逆流性食道炎
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
逆流性食道炎(胃食道逆流症・GERD)は、胃酸などの胃の内容物が食道に逆流し、胸やけや呑酸(酸っぱい液体がこみ上げる感じ)といった不快な症状を起こしたり、食道の粘膜がただれたりする病気で、日本の成人の10〜20%がかかっていると推測されている[2]。命に関わる病気ではなく、生活習慣の見直しと胃酸を抑える薬(PPI・P-CAB)で多くの人は症状も食道炎も改善するが[2]、長引く胸やけを放置すると食道が狭くなったりバレット食道・食道腺がんにつながる可能性もあるため[2]、飲み込みにくさ・体重減少・吐血や黒色便・貧血があるときは自己判断で市販薬に頼らず、すみやかに消化器内科を受診すべきである。
| 原因 | 胃酸の逆流を防ぐ下部食道括約筋のゆるみ、食道裂孔ヘルニア、食道の蠕動運動の低下、腹圧の上昇(肥満・妊娠・便秘・前かがみ姿勢)、胃酸分泌の増加など[3] |
|---|---|
| 主な症状 | 胸やけ、呑酸、のどの違和感、慢性的な咳、胸が詰まるような痛み[2] |
| 受診の目安 | 飲み込みにくさ・体重減少・吐血や黒色便・貧血があれば今すぐ消化器内科へ。それ以外でも症状が続く・悪化するなら自己判断で市販薬を続けず受診を[1] |
逆流性食道炎(GERD)とは?胃酸が逆流する仕組み
胃食道逆流症(英語表記 Gastro Esophageal Reflux Disease から GERD とも呼ばれる)は、主に胃のなかの酸が食道へ逆流することにより、胸やけ(みぞおちの上の焼けるようなジリジリする感じ、しみる感じなど)や呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたりする病気である[2]。胸が詰まるような痛みを感じたり、のどの違和感や慢性的な咳が持続する患者もいる[2]。胃酸の逆流は食後2〜3時間までに起こることが多いため、食後にこれらの症状を感じたときは胃酸の逆流が起きている可能性を考える必要がある[2]。
胃食道逆流症は、①食道炎(食道粘膜のただれ)がなく自覚症状のみがあるタイプ(「非びらん性逆流症」=NERD)、②食道炎があり、なおかつ自覚症状があるタイプ、③自覚症状はなく、食道炎のみがあるタイプの3種類に分けられ、食道粘膜にただれが存在する②③を「逆流性食道炎」という[2]。日本人のGERDの60〜70%は、びらんを伴わない非びらん性胃食道逆流症(NERD)であることも報告されている[3]。
胃からは胃酸が分泌され、食物の消化を助けているが、胃の壁は粘液などで胃酸から守られているのに対し、食道の胃酸に対する防御機能は弱く、食道に逆流した胃酸によって食道粘膜は容易に傷ついてしまう[2]。通常は、胃と食道のつなぎ目(下部食道括約部/噴門)が胃酸の逆流を防いでいるが、健康な人でも食後には胃酸が逆流することがある。ただし健康な人が食道内に胃酸の逆流を受けている時間は1日のわずか4%以下で、逆流が問題になることはない[2]。健康な人では、逆流した胃酸は食道の蠕動運動によりすぐに胃に戻されるが、GERDの患者ではこの蠕動運動に問題が生じていることがあり、胃酸が食道に溜まってしまうことがある[2]。また、胃と食道のつなぎ目が上にせり上がる食道裂孔ヘルニアがあると逆流防止のはたらきが弱まり、胃酸がより食道に逆流しやすくなり、さらに食道に長時間とどまることが知られている[2]。
胸やけ・呑酸などの逆流症状は、胃酸の逆流によるものだけとは限らない。空気が逆流したときや、酸度の弱い胃液が逆流することでも症状が生じることがある[2]。また、食道粘膜のただれが生じていない非びらん性逆流症の患者では、食道の知覚過敏があり、わずかな胃酸の逆流や酸度の弱い胃液の逆流でも強い自覚症状を感じる場合がある[2]。
患者数はどれくらい増えているのか
日本の逆流性食道炎の有病率は10%程度と推定されている[1]。有病率をまとめたシステマティックレビューによると、逆流性食道炎の有病率は健診対象の研究で6.5〜26.4%(平均12.0%)、外来患者対象の研究で6.1〜16.7%(平均10.8%)と報告されている[1]。一方、GERD症状の有訴者率(症状を訴える人の割合)は7.7〜24.1%(平均17.7%)と、逆流性食道炎そのものの有病率より高く[1]、これは日本において非びらん性逆流症(NERD)がGERD全体の半数以上を占めることからも裏づけられる[1]。日本のGERD有病率は1990年代後半から著明に増加したが、最近では緩やかな増加にとどまっているとされ、その要因として、1970年代と比較して1990年代に日本人の胃酸分泌能が亢進していたこと、ピロリ菌感染率の低下と除菌療法の普及、GERDという疾患概念そのものが広く浸透してきたことなどが挙げられている[1]。
