起立性調節障害とは?怠けと違う仕組みと学校への伝え方
この記事でわかること
目次
結論から言うと、起立性調節障害(OD)は、立ち上がったときに脳へ送られる血液が一時的に不足するために頭痛やめまい、倦怠感が出る自律神経の病気で、日本大学医学部小児科学系の石井和嘉子医師が2026年に発表した「改訂第3版」ガイドライン解説によると、一般中学生の約1割、小児科を受診する中学生では約2割にみられます[3]。
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「気合いが足りない」「怠けている」のではなく、朝は自律神経の働きが乱れて血圧が保てず、午後になると回復してくるという体の仕組みが背景にあります。日本小児心身医学会によれば、学校を長期に休むような重い例では社会復帰に2〜3年以上かかることもありますが[1]、水分・塩分・生活リズムの調整から治療は始まり、多くは思春期のうちに改善していきます。
要点まとめ
- 日本小児心身医学会によれば、起立性調節障害は血圧・心拍数の自律神経調節がうまく働かない体の病気であり、性格や気持ちの問題ではありません[1]。
- 同学会によれば、症状は午前中に強く、午後には軽くなる傾向があります[1]。
- 石井医師のガイドライン解説論文によれば、新起立試験によって、起立直後性低血圧(INOH)・体位性頻脈症候群(POTS)・遷延性起立性低血圧(DeOH)・血管迷走神経性失神(VVS)の4つのサブタイプに分けられます[3]。
- 同ガイドライン解説論文では、治療は薬より先に、水分・塩分の摂取や起立の仕方といった生活面の工夫から始めることが推奨されています[3]。
- 同学会は、立ちくらみや失神を繰り返す、朝どうしても起きられない状態が続くときは、小児科を受診の目安にしてください[1]。
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、日本小児心身医学会および査読を経た医学雑誌の論文と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別診断の代わりにはなりません。ガイドラインの内容は改定により変わることがあります(2026年7月時点)。
起立性調節障害とは?「怠け」ではなく自律神経の病気が起きる仕組み
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)について、日本小児心身医学会は「立ち上がった時に頭痛、めまい、倦怠感などの症状がでる病気で、血圧や心拍数など循環器系の自律神経の調節に不調をきたすことが原因になります」と説明しています[1]。人は横になっている状態から立ち上がると、重力によって血液が足のほうに移動します。健康な体では、血管を締める自律神経がとっさに働いて血液を上半身へ押し戻すため、脳への血流は保たれます。ODではこの自律神経の働きがうまく機能せず、足に血液がたまったままになり、脳がいわば一時的に血液不足の状態になることで、立ちくらみやめまい、倦怠感が引き起こされると、日本小児心身医学会のクラスメート向け教材は説明しています[2]。この点をより平易に、「自律神経が正常に働いていると、寝ている状態から起き上がっても血液が足にたまったままにならずに全身に血液がめぐるので、目の前が暗くなったり、フラフラしたりすることはありません」と同学会の教材は説明しており[2]、ODの人にさまざまな症状が現れるのは、まさにこの自律神経の働きの不具合が原因だと同学会は説明しています[2]。気合いや根性で立ちくらみを止められないのは、意識でコントロールできない自律神経の領域で起きていることだからです。
日本大学医学部小児科学系の石井和嘉子医師による2026年のガイドライン解説論文は、OD発症の背景をより詳しく整理しており、「循環血液量,心拍出量,末梢血管特性,脳循環調節特性,自律神経機能など,複数の調節要素が相互に関与する循環制御の不全が病態形成の基盤にある」としたうえで、「OD は本質的には身体疾患に分類される」と明記しています[3]。そのいっぽうで、睡眠リズムの乱れや運動不足、学校や家庭での心理的ストレスが症状の発症や悪化に関わることも知られており、同論文は思春期という体の変化が大きい時期に心理社会的ストレスが重なることで「循環調節における代償機構が十分に機能しなくなり,結果として身体症状が顕在化すると考えられている」と述べています[3]。体の病気であることと、環境や気持ちの影響を受けることは、矛盾せずに両方とも当てはまるとされており、同ガイドライン解説論文は「したがってOD は,bio-psycho-social モデルの観点から包括的に評価する視点が重要である」とまとめています[3]。体だけを診る、心だけを診るという二者択一ではなく、両方を合わせて診ていく病気だということです。
