのか——共有される生活環境という盲点

血縁者に肺がんの人が多いと、それだけで「うちの家系は遺伝子的にリスクが高いに違いない」と考えてしまいがちです。しかしAmerican Cancer Societyは家族歴について、非常に重要な指摘をしています。「肺がんにかかった人のきょうだいや子どもは、本人よりわずかにリスクが高くなる可能性があるが、特にその血縁者が若い年齢で診断された場合に顕著である。しかし、このリスクのうちどれだけが家族間で共有される遺伝子によるもので、どれだけがたばこの煙やラドンなど、共有される家庭内の曝露によるものかは明らかになっていない」としています[9]。

つまり、同じ家に住む家族は、同じ遺伝子だけでなく、同じ喫煙環境・同じ受動喫煙・同じ住宅内のラドン濃度なども共有しています。「家族に肺がんが多い=遺伝子のせい」と即断せず、「遺伝子的な要因」と「共有された環境要因」の両方が関わりうる、という視点を持つことが大切です。アメリカでは、肺がんによる死亡の約80%が喫煙に起因すると考えられており、特に小細胞肺がんでは喫煙との関連がきわめて強いとされています[9]。喫煙以外にも、ラドンやアスベスト、職場での特定の化学物質への曝露、大気汚染なども肺がんの危険因子として知られています[9]。それでもなお、ACSは「一部の強い肺がん家族歴を持つ家系では、遺伝子が役割を果たしていることが研究で分かっている」とも明記しており[9]、環境要因だけですべてを説明できるわけでもありません。両方の可能性を、順序立てて確認していくことが重要です。

Li-Fraumeni症候群と生殖細胞系列EGFR変異——ごく稀に報告される「本当に遺伝する」ケース

生殖細胞系列変異が関わる肺がんは非常にまれですが、医学文献には実例が報告されています。代表的なのが、TP53遺伝子の生殖細胞系列変異によって起こるLi-Fraumeni症候群です。これは常染色体優性(親のどちらかが持っていれば約2分の1の確率で子に伝わりうる)の遺伝性腫瘍症候群で、若い年齢から複数の種類のがんを発症しやすいことが知られています[7]。2026年に発表された症例報告では、TP53の生殖細胞系列病的variantを持つ5人のLi-Fraumeni症候群患者のうち1人が肺がんを発症していたことが記録されています[7]。ただし、査読論文の報告では、Li-Fraumeni症候群でもっとも頻度が高いのは肉腫・乳がん・脳腫瘍・副腎皮質がんであり、肺がんは主要な構成要素ではなく、あくまで「まれに起こりうる」位置づけです[7]。

もう1つの例が、EGFR遺伝子の生殖細胞系列変異です。EGFR変異は通常、前述のとおり肺がん組織だけに生じる体細胞変異ですが、医学文献には、若年の非喫煙者かつ強い家族歴を伴う患者を中心に、ごく一部の家系で生まれつきEGFR遺伝子に変異を持つ「生殖細胞系列EGFR変異」の存在自体は報告されています[8]。2026年に発表された症例報告では、未治療の進行非小細胞肺がん患者にEGFR T790M変異が「原発性(primary)」に、つまり治療前からすでに存在する形で見つかったことが記録されています[8]。ただし、この症例では生殖細胞系列(germline)検査そのものは実施されておらず、論文の著者らも「臨床像や高齢であることから、生殖細胞系列に由来する可能性は低い」と考察しています。著者らは、この原発性T790M変異の由来について、①治療前から存在していた低頻度のサブクローン(体細胞変異)である可能性、②遺伝性肺がん症候群に関連する生殖細胞系列変異である可能性、という2つの仮説を挙げるにとどまっており、どちらであるかは確定していません[8]。

これらの報告に共通するのは、いずれも症例報告・少数例の研究という形で医学文献に記録されるほど「珍しい」ということです。肺がん患者全体からみれば、生殖細胞系列変異が関わるケースはごく一部にとどまり、大多数は喫煙をはじめとする環境要因と、生きている間に生じる体細胞変異の積み重ねによるものです[6]。

すぐに受診が必要なサイン

  • 2週間以上続く咳、または今までと違う咳の変化[1]
  • 血痰(血の混じった痰)が出る[2]
  • 安静にしていても息切れがする、胸の痛みが続く
  • 原因不明の体重減少、繰り返す発熱・肺炎

これらの症状は肺がん以外の病気でも起こりますが、自己判断で様子を見ず、早めに呼吸器内科を受診してください。特に喫煙歴がある方、血縁者に肺がんが複数いる方は、症状がなくても定期的な検診を検討する価値があります[2]。

