逆流性食道炎と動悸・胸の痛み|まず心臓の病気を除外すべき理由
この記事でわかること
目次
✦ 結論から言うと
この症状、いつ受診すべきか確認しますか?
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症状はいつから続いていますか?
回答により質問数が変わります・途中でいつでも記事に戻れます
逆流性食道炎と動悸が同時に気になる人がまず知っておくべきことは、日本循環器学会のガイドラインが急性冠症候群(心臓に血液が届きにくくなる病気)を疑う根拠として挙げる「締めつけられる胸の痛み・冷汗・肩や顎への放散・呼吸困難・失神」があるときは、逆流性食道炎だと自己判断せず心臓の病気を先に除外することです。[2]
日本の非心臓性胸痛(心臓以外が原因の胸痛)の患者を対象にした報告では、冠動脈疾患がないことを確認した患者517例のうち、胃食道逆流がみられた人は230例(44±7%)にのぼり、そのうち胸の痛みが逆流と関連していた割合は67±20%と報告されています[1]。逆流性食道炎と動悸・胸の痛みが関係すること自体は珍しくありませんが、これはあくまで「心臓の病気ではないと確認された後」の話です。上記のような赤信号の症状があるときは、救急要請や循環器科の受診を優先してください[3]。
✦ 要点まとめ
- 非心臓性胸痛(NCCP)のうち、胃食道逆流症(GERD)が関与すると考えられる割合は研究により20〜60%と幅があります[4]。
- 締めつけられる痛み・冷汗・肩や顎への放散・呼吸困難・失神は、日本循環器学会のガイドラインが急性冠症候群を疑う根拠として挙げる症状です[2]。
- 急性肺血栓塞栓症でも動悸(21%)や失神(22%)が随伴症状として報告されており、動悸だけで胃腸の問題と決めつけるのは危険です[5]。
- 日本循環器学会のガイドラインは、急性冠症候群が疑われる患者について、来院から10分以内に問診・身体所見・12誘導心電図の評価を終えることを求めています[2]。
- 心臓の病気が除外された後であれば、逆流性食道炎による胸の痛みにPPI(プロトンポンプ阻害薬)が有効なことが多いとされています[1]。
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点)。
逆流性食道炎と動悸の関係|まず心臓の病気を除外することが最優先
逆流性食道炎(GERD)は決してまれな病気ではありません。日本消化器病学会のガイドラインは、逆流性食道炎の有病率は10%程度と推定されるとしたうえで、有病率をまとめたシステマティックレビューによれば、対象は異なるものの、健診対象の研究では6.5〜26.4%(平均12.0%)、外来患者対象の研究では6.1〜16.7%と報告されていると紹介しています[1]。同ガイドラインは、1990年代後半からGERDの有病率が増加していることも示しています[1]。これだけ多くの人が経験する病気だからこそ、「逆流性食道炎と動悸」という組み合わせで検索してたどり着く人も多いはずですが、まずは次の点を押さえておく必要があります。
日本消化器病学会のガイドラインによれば、逆流性食道炎(GERD)の定型的な症状は、胸骨の後ろが焼けるように感じる「胸やけ」と、逆流した胃の内容物が口やのどまで上がってくる「呑酸」です[1]。しかし同ガイドラインは、これら典型的な症状だけでなく、狭心症のように感じられる「非心臓性胸痛(non-cardiac chest pain:NCCP)」を胃食道逆流の非定型的な症状として独立した章で扱っています[1]。逆流性食道炎と動悸を結びつけて考える人は多いのですが、消化器のガイドラインが正面から論じているのはあくまで「胸痛」であり、「動悸」という自覚症状そのものを直接のテーマとして扱った記載は、今回参照した資料の範囲では見当たりませんでした。動悸を感じたとき何が起きているかを判断するうえでは、まず心臓・肺の病気の可能性を除外することを優先してください。
