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女性の健康 36分で読める 37回

甲状腺機能低下症の原因とは?なりやすい人と見逃しやすい理由

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日本内分泌学会によると、甲状腺機能低下症の原因は、日本では橋本病(慢性甲状腺炎)などの自己免疫が原発性の大部分を占め、そのほか産後・甲状腺の手術や放射性ヨウ素治療や頸部への放射線治療の既往・特定の薬剤・ヨウ素の摂りすぎや不足などが関わります[1]。

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だるさ・体重増加・寒がり・便秘・物忘れといった症状は「年のせい」「更年期」「うつ」と見分けがつきにくく、見逃されやすいことが日本内科学会の総説でも指摘されています[5]。当てはまる要素がある人は、血液検査でTSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離サイロキシン)を調べれば診断がつきます。

要点まとめ——20秒で分かる甲状腺機能低下症の原因

  • 日本内分泌学会によると、甲状腺機能低下症の原因は橋本病などの自己免疫が中心で、甲状腺そのものに原因がある「原発性」が大部分を占め、下垂体・視床下部が原因の「中枢性」はまれです[1]。
  • 日本内分泌学会によると、橋本病(慢性甲状腺炎)は成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられ、男女比はおよそ1対20〜30とされています[3]。
  • 日本産婦人科医会によると、産後1年以内に甲状腺機能が変動する産後甲状腺炎は珍しくなく、低下型は分娩後3〜12か月ごろに発症するため見逃されやすいとされます[4]。
  • 厚生労働省とPMDAのマニュアルによると、諸外国のヨウ素摂取不足地域と比べてヨウ素摂取量が多い日本では、昆布などの海藻類を摂りすぎることでも甲状腺機能低下症が起こることがあります[2]。
  • 日本内分泌学会によると、意識障害・低体温・徐脈などを伴う粘液水腫性昏睡は死亡率が約30%とされる緊急症で、疑わしい症状があれば早期受診が必要です[8]。

編集方針:JHO編集部がAIツールの支援を受け、厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構・日本内分泌学会・日本甲状腺学会・日本産婦人科医会・日本内科学会・東京都などの公的機関や学会の資料と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値や分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点の情報です)。

甲状腺機能低下症を見逃さないための自己チェック

以下のうち当てはまるものが多いほど、TSH・FT4の血液検査を医療機関で相談する意味があります。日本内科学会の総説にある「見逃さないためのチェックリスト」の考え方をもとにJHO編集部が整理しました[5]。

  • 甲状腺の病気(橋本病・バセドウ病など)の家族歴がある
  • 甲状腺の手術、頸部への放射線照射、放射性ヨウ素治療を受けたことがある(本人が忘れていることも多いとされます)
  • アミオダロン・炭酸リチウム・インターフェロン製剤・免疫チェックポイント阻害薬・チロシンキナーゼ阻害薬などを使っている、または使ったことがある
  • 昆布・わかめ・ひじき・のりなどの海藻や、ヨウ素含有のうがい薬・サプリメントを日常的に多く摂っている
  • 出産後1年以内である
  • だるさ・体重増加・寒がり・便秘・物忘れ・むくみ・声のかすれが数か月単位で続いている
  • 月経量が多くなった、または不妊や流産を経験した

どんな人が「甲状腺機能低下症かもしれない」と考えるべきか

日本内分泌学会によると、この病気は、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなり、全身の新陳代謝がゆっくりになる状態です[1]。厄介なのは、症状の多くが「加齢」「更年期」「ストレスによる気分の落ち込み」と見分けがつきにくい点です。日本内科学会の総説は、甲状腺機能低下症について「日常診療の中に潜む内分泌疾患であり,頻度は高いものの,しばしば見逃されている」としています[5]。同総説はその理由として「自発性の低下により患者からの症状の訴えが少ないこと,甲状腺が萎縮し触れない場合も多いこと,浮腫や倦怠感のように症状が非特異的であること」を挙げ、見逃された甲状腺機能低下症が「うつ病と誤診され,精神科に長期通院していることさえある」とまで述べており、精神的な不調だと思い込んで甲状腺の検査にたどり着かないケースが実際にあることを、同総説はうかがわせます[5]。

東京都が運営する働く女性向けの公式コラムでも、甲状腺機能が低下したときにみられる疲労感・月経異常・無気力・むくみ・寒がり(低体温)といった症状は「更年期症状、うつ病、認知症などと間違われやすいので注意が必要」と述べられています。同コラムは「20歳以上の女性なら一度は甲状腺検査を受けることをお勧めします」ともしています[6]。つまり、症状だけで「歳のせい」「更年期のせい」「気分の問題」と自己判断せず、当てはまる危険因子がある人や、原因不明の不調が数か月続く人は、まず血液検査で確かめるという発想が大切です。家族に橋本病やバセドウ病など甲状腺の病気がある人も、自分に症状がなくても一度検査を受けておくと安心材料になります。次の章で、甲状腺ホルモンが作られる仕組みと、なりやすい人の危険因子を順番に見ていきます。

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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。

甲状腺ホルモンの仕組みと、機能が下がる仕組み

甲状腺ホルモンは、脳の視床下部・下垂体・甲状腺という3つの臓器が連携して調節しています。視床下部からのTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体を刺激し、下垂体からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)が甲状腺を刺激して、甲状腺がFT4(遊離サイロキシン)やFT3(遊離トリヨードサイロニン)を分泌します。日本内分泌学会は、甲状腺機能低下症について「血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態」とし、甲状腺自体が原因の「原発性甲状腺機能低下症」と、下垂体や視床下部の機能低下が原因の「中枢性甲状腺機能低下症」に分けられると説明しています[1]。