出典:日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」BQ 1-1[1]/同「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」Q1・Q3[2]/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡Q&A[3]
症状:胸やけ・呑酸・のどの違和感・咳、非びらん性逆流症(NERD)との違い
GERDの典型的な症状は胸やけと呑酸だが、まれに胃のムカムカ感や重い感じを胸やけと表現してしまう場合もある[2]。“胸やけ”とは、前胸部からみぞおちの周辺がジリジリと焼けるような感じ(灼熱感)や、しみるような感じのことをいう[3]。GERDに関連した症状は胸やけ以外にも、胃酸の逆流が喉や口まで及び苦い感じがする呑酸、胸痛、むかつき感、慢性的な咳などとして経験することもあり、複数の症状が同時に生じることもある[3]。ただし、これらの症状は胃酸が逆流したときに常に起こるわけではなく、毎回同じ症状が出るわけでもない。食道が過敏になっている場合には、胃酸の逆流がなくても胸やけを感じる場合があるため注意が必要である[3]。
GERDのうち、食道炎(食道粘膜のただれ)がなく、胸やけなどの自覚症状のみがあるタイプを「非びらん性逆流症(NERD)」という[2]。NERDの患者では食道粘膜のただれがないぶん、食道の知覚過敏が症状の主な原因と考えられており、わずかな胃酸の逆流や酸度の弱い胃液の逆流でも強い自覚症状を感じることがある[2]。逆に、内視鏡検査で明らかなただれ(逆流性食道炎)が見つかっても、自覚症状がまったくない患者もいる[2]。つまり「症状の強さ」と「食道の傷みの程度」は必ずしも一致しないということである。
| 区分 | 自覚症状(胸やけ・呑酸など) | 食道炎(粘膜のただれ) |
|---|---|---|
| 非びらん性逆流症(NERD) | あり | なし[2] |
| 症状のある逆流性食道炎 | あり | あり[2] |
| 症状のない逆流性食道炎 | なし | あり[2] |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」Q1[2]
GERDは食道以外の症状を引き起こすこともあり、注意が必要である。具体的には、胸痛、慢性的な咳発作、ぜんそく、慢性的なのどの炎症(咽喉頭炎)、のどの上部(喉頭)のポリープ、睡眠障害、歯の酸蝕症(酸による化学的な歯の溶解)などが起こることがあるといわれている[2]。GERDによる胃酸・ペプシンの逆流が喉頭まで達して症状や炎症を起こす状態は「咽喉頭逆流症(LPR)」として扱われているが、統一した診断基準はまだ確立していない[1]。GERD例では非GERD例より咽喉頭炎の合併が多いとの報告があり、慢性喉頭炎の所見と食道での酸逆流が相関していたとする報告もある一方、PPI治療で咽喉頭炎や症状が改善するかどうかについては、効果があるとする報告とないとする報告があり、一定の見解は得られていない[1]。慢性的な咳払いやのどのつかえ感が続く場合、GERDが原因の一つである可能性はあるが、それだけでは断定できず、耳鼻咽喉科・消化器内科での評価が必要になる[1]。腹腔鏡下噴門形成術などの外科治療の咽喉頭症状に対する効果も、逆流症状を伴う例では有効だが、逆流症状を伴わない例では効果が少ないと報告されており[1]、のどの症状だけを理由に安易に手術を選ぶべきではない。なお、現在の日本において、PPIや外科的なGERD防止手術は、慢性咽喉頭炎そのものに対する保険適用にはなっていない[1]。
胸の痛みが心臓の病気と紛らわしいことがある