症状が長引く場合の影響についても、同論文ははっきり書いています。「立ちくらみ,動悸,易疲労感,頭痛,腹痛など多彩な症状を呈し,症状の慢性化や再燃を繰り返す症例では,不登校や登校困難,家庭内での葛藤を伴うことも少なくない」と石井医師のガイドライン解説論文は記しており[3]、「OD は心身症の代表的疾患でもあり,一般小児科医にも心身医学的な対応が求められる」とも同ガイドライン解説論文は述べています[3]。「体調が悪いのに動ける日もある」「本人はつらいと言うのに検査では異常がはっきりしない」といった分かりにくさが、家庭内で「怠けでは」という疑いを生み、それがまた子どもを追いつめるという悪循環につながりやすいことが、この記載からもうかがえます。
この病気は珍しいものではありません。石井医師の論文は「疫学調査では,一般中学生の約1割,小児科を受診する中学生の約2割を占めると報告されている」としており[3]、日本小児心身医学会も「ODの有病率は軽症例も含めて中学生の約10%」と述べています[1]。中学校の1クラスに数人はいてもおかしくない病気だということです。小児科(子どもの病気)の中でも、思春期の子どもがよく相談に来る病気のひとつです。
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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
朝がつらく、夕方には動けるのはなぜか — 症状の特徴
ODの主な症状として、日本小児心身医学会は「頭痛、立ちくらみ、めまい、朝の起床困難、怠さ、食欲低下、失神など」を挙げています[1]。保護者にとってとくに戸惑うのは、症状に一日のリズムがあることです。同学会は「症状は、午前に強く午後に軽減する傾向があります。また、立ったり座ったりすると症状が強まり、横になると軽減します」と説明し[1]、悪化すると「夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります」とも述べています[1]。学校向けの資料でも、クラスメートからの質問に答える形で「自律神経がうまく働かなくて、特に午前中に調子が悪いことが多いからです」と説明されています[2]。
雨の日や気圧の変化にも反応しやすいとされ、同資料は「雨の日や台風・梅雨時期など、低気圧になるときに特にしんどくなります」と述べています[2]。また「楽しみな行事のときだけ起きられることがある」という保護者や友人が誤解しやすい現象についても、「自律神経の働きの関係で動けるようになることがあって、予想外に朝起きられたり、動きやすくなったりすることがあります」と説明されており[2]、行事に参加できた翌日にひどく調子を崩すことも「楽しく参加した行事でエネルギーを使い切ると、休憩が必要になり、しばらく起きられなかったり動けなかったりすることがあります」という自然な体の反応として起こりうるとされています[2]。「調子がいい日もあるのだから仮病では」という周囲の見方は、この病気の性質を知らないことから生まれる誤解だといえます。立ちくらみそのものについては、めまいの記事や、貧血が原因のケースを扱った思春期の貧血による立ちくらみの記事もあわせて確認しておくと、次の章で説明する「除外すべき病気」の理解に役立ちます。
4つのサブタイプ — 新起立試験で分かること
ODと一口にいっても、体の中で起きていることは一様ではありません。「OD は,動脈系の異常が関与する起立直後性低血圧 (instantaneous orthostatic hypotension; INOH),静脈系の異常が関与する体位性頻脈症候群 (postural orthostatic tachycardia syndrome; POTS),遷延性起立性低血圧 (delayed orthostatic hypotension; DeOH),血管迷走神経性失神 (vasovagal syncope; VVS) の4つのサブタイプに分類される」と同ガイドライン解説論文は述べています[3]。日本小児心身医学会の一般向けページでも同じ4分類が示されており[1]、この4区分は学会共通の枠組みだといえます。
