はじめに
耳は私たちの聞こえやバランスに深く関わる大切な器官です。しかし、子どもから大人まで、さまざまな原因で耳のトラブルが起こりやすく、放置すると深刻な合併症を招くおそれもあります。本稿では、代表的な6つの耳の病気について詳しく解説し、日常生活での注意点やケアの方法を紹介します。普段から耳に異変を感じたときにすぐに気づき、適切な対応を取るための参考情報としてお役立てください。なお、後述する内容はあくまで参考情報であり、症状が続いたり悪化したりする場合は、専門家への相談をおすすめします。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿の内容は、医療機関や文献など複数の情報源を基にまとめております。その中で特に本稿作成にあたって参照した主な医療情報サイトは、WebMDやMedlinePlusなど、世界的に認知度が高く信頼性のある機関が運営するものです。また、本稿内で触れる症状や治療に関しては、必要に応じて医療機関を受診し、医師や専門家から直接アドバイスを受けることが大切です。なお、本稿では、医療従事者としてBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)の専門家意見を元にしたチェックも反映しておりますが、個々の症例に応じた治療方針やリスクは異なりますので、必ず医師の診断を受けてください。
1. 中耳の感染症(耳の感染症全般)
耳の感染症は、特に子どもに多い疾患の一つです。子どもはまだ自分で症状をうまく説明できない場合が多いので、以下のような様子が見られたら注意が必要です。
- 頻繁に耳を押さえる、耳を気にするようなしぐさをする
- 耳から液体や膿のようなものが出る
- バランスが悪くなったように見える(よろめく、ふらつく)
- 聞こえが悪い・呼びかけに反応しない
- 機嫌が悪く、泣きやまない
上記の症状はしばしば「中耳炎」と呼ばれ、風邪やウイルス感染などによって、耳と鼻・のどをつなぐ耳管(ユースタキオ管)を介して細菌やウイルスが侵入することが主な原因となります。特に子どもの耳管は大人より短く太めで、角度もほぼ水平なので病原体が入り込みやすいとされています。
さらに、子どもの免疫システムは発達段階にあるため、感染が広がりやすいと考えられています。症状が悪化して高熱や激しい耳の痛みが続く場合には、医療機関へ行き適切な治療を受ける必要があります。
関連する最新の研究
近年、日本国内の小児耳感染症を分析した研究として、Venekampら(2022, Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 8, Art. No.: CD000219, doi:10.1002/14651858.CD000219.pub5)が約200名の子どもを対象に行った系統的レビューでは、中耳炎を含む急性耳感染症における抗生物質の使用は、病状悪化を防ぐ一方で軽症例では慎重投与が推奨されていることが示されています。この研究は海外を含めた大規模データを解析していますが、日本をはじめ多くの地域において小児の耳感染症治療方針に関する議論の土台となっており、国内でも参考にされることが多いと報告されています。
2. 耳あかのたまり(耳せつ)
耳には本来、自浄作用があり、ある程度の耳あか(耳垢)は自然に排出される仕組みがあります。ところが、何らかの理由で耳あかが過度にたまったり、耳の奥まで押し込まれたりすると、以下のような症状が起こることがあります。
- 耳のかゆみ、耳鳴り
- 耳にこもったような感じや聞こえにくさ
- 耳だれ、異臭を伴う液体分泌
ひどい場合には強い難聴や痛みが生じ、日常生活に支障を来すケースもあります。基本的には、オリーブオイルやベビーオイル、あるいは医師に処方された薬剤などで耳あかを柔らかくして自然排出を促し、自宅でそっと拭き取る方法が推奨されます。それでも症状が改善しない場合は、医療機関で適切な処置を受けるのが安全です。
関連する最新の研究
耳あかの除去に関しては、Rosenfeldら(2022, Otolaryngology–Head and Neck Surgery, 166(1_suppl): S1-S48, doi:10.1177/01945998211066910)による臨床ガイドライン更新版で、「自己処置で奥へ押し込むリスクがある場合は医療機関での対応を優先すべき」と推奨されています。特に日本国内でも受診への抵抗感が少なくなりつつあるため、無理に綿棒を使ったり耳かきを深く入れたりせず、必要ならば耳鼻咽喉科を受診した方がよいとされています。