なぜ食道の炎症が心臓の病気のような胸の痛みとして感じられるのでしょうか。日本内科学会雑誌に掲載された機能性食道障害の総説では、胃食道逆流が胸痛を引き起こす理由について、末梢レベルまたは中枢レベルでの食道の知覚過敏が関与していると考えられていると説明されています[4]。同総説は、非心臓性胸痛の20〜60%で胃食道逆流症が認められると報告されていると述べ、酸の逆流と胸痛との時間的な関連性を調べる方法として、食道内pHモニタリングやPPI投与後の症状変化を見る方法が使われていることを紹介しています[4]。
日本消化器病学会のガイドラインが引用する複数の研究では、冠動脈造影で異常が確認され狭心症のある患者に食道pHモニタリングと心電図検査を同時に行ったところ、みられた胸痛のうち約半数がST変化を伴わない胃食道逆流と同じタイミングで起きていたとする報告や、胸痛がある冠動脈造影の異常例では約30%、正常例では約50%の胸痛が逆流と同じタイミングだったとする報告が紹介されています[1]。一方で、逆流症状を訴えて受診した6,215例のうち、虚血性心疾患(心臓に血液が届きにくくなる病気)を除外した非心臓性胸痛は14.5%(903例)にみられたという報告もあります[1]。数値には研究によって幅がありますが、共通しているのは「胸の痛みだけで、心臓が原因か食道が原因かを見分けるのは簡単ではない」という点です[1]。だからこそ、逆流性食道炎と動悸を安易に結びつけず、心臓の病気の可能性を先に確認する手順が重要になります。
胸の痛みには、食道そのものの動きの異常(食道運動障害)が関わっていることもあります。日本消化器病学会のガイドラインは、逆流性食道炎で食道運動障害が合併する頻度は軽症で25%、重症で48%と、重症例ほど食道運動障害の合併が多いと報告しています[1]。日本内科学会雑誌の総説も、食道の攣縮(れんしゅく)や強い収縮が胸痛を引き起こす機序として、収縮時に食道壁内の血流が低下することが報告されていると説明しています[4]。逆流そのものだけでなく、逆流によって食道の動きが乱れることも、胸の痛みや締めつけられるような感覚につながりうるということです。
受診の目安|すぐに受診(多くの場合は救急要請)が必要なサイン
日本循環器学会のガイドラインと国立循環器病研究センターの説明をあわせると、次のようなサインがあるときは受診の目安として重視されています[2][3]。
- 締めつけられる・押しつぶされるような胸の痛みや重苦しさが続く
- 冷や汗を伴う胸の痛み
- 痛みが肩・顎・頸部・背部・腕に広がる(放散する)
- 呼吸が苦しい、息切れが強い
- 意識が遠くなる、失神する
- 処方されたニトログリセリン(舌下錠)を使っても症状が続く、発作が頻繁になった
国立循環器病研究センターは、これらのサインのうち、処方薬を使っても症状が続く場合や発作が頻繁になった場合は緊急受診が必要だとし、夜中でも「朝まで」我慢する必要はないと説明しています[3]。また、呼吸が苦しい・意識が遠くなるといった症状は、後述する急性肺血栓塞栓症でも報告されている随伴症状です[5]。
国立循環器病研究センターは、狭心症の痛みは「突然、締め付けられるような重苦しさ、圧迫感がある痛み」で1〜5分程度、長くても15分以内におさまることが多いのに対し、心筋梗塞では「締め付けられるような激しい痛み」が15分以上、数時間続くこともあり、呼吸困難・冷汗・嘔気・嘔吐を伴うことが多いと説明しています[3]。同センターは、夜中に苦しくなって目が覚めるような場合でも「朝まで」と我慢する必要はなく、症状が強いときは救急車を利用する必要があると明記しています[3]。
今の血圧・脈拍を確かめる
数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
身長と体重からBMIも調べる
血圧手帳(この端末に保存)
これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
心臓の症状と胃食道逆流症の症状、何が違うのか
胸の痛みの原因が心臓なのか食道なのかを自分で完全に判断することはできませんが、日本循環器学会と日本消化器病学会それぞれのガイドラインに書かれている症状の特徴を比べると、受診の緊急度を考えるうえでの手がかりになります[2][1]。
| 特徴 | 心臓が原因のことが多い(狭心症・急性冠症候群) | 食道(逆流性食道炎)が原因のことが多い |