| サブタイプ | 略称 | 起立試験でみられる特徴 |
|---|---|---|
| 起立直後性低血圧 | INOH | 起立直後の急激な血圧低下と、交感神経の反応不足による回復の遅れを特徴とする。重症例ではノルアドレナリン分泌不全により低血圧が持続する[3]。 |
| 体位性頻脈症候群 | POTS | 起立時に血圧低下を伴わず著しい頻脈を呈する。臨床的には立ちくらみよりも頭痛や強い倦怠感が特徴的とされる[3]。 |
| 遷延性起立性低血圧 | DeOH | 起立直後は正常だが、3分以上経過してから収縮期血圧が15%以上低下する[3]。 |
| 血管迷走神経性失神 | VVS | 起立に伴う静脈還流低下を契機に血管拡張や心拍数低下が起こり、失神につながることがある[3]。 |
出典:石井和嘉子「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版の概説」日本大学医学雑誌85巻2号51-57頁(2026年)[3]
INOHについては、より詳しい診断の目安を示した2025年の論文もあります。かずまこどもクリニックの数間紀夫医師は、起立試験によるINOHの診断について「起立によって低下した血圧の回復が25秒以上,または20秒以上かつ60%以上の平均血圧低下をするものとされる」と報告しており[6]、7〜17歳のINOH患者121例を連続血圧計で調べたところ、末梢血管の抵抗が回復するまでの時間には症例ごとに違いがあり、「INOHには血流,血管抵抗において異なった病態を示していることが示唆された」と報告しています[6]。同じINOHという診断名の中にも、体の中で起きている違いがあるということです。
なお、石井医師の論文は「日本の小児・思春期におけるVVSは,欧米とは異なり,日常的にOD症状を有し,体調不良時に失神を起こす例が多い点が特徴である」とも述べています[3]。海外の報告と日本国内の臨床像には、こうした違いがあることも分かっています。また、この4分類にあてはまらない例として、「近年,新起立試験ではODの基準を満たさない新しいサブタイプとして,hyper-response型(起立直後に著しい血圧上昇を示す)と脳血流低下型(起立直後の血圧・脈拍に異常なく,脳血流が低下する)も報告されている」とされていますが[3]、これらは「起立瞬時の一拍ごとの循環変動や脳血流量評価が必要であり,連続血圧測定装置や近赤外分光計などの特殊な機器が必要となるため,一般外来で判定することは困難である」と説明されています[3]。
診断の進み方 — 何科を受診し、どんな検査をするか
本記事で参照している資料はいずれも小児科医によって書かれており(日本小児心身医学会の解説記事は大阪医科薬科大学小児科の吉田誠司医師、ガイドライン解説論文は日本大学医学部小児科学系の石井和嘉子医師によるものです)[1][3]、疑わしい症状があるときは、まず小児科を受診することが基本になります。
石井医師のガイドライン解説論文は、問診で確認する身体症状の項目として「立ちくらみ,失神,入浴時や嫌なことを見聞きした時の気分不良,動悸・息切れ,朝起き不良,顔色不良,食欲不振,臍疝痛,倦怠感,頭痛,乗り物酔い」の11項目を挙げています。そのうえで、「この11項目のうち3項目以上,もしくは2つでもODが強く疑われる場合は診断アルゴリズムに沿って診療することが求められる」と同ガイドライン解説論文は述べています[3]。受診前のセルフチェックとして役立つ内容です。
| No. | 症状項目 |
|---|---|
| 1 | 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい |
| 2 | 入浴時や嫌なことを見聞きしたときに気分が悪くなる |
| 3 | 動悸や息切れがする |
| 4 | 朝起きが悪く、午前中調子が悪い |
| 5 | 顔色が悪い |
| 6 | 食欲不振がある |
| 7 | お腹の痛み(臍疝痛)をときどき訴える |
| 8 | 倦怠感がある、疲れやすい |
| 9 | 頭痛がある |