図:JHO編集部が作成

厚生労働省とPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による対応マニュアルも、甲状腺機能低下症が起こる経路を整理しています。同マニュアルによると、①甲状腺からのホルモンの産生・分泌が低下した場合、②脳下垂体からのTSH分泌が低下した場合、③甲状腺ホルモンの代謝(分解)が促進した場合、④甲状腺ホルモン製剤を服用中の患者で併用薬により補充の必要量が増加した場合、という4つの経路があるとされています[2]。次の章の危険因子は、この経路の「どこに」影響するかで整理すると理解しやすくなります。

甲状腺機能低下症の原因になりやすい人——危険因子を一つひとつ確認する

ここからは、甲状腺機能低下症の原因になりやすい人の特徴を、公的機関・学会の資料に基づいて一つずつ確認していきます。多くの原因は甲状腺そのものに影響する原発性で、下垂体・視床下部に影響する中枢性はまれです[2]。危険因子は一つだけとは限らず、たとえば「中高年の女性で、かつ産後」「橋本病があり、かつ薬剤性の要素も加わる」というように複数が重なっている人も少なくありません。当てはまる項目が多いほど、症状がなくても一度は検査を検討する価値が高くなると考えられます。

性別・年齢——なぜ中高年の女性に多いのか

甲状腺機能低下症の最大の原因である橋本病(慢性甲状腺炎)について、日本内分泌学会は「成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられます」とし、「女性に多く、男女比は1:20〜30くらいです」「特に30〜40代の女性に発症することが多く、幼児や学童はまれです」と説明しています[3]。潜在性甲状腺機能低下症(後述)についても、日本内分泌学会によれば、健康な人の3.3〜6.1%にみとめられ、女性に多く、年齢が上がるにつれて増加するとされています[7]。なぜ女性ホルモンの変動期(思春期・妊娠出産・更年期)に甲状腺の異常が表面化しやすいのかについては、自己免疫の働き方に性差があることが関わると考えられていますが、機序のすべてが解明されているわけではありません。女性ホルモンと甲状腺の関係を詳しく知りたい人は、女性ホルモンの基礎知識もあわせて参考にしてください。

自己免疫(橋本病)——原発性の中で最も多い原因

日本内分泌学会は、日本における原発性甲状腺機能低下症の原因として「最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)」であり、これは自己免疫疾患の一つだと説明しています[1]。橋本病では、甲状腺を異物と誤認した免疫の働きにより甲状腺に慢性的な炎症が起こりますが、日本内分泌学会は「橋本病だからといって、全員の甲状腺ホルモンが少なくなるわけではなく」、大部分の患者では甲状腺ホルモンが正常に保たれているとも述べています[3]。つまり、橋本病があってもすぐに甲状腺の働きが低下するわけではありませんが、橋本病がある人は将来的にホルモン不足へ進む可能性が高い集団だといえます。橋本病そのものの症状や治療戦略の詳しい解説は、橋本病(慢性甲状腺炎)の包括的解説にまとめています。なお、同じ自己免疫の仲間でも甲状腺ホルモンが過剰になるバセドウ病は逆方向の病気で、混同しないよう注意が必要です。なぜ免疫が自分自身の甲状腺を攻撃してしまうのか、根本的なきっかけはまだ十分には分かっていません。遺伝的な体質に、感染や出産、加齢に伴う免疫の変化といった要因が複合的に関わって発症すると考えられていますが、特定の生活習慣が直接の原因になるという単純な話ではないとされています。

産後——見逃されやすい時期の代表

出産は、この病気が見逃されやすい典型的な時期です。公益社団法人日本産婦人科医会は、産褥性甲状腺炎(産後甲状腺炎)を「妊娠前には甲状腺機能異常がなく,分娩後1年以内に認められる一過性の甲状腺機能異常」と定義し、病型ごとの内訳として「亢進型と古典型は各々1/4,低下型が1/2を占める」としています[4]。日本産婦人科医会によると、経過については、低下型は「分娩後3〜12カ月に発症」し、「多くは自己免疫性疾患(橋本病)が原因で,その10〜20%は慢性甲状腺機能低下症へ移行」すると説明されています[4]。症状は「易疲労感,脱毛,うつ気分,集中力の低下,皮膚乾燥」など、育児疲れやいわゆる「産後うつ」と見分けがつきにくいものばかりで、日本産婦人科医会も「多くは通常の産褥期の不定愁訴に類似するため見逃されやすい」と明記しています[4]。産後に不調が長引く人は、育児疲れと決めつけず、甲状腺機能もあわせて調べてもらう価値があります。

甲状腺の手術・放射性ヨウ素治療・頸部への放射線治療の既往

甲状腺の一部または全部を摘出する手術を受けた人、バセドウ病や甲状腺がんに対して放射性ヨウ素内用療法を受けた人、リンパ腫や頭頸部がんなどで頸部に放射線治療を受けた人は、この病気になりやすい代表的な集団です。厚生労働省とPMDAのマニュアルは、バセドウ病に対する放射性ヨウ素内用療法について「治療後に甲状腺機能が低下する可能性がある」とし、投与後6か月間は毎月の機能検査が必要で、「その後も晩発性の機能低下の可能性に注意する必要がある」としています[2]。同マニュアルによると、甲状腺がんに対する放射性ヨウ素内用療法では「甲状腺全摘後ですでに甲状腺機能低下の状態であることが多い」ため、治療後は速やかにホルモン補充を再開するとされています[2]。バセドウ病の手術に関心がある人はバセドウ病の甲状腺手術の解説も参考になります。頭頸部がんの放射線治療歴がある人は、甲状腺がんの基礎知識とあわせて、治療科と甲状腺機能のフォローについて確認しておくと安心です。