|---|---|---|
| 痛みが出るタイミング | 階段昇降・急ぎ足・重い物を持つなどの労作時、精神的な興奮時、あるいは安静時にも出現する[2] | 食後、前かがみの姿勢、就寝のため横になったときに悪化しやすいとされる[1] |
| 痛みの性質 | 前胸部や胸骨後部の重苦しさ、圧迫感、絞扼感、息がつまる感じと表現されることが多い[2] | 胸骨後部の焼けるような不快感・痛みとして経験されることが定型的とされる[1] |
| 持続時間 | 狭心症は数分程度、長くても15〜20分。20分以上続く場合は急性心筋梗塞の可能性が高くなる[2] | 逆流のエピソードにあわせて数十分続くこともあるとされる[4] |
| 伴いやすい随伴症状 | 男性では冷汗、女性では嘔気・嘔吐・呼吸困難感が多いとされ、顎・頸部・肩・背部・腕への放散も女性で多く認められる[2] | 胸やけ、呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)を伴うことが多いとされる[1] |
出典:日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」[2]/日本消化器病学会「GERD診療ガイドライン2021」[1]
ただし日本循環器学会のガイドラインは、こうした典型的な違いだけに頼ることの危うさも指摘しています。刺されるような痛み・チクチクする痛み・触ると痛む場合は狭心痛ではないことが多い一方で、非典型的な症状や軽微な症状が重篤な急性冠症候群であることもまれではなく、症状の性状だけで急性冠症候群を除外してはならないとされています[2]。非典型的な症状は特に高齢者・糖尿病のある人・女性で見られやすいとも記載されています[2]。また同ガイドラインは、狭心症の発作は急ぎ足・階段昇降・重い物を持つといった労作時だけでなく、精神的な興奮や食事でも誘発されることがあり、早朝は胸痛の閾値が低く発作が出現しやすいこと、安静時に起こる安静狭心症では夜間睡眠中や早朝に発作が起こることが多いことも説明しています[2]。逆流性食道炎の既往があるからといって、今回の胸の痛みや動悸も同じ原因だと自己判断しないことが大切です。
日本内科学会雑誌の講演記録は、さらに紛らわしい例として、急性冠症候群がみぞおち(心窩部)の痛みとして現れることがあり、消化器疾患と誤診されることがあると指摘しています[5]。同記録はまた、短期間に胸痛発作を繰り返す場合は不安定狭心症や発作性心房細動(発作的に始まる不整脈の一種)を疑うべきだとも述べています[5]。つまり、逆流性食道炎と動悸を結びつけて考えているつもりが、実際には発作性の不整脈や、みぞおちに出た心臓由来の痛みだったという事態も起こりうるということです。放散痛についても、急性冠症候群では喉から下顎部、あるいは左肩から左上肢に痛みが広がることが多いとされています[5]。
逆流性食道炎と動悸のように、症状の言葉づかいだけでは原因を特定しにくい理由について、日本消化器病学会のガイドラインは興味深い指摘もしています。「胸やけ」という症状の理解のしかたには、民族・文化・性別・個人による差がある可能性があり、米国での検討では黒人で胸やけの頻度が最も高く、アジア人での頻度・理解度は著しく低かったと報告されています[1]。日本国内の調査でも、胸やけという症状はさまざまな形で多様に理解されており、健常者とGERD患者、医師と看護師のあいだでも胸やけの理解度が異なると示されています[1]。つまり、患者本人の「動悸がする」「胸が変な感じがする」という表現だけから原因を絞り込むこと自体に限界があるということです。
検査の流れ|心電図・トロポニンが先、消化器の検査はそのあと
日本循環器学会のガイドラインは、急性冠症候群を疑う患者が搬入された場合の初期対応の手順を具体的に示しています。第1段階として、問診・身体所見・12誘導心電図の評価を10分以内に行うこと、第2段階として採血(心筋トロポニンなどの測定)を行うことが示されています[2]。急性下壁梗塞が疑われる場合は右側胸部誘導(V4R誘導)を、初回心電図で診断できない場合は背側部誘導(V7-9誘導)も記録するとされ、採血結果を待つことで再灌流療法が遅れてはならないとも明記されています[2]。同ガイドラインは、心筋トロポニンは感度・特異度にすぐれ、急性冠症候群の診断に有用な指標として位置づけられていると説明しています[2]。この心電図・心筋トロポニンによる評価で心臓の病気が積極的に疑われない、あるいは除外されて初めて、消化器の検査に進む順番になります。