| 10 | 乗り物に酔いやすい |
| 11 | 失神したことがある |
出典:石井和嘉子「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版の概説」日本大学医学雑誌85巻2号51-57頁(2026年)[3]
診断で中心になるのが「新起立試験」です。石井医師の論文によれば、「新起立試験は,午前中に実施することで陽性率が高まるとされている」検査で、「安静臥位10分後の起立に伴う血圧回復時間および起立後の血圧・心拍数変化を評価し,これらの所見をもとにODの病型および重症度を判定する検査である」と石井医師のガイドライン解説論文は説明しています[3]。ふつうに座って一回だけ血圧を測る検診とは違い、横になった状態から立ち上がったあとの血圧と心拍数の「変化のしかた」を追いかけて調べる点がポイントです。以前使われていた「シェロング起立試験」ではINOHの回復過程の評価が難しかったと述べたうえで、「本検査法は手技が簡便であり,一般小児科外来においても実施可能となった」と同ガイドライン解説論文は結論づけています[3]。
受診の際に大切なのは、立ちくらみやだるさの原因がOD以外にもあり得るという点です。石井医師のガイドライン解説論文は、除外すべき疾患として「甲状腺機能亢進症,鉄欠乏性貧血,低髄液圧症候群,褐色細胞腫,副腎機能低下症,脳腫瘍,心筋症などの心原性疾患,不安症,脱水」を挙げています[3]。同ガイドライン解説論文はまた、改訂第3版で新たに明記された点として「一部の薬剤(ADHD治療薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬,Ca拮抗薬,抗コリン薬,三環系抗うつ薬など)が症状を誘発・増悪される可能性についても新たに明記された」と述べており[3]、他の病気で薬を使っている場合は、その情報も診察時に伝えるとよいとされています。
診察を急いだほうがよいサイン
- 石井医師のガイドライン解説論文によれば、診療アルゴリズムでは、詳細な問診・診察・検査の結果、基礎疾患が疑われる場合はまず基礎疾患の精査に進み、疑いがない場合に次のステップである失神の既往・失神疑いの確認に進むという順序が示されています[3]。
- 同ガイドライン解説論文によれば、問診の段階で失神をくり返している、または失神が疑われる場合も、新起立試験に進む前に、ホルター心電図や脳波、ヘッドアップティルト試験(HUT)による基礎疾患の精査を優先する流れが示されています[3]。
- 同ガイドライン解説論文によれば、動悸・息切れは起立性調節障害を疑う11項目のひとつです[3]。ただし、動悸・息切れが特に強い場合や、発熱・体重減少を伴う場合は、OD以外の病気が隠れていないか念のため受診時に医師に伝えてください(この点は参照資料に明記された記載ではなく、JHO編集部の目安です)。
ODそのものは緊急に命に関わる病気ではないとされていますが、上記のように別の病気を除外する目的で検査が行われることがあります。石井医師のガイドライン解説論文が示す診療アルゴリズムの検査項目の例として、「血液検査(CBC,電解質・腎機能など生化学一般,フェリチン,甲状腺機能,CRP,早朝コルチゾール),検尿,心電図,胸部X線(または心エコー)など」があり[3]、早朝コルチゾールについては「午前7〜9時・空腹・安静時での採血が望ましい」ことや、睡眠障害を伴う場合は評価が難しいことも同ガイドライン解説論文に注記されています[3]。何の検査をするのか事前に知っておくと、子ども本人も見通しを持って受診しやすくなります。また、脳波検査やホルター心電図で異常が見つかった場合でも、それだけで症状のすべてを説明できないときは新起立試験に進むと同ガイドライン解説論文には記されており[3]、検査は一度きりで終わるとは限りません。症状が強いのに1回の新起立試験で異常が見つからない場合も、「異常なしでも起立時の自覚症状が強ければ、1〜2週後に再度新起立試験」を行うと同ガイドライン解説論文は説明しています[3]。
治療は生活改善が先 — 水分・塩分・生活リズム、そして薬