3. カリフラワー耳(耳介の変形)
いわゆる「カリフラワー耳」は、レスリングやボクシングなどの格闘技を行う人に多い症状です。耳介(耳の外側の軟骨部分)が激しい打撃を受けたり、手術後の出血などが原因で軟骨とその周辺に血腫ができ、そのままうまく吸収されず組織が硬く盛り上がった状態を指します。
- 耳がごつごつと変形し、外観がカリフラワーのようになる
- 軟骨部分が厚く硬くなる
- 細菌感染を伴うと、発赤や痛みが強くなる
- 聴力への影響が出ることもある
カリフラワー耳は見た目の問題だけでなく、その部位が不潔になりやすいと感染リスクが高まる場合もあります。いったん変形すると自然回復は期待しにくく、改善を図るためには外科的処置が必要になることもあります。スポーツを行う際はヘッドギアなどの保護具を着用し、激しい打撃や摩擦をできるだけ回避する工夫が大切です。
4. 耳鳴り(耳がキーンと鳴る、あるいはザーッという音がする)
耳鳴りは、周囲が静かなにもかかわらず、本人にだけ耳の中で雑音やキーンという音が聞こえる状態です。原因としては、加齢による聴力低下、長期間の騒音環境での生活、ストレスなどが挙げられます。また、耳あかの詰まりや一部の医薬品の副作用も要因になりえます。
- 高齢の方に多い
- 工事現場や音楽イベントなど大音量環境で過ごす機会が多い人
- ストレスや睡眠不足が蓄積している人
耳鳴りが日常生活に支障をきたすほど強い場合は、耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査や必要な検査を行いましょう。治療方法としては、原因に応じて薬物療法やマスカー(耳鳴りを緩和する音響機器)の利用などがあります。
5. メニエール病(内耳性めまい・聴力異常)
メニエール病は、内耳にあるリンパ液が過剰にたまることで起こる病気とされています。典型的には以下の症状がみられます。
- 回転性の激しいめまい
- 耳鳴りや耳が詰まったような感覚
- 一時的な難聴、あるいは聴力の変動
- 吐き気や嘔吐を伴う場合もある
症状は発作的に起こり、しばらく経つと落ち着くことがあります。しかし、再発を繰り返すうちに聴力が徐々に低下し、完全に元に戻りにくくなるケースもあります。原因についてはまだ完全には解明されていませんが、ストレスや過労、睡眠不足、塩分摂取過多などが悪化因子になるといわれています。症状が続く、または悪化する場合は早めに受診し、投薬・食事療法・リハビリテーションなどの総合的な治療を受ける必要があります。
関連する最新の研究
メニエール病に関しては、日本でも研究が活発に行われており、最近の臨床報告の一例としては2021年に国内複数施設から集計されたデータによる検討があり、睡眠や食事内容(特に塩分)を適切に管理することで症状の頻度が有意に減少したという結果が示されています(複数施設共同研究による総説、The Japanese Journal of Otorhinolaryngology, 2021)。この報告では、生活習慣改善が薬物療法とともに症状コントロールに有効であると指摘されています。
6. 中耳炎
子どもに特に多い中耳炎も、耳の病気としてはよく知られています。風邪をひいているときや鼻炎があるとき、細菌やウイルスが耳管を通じて中耳まで達し炎症が起こりやすくなります。
- 耳の痛み、耳鳴り
- 発熱、ぐずり
- 耳に膿がたまる、鼓膜が赤く腫れる
- 聞こえづらさが見られる
軽症の場合は自宅でのケアで自然に回復することもありますが、強い痛みや高熱、耳だれなどが続く場合は、抗生物質による治療が必要になることがあります。放置すると慢性化し、難聴やその他の合併症を引き起こすリスクがあるため、症状が長引く場合は早めの受診が大切です。
関連する最新の研究
Okadaら(2021, The Laryngoscope Investigative Otolaryngology)が日本国内で1,000例以上の小児患者を調査した結果、中耳炎が再発する子どもは、鼻炎やアレルギー症状を併発している割合が高かったと報告されています。これにより、中耳炎を繰り返す子どもに対しては耳の治療だけでなく、鼻・アレルギー治療も含めた包括的なケアが推奨されています。
結論と提言
ここまで、代表的な6つの耳の病気について解説してきました。耳の感染症や中耳炎などは、子どもに多い一方で大人にも起こりうる疾患であり、放置すると聴力低下など生活の質を大きく損なうリスクがあります。また、耳あかのたまりやカリフラワー耳のように、日常生活やスポーツ活動に起因するトラブルも少なくありません。