GERDは、胸やけ・呑酸といった典型的な症状だけでなく、さまざまな非定型的症状(食道症状または食道外症状)を起こすことが分かっているが、これらの非定型的症状は胃食道逆流だけが唯一の原因であることはまれで、多くの症状誘発因子のひとつと考えられている[1]。食道の症状としては、狭心症に似た「非心臓性胸痛(NCCP)」があり、食道外症状としては、GERDとの関連性が確立しているものとして喉頭炎・咳嗽・喘息・歯の酸蝕症が、関連性が推測されるものとして咽頭炎・副鼻腔炎・特発性肺線維症・再発性中耳炎が挙げられている[1]。胸の痛みがあり、狭心症などの心臓の病気とGERDのどちらが原因か分かりにくい場合は、まず循環器内科で心臓の病気を除外したうえで、消化器内科を受診する流れが安全である。なお、非定型的症状に対するPPIの効果は、定型的症状(胸やけ・呑酸)に比べて低い傾向があるとされているが、pHモニタリングや内視鏡検査でGERDの存在が確認された場合には、非心臓性胸痛や咳嗽に対してもプラセボに比べてPPIの治療効果が高いことが示されている[1]。
咳・ぜんそくとの関係
食道・喉頭への胃酸の逆流によって慢性咳嗽(慢性的な咳)が生じることがあるが、咳の原因はGERD以外にも喘息や後鼻漏、薬剤性など多岐にわたるため、GER(胃食道逆流)を伴う症例すべてがGERDによる咳とは限らない[1]。喘息患者におけるGERDの有病率は平均59.2%と一般人口より高いことが示されており、GERD症状がある人はない人に比べて喘息の有病率が高いとする海外の大規模研究がある一方、喘息のある人ほどGERDの有病率が高いと報告する研究もあり、両者がどちらの方向に影響し合っているかについては見解が一致していない[1]。咳や喘息症状が続く場合も、自己判断でGERDと決めつけず、呼吸器内科・消化器内科での評価を受けることが望ましい。
原因・リスク因子:胃酸が多い・逆流しやすい・食道が敏感、という3つの仕組み
GERDが起こる背景には、①胃酸分泌が多い、②胃酸が長時間食道内に留まる、③胃酸の逆流防止機能が障害される、④食道粘膜が過敏、という複数の要因が組み合わさっている[3]。近年患者数が増えている背景として、食生活の欧米化、日本人でも胃酸を分泌する能力が高くなったこと、ピロリ菌感染率が減少して元気な胃(胃酸が活発に出る胃)を持つ人が多くなってきたことなどが挙げられている[2]。
| 病態 | 原因となりうる要因 |
|---|---|
| 胃酸分泌が多い | ピロリ菌が未感染・除菌治療後・自然排菌、高脂肪食の摂取[3] |
| 胃酸が長時間食道内に留まる | 食道の蠕動運動の低下(加齢、膠原病、アカラシアなど)、唾液分泌量の低下(加齢、膠原病など)[3] |
| 胃酸の逆流防止機能の障害 | 食道裂孔ヘルニア、腹圧の上昇(肥満・妊娠・便秘・亀背・前屈姿勢)、嚥下に伴わない機能の弛緩(暴飲暴食・高脂肪食)、胃運動能の低下、薬剤(亜硝酸薬・カルシウム拮抗薬など)[3] |
| 食道粘膜が過敏 | 食道粘膜の知覚過敏、ストレスなど[3] |
出典:日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡Q&A「胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?」表1[3]
また、日常生活のなかにもGERD症状を悪化させる要因がある。生活面で避けたほうがよいものとして、腹部の締め付け、重い物を持つ、前かがみの姿勢、右を下にして寝る(右側臥位)、肥満、喫煙などが挙げられ、食事面では、食べ過ぎ、就寝前の食事、高脂肪食、甘いものなどの高浸透圧食、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、みかんなどの柑橘類が挙げられている[2]。これらをどの程度改めれば症状が改善するかは個人差があるが、なかでも特に改善効果が高いことが分かっているのは、肥満の解消(体重減少)と、上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢(頭側挙上)である[2]。
食道裂孔ヘルニアと加齢——逆流を防ぐ「フタ」がゆるむ
胃と食道のつなぎ目(下部食道括約部)は、通常は横隔膜の位置と一致しており、これが胃酸の逆流を防ぐフタの役割を果たしている[2]。ところが食道裂孔ヘルニアがあると、このつなぎ目が胸のほうへせり上がってしまい、逆流防止のはたらきが弱まって、胃酸がより食道に逆流しやすくなるうえ、逆流した胃酸が食道内に長時間とどまりやすくなる[2]。食道裂孔ヘルニアは加齢とともに増えやすいとされ、腹圧の上昇(肥満・妊娠・便秘・前屈姿勢など)も、胃を上に押し上げてこのヘルニアを助長する要因になりうる[3]。また、食道の蠕動運動(食べ物や胃酸を胃へ送り戻すはたらき)や唾液の分泌量も加齢とともに低下しやすく、逆流した胃酸が食道内に留まる時間が長くなる一因になるとされている[3]。