日本とアメリカのガイドライン比較——「家族歴」の位置づけの違い

項目 日本(国立がん研究センター) アメリカ(American Cancer Society)
肺がん発生要因の説明 「環境や遺伝子異常などさまざまなもの」と包括的に記載し、環境要因(喫煙・受動喫煙)を主体に説明[1] 遺伝子変異を「生殖細胞系列変異」と「体細胞変異」に明確に分けて説明し、両者の違いを独立した項目として詳述[6]
家族歴・遺伝性についての一般向け案内 遺伝子検査の項目内で「体細胞遺伝子検査」と「遺伝学的検査」の違いを説明。遺伝性が疑われる場合は遺伝の専門家への相談を推奨[5] 「Personal or family history of lung cancer」を独立した危険因子の項目として明示し、「一部の家系では遺伝が役割を果たす」と明記[9]
生殖細胞系列変異への言及 一般向けページでは個別の遺伝子名までは挙げず、専門家相談を案内する形が中心[5] CHEK2・ATM・TP53・BRCA1・EGFR・APC・PALB2など、具体的な遺伝子名を挙げて説明し、研究が進行中であることも明記[6]

両者のあいだで医学的な結論が対立しているわけではありません。しかし、アメリカのACSは「肺がんの家族歴」を独立した危険因子としてより前面に出し、対象となりうる遺伝子名まで具体的に列挙している一方、日本の国立がん研究センターの一般向けページは、環境要因(特に喫煙)の説明に重点を置き、遺伝性については遺伝子検査の項目の中で専門家相談へつなぐ形をとっています[1][6]。日本国内で診療を受ける場合も、血縁者に肺がんが複数いる、あるいは非喫煙で若くして発症した血縁者がいるといった状況があれば、ACSが挙げるような視点も参考にしつつ、遺伝の専門家に相談する価値があります。

肺がんゲノム医療の今——体細胞変異が「治療を選ぶ道具」になっている

体細胞変異は子どもに伝わらない一方で、患者本人の治療方針を大きく左右する重要な情報です。国立がん研究センターは、がんの医療では遺伝子情報にもとづく個別化治療が始まっており、肺がん・大腸がん・乳がんなど一部のがんでは、医師が必要と判断した場合にがん遺伝子検査が行われ、1つまたは少数の遺伝子を調べて診断すること、検査結果をもとに薬を選ぶ治療が行われていると説明しています[4]。American Cancer Societyの解説にある通り、肺がんでいえば、EGFR・ALK・ROS1などの体細胞変異が見つかれば、その変異を狙い撃ちする分子標的薬(EGFR阻害薬など)による治療が選択肢になります[6]。日本の診療でも、特定非営利活動法人 日本肺癌学会が発行する「肺癌診療ガイドライン」にもとづき、非小細胞肺がんと診断された患者に対して、治療方針を決めるための遺伝子検査(体細胞遺伝子検査)を行うことが標準的な診療の流れとして位置づけられています[3]。

アメリカのACSも、進行非小細胞肺がんの患者に対しては、肺の腫瘍または転移巣の組織を用いてEGFR・ALK・ROS1・MET・RET・BRAF・NTRKといった「ドライバー変異」を調べることが標準的な診療として推奨されており、American Cancer Societyは、これらの変異が見つかった場合には、まず分子標的薬による治療が化学療法より優先して検討されるべきだとしています[6]。また、これらの変異はどの患者にも起こりうるものですが、非喫煙者の肺がん患者ではドライバー変異が見つかる割合が高い傾向があることも報告されています[6]。

つまり、「遺伝子変異が見つかった」という説明を受けたときは、まず「それは治療薬を選ぶための体細胞変異なのか、それとも生まれつきの生殖細胞系列変異なのか」を担当医に確認することが、不安を正しく整理する第一歩になります。

近年は、1つの遺伝子だけでなく多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」も保険診療の対象になっています。国立がん研究センターは、がん遺伝子検査を「1つまたは少数の遺伝子を調べる検査」、がん遺伝子パネル検査を「多数の遺伝子を同時に調べる検査」と整理しており、いずれも治療薬選択のための体細胞変異解析が主目的である点は共通しています[4]。パネル検査の結果として、まれに「生殖細胞系列変異である可能性がある」所見(二次的所見)が見つかることもあり、その場合は遺伝の専門家によるカウンセリングを受けたうえで、追加の遺伝学的検査を受けるかどうかを判断する流れになります[5]。

国立がん研究センターの案内によれば、もし血液を用いた遺伝学的検査で生殖細胞系列変異が確認された場合は、本人の今後のがん検診計画だけでなく、血縁者(きょうだいや子どもなど)にも同じ変異が伝わっている可能性を考え、遺伝の専門家を交えて家族全体でどう向き合うかを話し合うことになります[5]。これは怖い話のように聞こえるかもしれませんが、逆に言えば「変異を持っている血縁者を早期に把握し、その人だけ重点的に検診を受けてもらう」という、先回りした対策が取れるという意味でもあります。