治療の基本方針として「薬物療法は治療の一要素であり第一選択ではなく,生活指導,疾病教育,心理社会的支援と組み合わせて検討されるべきであることが明記されている」と同ガイドライン解説論文は述べています[3]。日本小児心身医学会の一般向けページも、疾病教育・非薬物療法・学校との連携・薬物療法・環境調整・心理療法という6つの要素を組み合わせる治療の流れを示しています[1]。まず子どもと家族が「これは体の病気である」と理解することが最初の一歩とされています。日本小児心身医学会は、疾病教育の必要性についてこう説明しています。「子どもの多くはODの症状の原因がわからず不安になっています。一方、家族の多くはOD症状を精神的なもの、気持ちの問題と考えてしまい、子どもが怠けているからなどネガティブにとらえがちです。それは子どもにとって心理的ストレスとなり、自律神経を介してOD症状を悪化させてしまいます」と同学会は説明しています[1]。そのうえで「ODが身体の病気であることを親子に丁寧に説明することで、親子とも不安を軽減できます」と同学会は述べています[1]。「気持ちの問題では」という保護者自身の不安が、結果として子どもの症状を悪化させる方向に働きうるという指摘は、この病気に向き合ううえで知っておく価値があります。
非薬物療法として、日本小児心身医学会は「頭を下げながらゆっくり立つ」「静止状態の起立保持は、1〜2分以上続けない。短時間での起立でも足をクロスする」「毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぐ」「早寝早起きなど規則正しい生活リズムを心がける」ことを挙げています[1]。「OD患児は倦怠感から長期臥床によりデコンディショニングが進行しやすいため,日中は可能な範囲で抗重力姿勢を保つことが重要である」とされ、低い負荷から段階的に体を動かす運動療法も、エビデンスレベルはDと強くはないものの「症状軽減が期待される」と同ガイドライン解説論文には位置づけられています[3]。非薬物療法には「起立時の身体操作指導や治療用装具の使用などが含まれる」とも同ガイドライン解説論文には示されており[3]、頭を下げてゆっくり立つといった動作の工夫のほかに、弾性ストッキングのような装具が使われることもあります。また同ガイドライン解説論文は「炎天下や高温環境では脱水により症状が悪化しやすいことから,体育活動に対する学校での配慮も求められる」とも述べており[3]、夏場の体育の見学や休憩は、わがままではなく治療の一環として位置づけられる配慮だといえます。日々の食事全体を見直したい場合は、成長期の子どものための完全栄養ガイドも参考になります。
水分と塩分の摂取量については、参照した2つの資料で示す数字の単位が異なるため、どちらも紹介します。日本小児心身医学会の一般向けページは「水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分摂取は普段の食事+3gを目安にする」としています[1]。いっぽう、改訂第3版ガイドラインを解説した2026年の論文は、体表面積を用いた目安として「水分摂取量は1,500 mL/m²/日,塩分摂取量は10〜12 g/日を目安とした摂取が推奨される(推奨の強さ:弱,エビデンスレベル:C)」と述べています[3]。数字の出し方は異なりますが、両方とも「ふだんの食事より意識して多めに水分と塩分をとる」という方向性は共通しています。持病で水分・塩分制限がある場合は、必ず主治医に相談してください。
| 項目 | 学会の一般向けページ | 改訂第3版ガイドライン解説論文 |
|---|---|---|
| 水分摂取 | 1日1.5〜2リットルを目安[1] | 体表面積1m²あたり1,500mL/日(推奨の強さ:弱、エビデンスレベル:C)[3] |
| 塩分摂取 | 普段の食事にプラス約3gを目安[1] | 1日10〜12g(推奨の強さ:弱、エビデンスレベル:C)[3] |
出典:[1] 日本小児心身医学会「起立性調節障害」一般向けページ/[3] 石井和嘉子「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版の概説」日本大学医学雑誌85巻2号(2026年)
