【専門医が解説】子どもの夜驚症(睡眠時驚愕症)の原因と対処法|ストレス・睡眠不足との関連も網羅
睡眠ケア

【専門医が解説】子どもの夜驚症(睡眠時驚愕症)の原因と対処法|ストレス・睡眠不足との関連も網羅

深夜、突然わが子が叫び声をあげ、おびえた様子で起き上がる。しかし、呼びかけに応じることなく、翌朝には何も覚えていない。このような謎めいた行動を目の当たりにし、多くの保護者様が「これは何かの病気だろうか」「どう対応すればよいのか」と深い不安を感じることでしょう1。この記事は、そうした夜驚症(やきょうしょう)、または睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう)に悩む保護者の皆様、そして同様の症状に心当たりがある成人の皆様のために、JHO(JAPANESEHEALTH.ORG)編集委員会が最新の科学的根拠に基づき作成した包括的な手引きです。国内外の専門機関の知見を結集し、症状の正確な理解から、日本の生活環境に根差した具体的な対処法まで、皆様の疑問と不安を解消することを目指します。


この記事の科学的根拠

本記事は、引用されている入力研究報告書に明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。

  • 米国睡眠医学会(AASM): この記事における夜驚症の定義と診断基準に関する指針は、情報源資料で引用されている通り、米国睡眠医学会が発行した国際睡眠障害分類第3版テキスト改訂版(ICSD-3-TR)に基づいています2
  • Leung AKC氏らの研究(PubMed掲載): 有病率、危険因子(睡眠不足、ストレス)、および治療選択肢(安心させること、クロナゼパム、予定された覚醒法)に関する記述は、Leung氏らが発表した包括的なレビュー論文に基づいています3
  • 阪野クリニック(坂野勝久医師): 夜驚症と夜間てんかんの鑑別に関する詳細な比較は、日本の睡眠専門医である坂野医師が運営するクリニックの公開情報に基づいています4
  • 日本国厚生労働省(MHLW): 睡眠衛生の改善に関する具体的な推奨事項は、厚生労働省が発表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」に基づいています5
  • 日本睡眠学会(JSSR): 日本の子どもたち特有のストレスや睡眠不足の背景に関する深い分析は、日本睡眠学会のワーキンググループ報告書に基づいています6

要点まとめ

  • 夜驚症は「悪い夢」ではなく、深いノンレム睡眠から不完全に覚醒する「覚醒障害」の一種です。
  • 主な原因は子どもの脳の未熟性にあり、睡眠不足やストレスなどが引き金となって現れます。
  • 多くは成長とともに自然に治まる良性の現象であり、最も重要な対応は、無理に起こさず安全を確保することです。
  • 症状が非常に似ている「夜間てんかん」との鑑別が重要です。行動が毎回同じか、日中の様子に変化はないかなどが判断の鍵となります。
  • 生活習慣の改善、特に規則正しい睡眠習慣の確立が、最も基本的で効果的な予防策となります。

夜驚症とは?- 悪夢とは根本的に違う「ノンレム睡眠の覚醒障害」

夜驚症は、しばしば「ひどい悪夢」と混同されがちですが、医学的には全く異なる現象です。米国睡眠医学会(AASM)が発行する国際睡眠障害分類第3版テキスト改訂版(ICSD-3-TR)によると、夜驚症はノンレム睡眠からの覚醒障害(Disorder of Arousal from NREM Sleep)に分類されます2。これは、脳が最も深く眠っている状態(ノンレム睡眠の段階3)から、何らかの理由で不完全に覚醒してしまうことで起こります。日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)も、これを睡眠時随伴症(パラソムニア)の一種として同様に定義しています7

一方、悪夢はレム睡眠中に見る鮮明な夢であり、目覚めた後には夢の内容をはっきりと覚えていることが多いのが特徴です。夜驚症と悪夢の主な違いを理解することは、適切な対応の第一歩となります。

表1:夜驚症と悪夢の主な違い
特徴 夜驚症(睡眠時驚愕症) 悪夢
発生する睡眠段階 深いノンレム睡眠(睡眠前半) レム睡眠(睡眠後半、明け方)
発生時間帯 就寝後1〜3時間以内が多い 夜中から明け方が多い
覚醒の度合い 混乱し、意識は朦朧。周囲を認識できない。 完全に目覚め、意識ははっきりしている。
記憶 出来事を全く覚えていない。 夢の内容を鮮明に覚えていることが多い。
他者への反応 なだめようとしても効果が薄く、抵抗することもある。 慰めや安心を求める。
身体的反応 激しい恐怖、叫び声、心拍数の増加、発汗、呼吸促迫。 恐怖感はあるが、身体的興奮は比較的少ない。