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肺がん検診——家族歴が心配な人ほど「まず受ける」ことが対策になる

「遺伝が心配」という不安の多くは、「もし本当にリスクが高かったらどうしよう」という漠然としたものです。しかし、生殖細胞系列変異かどうかにかかわらず、日本で公的に推奨されている肺がん検診を定期的に受けることは、誰にとっても共通の、もっとも現実的な対策です。

国立がん研究センターによると、肺がんのがん検診の内容は問診、胸部X線検査、そして喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん、50歳以上で喫煙指数[1日の喫煙本数×喫煙年数]が600以上の人が対象)です。問診では、喫煙歴、職歴、血痰の有無、妊娠の可能性の有無、過去の検診の受診状況などを確認します[2]。厚生労働省の指針では、死亡率の減少効果が確実で、不利益(偶発症、過剰診断、偽陰性・偽陽性)が少ないがん検診だけが推奨されており、現時点で肺がん検診では胸部X線検査と喀痰細胞診(50歳以上の重喫煙者のみ)が推奨されています[2]。この年齢・喫煙指数という基準を満たさない人でも、症状があれば検診を待たずに受診することが大切です。厚生労働省の令和6年度「地域保健・健康増進事業報告」によると、肺がん検診で「がんの疑いあり(要精密検査)」と判定された人のうち、実際に肺がんが見つかる割合は1.66%(要精検者およそ60人に1人)でした[11]。「要精密検査」の通知を受けても、実際にがんと診断される人はごく一部ですが、精密検査を受けずに放置してよいという意味ではありません。

血縁者に肺がんが複数いる方、非喫煙なのに肺がんを発症した血縁者がいる方は、この標準的な検診に加えて、遺伝の専門家への相談やCT検査の要否について担当医と話し合っておくと安心です。ただし、CT検査を含めどのような検査を追加すべきかは個々の状況によって異なるため、自己判断せず医療機関に相談してください。

参考として、アメリカでは検診の方法自体が異なります。American Cancer Societyは、50〜80歳で、少なくとも20パック・イヤー(1日1箱を20年間、または1日2箱を10年間など)の喫煙歴があり、現在喫煙している、または過去に喫煙していたことがある人を対象に、低線量CT(LDCT)による年1回の検診を推奨しています[10]。日本の胸部X線検査・喀痰細胞診中心の検診と、アメリカのLDCT中心の検診では対象者の絞り込み方や検査方法そのものが異なっており、どちらが自分に合っているかは、居住国のガイドラインと担当医の判断に従うのが基本です。

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

受診時にこの内容を医師に伝えると、限られた診察時間の中でより的確なアドバイスを受けやすくなります。
・血縁者(親・きょうだい・祖父母)で肺がんを含むがんにかかった人:続柄・がんの種類・診断時の年齢
・自分の喫煙歴(本数×年数)と、過去の受動喫煙の状況
・すでに受けた遺伝子検査があれば、その種類(体細胞遺伝子検査か遺伝学的検査か)と結果
・遺伝性が心配な場合、遺伝の専門家(臨床遺伝専門医・遺伝性腫瘍専門医・認定遺伝カウンセラー)への紹介の希望

生殖細胞系列変異が肺がんの発症にどの程度寄与しているかについては、現時点でもまだ研究が進行中であり、「何%の肺がんが遺伝性か」という確定的な割合について、今回参照した資料には明確な記載が見当たりませんでした。今後の研究で数値が明らかになる可能性があります。

「肺がん 遺伝する」かどうかを判断する際は、以上の情報をふまえたうえで、また、日本人集団における生殖細胞系列変異の頻度や、日本肺癌学会が一般向けにどこまで家族歴・遺伝性について案内しているかについても、今回参照できた資料の範囲では詳細な数値までは確認できませんでした。家系内で不安がある場合は、本記事の内容だけで判断せず、必ず医療機関・遺伝の専門家に直接相談してください。

本記事の最終更新日は2026年8月10日です。内容に誤りや、より新しいガイドラインに基づく情報があるとお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご指摘いただけますと幸いです。

よくある質問(「肺がん 遺伝する」に関するFAQ)

