かかとの皮むけ、原因は乾燥？それとも病気？皮膚科専門医が教える症状の見分け方と最適な対策

まずは60秒でセルフチェック！あなたの症状から考えられる原因は？

かかとの皮むけと一言でいっても、その見た目や伴う症状は様々です。まずはご自身の状態を客観的に把握し、考えられる原因のあたりをつけることが、適切な対策への第一歩です。以下のチェックシートで、最も当てはまる項目を確認してみましょう。

注意：このチェックシートはあくまで目安です。複数の原因が関わっている場合や、判断に迷う場合は、自己判断せず皮膚科専門医に相談することが最も安全かつ確実です。

原因1: 乾燥（乾皮症）と摩擦 ― 最も一般的な原因とその徹底対策

チェックシートで「乾燥・ひび割れが中心で、かゆみは少ない」に当てはまった場合、最も可能性が高いのは、皮膚の乾燥（乾皮症）と物理的な刺激です。なぜかかとはこれほど乾燥しやすいのか、その理由と、皮膚科学の国際的な知見に基づいた究極のホームケア方法を解説します。

3.1 なぜかかとは乾燥しやすい？その解剖学的な理由

かかとが体の他の部位と比べて特に乾燥し、硬くなりやすいのには、明確な解剖学的・生理学的な理由があります²。

• 皮脂腺が存在しない: 顔や背中と違い、かかとの皮膚には皮脂を分泌する「皮脂腺」がありません²。皮脂は皮膚の表面に膜を作り、水分の蒸発を防ぐ天然の保湿クリームの役割を果たします。このバリアがないため、かかとは潤いを自ら作り出し、保つことが非常に苦手なのです。
• 角質層が厚い: かかとは、全体重を支え、歩行時の衝撃を吸収するという重要な役割を担っています。この絶え間ない圧力と地面との摩擦から内部の組織を守るため、皮膚の一番外側にある「角質層」が、体の他の部位の数十倍も厚くなっています²。この厚い角質層は、水分や保湿成分が内部まで浸透しにくく、一度乾燥すると柔軟性を失い、硬く、もろくなってしまいます。
• 代謝回転が遅い: 皮膚は通常、一定の周期（代謝回転、ターンオーバー）で新しい細胞に生まれ変わりますが、かかとはこの周期が他の部位より長い傾向にあります²。そのため、古く硬くなった角質が剥がれ落ちずに蓄積しやすく、ゴワつきやガサガサの原因となります。

これらの要因に、加齢、ホルモン均衡の乱れ、血行不良、そして冬場の空気の乾燥などが加わることで、かかとの乾燥はさらに進行し、やがて皮むけや「ひび割れ」といった深刻な状態に至るのです²。

3.2 皮膚科医が教える究極のホームケア ― 日本と米国の皮膚科学会が推奨する最善策

かかとの乾燥対策は、日々の正しいケアの積み重ねが最も重要です。ここでは、日本国内の情報に加え、米国皮膚科学会（AAD）などが推奨する、科学的根拠に基づいた最も効果的なケア方法を段階ごとに紹介します²。

ステップ1: 入浴・洗浄 ― 「洗いすぎない」勇気

潤いを守るケアは、洗い方から始まります。

• 時間と温度: 入浴やシャワーは5分から10分程度に留めましょう⁶。長時間の入浴や熱いお湯は、皮膚の潤いを保つために必要な皮脂や天然保湿因子まで洗い流してしまい、乾燥を助長します⁷。お湯の温度は、体温より少し高めの38～40℃のぬるま湯が理想です³。
• 洗浄剤の選択: 洗浄剤は、皮膚の自然な油分を奪いすぎない「弱酸性」で「香料・着色料無添加」の優しいものを選びましょう⁶。固形石鹸よりも、保湿成分が配合された液体石鹸や、刺激の少ない非石鹸系の洗浄剤が推奨されます。
• 洗い方: ナイロンタオルや軽石でゴシゴシこするのは絶対にやめてください²。摩擦は皮膚のバリア機能を破壊し、さらなる角質肥厚（防御反応で皮膚が厚くなること）と乾燥の悪循環を招きます。洗浄剤をよく泡立て、手のひらで優しくなでるように洗いましょう²。