| 段階 | 行う内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 第1段階(来院後10分以内) | 問診、身体所見、12誘導心電図[2] | ST上昇型心筋梗塞など、緊急の再灌流療法が必要な病態を見逃さない[2] |
| 第2段階 | 採血(心筋トロポニンなど)、必要に応じて心エコー・胸部X線[2] | 心電図だけで診断できない急性冠症候群を補足的に評価する[2] |
| 心臓・肺の病気が積極的に疑われない場合 | 上部消化管内視鏡検査、あるいはPPI投与後に症状が改善するか見るPPIテスト[1] | 逆流性食道炎や非びらん性胃食道逆流症(NERD)の関与を評価する[1] |
出典:日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」[2]/日本消化器病学会「GERD診療ガイドライン2021」[1]
ST上昇型心筋梗塞(STEMI)に対しては、血栓溶解療法を選択した場合は患者到着後30分以内に薬剤を投与すること、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を選択した場合は最初の医療従事者との接触から少なくとも90分以内に初回バルーンを拡張することが目標とされています[2]。非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)では、TIMIリスクスコアやGRACEリスクスコアなどを使ってリスクを評価したうえで、侵襲的治療のタイミングを検討するとされています[2]。逆流性食道炎と動悸を心配して受診しても、こうした心臓側の初期評価がまず優先されるのはこのためです。
日本消化器病学会のガイドラインによれば、PPIによる治療後も胸痛が持続するリスク比は0.54(95%信頼区間0.41〜0.71)とされ、PPIの有効性を示すメタアナリシスの結果が紹介されています。同じ解析では、酸に関連した非心臓性胸痛の患者を見分けるPPIテストの診断ツールとしての性能について、感度80%(範囲0〜95%)、特異度74%(範囲60〜91%)と報告されています[1]。つまりPPIテストは万能ではなく、あくまで心臓の病気を除外した後の補助的な手段だという位置づけです。同ガイドラインは、非心臓性胸痛と胃食道逆流症の鑑別にPPIテストは簡便で有用だとしつつ、日本では胸痛に対するPPIテストの保険適用はないことも明記しています[1]。
PPIテストで改善が乏しい場合、あるいは診断をより正確にしたい場合には、さらに詳しい消化器の検査に進むことがあります。日本内科学会雑誌の総説では、酸の逆流だけでなく非酸性逆流(酸性度の低い逆流)も捉えることができるインピーダンス・pHモニタリングという検査が開発され、症状と逆流イベントとの関連性をより詳細に分析できるようになっていると紹介されています[4]。また、食道の動きそのものに異常がないかを調べる食道内圧検査(食道運動障害の評価におけるゴールドスタンダードとされる検査)についても触れられていますが、同総説は、この検査は日本国内では限られた施設でのみ行われている状況だとも述べています[4]。つまり、逆流性食道炎と動悸・胸痛の関係を最終的に確認するための消化器側の検査は複数段階にわたり、すべてが一般のクリニックですぐに受けられるわけではないということも知っておくとよいでしょう。
なお、内視鏡検査を受けても粘膜の炎症(びらん)が見つからないことがあります。日本消化器病学会のガイドラインは、日本ではNERD(非びらん性胃食道逆流症)がGERD全体の半数以上を占めることを指摘しています[1]。NERDは逆流性食道炎と比べて、女性が多く、食道裂孔ヘルニアの合併が少なく、低体重の人が多いという臨床的な特徴があるとも説明されています[1]。つまり「内視鏡で異常なし」と言われても、それだけで胃酸の逆流や、それに伴う胸の違和感の可能性が消えるわけではないということです。