肺がん 遺伝する病気ですか?
American Cancer Societyによると、大部分の肺がんは、喫煙などの環境要因をきっかけに生きている間に生じる後天的な変化(体細胞変異)が原因で、親から子へそのまま伝わる「遺伝性のがん」ではありません。ただし、TP53遺伝子の生殖細胞系列変異によるLi-Fraumeni症候群のように、ごく稀に本当に遺伝する形の肺がんも報告されています[6][7]。
肺がんの遺伝子検査で「EGFR変異」と言われました。子どもに遺伝しますか?
American Cancer Societyの説明では、治療薬を選ぶために調べるEGFR変異のほとんどは、がん組織だけに生じた体細胞変異であり、卵子や精子には存在しないため、通常は子どもに伝わりません[6]。心配な場合は、その検査が「体細胞遺伝子検査」か「遺伝学的検査」かを担当医に確認してください[5]。
親が肺がんでした。自分もなりやすいですか?
American Cancer Societyによれば、親が肺がんだったこと自体は、必ずしも遺伝性を意味しません。ただし、同居していた場合は受動喫煙などの共通の環境要因を共有している可能性があり、血縁者に肺がんが複数いる場合は遺伝の専門家に相談することが勧められます[9]。
タバコを吸わないのに肺がんになるのは遺伝のせいですか?
American Cancer Societyの解説では、非喫煙者の肺がんでは、EGFRなどのドライバー変異(体細胞変異)が見つかる割合が高い傾向がありますが、これは生まれつきの遺伝とは別で、生きている間に生じた変化です。受動喫煙、大気汚染、家族の喫煙環境なども関わりうるとされています[6]。
生殖細胞系列変異かどうかは、どうすれば分かりますか?
国立がん研究センターによると、がん組織ではなく、血液など正常な組織を用いる「遺伝学的検査」で調べます。市販の遺伝子検査には信頼性に欠けるものもあるため、希望する場合は臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなど、遺伝の専門家に相談することが勧められています[5]。
Li-Fraumeni症候群とはどんな病気ですか?
査読論文の症例報告によれば、TP53という、がんの発生を抑える遺伝子の生殖細胞系列変異によって起こる、まれな遺伝性腫瘍症候群です。若い年齢から肉腫・乳がん・脳腫瘍・副腎皮質がんなど複数のがんを発症しやすく、まれに肺がんも報告されています[7]。
生殖細胞系列EGFR変異は本当にあるのですか?
はい、非常にまれですが、医学文献には生殖細胞系列のEGFR変異の存在自体が報告されています。通常EGFR変異は体細胞変異ですが、若年の非喫煙者かつ強い家族歴を伴う患者を中心に、ごく一部の家系で生まれつきEGFR遺伝子に変異を持つケースが知られています。ただし、2026年に報告された原発性EGFR T790M変異の症例[8]では生殖細胞系列検査が実施されておらず、この症例自体が生殖細胞系列変異によるものと確定しているわけではありません。
喫煙と遺伝、どちらの影響が大きいですか?
国立がん研究センターのデータでは、現時点で喫煙の影響がはるかに大きいとされています。喫煙者は非喫煙者に比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍肺がんになりやすく、受動喫煙も危険性を2〜3割程度高めます[2]。遺伝性が疑われる場合でも、禁煙をはじめとする生活習慣の見直しは変わらず重要です。
家族に肺がんが多い場合、何をすればいいですか?
国立がん研究センターの案内に沿い、まず自己判断で市販の遺伝子検査に頼るのではなく、主治医に血縁者の状況(続柄・がんの種類・診断時の年齢)を伝え、必要に応じて臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーへの紹介を相談してください[5]。禁煙・受動喫煙の回避、定期的な検診も引き続き重要です[2]。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がんについて」2025年6月11日更新 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/about.html
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 予防・検診」2025年6月11日更新 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/prevention_screening.html
  3. 特定非営利活動法人 日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン」 https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん医療における遺伝子検査」2022年11月24日更新 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest01.html
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん医療における遺伝子検査 もっと詳しく」2022年11月24日更新 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest02.html
  6. American Cancer Society「What Causes Lung Cancer?」 https://www.cancer.org/cancer/types/lung-cancer/causes-risks-prevention/what-causes.html
  7. Chen K, Xu Y, Song B, Gu Y, Xu X, Cao J, Fang M. “Clinical Features and Treatment Strategies of Li-Fraumeni Syndrome Patients With Inherited TP53 Mutations.” Mol Genet Genomic Med. 2026;14(1):e70177. PMID: 41498535 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41498535/
  8. Dimitrov G, Kraevska E, Nankov V, Hlebarova V, Popovska S. “A Case of Primary EGFR T790M Mutation in Treatment-Naïve Advanced NSCLC: Clinical and Molecular Implications.” Curr Oncol. 2026;33(5):244. PMID: 42187561 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42187561/
  9. American Cancer Society「Lung Cancer Risk Factors」 https://www.cancer.org/cancer/types/lung-cancer/causes-risks-prevention/risk-factors.html
  10. American Cancer Society「Can Lung Cancer Be Found Early?(American Cancer Society lung cancer screening guideline)」 https://www.cancer.org/cancer/types/lung-cancer/detection-diagnosis-staging/detection.html
  11. 厚生労働省「がん検診」(令和6年度地域保健・健康増進事業報告) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html

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Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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