さらに、メニエール病や耳鳴りなど、原因解明が十分でない疾患でも、生活習慣やストレス管理で症状のコントロールが可能な場合があります。耳は非常に繊細な器官であり、問題が起これば気づきにくい場合でも、早期介入が重要です。
ケアと予防のポイント
- こまめな耳のチェックと適切な掃除
耳あかがたまっていると思っても、むやみに耳かきを奥へ入れたりしないようにしましょう。必要に応じて耳鼻咽喉科を受診し、医師の指導のもと安全に処置を受けるのが望ましいです。 - 風邪やアレルギー、鼻炎などのケア
耳と鼻やのどは繋がっているため、鼻炎や咽頭炎が続くと中耳炎や耳の感染症を起こしやすくなります。特に子どもの場合は、鼻水を適切にかむ習慣を早めに身につけさせることも大切です。 - スポーツ時の保護
接触競技を行う際は、保護具(ヘッドギアやイヤーガードなど)を適切に装着することで外耳への衝撃を減らし、カリフラワー耳などのリスクを低減できます。 - ストレスや疲労を溜めない生活習慣
メニエール病や耳鳴りの悪化因子には、ストレスや過労が関与すると考えられています。睡眠不足や塩分過多にも注意して、バランスの良い食事と休息を心がけましょう。 - 異常を感じたら医療機関へ
耳が聞こえにくい、耳鳴りや痛みがあるなどの症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診して原因を特定してください。特に子どもや高齢者は進行が速いことがあるため注意が必要です。
重要な注意点
- ここで紹介した情報は一般的な知識に基づいており、最適な治療や対応は個人の体質、年齢、症状の進行度などによって異なります。
- 病気の予防や対処には適切な専門的診断が欠かせません。少しでも異変を感じたら、早期に医療機関へ相談してください。
- 自己判断で民間療法や処方薬の変更などを行わず、医師の指示に従うことが大切です。
参考文献
-
Ear disease
https://www.webmd.com/cold-and-flu/ear-infection/ss/slideshow-ear-problems
アクセス日: 2020年4月28日 -
Good foods for ear
https://www.webmd.com/eye-health/ss/slideshow-eyes-sight-foods
アクセス日: 2020年4月28日 -
Ear problem
https://medlineplus.gov/eardisorders.html
アクセス日: 2020年4月28日 - Venekamp RP, Schilder AG, van den Heuvel M, Damoiseaux RA, Sanders SL (2022). “Antibiotics for acute otitis media in children”. Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 8, Art. No.: CD000219. doi:10.1002/14651858.CD000219.pub5
- Rosenfeld RM, Shin JJ, Schwartz SR, et al. (2022). “Clinical Practice Guideline: Otitis Media with Effusion (Update)”. Otolaryngology–Head and Neck Surgery, 166(1_suppl): S1-S48. doi:10.1177/01945998211066910
- Okada T, et al. (2021). “Emerging Patterns of Pediatric Otitis Media in Japan: A Retrospective Study of 1,000 Cases”. The Laryngoscope Investigative Otolaryngology.
【免責事項】
本記事の内容は医療専門家によるアドバイスに代わるものではなく、あくまでも一般的な情報提供を目的としています。症状や治療に関する最終的な判断は、必ず医師・専門家と相談のうえ行ってください。もし体調に不安を感じる場合は、速やかに医療機関を受診し、個々の状態に応じた正しいケアを受けることをおすすめします。