こんな人は特に注意|心臓の危険因子を持つ人
逆流性食道炎と動悸が同時に気になる場面で、特に慎重になるべきなのはどのような人でしょうか。日本循環器学会のガイドラインは、日本人の急性心筋梗塞と有意な相関を示す危険因子として、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴、高コレステロール血症を挙げ、これは欧米人とほぼ同様であることが多くの疫学研究で証明されているとしています[2]。厚生労働省循環器疾患基礎調査のコホートを長期追跡した研究でも、血圧水準・血清総コレステロール値・喫煙本数は心筋梗塞死亡と正の相関を示し、これらの危険因子が重なるほど循環器疾患による死亡の相対リスクがさらに高まることが示されています[2]。
同ガイドラインは、2000年代初頭の急性心筋梗塞患者における危険因子の保有率を日本と欧米で比較すると、高血圧の合併はどちらも50%前後でほぼ同等だった一方、糖尿病と喫煙率は日本のほうが高かったと報告しています[2]。また近年は、日本人の血圧水準・喫煙率が低下する一方で、脂質異常症や耐糖能異常(血糖値が下がりにくい状態)といった代謝性疾患の罹患率が大幅に増加しているとも指摘されています[2]。高血圧・糖尿病・喫煙習慣・脂質異常症・心筋梗塞の家族歴がある人は、逆流性食道炎と動悸を安易に結びつけず、いっそう慎重に心臓の病気を除外する姿勢が求められます。また前述のとおり、非典型的な症状は高齢者・糖尿病のある人・女性でしばしばみられるとされている点も踏まえておく必要があります[2]。
興味深いことに、糖尿病のある人は逆流性食道炎の症状そのものを感じにくくなる可能性も、日本消化器病学会のガイドラインで指摘されています。ロサンゼルス分類B/C/Dの逆流性食道炎患者を調査した研究では、呑酸症状を認めた患者の割合は、糖尿病のない患者で67%だったのに対し、糖尿病のある患者では45%と低く、糖尿病性神経障害による知覚の低下が影響していると考えられています[1]。つまり糖尿病のある人は、心臓の病気(急性冠症候群)でも症状が非典型的になりやすく、逆流性食道炎でも症状を自覚しにくくなりうるという、二重の意味で「症状だけに頼れない」立場にあるということです。
消化器内科医も「まず心臓」と考えている|循環器と消化器、視点の比較
「消化器の病気なのに、なぜ最初に循環器科の話をするのか」と感じる人もいるかもしれません。しかし実は、消化器内科の専門家自身が同じ考え方を示しています。日本内科学会雑誌に掲載された機能性食道障害の総説は、「胸痛を訴える患者をみて、まず機能性食道障害を疑う医師はいないと思われる」としたうえで、「虚血性心疾患や気胸などの器質的疾患の有無について十分精査を行う必要がある」と述べています[4]。つまり、消化器を専門にする医師の側からも、逆流性食道炎と動悸・胸痛の関係を考える前に、まず心臓や肺の病気を確認するという順序が示されているのです。
同総説はさらに一歩進んで、心臓の病気(器質的疾患)と胃食道逆流症のどちらも否定された場合に初めて検討する、第三のカテゴリーについても紹介しています。国際的な診断基準であるRome III基準では、「functional chest pain of presumed esophageal origin(食道由来と推定される機能性胸痛)」について、①胸部正中の胸やけではない痛みや不快感がある、②胃食道逆流が原因ではない、③病理組織学的に食道運動障害を認めない、という3つの条件が少なくとも半年以上前から存在し、直近3か月間すべての基準を満たすことと定義されています[4]。この基準の順序そのものが、心臓の病気→胃食道逆流症→それ以外の食道の機能異常、という除外の階段を表しています。逆流性食道炎と動悸を結びつけて考えるのは、この階段の最後の段階になって初めて妥当になる、ということです。