薬剤性——特定の薬を使っている人

特定の薬剤も甲状腺機能低下症の原因になります。厚生労働省とPMDAのマニュアルは、「ヨウ素を多く含む薬剤(不整脈などに用いられるアミオダロン、ヨウ素を主成分とした造影剤やうがい薬など)、リチウム製剤、インターフェロン製剤、がんの治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬を含む分子標的薬および、免疫チェックポイント阻害薬などで起こることがある」としています[2]。免疫チェックポイント阻害薬については、2018年発表のランダム化比較試験のメタ解析で、甲状腺機能低下症の頻度が「抗CTLA-4抗体で3.8%、抗PD-1抗体で7.0%、両者の併用で13.2%」と報告されています[2]。インターフェロン製剤についても、C型肝炎ウイルス感染者を対象とした治療で「臨床的に問題となるような甲状腺機能障害の頻度は15〜20%で、抗甲状腺自己抗体保有者ではそれが約40%に達する」と報告されており、その内訳では「自己免疫性甲状腺機能低下症の頻度が最も高く、約20%にみられる」とされています[2]。同マニュアルは、こうした薬剤を使う患者側のリスク因子として「過去に甲状腺疾患の既往歴のある人、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)が陽性の人、血縁者に甲状腺疾患がある人など」を挙げ、「副作用が出現しやすいと考えられている」としています[2]。同マニュアルによると、鉄剤やアルミニウム含有の制酸剤を甲状腺ホルモン薬と同時に服用すると吸収が悪くなること、抗てんかん薬の種類によっては甲状腺ホルモン薬の代謝を速めることも知られています[2]。これらの薬を使っている、または使う予定がある人は、自己判断で中止せず、担当の医師・薬剤師に甲状腺機能のフォローについて相談することが重要です。なお、すでに甲状腺ホルモン薬で治療中の人が新たにエストロゲン製剤(ホルモン補充療法や一部の経口避妊薬など)を使い始めると、甲状腺ホルモンを運ぶ血液中のタンパク質(TBG)が増え、それまでと同じ量の補充では足りなくなることがあると報告されています[2]。治療中に他の薬を新しく始めるときは、必ず甲状腺の治療医にも伝えるようにしてください。同マニュアルによると、成長期の子どもでは、学業成績の低下や身長の伸びの停滞が甲状腺の機能低下のサインとして現れることがあるとされ、大人とは異なるサインにも注意が必要です[2]。

ヨウ素の摂りすぎ・不足——日本人に特有の落とし穴

厚生労働省とPMDAのマニュアルは、日本について「諸外国のヨウ素摂取不足地域に比較してヨウ素摂取量の多いわが国」であり、ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料であるため日常生活の中で自然と摂取している「ヨウ素充足地域」だと説明しています[2]。むしろ問題になりやすいのは摂りすぎのほうです。日本内分泌学会も、昆布やヨード卵、ヨウ素含有咳嗽液などによるヨウ素の過剰摂取によって甲状腺機能低下症を認めることがあるとしています[1]。厚生労働省とPMDAのマニュアルも、この現象を「ヨウ素を急速かつ過剰に摂取すると甲状腺ホルモン分泌の抑制(Wolff-Chaikoff効果)が起こる」と説明しています[2]。同マニュアルは「正常者では一過性かつ軽度のホルモン濃度低下のみ(2〜3週間で正常化(escape)する)で臨床的に問題にはならないが、基礎に慢性甲状腺炎(橋本病)・放射性ヨウ素治療経験などを持つ者では、甲状腺機能低下症になることがある」ともしています[2]。同マニュアルは具体的な原因として、ヨウ素含有造影剤やヨウ素を含むうがい薬、市販ののどスプレー、ヨウ素添加卵や昆布・根昆布・とろろ昆布などの海藻類を挙げています[2]。同マニュアルによると、問診で昆布・わかめ・ひじきなどの海藻類やヨウ素含有うがい薬を常用しているかどうかを確認し、該当する場合には「中止させて再検査することも必要である」とされています[2]。救いは可逆性である点で、日本内分泌学会は、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症は一過性のことが多く、「摂取制限をするだけで改善します」としています[1]。日本内分泌学会は、逆にヨウ素が極端に不足する場合も甲状腺ホルモンが作れなくなり機能低下症の原因になりえるとしていますが[1]、厚生労働省とPMDAのマニュアルが説明するとおり日本はもともとヨウ素摂取量の多い「ヨウ素充足地域」であるため、通常の食生活でヨウ素が不足する場面は多くありません[2]。極端な海藻断ちのダイエットや、特定の食品群を極端に避ける食事法を長期間続けている場合は、逆にヨウ素不足の側に振れることも理論上はありえるため、体調の変化があれば食事内容も含めて相談すると原因の手がかりになることがあります。反対にバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の食事療法ではヨウ素制限が話題になることがあり、両者は摂取の考え方が逆であるため、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の食事療法とヨウ素制限の解説とあわせて、自分がどちらの病気に該当するのかを医療機関で確認することが大切です。

他の自己免疫疾患・染色体疾患(ダウン症候群・ターナー症候群など)