非薬物療法だけで改善しない場合に、薬物療法が検討されます。石井医師の論文は「薬物療法は,非薬物療法を十分に行っても症状が持続する場合に中等症以上のODに対して検討される」と述べ、「INOHやPOTSには心拍増加をきたしにくいミドドリンが推奨され」「POTSにはβ遮断薬の有効とされるが,プロプラノロールは気管支喘息を合併した児には禁忌で,メトプロロールなどの有効性も示されている」であること、「一部の漢方薬は有用であると報告されている」ことを挙げています[3]。同論文は「薬剤は,サブタイプに応じて慎重に導入し,効果判定は原則として2週で行い,無効例では薬剤変更を検討する。4週間治療しても改善がない例や1か月以上不登校が続く例は,専門医療機関への紹介が望ましい」ともしています[3]。どの薬をどれだけ使うかは症状や体格によって医師が個別に判断するものであり、具体的な量については主治医の指示に従ってください。
薬物療法とあわせて位置づけられているのが、環境調整と心理療法です。日本小児心身医学会は環境調整について「周囲の無理解により子どもが傷つき、周囲への不信感から孤立しないようにするために、家族や学校にODの理解を促します」としています[1]。心理療法については、「子どもの身体症状のつらさ、学業面への焦りや不安、周囲の無理解による否定的な対応への傷つきなどを傾聴し、受容を示すことは、『理解してもらえた』という安心感につながり、信頼関係の構築に役立ちます」と同学会は説明しています[1]。石井医師の論文も、心身症としての関与が強い重症例では心理療法が主な適応となり、原則として専門機関への早期紹介が望ましいとしたうえで、「認知行動療法(cognitive-behavioral therapy; CBT)は,慢性疾患に伴うQOL低下や二次的な不安・抑うつへの介入として有用である可能性が示唆されている」と同ガイドライン解説論文は述べています[3]。
学校にどう伝えるか — 先生・クラスメートの理解も治療のうち
石井医師のガイドライン解説論文は「学校対応は治療の一部として位置づけられ,医療・教育・家庭の連携の重要性が強調されている」としたうえで[3]、次のように踏み込んでいます。「ODの症状は外見から理解されにくく,怠けや仮病ととらえられやすいが,こうした誤解や不適切な対応は症状の遷延や不登校などの二次障害を招く」と同ガイドライン解説論文は書いています[3]。学校への具体的な配慮を伝える手段としては、「学校への具体的な配慮を示す手段として診断書の活用も有効であり,一般小児科医には医療・教育・家庭をつなぐ役割が期待されている」と同ガイドライン解説論文には示されています[3]。まずは主治医に、学校に伝えるための診断書や意見書を書いてもらえるか相談してみるとよいでしょう。
日本小児心身医学会は、クラスメート向けの資料として「起立性調節障害~クラスメートに知ってほしいこと~」というPDF・動画教材を公開しています[2]。体調が悪くて遅刻・欠席する生徒に対して「またサボってたの?」「みんな朝はしんどいよ!」「もっと頑張ったら?」と声をかけてしまう例を、学会のこの資料は紹介したうえで[2]、保健室の先生からのメッセージという形で次のように伝えています。「ODの人は、登校したくても体調が悪くて登校できないんです。サボっているわけではない、ということをわかってくださいね」と学会の資料は呼びかけています[2]。また、体調がよいときに散歩など軽い運動をすることも治療の一部であると説明し、「『学校を休んでるのに外に出かけるなんてずるい』と言われるのは、ODの人にとって辛いことなんですよ」とも学会の資料は述べています[2]。この資料自体を担任の先生やクラスに見てもらう・配ってもらうことも、理解を広げる手段になります。
言われてつらい言葉と、言われて安心する言葉には違いがあります。学会の資料は、遅刻しても登校できたときに「怠けていて遅刻したのではなく、がんばって学校に来たんだな、とクラスメートが思っているとODの人もホッとすると思います」とも伝えています[2]。
サプリメントや整体は効果があるのか
インターネット上には、サプリメントや整骨・整体でODが改善するとうたう情報もありますが、日本小児心身医学会はこれについて2度にわたり注意を呼びかけています。2018年1月の声明では「日本小児心身医学会は現時点(2018年1月)で、ODの起立時の循環動態、および脳循環や脳代謝機能を改善するサプリメントは存在しないと考える」としており[5]、その理由として「各種サプリメントについて的確な研究デザインによって明確な科学的根拠(エビデンス)を示した研究報告がこれまでに存在しないから」と説明しています[5]。