夜驚症の主な症状と特徴

夜驚症の症状は、目撃者にとっては非常に衝撃的です。2020年に発表されたLeung氏らの包括的なレビュー論文によると、典型的な症状には以下のようなものがあります3

  • 突然、甲高い叫び声や悲鳴をあげて起き上がる。
  • ベッドに座ったまま、目は見開かれているが、焦点が合っていないように見える。
  • 強い恐怖やパニックの表情を浮かべる。
  • 心臓が激しく鼓動し、呼吸が速くなり、大量の汗をかく。
  • 保護者が誰だか認識できず、なだめようとするとかえって興奮したり、混乱したりする。
  • ベッドから走り出そうとするなど、複雑な行動を伴うこともある。

これらのエピソードは通常、数分から長くても10数分程度で収まり、その後、子どもは再び眠りに落ち、翌朝にはその出来事を全く覚えていません3。有病率は、子どもの1%から6.5%と報告されており、特に4歳から7歳の幼児期に最も多く見られます。多くの場合、思春期を迎える頃には自然に消失します38

なぜ起こるのか?- 脳の未熟性と生活の中の「引き金」

夜驚症の根本的な原因は、睡眠と覚醒をコントロールする子どもの脳機能がまだ発達途上であることにあると考えられています。深い眠りの状態を維持しようとする力と、目覚めさせようとする力が衝突し、混乱した「中間状態」が生じるのです。この脳の生理的な未熟性に、日常生活における様々な「引き金」となる要因が加わることで、症状が誘発されます。

科学的に証明されている主な引き金には、以下のようなものが挙げられます39

  • 睡眠不足と過度の疲労:最も一般的な要因です。体が疲れすぎていると、深い睡眠の割合が増え、覚醒の混乱が起きやすくなります。
  • 精神的ストレス:新しい環境への不適応、家庭内の問題、学校での出来事など、子どもが感じるストレスは夜驚症の引き金となり得ます。
  • 発熱:体温の上昇が脳の睡眠中枢に影響を与え、症状を誘発することがあります。
  • 不規則な睡眠スケジュール:就寝・起床時間が日によってバラバラだと、体内時計が乱れ、睡眠の質が低下します。
  • 特定の薬剤:中枢神経系に作用する一部の薬剤が影響することもあります。

【深掘り】日本の子供たちを取り巻く睡眠不足とストレス

特に現代の日本社会は、夜驚症の引き金となる要因を生み出しやすい環境にあると指摘されています。日本睡眠学会(JSSR)の報告によれば、日本の子どもたちの睡眠時間は国際的な推奨値を大幅に下回っており、その背景には、塾や習い事による帰宅時間の遅延、そして就寝前のスマートフォンやゲーム機の使用が常態化していることがあります6

厚生労働省も「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の中で、子どもの健やかな成長にとって十分な睡眠がいかに重要であるかを強調し、睡眠不足が心身に与える悪影響について警鐘を鳴らしています5。このような社会的な圧力や生活習慣がもたらす慢性的な「睡眠不足」と「ストレス」は、夜驚症を発症しやすい素因を持つ子どもにとって、非常に強力な誘発因子となっているのです3


診断と鑑別 -「ただの寝ぼけ」と見過ごさないために

夜驚症の診断は、主に保護者からの詳細な症状の聞き取り(病歴聴取)によって行われます。しかし、最も重要なのは、似たような症状を示す他の深刻な病気、特に夜間てんかんとの鑑別です。両者は専門医でなければ見分けるのが難しい場合があるため、注意が必要です。

【最重要】夜間てんかんとの見分け方

夜驚症と最も間違えやすいのが、夜間前頭葉てんかん(Nocturnal Frontal Lobe Epilepsy)です。日本の睡眠専門医である坂野勝久医師のクリニックが提供する情報に基づき、両者の違いを以下の表にまとめました4。これらの点を参考に、子どもの様子を注意深く観察することが重要です。