薬剤が原因になっていることもある
胃酸の逆流防止機能を弱める要因として、薬剤も挙げられている。具体的には、狭心症の治療薬である亜硝酸薬や、高血圧の治療薬であるカルシウム拮抗薬などが、逆流防止機能の障害を介してGERDを起こしうる要因として位置づけられている[3]。持病の治療のためにこうした薬を服用している人で胸やけなどの症状が気になる場合は、自己判断で服用をやめるのではなく、処方医に胸やけの症状を伝えたうえで相談することが望ましい。
性別・年代によって背景にある要因が異なることがある
GERDでは、その背景にある要因が性別や年代によって異なる傾向があることも知られている。女性で重症型の逆流性食道炎がある場合には、背景に膠原病があることがあり、中年男性の場合は肥満が食道炎の原因になっていることが多く見られる[2]。また、高齢女性では骨粗しょう症のために背中が丸く曲がった状態(円背)となり、胃を含むお腹が圧迫されて逆流性食道炎になる可能性もある[2]。GERDと診断された場合、生活習慣の見直しや薬物治療と並行して、その原因となっている他の病気について調べることも大切とされている[2]。
喫煙・飲酒との関係
喫煙は、下部食道括約部の機能を弱めたり、唾液の分泌を減らしたりする方向にはたらくことが知られており、逆流性食道炎で避けたほうがよい生活習慣の一つとして挙げられている[2]。飲酒についても、アルコールはGERDの症状を悪化させる食事面の要因の一つとして位置づけられている[2](なお、バレット食道からの食道腺がんのリスクについては、喫煙との因果関係を認める報告が多い一方、飲酒についてはリスクとの関連が乏しいとする報告が多いとされている[1])。
検査・診断:内視鏡検査とロサンゼルス分類による重症度
GERDは、自覚症状と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)により診断される[2]。胸やけ・呑酸などの逆流症状があり、内視鏡検査で食道粘膜のただれ(逆流性食道炎)を認めれば、間違いなくGERDである。逆流性食道炎はあるが自覚症状のない人、自覚症状はあるが逆流性食道炎のない人(非びらん性逆流症)も、すべてGERDと診断される[2]。自覚症状から診断する際には、記入式の専用の問診票(Fスケール)が用いられることもある[2]。
内視鏡検査は必須ではないが、食道がんや消化性潰瘍などの他の病気ではないことを確認するためにも、なるべく検査を受けることが望ましいとされる[2]。検査を受けずに薬をもらって治療しても症状が完全によくならないときは、他の病気である可能性があるため、必ず内視鏡検査を受けるべきである[2]。内視鏡検査を受けた後にきちんと薬を飲んでも症状が続く場合には、食道運動の障害、知覚過敏による胃酸以外の逆流による症状、好酸球性食道炎という特殊な食道炎の可能性があるため、専門の病院で精密検査を受けることが勧められる[2]。
内視鏡的な重症度の判定には「ロサンゼルス分類」が広く用いられている。ロサンゼルス分類は1994年のロサンゼルスで行われた世界消化器病学会で紹介された分類で、内視鏡的に観察される明らかな粘膜傷害(正常に見える周囲粘膜と明確に区分される白苔ないし発赤を有する領域)の広がりの程度によってGradeを分ける[1]。日本では、これに色調変化型(Grade M)を加えた「改訂ロサンゼルス分類」が広く使われており、GERDは内視鏡検査によって6段階(Grade N・M・A・B・C・D)に分けられる[1][3]。
| Grade | 粘膜傷害の程度 |
|---|---|
| N(Normal) | 粘膜傷害を認めない[3] |
| M(minimal change) | 粘膜傷害には至らない色調変化(白濁・発赤)のみ。日本人のGERDの多くがここに含まれる非びらん性胃食道逆流症に対応する[1] |
| A | 粘膜傷害(長さ5mm以下)が周囲と明確に区分される[1] |
| B | 粘膜傷害の長さが5mmを超える[1] |
| C | 粘膜傷害の融合を認めるが、全周の75%未満[1] |
| D | 粘膜傷害の融合が全周の75%以上[1] |