1型糖尿病や関節リウマチ、白斑など他の自己免疫疾患がある人は、橋本病を含む自己免疫性甲状腺疾患も併発しやすいと考えられています。また、ダウン症候群やターナー症候群のように染色体の異常を伴う疾患でも、甲状腺機能の異常が比較的よくみられることが知られています。ダウン症候群のある人の成人期の健康管理をまとめた資料では、「ダウン症候群の方の1割程度に血液検査で甲状腺機能の異常値が見られます」とされ、海外の報告として「米国においては、甲状腺機能低下症の有病率は39〜61%」という数字も紹介されています[10]。同資料は、「ダウン症候群でない人の場合の甲状腺機能低下症の有病率は女性に多いのに対し、ダウン症候群の方の場合には性差がない」可能性にも触れています[10]。ただしこの資料自体が「臨床上の経験をまとめたもので、すべての記載が科学的根拠に基づくものではありません」と明記しており、数値は目安として理解し、個別の評価は主治医に確認することが望まれます[10]。ターナー症候群についても、成長や発達のフォローの一環として甲状腺の機能が定期的にチェックされることが多く、自己免疫性の甲状腺疾患を合併しやすい染色体疾患の一つと考えられています。染色体疾患がある人やその家族は、定期的な甲状腺機能検査が健康管理の一部として組み込まれていることが多いため、かかりつけ医のフォロー計画に従うことが基本になります。

危険因子 影響する段階 ポイント
自己免疫(橋本病など) 甲状腺(原発性) 日本での原発性の原因として最多[1]
性別・年齢(中高年女性) 甲状腺(原発性) 橋本病は女性に多く男女比約1:20〜30[3]
産後1年以内 甲状腺(原発性) 低下型は産後3〜12か月に発症しやすい[4]
甲状腺手術・放射性ヨウ素治療・頸部放射線治療歴 甲状腺(原発性) 晩発性の機能低下にも注意が必要[2]
薬剤(アミオダロン・リチウム・インターフェロン・免疫チェックポイント阻害薬など) 甲状腺・下垂体(両方の可能性) 薬によっては数%〜20%台の頻度で発症[2]
ヨウ素の過剰摂取・不足 甲状腺(原発性) 日本人は海藻由来の過剰摂取に注意[2]
他の自己免疫疾患・染色体疾患(ダウン症候群など) 甲状腺(原発性) 定期的な甲状腺機能検査が勧められる[10]
下垂体・視床下部の障害(腫瘍・手術・外傷など) 下垂体・視床下部(中枢性) 頻度としてはまれ[2]

出典:厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺機能低下症」(令和4年2月改定)[2]/日本内分泌学会「甲状腺機能低下症」「橋本病(慢性甲状腺炎)」[1]

この表を見て、当てはまる項目が一つもなかった人もいるかもしれません。その場合でも、症状が強く長く続くのであれば検査を受ける価値はあります。橋本病のように家族歴や自覚症状に乏しいまま静かに進行する原因もあるためです。逆に、複数の項目に当てはまる人ほど、症状がまだ軽いうちから定期的な血液検査を検討する意味が大きくなると考えられます。

なぜ見逃されやすいのか——「老化」「更年期」「うつ」との違い

この病気の症状は、他の非常にありふれた状態とよく似ています。東京都の公式コラムは、甲状腺機能が低下したときの症状が「更年期症状、うつ病、認知症などと間違われやすいので注意が必要」と述べ、「だるい、気持ちが落ち込むなどの不調が続き、メンタルヘルスを疑うような症状の場合でも、是非、甲状腺に異常がないかも調べてもらうとよいでしょう」と勧めています[6]。日本内科学会の総説も、非特異的な症状であることに加え、「甲状腺が萎縮し触れない場合も多いこと」を見逃しの理由として挙げています[5]。つまり、触診でも分かりにくく、症状だけでも他の状態と区別しにくいというのが、この病気が見逃されやすい根本的な理由です。

もちろん、「老化」「更年期」「うつ」を疑うこと自体が間違っているわけではありません。厚生労働省とPMDAのマニュアルが挙げる所見をふまえると、これらの診断がついた後も症状が改善しない場合や、他の状態では説明しにくい所見(血液検査でのコレステロール値上昇、徐脈、皮膚の乾燥など)がある場合に、甲状腺機能の検査を選択肢として持っておくことが大切です[2]。

身体診察でのサインも、見逃されやすさに関わっています。日本内科学会の総説は、甲状腺機能低下症を疑うきっかけになる所見として手足のむくみを挙げています[5]。同総説はこのほか、粘液水腫様の顔貌(顔面が無気力な印象でむくみ、両側のまぶたが腫れぼったく、眉毛の外側が薄くなる)、毛髪の減少や睫毛の脱落、爪が変形する「匙状爪」、アキレス腱反射の戻りが遅くなる「Woltman徴候」なども挙げています[5]。一方で同じ総説は、「甲状腺が萎縮し触れないことも多い」とも述べており、首の腫れがないからといって甲状腺機能低下症を否定できるわけではない点にも注意が必要です[5]。同総説によれば、健康診断で原因不明のコレステロール値上昇や徐脈を指摘された場合も、甲状腺機能の異常が背景にある可能性を一度考えてみる価値があります[5]。

症状・所見 甲状腺機能低下症の場合 「老化」「更年期」「うつ」と紛らわしい点
疲れやすさ・気力の低下 無気力・易疲労感が中心症状の一つ[2] 加齢や気分の落ち込みでも同じようにみられる
体重・体型の変化 体重増加、動作緩慢[2] 加齢や気分の落ち込みでも同じようにみられ、更年期の代謝変化と区別しにくい
体温・寒がり 寒がり(耐寒能低下)が特徴的[2] 単なる「冷え性」と自己判断されやすい
気分・認知機能 記憶力低下、うつ気分がみられることがある[5] うつ病・認知症と誤診されることがあると報告されている[5]
月経・生理周期 月経過多がみられることがある[2] 更年期の月経不順と混同されやすい
触診・見た目 甲状腺腫や粘液水腫様の顔貌が出ることがあるが、甲状腺が萎縮して触れないことも多い[5] 外見だけでは判断できない