同学会は2018年5月にも、整骨や整体などの代替療法について声明を出し、「現時点(2018年5月)で、整骨や整体などの代替療法がODの本質的病態を改善するとした科学的根拠(エビデンス)はなかった」と述べています[4]。理由についても「これらの代替療法について的確な研究デザインによって明確なエビデンスのある研究報告がこれまでに存在しないから」としており[4]、サプリメントの声明と同じ論理構造です。これらの声明は2018年時点のものであり、その後の研究状況をこの記事では確認できていませんが、少なくとも学会が正式なガイドラインとして推奨している治療は、前の章で述べた生活改善と、必要に応じた薬物療法・心理療法であるという点は変わらないとされています[4][5]。効果がはっきりしない方法にお金や時間をかける前に、まずは小児科で治療方針を相談することが遠回りに見えて近道だといえます。
併存しやすい体と心の症状
ODのある子どもには、ほかの体調不良や心の状態が重なることも少なくありません。石井医師の論文は「頭痛はODに高頻度に合併し,起立性低血圧に伴う頭痛が国際頭痛分類にも位置づけられている」と述べています[3]。消化器の症状も多く、「消化器症状も多く,悪心,腹痛,腹部膨満感,便通異常などがみられ,その背景には消化管運動を含む自律神経調節異常が示唆されている」と同ガイドライン解説論文は説明しています[3]。頭痛やお腹の不調は、前の章で述べた診断時の11項目にも含まれており、ODと切り離せない症状のひとつだといえます。睡眠については、「重症ODでは日中を通じて症状が持続し,概日リズムの遅れや入眠困難を伴うことが多く,思春期ODの約7割に概日リズム障害が認められると報告されている」とされています[3]。強い倦怠感が長引く場合には、慢性疲労症候群(ME/CFS)との関係も指摘されています。ME/CFSについては「6ヵ月以上持続ないし再発をくり返す,強い倦怠感を伴う,日常活動能力の低下,活動後の強い倦怠感,睡眠障害,認知機能の障害かODがあるものと定義されており,多くの慢性ODでCFSの診断基準を満たす」と同ガイドライン解説論文は説明しています[3]。だるさが半年以上続き、少し動いただけでどっと疲れが出るような状態が続く場合は、この点もあわせて主治医に相談するとよいとされています。
心の状態についても、「不安や抑うつ,集中力低下などの精神症状が高頻度にみられ,重症ODでは不安症や気分障害の併存も少なくない」と同ガイドライン解説論文は述べています[3]。また発達の特性との関わりについて、「ASD(自閉スペクトラム症)はOD児の約2〜4割に併存するとされ,ASD併存例では不登校の割合が高いことが報告されている」とも述べ、その背景として「ASDに特有の自律神経特性に加え,学校不適応やデコンディショニングが影響している可能性がある」としています[3]。同論文は、OD治療の初めから発達の特性を念頭に置き、重症度評価と心理社会的背景の両方を踏まえて個別の支援を組み合わせることが求められると述べています[3]。さらに同論文の著者らは、腸内細菌と心の状態との関係についても研究を進めており、「小児OD患児において,腸内細菌と抑うつ・不安症状との関連について報告した」としています[3]。まだ研究段階の知見ですが、ODの症状が体だけ、心だけといった単純な原因では説明しきれないことを示す例だとされています[3]。
日本小児心身医学会も、併存しやすいものとして「頭痛(片頭痛、緊張型頭痛)、機能性消化管障害(胃腸の動きの問題による吐気、腹痛、便秘、下痢)、睡眠障害(寝つけない、朝起きられない、昼夜逆転)」といった体の症状と、「脳血流低下に伴う集中力や思考力の低下、神経発達症、不安症、抑うつ、インターネットゲーム障害、不登校」といった心理・行動面の症状を同学会は挙げています[1]。集中力の低下について、同学会は脳血流の低下に伴うものとして位置づけており、気力の問題として片づけられるものではないとされています[1]。
経過と見通し — いつまで続くのか
先の見通しが立たないことは、この病気のつらさのひとつです。日本小児心身医学会は「日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します」と述べています[1]。症状の重さによって、見通しにはかなりの幅があるということです。