出典:日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」BQ 3-6・BQ 3-7[1]/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡Q&A[3]
ロサンゼルス分類のGradeは、酸の逆流の程度、治療への反応性、維持療法中の再発リスクなどとも相関することが報告されており、適切な治療方針や経過観察の検討に役立つとされている[1]。ただし、軽症の逆流性食道炎ではGrade MとGrade Nとの鑑別が難しく、読影医の間での診断の一致率が下がることも指摘されている[1]。
PPIテスト——内視鏡を使わない診断的治療
内視鏡検査を行わずに診断する方法として「PPIテスト」がある。これは、強力な酸分泌抑制作用を持つPPIを一定期間投与し、胸やけなどの酸の逆流症状が消失するかどうかで治療的に診断するものである[1]。内視鏡や食道pHモニタリングで確認された真のGERD患者を対象とした試験では、PPIテストの感度は74%、非びらん性逆流症(NERD)に対しては感度66%と報告されている[1]。PPIテストは非心臓性胸痛(NCCP)の診断にも有用とされているが、喘息・慢性咳嗽・咽喉頭逆流症といった食道外症状に対する有効性は低いと報告されており、その他の非定型的症状での有用性は限定的とされている[1]。PPIテストは内視鏡を用いず非侵襲的・簡便・低コストで行える利点がある一方、日本の保険診療ではPPIの倍量投与やPPIテスト自体への保険適用は認められていない[1]。
薬を飲んでも治らないGERD——食道インピーダンス・pH検査
PPIを十分な量・期間服用しても症状が改善しない「PPI抵抗性GERD」の患者では、食道インピーダンス・pH検査という、より詳しい検査が行われることがある[1]。この検査は、酸の逆流だけでなく、pHが4を切らない「弱酸逆流」も捉えることができる、現時点で逆流を検出する感度が最も高い検査法とされ、2013年に日本でも薬事承認され臨床で使用可能になっている[1]。倍量のPPIを服用しても症状が続く患者にこの検査を行った海外の報告では、48%で逆流と症状に関連がみられ、その内訳は酸逆流によるものが11%、弱酸逆流など非酸逆流によるものが37%で、残る52%では逆流と症状に関連がみられなかったとされている[1]。この検査によって、PPI抵抗例を「酸抑制不良(真のGERD)」「過敏性食道(酸逆流の量は少ないが逆流と症状に関連がある)」「機能性胸やけ(逆流と症状に関連がない)」に分類でき、その後の治療方針を決めるうえで役立つとされている[1]。市販薬や処方されたPPIを続けても胸やけが治らない場合、必ずしも薬の量を増やせば解決するとは限らず、専門施設でのこうした精密検査が必要になることがある。
治療:生活改善と薬物療法(PPI・P-CAB)、必要なら手術
GERDに対する治療では、胃酸の分泌を抑える薬が有効である。自覚症状や食道炎の程度に応じて、酸分泌を抑える標準的な薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と、より強力に酸分泌を抑えることができるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の2種類が使われる[2]。そのほか、酸を中和したり粘膜を保護する薬や、胃の内容物の逆流を抑えるための薬(消化管運動改善薬や漢方薬)が一緒に使われることもある[2]。
| 薬の種類 | 特徴 |
|---|---|
| PPI(プロトンポンプ阻害薬) | 酸分泌を抑える標準的な薬。4〜8週間の内服で多くの患者の自覚症状が改善し、食道炎(食道粘膜のただれ)を治すことができる[2] |
| P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー) | PPIよりも強力に酸分泌を抑えることができる薬[2] |
| 制酸薬・アルギン酸塩 | 酸を中和したり、酸による刺激を弱める。服用後速やかに効果がみられるが、効き目は20〜30分程度で、症状出現時の補助的な使用が一般的[2] |
| 消化管運動改善薬・漢方薬 | 酸分泌を抑える薬で効果が十分でない場合に、併用されることがある[2] |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」Q6[2]