出典:厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺機能低下症」[2]/日本内科学会雑誌113巻4号「甲状腺機能低下症と甲状腺粘液水腫性昏睡」[5]

検査で何を見るか——TSH・FT4、そして抗体

この病気が疑われるときの基本の血液検査は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離サイロキシン)です。厚生労働省とPMDAのマニュアルは、原発性甲状腺機能低下症について「血中TSH濃度の増加が最も鋭敏で信頼度の高い検査所見である」と明記しています[2]。これは、甲状腺ホルモンがわずかに減っただけでも、下垂体がそれを敏感に感知してTSHを大きく増やそうとするためです。同マニュアルによれば、「ごく軽度の甲状腺機能低下症では、TSHのみが増加して甲状腺ホルモン濃度は正常である」状態、つまり後述する潜在性甲状腺機能低下症として現れます[2]。同マニュアルによると、さらに機能低下が進むと、FT4やFT3の血中濃度が低下し、TSHはさらに上昇します[2]。

一方、厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、下垂体や視床下部が原因の中枢性甲状腺機能低下症では、TSH自体の分泌が障害されているため、「甲状腺ホルモン(FT4)の低下とTSHの低下(または正常)により診断される」という、原発性とは逆のパターンになります[2]。原発性か中枢性かの区別が診断のうえで重要になるのはこのためです。原因が自己免疫(橋本病)かどうかを調べるときは、抗サイログロブリン抗体(TgAb)や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)といった自己抗体もあわせて測定され、日本内科学会の総説は「いずれかが高値であれば、慢性甲状腺炎(橋本病)による甲状腺機能低下症と診断する」としています[5]。厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、この病気では血液検査で総コレステロール値やCK(クレアチンキナーゼ)値の上昇、心電図での徐脈・低電位がみられることがあり、これらが健康診断などで発見のきっかけになることもあります[2]。また、同総説は「甲状腺エコーで甲状腺の大きさや性状、結節や血流の有無などを確認することも重要である」とも述べており、血液検査に加えて超音波検査で甲状腺そのものの状態を確認することもあります[5]。

TSH FT4 考えられる状態
正常 正常 甲状腺機能は正常[2]
高値 正常 潜在性甲状腺機能低下症(後述)[7]
高値 低値 原発性甲状腺機能低下症(顕性)[2]
低値または正常 低値 中枢性(下垂体性)甲状腺機能低下症[2]

出典:厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺機能低下症」[2]/日本内分泌学会「潜在性甲状腺機能異常」[7]。実際の基準値は測定キットや医療機関により異なるため、数値そのものは検査結果の説明時に主治医に確認してください。

潜在性甲状腺機能低下症とは——TSHだけ高い場合をどう考えるか

健康診断などでTSHだけが基準値を超え、FT4は正常という結果を受け取ることがあります。日本内分泌学会は、これを潜在性甲状腺機能低下症と呼び、「血中の遊離甲状腺ホルモン(FT4)は基準範囲内なのに、同時に測定したTSHのみが正常値よりも高い場合」と定義しています[7]。同学会によれば、頻度は健康な人の3.3〜6.1%にみとめられ、女性に多く、年齢が上がるにつれて増加するとされています[7]。

潜在性甲状腺機能低下症のすべてに治療が必要というわけではなく、日本内分泌学会によれば、まず一過性でないことを確認するため「1-3ヶ月ほど後に再検査」し、その異常が持続していてTSHが10µU/mlを超えている場合に治療対象となるとされています[7]。同学会は、TSHが10µU/ml以下の場合、高コレステロール血症の有無などに応じて治療するかどうかを検討するとしています[7]。これは、発熱や過度なストレスなど一時的な要因でもTSHが変動することがあるためで、1回の数値だけで原因を決めつけないという考え方につながっています。妊娠を希望する人では判断の基準が異なることがあり、これは次の章で詳しく取り上げます。

潜在性甲状腺機能低下症と診断された場合でも、原因を特定する努力は続きます。日本内分泌学会の説明をふまえると、橋本病に伴う自己抗体が陽性であれば将来的に顕性の甲状腺機能低下症へ進む可能性が高いと考えられ、経過観察の間隔を短くすることがあります[1]。逆に自己抗体が陰性で、コレステロール値なども問題がなければ、しばらく生活の様子を見ながら定期検査を続けるという判断がとられることもあります。いずれにしても、潜在性という段階は「治療するかどうかを医師が個別に判断する」領域であり、この記事だけで治療の要否を決められるものではないことにご留意ください。

受診の目安——何科に、いつ行くか

だるさ・体重増加・寒がり・便秘・物忘れといった症状が数か月単位で続く場合や、前の章で挙げた危険因子に当てはまる場合は、内分泌内科・甲状腺専門外来、もしくはかかりつけの内科でTSH・FT4の血液検査を相談することが受診の目安になります。近くに甲状腺専門外来がない場合でも、一般内科でTSH・FT4は測定でき、異常があれば専門医への紹介という流れになるのが一般的です。健康診断でTSHの異常を指摘された場合も、症状の有無にかかわらず一度医療機関を受診することが勧められます。すでに甲状腺ホルモン薬による治療を受けている人は、症状が落ち着いていても自己判断で通院や服薬をやめず、指示された間隔で再検査を受けることが、次に述べる緊急事態を防ぐうえでも重要です。