表2:夜驚症と夜間前頭葉てんかんの比較
特徴 夜驚症 夜間前頭葉てんかん
発症年齢 主に幼児期・学童期(4〜7歳がピーク) 幼児期から成人まで幅広い
頻度 週に数回〜月に数回程度 ほぼ毎晩、一晩に複数回起こることも多い
持続時間 数分〜10分以上と比較的長い 30秒〜1分以内と非常に短いことが多い
行動の定型性 毎回行動が異なることが多い(叫ぶ、走り回るなど) 毎回ほとんど同じ、決まりきった奇妙な動き(常同性)
発生時間帯 睡眠前半(就寝後1〜3時間)に多い 時間帯に関係なく起こりうる
脳波検査 発作時以外は正常 特徴的なてんかん波が見られることがある

専門医からのアドバイス:もし可能であれば、お子様の発作の様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくことを強くお勧めします。言葉で説明するよりもはるかに多くの情報が専門医に伝わり、正確な診断の大きな助けとなります。

治療と対処法:家庭でのケアから専門医の治療まで

夜驚症は、ほとんどの場合、特別な医学的治療を必要とせず、成長とともに自然に軽快します。したがって、治療の中心は、発作中の安全確保と、発作を予防するための生活習慣の改善になります10

ステップ1:発作中の安全確保と冷静な対応(最も重要)

子どもが夜驚症のエピソードを起こした際、保護者がパニックにならず、冷静に対応することが何よりも大切です。あしたのクリニックなどの専門機関は、以下の対応を推奨しています1

  • 無理に起こさない:子どもは深い眠りと覚醒の狭間にいるため、無理に揺さぶったり大声で呼びかけたりすると、かえって興奮や混乱を長引かせてしまいます。
  • 安全を確保する:子どもがベッドから出て動き回る可能性がある場合は、怪我をしないように周囲の危険な物(家具の角、ガラス製品など)を片付け、窓や玄関の鍵をかけておきましょう。
  • 静かに見守る:そっとそばにいて、落ち着くまで静かに見守ります。発作が収まったら、優しくベッドに誘導してあげましょう。

ステップ2:睡眠衛生の徹底(予防の基本)

夜驚症の最も効果的な予防策は、規則正しい生活と良質な睡眠環境を整える「睡眠衛生」です。厚生労働省のガイドラインも、子どもの健康な睡眠習慣の重要性を強調しています115

  • 就寝・起床時間を一定に:休日も含め、毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きる習慣をつけ、体内時計を整えます。
  • 快適な寝室環境:寝室は静かで、暗く、涼しい状態を保ちます。
  • 就寝前のリラックスタイム:就寝1〜2時間前からは、テレビ、スマートフォン、激しい遊びなどを避け、絵本の読み聞かせや静かな音楽を聴くなど、リラックスできる時間を作りましょう。

ステップ3:行動療法(頻繁な場合に検討)

症状が頻繁に起こる場合には、「予定された覚醒法(Scheduled Awakening)」と呼ばれる行動療法が有効なことがあります。これは、夜驚症が起こる時間を数日間記録し、その予測される時間の15分から30分前に、保護者が子どもを優しく起こすという方法です。完全に覚醒させる必要はなく、少し声をかけて寝返りをうたせる程度で十分です。これにより、深い睡眠のサイクルを一度リセットし、発作を防ぐ効果が期待されます312。ただし、この方法は子どもの睡眠を妨げる可能性もあるため、必ず専門医に相談の上で行ってください。

ステップ4:薬物療法(重症例のみ)

薬物療法は、第一選択ではありません。夜驚症の症状が非常に激しく、本人や家族に怪我の危険がある場合や、日中の生活に深刻な支障をきたす場合に限り、専門医の判断でクロナゼパムなどの抗不安薬がごく短期間処方されることがあります3。これはあくまで例外的な対応であり、安易に頼るべきではないことを理解しておく必要があります。

専門家への相談:いつ、どこへ行くべきか?

ほとんどの夜驚症は家庭でのケアで対応可能ですが、以下のような場合は専門家への相談を検討すべきです。

  • 症状が非常に頻繁(週に数回以上)または激しい場合。
  • エピソード中に危険な行動を伴う場合。
  • 日中の眠気や気分の落ち込みなど、日常生活に影響が出ている場合。
  • 思春期以降に初めて症状が現れた、または成人で症状がある場合。
  • てんかんとの鑑別が必要だと感じる場合。

相談先としては、まずはかかりつけの小児科が第一歩です。そこから必要に応じて、小児神経科睡眠専門外来などの専門機関を紹介してもらうのが一般的な流れです1。日本睡眠学会のウェブサイトなどで、お近くの睡眠専門医を探すこともできます。

よくある質問

夜驚症は発達障害と関係がありますか?