GERDと診断されたら、まずPPIまたはP-CABを4〜8週間程度服用する(初期治療)。自覚症状や食道炎が消失しない場合は、酸分泌を抑える薬の量を増やしたり、PPIからP-CABへ変更したり、消化管運動改善薬や漢方薬を併用してさらに治療を行うこともある[2]。自覚症状や食道炎が軽い患者では、日常生活に気をつけるだけで不快な症状なく過ごせる場合もあり、その場合は薬が不要なこともある[2]。一方、食道炎の程度が強かった患者では、薬をやめることで食道狭窄、バレット食道、食道腺がんなどにつながる可能性もあり、症状が改善しても薬を続けること(維持療法)が勧められる[2]。⚠ 薬をやめる・量を減らす・変更するといった判断は自己判断で行わず、必ず医師・薬剤師に相談してほしい。最近では、患者自身の判断で症状が出た時点あるいは出そうと感じた時点で薬を飲み始め、よくなったら中止する「オンデマンド療法」という服用方法も考えられているが、これも主治医とよく相談したうえで行うものである[2]。薬による治療は、長期に服用する場合も安全性の面で大きな心配はないとされているが、自己判断での市販薬の長期使用や、症状が改善しないまま漫然と続けることは避け、医師・薬剤師に相談することが望ましい[2]。
PPIを長期間飲み続けても大丈夫か
PPIによる維持療法の安全性は高いとされているが、長期投与に際しては注意深い観察が必要とされ、適切な適応症例では投与期間に明確な制限はないものの、必要に応じた最小限の用量を用いることが提案されている[1]。PPIの長期使用については、腎機能障害、認知症、骨折、心筋梗塞、腸管感染症、肺炎、貧血、胃底腺ポリープなど、さまざまな慢性合併症との関連がこれまで報告されてきた[1]。しかし米国消化器病学会(AGA)の2017年版ガイドラインでは、これらの観察研究に残存交絡因子の影響や結果の一貫性の問題があり、エビデンスの質は「low」または「very low」であると指摘されている[1]。さらに、外科的な逆流防止手術とPPIの効果を比較した複数の臨床試験によって、PPIの長期維持療法に伴う安全性が明らかにされてきている[1]。このため、GERDに対するPPI治療は、ベネフィットとリスクのバランスのうえで、必要に応じた最小限の用量・用法を心がけつつ、適応がある患者では長期維持療法を行うべきとされている[1]。不安に感じる場合は自己判断で中断せず、必ず主治医に相談してほしい。
手術が必要になることもある
薬による治療で症状の改善や食道炎の治癒が十分に得られない場合、長期の服用が必要となる場合、大きな食道裂孔ヘルニアを伴っているときなどには、手術が必要なことがある[2]。手術となる患者の多くは食道裂孔ヘルニアを伴っているため、まずその修復を行い、次に胃で食道の下部を包み込む「噴門形成術」を行う[2]。最近では、開腹手術に比べて体の負担が少ない腹腔鏡手術が広く行われている[2]。薬による治療では逆流そのものを治すことはできないが、手術治療は逆流を防止することができ、効果も持続するため、薬を長期にわたって服薬することで症状が消失している場合でも、患者の希望があれば手術を選ぶこともできる[2]。最近では一部の患者に内視鏡を用いた手術治療が行われるようにもなってきている[2]。実際に手術を行うかどうかは、手術の効果やリスク(年齢や併存している病気など)を考慮し、主治医や外科の専門医とよく相談したうえで判断する必要がある[2]。
⚠ 受診の目安:今すぐ消化器内科か、生活改善で様子を見てよいか
逆流性食道炎(GERD)自体は命に関わるような病気ではなく[2]、症状が軽ければ生活習慣の見直しで改善することも多い。しかし、長期にわたり胸やけを放置すると、食道炎が悪化して出血したり食道が狭くなったり(狭窄)することがあり[2]、重症の逆流性食道炎を長く放置した場合には、バレット食道を経て食道腺がんに至るリスクも指摘されている[2]。GERDは腺がんのリスク因子であり、胸やけの期間・重症度・頻度が腺がんの独立したリスク因子であるとされている[1]。日本では食道腺がんは欧米に比べて極めてまれとされるが[1]、バレット食道からの腺がん発症は確実に増加傾向にあるとも報告されている[1]。バレット食道(食道下端が胃のような円柱上皮に置き換わった状態)の発がんリスクはその長さと強く関連しており、日本の多施設前向き観察研究では、長さ3cm以上のバレット食道(LSBE)の発がん率は年率1.2%で、欧米の発がん率と同程度であったと報告されている[1]。そのため3cm以上のバレット食道に対しては内視鏡による定期的な経過観察(サーベイランス)が必要とされているが、それより短いバレット食道に対する経過観察の必要性については、まだ明らかになっていない[1]。