同総説はまた、こうした機能性食道障害はうつ病や不安障害などの精神疾患と関連しているケースが多いものの、頻度は決して高くなく、知識がないと単なる精神的な問題とみなされてしまうことが少なくないと指摘しています。患者は症状に苦しんでいるうえに精神的な問題として片付けられてしまい、二重の苦しみを背負うことになるとも述べられています[4]。だからこそ、自己判断で「ストレスのせい」「気にしすぎ」と片付けず、順序立てた検査を受けることに意味があります。
動悸そのものの原因になりうる「不整脈」という病気
逆流性食道炎と動悸の関係を考える前に、そもそも「動悸」という症状自体が、心臓の電気的なリズムの乱れ、つまり不整脈によって起こることがあります。国立循環器病研究センターは、脈拍が120以上になる場合は病的な頻脈の可能性があり、動悸や息切れのほかに、時に胸痛やめまい、失神といった症状が出ることがあると説明しています[6]。同センターはさらに、運動時や飲酒時だけでなく、何もしていないときに動悸や意識が遠くなるような症状が出た場合は注意が必要だとしています[6]。
特に注意すべき不整脈の特徴として、同センターは、脈拍数が150以上で突然始まり突然止まる動悸、あるいはまったく不規則に脈が打つ動悸を挙げ、こうした症状がいったん生じると長く続く場合、または頻繁に起こる場合は治療が必要だとしています[6]。逆流性食道炎による胸の違和感と、こうした不整脈による動悸を自分で聞き分けることは容易ではありません。脈が規則正しいか不規則か、突然始まって突然止まるか、といった情報は受診時に医師へ伝える価値のある手がかりです。
急性肺血栓塞栓症・急性大動脈解離も動悸や胸痛を起こす
「胸が痛い、動悸がする」という組み合わせは、狭心症・心筋梗塞以外の危険な病気でも起こります。日本内科学会雑誌に掲載された救急医療に関する講演記録では、胸痛を主訴とする救急外来の患者について、急性冠症候群、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症を鑑別すべき代表的な致死的疾患として挙げています[5]。同記録は、急性肺血栓塞栓症の自覚症状として、呼吸困難(73%)、胸痛(42%)、冷汗(24%)、失神(22%)、動悸(21%)、咳嗽(11%)、発熱(10%)、血痰(5%)が報告されているとまとめています[5]。動悸は数値としては呼吸困難や胸痛より低い頻度ですが、それでも5人に1人の割合で現れる症状であり、逆流性食道炎と動悸を結びつけて様子を見てよい根拠にはなりません。
同記録はまた、急性大動脈解離では引き裂かれるような鋭い痛みが特徴とされ、解離の進行に伴って前胸部から背部・腹部へと痛みが広がることがあると説明しています[5]。胸痛の部位が広範囲か限局性か、痛みの性状が圧迫感なのか引き裂かれる感じなのかといった問診の情報は、致死的疾患を鑑別するための重要な手がかりとして位置づけられています[5]。安静解除後の歩行時や体位変換時に急に胸痛や呼吸困難が出現した場合は、急性肺血栓塞栓症を疑う根拠のひとつになるとも記載されています[5]。急性肺血栓塞栓症が疑われる場合は、心電図・動脈血ガス・Dダイマー・心エコー・胸部造影ヘリカルCTなどの検査で確定診断が行われるとされています[5]。こうした病気はどれも、市販の胃薬や様子見では対応できません。
心臓の病気が除外された後の、逆流性食道炎による胸の痛みの治療
心電図やトロポニンの評価などで心臓の病気が積極的に疑われないと判断された場合、胸の痛みの原因が逆流性食道炎であれば、日本消化器病学会のガイドラインが示す重症度別の治療アルゴリズムに沿って治療が進められます[1]。
| 重症度 | 初期治療 | 期間 |
|---|---|---|
| 重症逆流性食道炎 | ボノプラザン(P-CAB)20mg | 4週間。改善が不十分な場合は8週まで延長、あるいは他剤併用を検討[1] |
| 軽症逆流性食道炎 | PPI常用量、またはボノプラザン20mg | PPIは8週間、ボノプラザンは4週間[1] |
| いずれも共通 | 生活習慣の改善、アルギン酸塩・制酸薬の頓用を併用可能[1] | 薬物治療と並行して行う[1] |
出典:日本消化器病学会「GERD診療ガイドライン2021」治療アルゴリズムより[1]