すぐに受診(できれば救急)が必要なサイン——粘液水腫性昏睡の可能性

日本内分泌学会と日本内科学会の資料によれば、未発見・未治療、あるいは自己判断で甲状腺ホルモン薬の内服を中断した重症の甲状腺機能低下症に、感染症や寒さへの曝露などのきっかけが加わると、意識障害を伴う「粘液水腫性昏睡」という緊急症を起こすことがあります[8]。日本内分泌学会は、発症の誘因として、何らかの重症疾患の合併、感染症、外傷、中枢抑制作用のある睡眠薬等の服用、寒冷への曝露を挙げています[8]。日本内科学会の総説も、粘液水腫性昏睡の誘因・増悪因子として、麻酔薬・抗不安薬・向精神薬・睡眠薬に加え、炭酸リチウム・アミオダロン・免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤を挙げています[5]。アミオダロン・炭酸リチウム・免疫チェックポイント阻害薬は、前述の「薬剤性——特定の薬を使っている人」の項で甲状腺機能低下症そのものの原因としてすでに紹介した薬でもあり、これらを使っている人は特に注意が必要です。日本内分泌学会は、この状態について「低体温を伴う意識障害や二酸化炭素の貯留を伴う呼吸抑制が特徴的」とし、「約30%のかたがお亡くなりになると報告されている」極めて重い状態だと説明しています[8]。日本内科学会の総説によれば、発症頻度自体は「1.08人/100万人/年と稀」で高齢者に多く(平均年齢77歳)、だからこそ「迅速な診断と集学的治療が患者の生死を左右する」とされています[5]。高齢になるほど睡眠薬や抗不安薬を日常的に使っている人が多いため、自己判断でやめる必要はありませんが、今飲んでいる薬(睡眠薬・抗不安薬・アミオダロン・炭酸リチウム・免疫チェックポイント阻害薬なども含めて)をすべて担当医に伝えておくことが、この病気を防ぐうえで重要です。日本内分泌学会は、粘液水腫性昏睡の前段階として「軽い意識障害を繰り返した後に発症することもあるので、眠気がひどかったり、一時的に気が遠くなることがある人は医療機関を受診してください」とも呼びかけています[8]。

  • 日本内分泌学会によれば、ぼんやりする・呼びかけへの反応が鈍いなど、意識のレベルがいつもと違う[8]
  • 日本内分泌学会によれば、体が異常に冷たい(低体温)[8]
  • 日本内科学会の総説によれば、脈が異常にゆっくりである(徐脈)、血圧が低い[5]
  • 日本内科学会の総説によれば、顔や手足の非圧痕性のむくみ(触れても指の跡が残らないむくみ)が強い[5]
  • 日本内科学会の総説によれば、甲状腺ホルモン薬を自己判断で長期間中断している[5]

これらに当てはまる、または当てはまりそうな家族・高齢者がいる場合は、様子を見ず速やかに医療機関を受診してください。日本内分泌学会も、予防のために「規則的に服薬はおこない、定期的に担当医を受診することが大切」と呼びかけています[8]。

妊娠と甲状腺機能低下症——なぜ重要なのか

「妊娠中だから」という理由だけで甲状腺の検査が特別に不安になる必要はありませんが、母体のホルモンバランスは胎児にも影響しうるという点で、他の時期とは注意の向け方が変わってくる領域です。すでに橋本病など甲状腺の病気で通院している人はもちろん、これまで甲状腺の異常を指摘されたことがない人でも、強い倦怠感やむくみが続く場合は、妊娠特有の症状と決めつけず相談してみることが勧められます。

甲状腺ホルモンは、妊娠初期の赤ちゃんの脳の発達に重要な役割を果たすとされており、母体の甲状腺機能の管理は産科・内分泌の両面から重視されています。日本甲状腺学会の臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年5月公表)は、妊娠中のTSH値について、特に「TSH値が4.0 mIU/Lを超える場合には流産や早産のリスクが増加する可能性が示唆されている」としています[9]。同手引きは一方で「TSHが2.5-4.0 mIU/Lの妊婦に対する治療の有益性について明確な結論は出ていない」ともしています[9]。つまり、閾値を超えれば一律に治療するという単純な話ではなく、抗甲状腺自己抗体の有無や個々の妊娠経過などをふまえて、産科医・内分泌専門医が個別に判断する領域だとされています。

甲状腺の病気がある女性が妊娠する場合、もともとの甲状腺機能低下症の原因(橋本病か、手術後か、薬剤性かなど)によって、妊娠中に必要なホルモン補充量が変わることがあります。とりわけ橋本病がある人は、妊娠によって自己免疫の状態が変化し、TSHが妊娠前より上昇しやすくなることが知られています。そのため、甲状腺機能低下症の原因がすでに分かっている人ほど、妊娠が分かった時点、あるいは妊娠を計画する時点で早めに産科医・内分泌専門医に相談しておくことが望ましいとされています。妊娠を希望している人、もしくは妊娠中に甲状腺の異常を指摘された人は、自己判断でレボチロキシンなどの甲状腺ホルモン薬の量を増減させたり、中止したりしないことが重要です。用量の調整は必ず産科医・内分泌専門医の管理のもとで行う必要があります。バセドウ病(甲状腺機能亢進症)が妊娠中に問題になるケースについては、バセドウ病と妊娠中の甲状腺機能亢進症の解説もあわせて参考にしてください。甲状腺の病気がある人、または既往がある人が妊娠を考える場合は、早めに産科医とかかりつけの内分泌科医の両方に相談しておくことが勧められます。

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日本と海外のガイドラインを比べる——潜在性甲状腺機能低下症への考え方