ステップ2: 保湿 ― 入浴後「5分以内」が勝負

かかとケアで最も重要なのが保湿です。タイミングと成分選びが効果を大きく左右します。

• 保湿の黄金時間: 保湿剤を塗る最適なタイミングは、入浴後5分以内です⁶。タオルで優しく水気を押さえた後、かかとの皮膚がまだしっとりと湿っているうちに塗ることで、水分を角質層に閉じ込めることができます。
• 成分で選ぶ保湿剤: かかとのような硬く厚い皮膚には、特定の有効成分を含む保湿剤が効果的です。
  • 尿素: 米国皮膚科学会は、10～25%の尿素を含むクリームを推奨しています⁶。尿素には、硬くなった角質（タンパク質）を分解して柔らかくする「角質溶解作用」と、水分を引き寄せて保持する「保湿作用」の2つの働きがあり、ガサガサのかかとに非常に有効です¹⁰。
  • ワセリン: 皮膚の表面に強力な油膜を作り、水分の蒸発を徹底的に防ぐ「閉塞性」の保湿剤です。メイヨー・クリニックや米国皮膚科学会は、夜寝る前にワセリンをたっぷりと塗り、綿の靴下を履いて寝る方法を推奨しています⁶。これにより、一晩中保湿成分が浸透しやすくなります。
  • サリチル酸、アルファヒドロキシ酸（AHA）: これらも角質を柔らかくする作用があり、特に厚く硬くなった角質のケアに用いられます⁶。
  • ヘパリン類似物質: 日本で広く使われている保湿成分で、血行促進作用と保湿作用を併せ持ち、乾燥による皮膚トラブルに効果を発揮します¹¹。
  • セラミド: 角質細胞の間を埋める「細胞間脂質」の主成分で、皮膚のバリア機能そのものを補強する働きがあります¹²。

ステップ3: 角質ケア ― 「削る」のではなく「整える」

硬くなった角質を無理に除去しようとすることは、かえって症状を悪化させる最大の原因の一つです。

皮膚科医が推奨する安全な角質ケア:

1. まず柔らかくする: 必ず入浴や足湯で10分以上かけて皮膚を十分にふやかし、柔らかくします¹³。
2. 優しく一方向に: 目の細かい足やすりを使い、力を入れずに一定方向に動かします⁵。往復がけは皮膚への負担が大きいため避けてください。かかとの外側から中央に向かって、放射状にかけるとストレスが軽減されます⁵。
3. 「整える」意識で: 目標はツルツルにすることではなく、保湿剤が浸透しやすいように表面を少しだけ「整える」ことです。
4. すぐに保湿: ケアの後は、角質層が非常に無防備な状態です。直ちに保湿剤をたっぷりと塗り込み、保護します¹³。

ステップ4: 生活習慣の見直し ― 履物と環境

日中の習慣も、かかとの状態に大きく影響します。

• 靴の選択: かかとが露出するサンダルやミュール、フィットしていない靴は、摩擦や衝撃を増やし、乾燥を悪化させる原因となります⁶。衝撃吸収性が高く、足に合ったサイズの靴を選びましょう¹⁰。サイズが大きい場合は、中敷きで調整するのも有効です⁵。
• 靴下: 吸湿性と通気性に優れた綿や絹などの天然素材の靴下を選びましょう¹⁰。
• 血行促進: かかとは心臓から最も遠く、血行が悪くなりがちな部位です¹。適度な運動や入浴中のマッサージで血行を促すことは、皮膚の代謝回転を正常化し、健康な状態を保つのに役立ちます²。

これらのケアを2～4週間続けても改善が見られない、あるいは悪化するような場合は、単なる乾燥ではなく、次に解説するような医学的な原因が隠れている可能性があります。

原因2: 水虫（足白癬） ― 見た目にだまされる「偉大なる詐欺師」

かかとの皮むけで、特に注意が必要なのが水虫（足白癬）です。水虫は白癬菌というカビ（真菌）が皮膚の角質層に感染して起こる病気で、日本人の約5人に1人が罹患しているというデータもあるほど非常にありふれた疾患です¹⁵。多くの人が「水虫＝かゆい、じゅくじゅくする」という印象を持っていますが、それは水虫の一つのタイプに過ぎません。かかとの皮むけの原因となる水虫は、全く異なる様相を呈することがあり、これが誤診や治療の遅れにつながる大きな落とし穴となっています。