- 今すぐ消化器内科を受診(緊急性が高い):飲み込みにくさ(嚥下困難)、原因不明の体重減少、吐血や黒色便(タール便)、貧血の指摘・立ちくらみなどの出血症状。長期間の胸やけ放置はバレット食道・食道腺がんのリスクにつながるため、これらの症状は自己判断で市販薬に頼らず速やかに受診すべきである[2]
- 早めに消化器内科を受診(数日以内):市販薬や処方薬を使っても胸やけ・呑酸が続く、症状が悪化している、内視鏡検査を受けたことがない、慢性的な咳・のどの違和感が長引く[2]
- 生活改善をしながら様子をみてよい:上記のような症状がなく、食後の軽い胸やけがときどきある程度で、暴飲暴食や高脂肪食を控える・体重を管理するなどの生活改善で軽快する場合[2]
実際に、逆流性食道炎による出血で緊急内視鏡検査が行われる例は一定数報告されており、国内106施設の共同研究では逆流性食道炎患者1,749例のうち出血が9.0%、狭窄が3.4%にみられ、高齢・向精神薬の併用・ロサンゼルス分類Grade B以上の逆流性食道炎が合併症のリスク因子であったと報告されている[1]。逆流性食道炎による出血が原因で無症状のまま鉄欠乏性貧血をきたす例も報告されており[1]、貧血の原因検索のために行った内視鏡検査で逆流性食道炎が見つかることもある[1]。GERDは良性疾患だが、胸やけの原因には食道がんなど腫瘍性の病変が隠れている可能性もあるため、GERDの診断と他の病気がないことを確認するために内視鏡検査を受けることが勧められている[3]。「多くは自然に治る」というイメージだけで長期間受診せずに市販薬を使い続けることも、逆に軽い症状ですぐ過度に不安になることも、どちらも適切ではない。症状が続く・悪化する場合や、上記の危険な兆候がある場合は、様子を見ずに消化器内科を受診してほしい。
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」Q7・Q8[2]/同「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」BQ 1-2[1]
生活・セルフケア:食事・就寝・体重・姿勢の工夫
食道の下部には胃の内容物の逆流を防ぐための機能があるが、日ごろの生活における動作や食事のなかにこの機能を低下させるものがあり、それらを続けているとGERDの症状が現れたり悪化したりする[2]。生活面で避けたほうがよいものとして、①腹部の締め付け、②重い物を持つ、③前かがみの姿勢、④右を下にして寝る(右側臥位)、⑤肥満、⑥喫煙などがあり、食事面で避けたほうがよいこととしては、①食べ過ぎ、②就寝前の食事、③高脂肪食、④甘いものなどの高浸透圧食、⑤アルコール、⑥チョコレート、⑦コーヒー、⑧炭酸飲料、⑨みかんなどの柑橘類、⑩症状を引き起こすその他の食事などが挙げられている[2]。
これらの生活習慣や食生活を改めることでどの程度症状の改善につながるかは個人差があるが、なかでも特に改善効果が高いことが分かっているのは、肥満の解消(体重減少)と、上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢(頭側挙上)である[2]。
体重管理——特に改善効果が高い工夫
肥満は腹圧を上昇させ、胃と食道のつなぎ目にかかる圧力を高めて胃酸の逆流を起こしやすくするため、生活面で避けたほうがよい要因の一つとして挙げられている[2]。前述のとおり、体重減少はGERD症状の改善効果が高いことが分かっている数少ない生活改善の一つであり[2]、無理な急激な減量ではなく、日々の食事量や運動習慣を見直しながら適正体重に近づけていくことが基本になる。
就寝時の工夫——頭側挙上と就寝前の食事を避ける
右を下にして寝る(右側臥位)は胃の形の関係で逆流を起こしやすくするとされ、避けたほうがよい生活習慣として挙げられている[2]。一方、上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢(頭側挙上)は、体重減少と並んで改善効果が高いとされている[2]。就寝時にクッションやベッドの傾斜などを利用して上半身を高くする、就寝前の食事を避ける(食事面で避けたほうがよい要因の一つ[2])、といった工夫が実践しやすい。
食事の工夫——食べ過ぎ・高脂肪食・刺激物を控える