石井医師の論文は、POTSの思春期発症例を対象にしたアンケート調査を引用し、「数年後には症状は改善し,高校を卒業するころには日常生活の支障が減少すると報告している」としています[3]。ただし「思春期を過ぎてもOD症状が残存する例も少なくない」ともされており[3]、全員が高校卒業までに治るとは限りません。同ガイドライン解説論文は、「初診時年齢が低い,二次障害としての精神疾患の発症,治療介入の遅れなどは予後不良因子とされており,早期介入や環境調整による二次障害の回避,症状に応じた生活選択が予後改善に重要であると考えられている」と述べています[3]。早めに受診し、学校や家庭の環境を整えることが、遠回りに見えて回復への近道になり得るということです。
また、成人になっても症状が残る場合について、「身体症状が重症である例や二次障害を伴う症例では,思春期以降も症状が遷延することがあり」、改訂第3版では「思春期以降を見据えた移行支援の視点が盛り込まれ,小児期に完結しない診療の重要性が示されている」と同ガイドライン解説論文には示されています[3]。治療の主体が本人へと移っていく過程では、「ODの疾患特性や病態生理について子ども自身が理解することが求められる」とも同ガイドライン解説論文にはされ[3]、「ODは必ずしも成人科受診を要する疾患ではないが,移行期支援は自立を促し,予後改善にも寄与する可能性がある」と同ガイドライン解説論文には述べられています[3]。治療がずっと小児科だけで完結するとは限らず、本人が病気について理解し、必要に応じて次の医療につないでいく長期的な視点も第3版で盛り込まれたと同ガイドライン解説論文には示されています[3]。
本記事を作成する過程で確認できなかった点も記しておきます。ODの発症に男女差があるかどうかについて、今回参照した資料には具体的な割合の記載が見当たりませんでした。また、学校を休んだ場合に「欠席」と「出席停止」のどちらとして扱われるかという制度的な取り扱いについても、今回確認した資料の範囲では明確な記載を見つけられませんでした。これらについては、学校や教育委員会に直接確認することをおすすめします。整骨・整体・サプリメントに関する学会の声明は2018年のものであり、その後にエビデンスの状況が変わっている可能性はありますが、本記事ではその後の追跡調査までは確認できていません。
よくある質問
立ちくらみがあれば、それは全部起立性調節障害ですか?
参考文献
- 日本小児心身医学会「小児の心身症-代表的疾患:起立性調節障害」(吉田誠司、大阪医科薬科大学小児科) https://www.jisinsin.jp/general/typical_diseases/起立性調節障害/
- 日本小児心身医学会 起立性調節障害ワーキンググループ監修「起立性調節障害~クラスメートに知ってほしいこと~」2023年11月作成 https://www.jisinsin.jp/wp-content/uploads/2023/11/6de5eb12775097c5ed562d331aff73b7.pdf
- 石井和嘉子「『小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版』の概説」日本大学医学雑誌85巻2号51-57頁 2026年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/85/2/85_51/_pdf/-char/ja
- 日本小児心身医学会「起立性調節障害(OD)に対する整骨や整体などの代替療法の効果についての声明」2018年5月 https://www.jisinsin.jp/public/od_supriment/
- 日本小児心身医学会「起立性調節障害(OD)に対する各種サプリメントの効果について」2018年1月 https://www.jisinsin.jp/public/details_od_supriment/
- 数間紀夫「起立直後性低血圧の起立試験における末梢血管抵抗の回復時間」自律神経62巻1号26-31頁 2025年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/62/1/62_26/_pdf/-char/ja
更新日:2026年7月25日。本記事の内容に誤りやお気づきの点がありましたら、編集部までお知らせください。
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