4.1 誤診の罠 ― あなたの「乾燥かかと」は、実は水虫かもしれない

かかとの乾燥と最も見分けがつきにくいのが、「角質増殖型水虫」です¹⁶。

角質増殖型水虫の特徴: このタイプの水虫は、足の裏全体、特にかかとを中心に皮膚が硬く、厚くなり、乾燥してカサカサし、粉をふいたように皮がむけるのが特徴です¹⁷。ひどくなると、あかぎれのようにひび割れることもあります。そして、最大の特色は、かゆみがほとんどないか、あっても非常に軽いことです¹⁷。

なぜ見間違えるのか: その見た目は、前述した「乾燥（乾皮症）」の症状と酷似しています。そのため、多くの人が「乾燥がひどくなっただけ」と自己判断し、保湿クリームを塗るだけのケアに終始してしまいます。しかし、水虫は感染症であるため、保湿だけでは決して治りません。むしろ、不適切なケアを続けることで、知らず知らずのうちに菌を撒き散らし、家族内感染の原因となってしまうのです¹⁶。

角質増殖型以外にも、水虫には以下のタイプがあります。

• 趾間型（しかんがた）: 足の指の間にでき、皮膚が白くふやけてじゅくじゅくしたり、皮がむけたりします。水虫の中で最も多いタイプです¹⁶。
• 小水疱型（しょうすいほうがた）: 土踏まずや足の側面に、かゆみを伴う小さな水ぶくれができます。これが破れて皮がむけます¹⁶。

4.2 日本皮膚科学会指針に基づく診断と治療

水虫が疑われる場合、最も重要なことは、皮膚科を受診し、確定診断を受けることです。診断は、皮膚科で顕微鏡を使って皮膚に白癬菌がいるかどうかを調べる「真菌検査（直接鏡検）」によって行われます¹⁸。見た目だけで判断するのは非常に困難であり、自己判断は禁物です。水虫と診断された場合の治療法は、日本皮膚科学会の「皮膚真菌症診療ガイドライン」で明確に定められています¹⁵。

4.2.1 外用薬（塗り薬）による治療

ほとんどの足白癬は、抗真菌薬の塗り薬で治療します¹⁸。しかし、その効果を最大限に引き出すには、正しい使い方を徹底する必要があります。

塗り方の鉄則:

1. 広範囲に塗る: 症状が出ている部分だけでなく、足の裏全体と指の間すべてに薬を塗り広げます¹⁸。目に見えない範囲にも菌が潜んでいるため、これが非常に重要です。
2. 入浴後に塗る: 皮膚が清潔で、角質が柔らかくなっている入浴後に塗るのが最も効果的です²⁰。
3. 継続こそが力: これが治療成功の最大の鍵です。かゆみや皮むけなどの症状が消えても、菌はまだ角質層の奥深くで生きています¹⁷。見た目がきれいになっても、自己判断で薬をやめてはいけません。再発を防ぐため、症状が消えてから最低でも1ヶ月以上は根気強く治療を続ける必要があります¹⁸。

市販薬を選ぶ際は、以下の表を参考に成分で選ぶとよいでしょう。ただし、2週間使用しても改善しない場合は、必ず皮膚科を受診してください²²。

※ 商品例は代表的なものであり、特定の製品を推奨するものではありません。購入の際は薬剤師にご相談ください。

4.2.2 内服薬（飲み薬）による治療

角質増殖型水虫が重症な場合や、爪にまで菌が感染している「爪白癬」を合併している場合などでは、飲み薬による治療が必要となります¹⁸。内服薬は高い効果が期待できますが、肝機能への影響などに注意が必要なため、必ず医師の処方と定期的な血液検査のもとで使用されます¹⁸。