妊娠期の潜在性甲状腺機能低下症をめぐっては、日本と米国とで基準の考え方に違いがあります。日本甲状腺学会の手引き(妊娠編)は、TSH値が2.5mIU/Lから施設の基準値上限(概ね4mIU/L)までで、かつFT4が正常な状態を「正常高値TSH」と定義しています[9]。一方、米国甲状腺学会(ATA)の2017年ガイドラインは、妊娠第1三半期のTSHの基準範囲上限を4.0mU/Lとすることを推奨しており、同手引きはこの数値について「測定キット基準範囲上限値から0.5mU/L差し引いた値と概ね合致する」と紹介しています[9]。なお、日本内分泌学会は、甲状腺の自己抗体が陽性で妊娠を希望する女性や、橋本病があり妊娠を希望する女性については、「TSH2.5µU/ml以下を目標に」ホルモン薬による治療を調整するとしています[3]。これは前述の「正常高値TSH」という分類の定義そのものとは別に、抗体陽性など条件のある人を対象にした治療目標値であり、日本のガイドライン全般がすべての妊婦のTSHを2.5に保つよう推奨しているという意味ではありません。

項目 日本(日本甲状腺学会 手引き・2025年) 米国(米国甲状腺学会 ATA・2017年)
妊娠期TSHの「要注意」域の考え方 TSH2.5mIU/L〜施設の基準値上限(概ね4mIU/L)かつFT4正常を「正常高値TSH」と定義[9] 妊娠第1三半期のTSH基準範囲上限を4.0mU/Lと設定(施設基準値上限から0.5mU/L差し引いた値と概ね合致)[9]

出典:日本甲状腺学会臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年5月)[9]。両者は算出の前提となる集団や測定キットが異なり、単純に優劣を比較できるものではありません。

同手引きが示すように、日本側は「正常高値TSH」という該当域を定義したうえで、TSH4.0mIU/L超では流産・早産リスク増加の可能性を示唆する一方、2.5〜4.0mIU/Lの範囲についてはまだ治療の有益性に関する明確な結論が出ていないとしています[9]。米国側(ATA)は基準範囲の上限を4.0mU/Lと設定するという形で線引きをしており、日本と米国とでは判断の枠組みそのものが異なります。どちらが優れているかを一般向けの記事で判定することはできません。実際の治療方針は、自分がかかっている医療機関がどちらの考え方を採用しているかを含めて、担当医に確認するのが確実です。

受診のときに医師に伝えるとよいことリスト(印刷して持参できます)

  • 症状(だるさ・体重増加・寒がり・便秘・物忘れなど)がいつごろから、どのくらい続いているか
  • 甲状腺の病気の家族歴の有無
  • 甲状腺の手術・放射線治療・放射性ヨウ素治療を受けたことがあるか(時期も分かれば)
  • 現在使っている薬・サプリメント(特にアミオダロン、リチウム製剤、インターフェロン製剤、免疫チェックポイント阻害薬などの有無)
  • 昆布などの海藻やヨウ素含有製品を日常的に多く摂っているか
  • 出産の有無・時期(産後1年以内かどうか)
  • 妊娠中・妊娠を希望しているかどうか
  • 医師に聞きたいこと(TSH・FT4の数値の意味、次にいつ再検査するか、治療が必要かどうかの判断基準など)
  • 他の病気で治療中のもの、アレルギーの有無

このリストは、診察の限られた時間の中で伝え忘れを防ぐためのものです。特に「薬・サプリメント」「手術や放射線治療の既往」「出産の時期」は、本人が重要だと思っておらず言い忘れやすい情報とされているため、メモにして持参することをお勧めします。初診では血液検査の結果が出るまでに数日かかることもあるため、次回受診の予定もその場で確認しておくと安心です。

甲状腺機能低下症の原因は個人差が大きく、複数の危険因子が重なっている場合にどれが主因かを特定することは、専門医による診察・検査なしには困難です。また、潜在性甲状腺機能低下症に対する治療開始の閾値や、妊娠前・妊娠初期の正常高値TSHへの対応については、研究によって結果が分かれており、現時点で世界的に確立した唯一の結論があるわけではないとされています[9]。本記事は今回参照した公的機関・学会の資料の範囲でまとめたものであり、個々の薬剤の甲状腺機能への影響の程度や、治療の要否についての最終的な判断は、実際の血液検査の結果と経過を診た医師の評価によります。同じ危険因子を持つ人でも、実際に発症するかどうか、症状の強さがどの程度になるかには個人差があり、この記事の情報だけで自分や家族の状態を確定的に判断することは避けてください。