食事面では、食べ過ぎ、高脂肪食、甘いものなどの高浸透圧食、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、みかんなどの柑橘類が、症状を悪化させうる要因として挙げられている[2]。これらすべてを厳格に断つ必要があるとは限らず、どの食品でどの程度症状が変わるかには個人差があるため、自分の症状が悪化しやすい食品・場面を振り返りながら、無理のない範囲で量やタイミングを調整することが現実的である。
日常動作・姿勢の工夫
腹部の締め付け、重い物を持つ、前かがみの姿勢は、いずれも腹圧を上昇させて逆流を起こしやすくするため、避けたほうがよい生活習慣として挙げられている[2]。ベルトやガードルなどで腹部を強く締め付けない、重い荷物を持つときや床のものを拾うときに前かがみの姿勢を長く続けない、喫煙を控えることも、生活面での対策としてあわせて意識したい[2]。生活習慣・食生活の改善を図っても症状がよくならない場合は、薬を併用するとよくなることが多いため、かかりつけの医師によく相談してほしい[2]。
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」Q5[2]
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
まとめ:多くは自然に治るが、危険なサインは見逃さない
逆流性食道炎(GERD)は、日本の成人の10〜20%がかかっていると推測される非常にありふれた病気で[2]、命に関わる病気ではなく、生活習慣の見直しと胃酸を抑える薬(PPI・P-CAB)の組み合わせで、多くの患者は症状も食道炎も改善する[2]。軽症の逆流性食道炎や非びらん性逆流症(NERD)のなかには自然に治る人がいることも分かっており、必ずしも一生薬を飲み続けなければならないわけではない[2]。一方で、重症の逆流性食道炎を放置すると、出血や食道狭窄、バレット食道を経た食道腺がんにつながる可能性があり[2]、飲み込みにくさ・体重減少・吐血や黒色便・貧血といったサインがあるときは、自己判断で市販薬に頼らず、消化器内科ですみやかに内視鏡検査を受けることが重要である[1]。「多くは心配ない病気」という理解と、「長引く・悪化する胸やけは検査を受けたほうがよい」という理解の両方を持ち、体重管理・食事のタイミング・寝る姿勢といった日々の工夫を積み重ねながら、必要なときにはためらわず医師に相談してほしい。
よくある質問(FAQ)
逆流性食道炎とNERD(非びらん性逆流症)は何が違いますか?
逆流性食道炎は自然に治りますか?
市販薬(制酸薬)を飲んでいれば病院に行かなくても大丈夫ですか?
薬を飲むとどのくらいで治りますか?
逆流性食道炎は何科を受診すればいいですか?
逆流性食道炎は再発しますか?
食べてはいけないものはありますか?
寝るときの姿勢で気をつけることはありますか?
のどの違和感や咳払いが続くのも逆流性食道炎が原因ですか?
内視鏡検査は必ず受けないといけませんか?
胸が痛いとき、心臓の病気と逆流性食道炎はどう見分けますか?
薬を飲んでも症状がよくならないときは何が考えられますか?
逆流性食道炎に関する記事一覧
記事一覧 10件
基礎知識・原因 2
症状・見分け方 1
食事・生活 2
治療・薬 2
合併症・リスク 1
その他 2
妊娠中の方や持病がある方でのGERD治療の個別の注意点、市販薬の具体的な商品選びについて、今回参照した資料には詳細な記載が見当たりませんでした。体質や持病によって適した対応は異なるため、迷う場合は医師・薬剤師に相談してほしい。
参考文献
- 日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」2021年 jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/gerd2021r_
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」2023年 jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/gerd_2023
- 日本消化器内視鏡学会「胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?」消化器内視鏡Q&A jges.net/citizen/faq/esophagus-stomach_09