治療で改善が得られたあとは、再発予防のための維持療法に移ります。同ガイドラインは、ボノプラザン10mgまたは20mgによる維持療法が良好な場合には、改善効果を維持できる範囲でより低用量の酸分泌抑制薬へ移行することも可能だとしています[1]。逆流性食道炎そのものの薬の選び方や市販薬との違いについては、当サイトの逆流性食道炎の薬、完全ガイドで詳しく解説しています。
治療をせずに放置した場合の合併症についても、日本消化器病学会のガイドラインは触れています。GERDの合併症としては、貧血、出血、食道狭窄、Barrett食道、さらには食道腺癌の発生が挙げられ、食道びらんや潰瘍形成の結果として貧血・出血・食道狭窄が起こるのは重症逆流性食道炎に認められる合併症だとされています[1]。同ガイドラインは、逆流性食道炎の重症度は酸曝露時間に相関するため、より強力な酸抑制がより速やかな治癒と合併症の抑制をもたらすとし、標準量のPPI投与により逆流性食道炎の治癒と維持は80〜90%が可能だとしています[1]。ここで注意したいのは、慢性的な出血による貧血自体が動悸や息切れの原因になりうるということです。逆流性食道炎と動悸の組み合わせが続く場合、心臓の病気の除外に加えて、消化管出血による貧血が隠れていないかも消化器内科での確認が必要になります。なお、食道腺癌は日本ではきわめてまれですが、欧米では過去20年間で2倍に増加しており、胸やけの期間・重症度・頻度が腺癌の独立した危険因子だとされています[1]。
生活習慣の見直し|薬物治療と並行して行うべきこと
日本消化器病学会のガイドラインは、生活習慣の改善・変更はGERDの治療に有効であり、薬物治療とともに生活指導を適宜行うべきだとしています[1]。同ガイドラインが、ランダム化比較試験で有効性が示されているとして挙げているのは、肥満者に対する減量、喫煙者に対する禁煙、夜間症状のある人が遅い時間の夕食を避けること、就寝時に頭側を高くすることの4つです[1]。
- 減量:肥満のある人が食事療法・運動療法・行動療法・減量手術などで減量を達成すると、食道内の酸逆流と逆流症状が減少すると報告されています。内臓脂肪が減ることで胸腔と腹腔の圧の差が小さくなり、胃から食道への逆流が減ると考えられています[1]。
- 禁煙:喫煙は食道下部の括約筋(LES)を弛緩させて逆流を誘発することが知られており、禁煙により逆流症状が減少することが示されています。ただし肥満のある喫煙者では、禁煙による逆流減少効果は弱く、減量のほうがより重要とされています[1]。
- 就寝前の食事を避ける:早い夕食(就寝前6時間)と遅い夕食(就寝前2時間)を比較したランダム化比較試験では、遅い夕食のほうが就寝中の酸逆流が有意に多かったと報告されています。日本からの報告でも、就寝前3時間以内の夕食は、4時間以上あける場合に比べてGERDの危険因子になると示されています[1]。
- 就寝時の頭位挙上:ランダム化クロスオーバー試験で、就寝中に頭側を高くすることが就寝中の酸逆流を抑制すると示されています[1]。
これらの生活習慣は、動悸のような紛らわしい症状そのものを消す薬ではありませんが、逆流の頻度を減らすことを通じて、逆流性食道炎と動悸が同時に気になる場面そのものを減らす手段として位置づけられています[1]。夜間に胸のつかえや違和感が気になる人は、当サイトの逆流性食道炎による喉のつかえ・違和感の記事もあわせてご覧ください。
のどの違和感・咳払いなど、ほかの非定型症状との関係
逆流性食道炎は胸の痛みだけでなく、のどの違和感や慢性的な咳払いといった、消化器以外の症状(食道外症状)を起こすことがあると日本消化器病学会のガイドラインで章立てされています[1]。動悸や胸痛のことばかり気にして受診をためらう前に、自分の症状が「典型的な胸やけ・呑酸」なのか「非定型的な胸痛」なのか「のどの症状」なのかを整理しておくと、受診時の説明がスムーズになります。のどのつかえ感や頻繁な咳払いが気になる人は、当サイトの止まらない咳払いの原因の記事もご参照ください。逆流性食道炎全体の基礎知識については、当サイトのハブ記事逆流性食道炎にまとめています。
・症状が始まったのはいつからか
・痛みや動悸が出るのは食後か、それとも体を動かしたときか
・痛みは何分くらい続くか
・冷汗、呼吸困難、失神、肩や顎への痛みの広がりはあるか
・胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)はあるか
・現在飲んでいる薬(胃薬・心臓の薬を含む)
・過去に心電図や胃カメラを受けたことがあるか、その結果
ここまでの内容をまとめると、逆流性食道炎と動悸が同時に気になったときにたどるべき順番は次のようになります。①締めつけられる痛み・冷汗・放散痛・呼吸困難・失神といった赤信号がないかを確認する、②少しでも疑わしければ救急要請または循環器内科を受診し、問診・心電図・トロポニンなどで心臓の病気を確認する、③心臓の病気が積極的に疑われない場合に、消化器内科で胃食道逆流症やその他の食道の病気を調べる、という順序です[2][1]。逆流性食道炎と動悸の関係そのものは医学的に確認されていますが、それは常にこの順序を経たうえでの話だという点を、最後にもう一度お伝えしておきます。
食道裂孔ヘルニアについては、日本消化器病学会のGERD診療ガイドライン2021に「食道裂孔ヘルニアの存在は、食道胃接合部圧低値による酸逆流の増加および食道内の酸排出遅延をきたし、食道の過剰な胃酸曝露の原因になる」と記載されています。しかし、食道裂孔ヘルニアと不整脈(心房細動など)との直接的な関係については、今回参照した同ガイドラインの範囲では、そうした関連を論じた記載は見当たりませんでした。この点について明確な関連を主張する記述は、今回参照した資料の範囲では確認できていません。また、食道と心臓の神経の伝わり方が近いために症状が紛らわしくなるという説明について、今回参照した文献では「末梢・中枢レベルでの知覚過敏」という表現にとどまっており、迷走神経反射という具体的な機序を明記した記載は見当たりませんでした。この点は今後の情報更新で補います。
よくある質問
逆流性食道炎と動悸が同時に出たら、まず何科を受診すればいいですか?
逆流性食道炎の既往があるので、今回の胸の痛みも同じだと思って様子を見てもいいですか?
PPI(胃薬)を飲んで胸の痛みが治まったら、逆流性食道炎が原因だったと確定していいですか?
急性大動脈解離や急性肺血栓塞栓症は、逆流性食道炎とどう見分けますか?
消化器内科医は、胸痛の患者をどのように診断していきますか?
参考文献
- 日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021」改訂第3版 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/gerd2021r_.pdf
- 日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
- 国立循環器病研究センター「虚血性心疾患」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/ischemic-heart-disease/
- 栗林志行ほか「機能性食道障害(胸痛や機能性嚥下困難について)」日本内科学会雑誌 102巻1号, 46-54, 2013年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/1/102_46/_pdf
- 本田喬ほか「内科医が知っておくべき救急医療 2.胸痛を訴える患者の初期診療」日本内科学会雑誌 97巻9号, 2184-2191, 2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/9/97_2184/_pdf
- 国立循環器病研究センター「不整脈」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/arrhythmia/
更新日:2026年7月21日。本記事の内容に誤りや古い情報にお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご連絡・ご指摘いただけますと幸いです。ガイドラインは改定されることがあるため、最新情報は各学会・機関の公式サイトでご確認ください。
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