よくある質問

橋本病と言われたら、必ず甲状腺機能低下症になりますか?
いいえ、必ずなるわけではありません。日本内分泌学会は、橋本病があっても「大部分の人では甲状腺ホルモンは正常に保たれています」としています[3]。ただし将来的にホルモン不足へ進む可能性がある集団であるため、症状がなくても定期的な血液検査で経過をみていくことが一般的です。
甲状腺機能低下症の原因で一番多いのは何ですか?
日本内分泌学会によると、日本では橋本病(慢性甲状腺炎)などの自己免疫が原発性甲状腺機能低下症の原因として最も多いとされています[1]。厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、そのほか、産後・甲状腺の手術や放射線治療の既往・特定の薬剤・ヨウ素の摂りすぎや不足なども原因になります[2]。
甲状腺機能低下症の初期症状は何ですか?
厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、無気力・易疲労感・眼瞼のむくみ・寒がり・体重増加・動作の緩慢さ・嗜眠・記憶力低下・便秘・声のかすれなどが挙げられます[2]。日本内科学会の総説によれば、多くは非特異的な症状で、他の状態と見分けがつきにくいことが特徴です[5]。
甲状腺機能低下症はどんな検査で分かりますか?
血液検査でTSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離サイロキシン)を測定します。厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、TSHの上昇が最も鋭敏な検査所見とされ、自己免疫が原因かを調べるために抗甲状腺抗体を追加で測定することもあります[2]。
甲状腺機能低下症は治りますか?
原因によって経過は異なります。日本産婦人科医会によれば、産後甲状腺炎の低下型のように自然に回復する一過性のものもあれば、橋本病による機能低下のように甲状腺ホルモンの補充で症状をコントロールしていくことが多いものもあります[4]。厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、薬剤性の場合は、原因薬を中止できるかどうかも含めて医師が個別に判断します[2]。治療の詳しい進め方は医師の判断によるため、この記事だけで自己判断しないようにしてください。
甲状腺機能低下症のとき、食べ物で気をつけることはありますか?
厚生労働省とPMDAのマニュアルによると、ヨウ素摂取量の多い日本では、昆布などの海藻類を日常的に多く食べ続けることが甲状腺機能低下症の原因になることがあります[2]。日本内分泌学会によれば、ヨウ素の摂りすぎによる甲状腺機能低下症は摂取制限をするだけで改善することが多いとされていますが[1]、自己判断で極端な食事制限を行うのではなく、原因や必要な対応について医師に相談してください。
甲状腺機能低下症は更年期障害とどう違いますか?
東京都の公式コラムによれば、症状(疲労感、むくみ、気分の落ち込みなど)が似ているため、更年期症状やうつ病、認知症と間違われやすいことが指摘されています[6]。見分けるにはTSH・FT4の血液検査が必要で、東京都の公式コラムでも「20歳以上の女性なら一度は甲状腺検査を受けることをお勧めします」とされています[6]。
産後にだるさが続くのは産後うつですか、それとも甲状腺の病気ですか?
どちらの可能性もあります。日本産婦人科医会によれば、産後甲状腺炎の低下型は分娩後3〜12か月ごろに発症することがあり、症状が通常の産褥期の不調に似ているため見逃されやすいとされています[4]。不調が長引く場合は、産婦人科または内分泌内科で甲状腺機能の検査を相談することをお勧めします。
TSHだけ高くてFT4が正常と言われました。治療は必要ですか?
この状態は潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれます。日本内分泌学会は、TSHが10µU/mLを超える場合は治療対象とし、それ以下では他の要因もふまえて検討するとしています[7]。1〜3か月後に再検査し、一時的な変動でないか確認してから方針を決めることが一般的です[7]。妊娠を考えている場合は基準が異なることがあるため、必ず担当医に相談してください。
粘液水腫性昏睡とはどんな状態ですか?
未発見・未治療の重症な甲状腺機能低下症に、感染症や寒さへの曝露などのきっかけが加わって起こる、意識障害を伴う緊急症です。低体温・徐脈・呼吸抑制などを伴い、死亡率は約30%と報告されています[8]。発症はまれですが、疑わしい症状があれば直ちに医療機関を受診する必要があります[5]。
薬が原因の甲状腺機能低下症は、薬をやめれば治りますか?
薬剤によって異なります。日本内分泌学会によれば、ヨウ素の摂りすぎによる甲状腺機能低下症は摂取制限をするだけで改善することが多いとされます[1]。一方、厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、免疫チェックポイント阻害薬などによる自己免疫的な機序で起きた場合は、原因薬を中止しても甲状腺機能が元に戻らず、長期的なホルモン補充が必要になることがあるとされています[2]。同マニュアルによれば、原疾患の治療のために原因薬を中止できないケースも少なくありません[2]。自己判断で薬をやめず、必ず処方医に相談してください。
健康診断でコレステロール値が高いと言われました。甲状腺と関係がありますか?
関係している場合があります。厚生労働省とPMDAのマニュアルによれば、この病気では血液検査で総コレステロール値の上昇がみられることがあり、原因不明の脂質異常症の背景に甲状腺機能の低下が隠れていることがあるとされています[2]。他の症状が乏しくても、一度TSH・FT4を測定してもらうと安心です。

参考文献

  1. 日本内分泌学会「甲状腺機能低下症|一般の皆様へ」 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=38
  2. 厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺機能低下症」(平成21年5月、令和4年2月改定) https://www.pmda.go.jp/files/000245266.pdf
  3. 日本内分泌学会「橋本病(慢性甲状腺炎)|一般の皆様へ」 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=41
  4. 公益社団法人日本産婦人科医会「(4)産褥性甲状腺炎」 https://www.jaog.or.jp/note/(4)産褥性甲状腺炎/
  5. 大野洋介・佐野あずさ・田中祐司「甲状腺機能低下症と甲状腺粘液水腫性昏睡」日本内科学会雑誌113巻4号、641〜647頁(2024年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/113/4/113_641/_pdf
  6. 東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」コラム「更年期症状と間違われやすい甲状腺の病気」 https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/columns/23/
  7. 日本内分泌学会「潜在性甲状腺機能異常|一般の皆様へ」 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=39
  8. 日本内分泌学会「粘液水腫性昏睡|一般の皆様へ」 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=46
  9. 日本甲状腺学会臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年5月) https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/20251009_senzaisei-kinou-ijou.pdf
  10. 愛知県医療療育総合センター中央病院・発達障害者支援センター「ダウン症候群患者の成人期の健康管理について」 https://www.pref.aichi.jp/addc/eachfacility/tyuuou/library/pdf/1_04_downsyndorome_adulthood.pdf

更新日:2026年7月25日。本記事の内容について、事実誤認や情報の古い箇所にお気づきの場合は、編集部までお知らせください。医師による個別の診断・治療方針の決定に代わるものではありません。

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Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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