いくつかの研究で、夜驚症を含む睡眠障害が、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症などの発達障害を持つ子どもでより高い頻度で見られることが報告されています。また、幼少期の夜驚症が、後の情動・行動上の問題と関連するという研究結果もあります9。しかし、これは夜驚症そのものが発達障害の直接的な兆候であるという意味ではありません。あくまで、併存しやすい傾向があるということであり、気になる場合は睡眠の問題だけでなく、子どもの発達全体について専門家による包括的な評価を受けることが重要です。

親が無理に起こそうとするのはなぜいけないのですか?

夜驚症のエピソード中に子どもを無理に起こそうとすることは、いくつかの理由から推奨されません14。第一に、子どもは深い睡眠状態にあり、完全には覚醒していません。この状態で外部から強い刺激を与えると、混乱や恐怖感がさらに増し、興奮状態を悪化・延長させてしまう可能性があります。第二に、子どもは出来事を覚えていないため、起こされたこと自体が恐怖体験となり、新たな不安を生む原因にもなりかねません。最も良い対応は、本人が危険な行動をしないよう安全を確保しながら、自然に落ち着くのを静かに見守ることです。

結論

夜驚症は、その劇的な症状から保護者に大きな不安を与えますが、その本質は子どもの脳が成長する過程で起こる一時的な機能の不均衡です。多くの場合、それは病気ではなく「成長の一過程」であり、愛情をもって見守ることが何よりも大切です。この記事で提供した情報が、皆様の不安を和らげ、冷静かつ適切な対応をとるための一助となることを心から願っています。規則正しい生活リズムと安全な睡眠環境を整え、ストレスを軽減することで、お子様がこの時期を健やかに乗り越えられるよう、温かくサポートしてあげてください。

免責事項本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. あしたのクリニック. 夜驚症とは?原因・症状・対処法を徹底解説. [インターネット]. [2025年7月21日引用]. Available from: https://asitano.jp/article/7938
  2. American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, 3rd ed., Text Revision (ICSD-3-TR). Darien, IL: American Academy of Sleep Medicine; 2022. Available from: https://aasm.org/wp-content/uploads/2022/05/ICSD-3-TR-Parasomnias-Draft.pdf
  3. Leung AKC, Leung AAM, Wong AHC, Hon KL. Sleep Terrors: An Updated Review. Curr Pediatr Rev. 2020;16(3):176-182. doi: 10.2174/1573396315666191014152136. Available from: PMID: 31612833
  4. 阪野クリニック. 夜驚症・睡眠時驚愕症とは?. [インターネット]. [2025年7月21日引用]. Available from: https://banno-clinic.biz/sleep-terrors/
  5. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド 2023. [インターネット]. 2023. [2025年7月21日引用]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
  6. 日本睡眠学会. 第3回子どもの睡眠WG開催のご報告. [インターネット]. 2024. [2025年7月21日引用]. Available from: https://jsleep.org/2024/11/06/%E7%AC%AC3%E5%9B%9E%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E7%9D%A1%E7%9C%A0wg%E9%96%8B%E5%82%AC%E3%81%AE%E3%81%94%E5%A0%B1%E5%91%8A/
  7. 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部. 睡眠時随伴症. [インターネット]. [2025年7月21日引用]. Available from: https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/parasomnia/index.html
  8. 日本医事新報社. 夜驚症. [インターネット]. [2025年7月21日引用]. Available from: https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d221201/
  9. Petit D, Paquet J, Touchette E, et al. Sleep terrors in early childhood and their association with emotional-behavioral problems. J Child Psychol Psychiatry. 2022;63(12):1477-1485. doi: 10.1111/jcpp.13606. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9435351/
  10. Bae H, Joo E. Treatment Approach to Sleep Terror: Two Case Reports. J Korean Med Sci. 2017;32(4):689-691. doi: 10.3346/jkms.2017.32.4.689. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5353201/
  11. 厚生労働省. 快眠と生活習慣 | e-ヘルスネット. [インターネット]. [2025年7月21日引用]. Available from: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
  12. Fleetham JA, Smith T, Ghadery A, et al. Behavioral and psychological treatments for NREM parasomnias: A systematic review. Sleep Med Rev. 2024;73:101869. doi: 10.1016/j.smrv.2023.101869. Available from: PMID: 37716336
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