4.3 日常生活での予防と再発防止策

水虫は、治療と同時に、白癬菌が繁殖しにくい環境を作ることが重要です。

• 清潔と乾燥: 毎日足を洗い、特に指の間まで丁寧に水分を拭き取ります¹⁶。
• 通気性の確保: 通気性の悪い靴を長時間履くのを避け、毎日同じ靴を履かずに中を乾燥させましょう¹⁰。
• 家庭内感染の防止: 家族に水虫の人がいる場合、バスマット、スリッパ、タオルの共用は絶対に避けてください¹⁶。

原因3: 乾燥や水虫だけではない ― かかとの皮むけを引き起こすその他の皮膚疾患

かかとの皮むけは、時に全身の免疫システムやアレルギーが関わる皮膚疾患の症状として現れることがあります。これらの病気は専門的な診断と治療が不可欠です。

5.1 アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下とアレルギー的要因が複雑に関与し、強いかゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な病気です²⁷。かかとでは乾燥してゴワゴワし、かき壊すことで皮がむけたりします。日本皮膚科学会の診断基準では、「①かゆみ」「②特徴的な皮疹と分布」「③慢性・反復性の経過」が基本となります²⁸。

5.2 乾癬（かんせん）と掌蹠膿疱症（しょうせきのうほうしょう）

これらは免疫系の異常が関与する炎症性の皮膚疾患です。

• 乾癬（Psoriasis）: 皮膚の代謝回転が異常に速まり、境界がはっきりした赤い発疹の上に、銀白色のフケのようなもの（鱗屑）が厚く付着し、ポロポロと剥がれ落ちるのが典型的です³²。関節痛を伴うこともあります³⁵。
• 掌蹠膿疱症（Palmoplantar Pustulosis, PPP）: 手のひらと足の裏に、無菌性の膿疱（膿を持った小さな水ぶくれ）が繰り返しできる病気です³⁷。喫煙などが関与しているとされます³⁸。

5.3 汗疱（かんぽう）／異汗性湿疹

汗疱は、汗の排出がうまくいかずに皮膚の中に汗がたまることで生じる皮膚疾患で、手のひらや足の裏に1～2mm程度の小さな水ぶくれが突然多発します³⁹。強いかゆみを伴い、乾燥すると皮がむけてきます。小水疱型水虫との鑑別が重要です。

5.4 その他の考えられる原因

頻度は低いものの、接触皮膚炎（かぶれ）⁴³、魚鱗癬¹²、あるいはストレスから皮膚をむしってしまう皮膚むしり症⁴⁴なども原因となり得ます。

皮膚科を受診すべき時 ― 見逃してはいけない「受診のサイン」

皮膚科を受診することは、正しい診断を受け、最適な治療への最短経路を確保することを意味します。不確かな情報に頼ったり、不適切なセルフケアを続けたりする危険性を避けるためにも、ためらわずに専門家を活用してください。

よくある質問

結論

本稿では、かかとの皮むけという一つの症状を深く掘り下げ、その原因が単なる乾燥から、水虫、アトピー性皮膚炎、乾癬といった専門的な治療を要する疾患まで、多岐にわたることを示しました。健やかでなめらかなかかとを取り戻し、維持するために、以下の3つの行動計画を心に留めてください。

1. 正確な鑑別（見極め）: まずは思い込みを捨て、ご自身の症状を客観的に観察することから始めましょう。「かゆみはあるか？」「水疱や膿疱はないか？」といった点を、本稿のチェックシートや比較表を参考に冷静に評価してください。特に「かゆみのない皮むけ」が、乾燥だけでなく角質増殖型水虫の典型的な症状であることを知っておくことは極めて重要です。
2. 原因に基づいた正しい治療の実践: 原因が異なれば、対策も全く異なります。乾燥が原因の場合は科学的根拠に基づいた保湿ケアを、水虫が原因の場合は確定診断の上で根気強い抗真菌薬の使用を徹底してください。
3. 積極的な専門家への相談: セルフケアで改善しない場合、感染の兆候がある場合、そして何よりも原因の判断に迷う場合は、ためらわずに皮膚科を受診してください。早期の的確な診断は、治療期間の短縮と重症化の予防につながります。

かかとは、あなたの全体重を支え、日々の活動を可能にする大切な体の一部です。その小さなサインに耳を傾け、適切なケアを施すことで、見た目の美しさだけでなく、快適な毎日と全身の健康を守ることにつながります。