鼻血と血の塊、その原因は?正しい止め方から再発予防、病院での治療まで完全ガイド
この記事でわかること
目次
- 要点まとめ
- 第1部:なぜ鼻血は起き、血の塊ができるのか? - 体の仕組みを理解する
- 1.1. 鼻血が出る場所:多くは「キーゼルバッハ部位」(鼻の入り口付近)から
- 1.2. 血の塊(血栓)の正体:体の正常な防御反応
- 1.3. 前方出血と後方出血の違い:血の塊が大きいときに知っておきたいポイント
- 第2部:鼻血の多様な原因 - あなたはどれに当てはまる?
- 2.1. 最も一般的な原因:物理的刺激と乾燥
- 2.2. アレルギー性鼻炎と鼻血の悪循環
- 2.3. 子どもの鼻血:なぜ頻繁に起きるのか
- 2.4. 高齢者の鼻血:注意すべき背景
- 2.5. まれだが注意すべき原因
- 第3部:【最重要】エビデンスに基づく正しい鼻血の止め方(応急処置)
- 3.1. やってはいけないNG行動
- 3.2. 世界標準の圧迫止血法
- 3.3. 応急処置後に鼻に残った血の塊の対処法
- 3.4. なぜ「5〜10分」が目安なのか
- 第4部:日本と海外のガイドライン比較
- 第5部:最新研究より — トラネキサム酸(TXA)局所使用の効果
- 第6部:病院へ行くべき? - 受診のタイミングと専門的な治療法
- 5.1. 焼灼(しょうしゃく)療法:出血点をピンポイントで塞ぐ
- 5.2. 鼻腔パッキング(タンポン)
- 5.3. 難治性の場合:外科的治療・血管内治療
- 第7部:繰り返す鼻血を防ぐために - 日常生活でできる予防策
- 4.1. 鼻粘膜を健やかに保つ
- 4.2. 全身状態の管理
- よくある質問
- 結論
- 参考文献
多くの人が一度は経験する鼻血。しかし、突然の出血、とくにドロッとした血の塊が混じっていると、誰しも不安を感じるものです。「この鼻血は一過性のものなのか」「何か重大な病気のサインではないか」といった心配が頭をよぎるのは自然な反応ですが、この不安を解消する近道は、うわさ話ではなく、公的機関や学会が示す正確な医学的知識に基づいて冷静に対処することです。本記事は、鼻血が起こる体の仕組みから、考えられる多様な原因、日本および海外のガイドラインに基づく応急処置、日常生活での予防策、専門医療機関で行われる治療法まで、根拠のある情報に基づいて解説します。
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鼻血に混じる「血の塊」は、NCBI Bookshelfの解説によれば、多くの場合、傷ついた血管をふさぐための正常な止血反応(血栓)であり、それ自体が病気のサインではありません。6
最も効果的な止め方は、顔をやや下に向けてうつむき、小鼻(鼻の柔らかい部分)を親指と人差し指で強くつまみ、AAO-HNSと日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会がそろって推奨するとおり、少なくとも5〜10分間、途切れさせずに圧迫し続けることです13。上を向く・首をたたくといった対処は誤りで、20〜30分以上圧迫しても止まらない、出血量が非常に多い、めまいがあるといった場合は速やかに耳鼻咽喉科または救急を受診してください、とAAO-HNSガイドラインは明記しています1。
JHO編集部が作成(本記事の要点をもとに作図したアイキャッチ画像)
要点まとめ
- 鼻血の90%以上は、鼻の入り口から1〜1.5cm内側にある「キーゼルバッハ部位」からの出血だとNCBI Bookshelfは説明しています7。
- NCBI Bookshelfによれば、血の塊(血栓)は出血を止めるための正常な防御反応ですが、頻繁に大きな塊が出る場合は出血量が多いサインの可能性があります6。
- AAO-HNSと日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によれば、正しい圧迫止血は「うつむいて・小鼻をつまんで・5〜10分以上」が世界標準です13。
- 浜松医科大学の研究とNCBI Bookshelf(StatPearls)の解説によれば、高齢者や抗凝固薬・抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を服用中の人は、出血が止まりにくく重症化しやすい傾向があります27。
- 適切な圧迫を20分以上続けても止まらない、出血量が非常に多い、めまいやふらつきがある場合はためらわず医療機関を受診してください1。
編集方針: 本記事はJHO(JapaneseHealth.org)編集部が、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)の診療ガイドライン、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の公式見解、国内学術誌に掲載された臨床研究、NCBI Bookshelf掲載の医学文献など、公的機関・学会・査読論文と照合して作成しました。特定の医師や病院による個別の監修は行っておらず、医師による個別の診断・治療の代わりにはなりません。数値やガイドラインの内容は改定により変わることがあります(更新日:2026年7月19日時点の情報)。本記事の内容に誤りや古い情報があるとお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご指摘・ご連絡ください。編集部で確認のうえ対応いたします。
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第1部:なぜ鼻血は起き、血の塊ができるのか? – 体の仕組みを理解する
突然の鼻血に冷静に対処するためには、まず私たちの体がどのようにして出血し、そしてそれを止めようとするのか、その基本的なメカニズムを知ることが第一歩となります。
1.1. 鼻血が出る場所:多くは「キーゼルバッハ部位」(鼻の入り口付近)から
NCBI Bookshelfの解説によれば、鼻血のほとんどは、鼻の入り口から約1〜1.5cm内側にある「キーゼルバッハ部位」という場所から発生します7。この部位は複数の細い血管が網の目状に集まっており、粘膜が薄いため、わずかな刺激でも血管が傷つきやすいのが特徴です。この前方からの出血は見た目が派手なことが多い一方、多くは深刻ではなく、適切な圧迫で止血できます。「見た目の派手さ」と「医学的な重症度」は必ずしも一致しないという事実を知っておくだけでも、いざというときのパニックを防ぐ助けになります。
1.2. 血の塊(血栓)の正体:体の正常な防御反応
鼻血と一緒に出てくる血の塊は、体が正常に機能している証拠です。止血の仕組みは大きく4段階に分かれます。まず血管が収縮して出血の勢いを弱め(血管収縮)、次に血小板が傷口に集まって仮のふた(血小板血栓)を作ります。続いて凝固因子が連鎖的に活性化し(凝固カスケード)、NCBI Bookshelfの生理学解説によれば、最終的に線維素(フィブリン)が網を作って赤血球を絡め取り、しっかりとした「血栓」が完成します6。鼻血に混じる血の塊は、この一連の反応の結果であり、いわば「自然な絆創膏」のようなものです。つまり血の塊の存在自体は病気を意味するわけではありません。ただし、非常に大きな塊が頻繁に、または続けて出てくる場合は出血量が多いサインの可能性があり、耳鼻咽喉科で評価を受けることが推奨される、とNCBI Bookshelfは述べています6。
1.3. 前方出血と後方出血の違い:血の塊が大きいときに知っておきたいポイント
鼻血は大きく「前方出血」と「後方出血」に分けられます。多くの人が経験するのはキーゼルバッハ部位からの前方出血です。一方、鼻の奥にある比較的太い血管からの「後方出血」は出血量が多くなりやすく、血液が喉の奥に回り込むため、浜松医科大学の吉見氏らの研究とNCBI Bookshelf(StatPearls)の解説によれば、気づいたときには大きな血の塊となって口から出てきたり、飲み込んでしまったりすることがあります27。
浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の吉見亘弘氏らによる352例の臨床研究では、出血部位(とくに後方出血や中鼻甲介からの出血)が再出血リスクと有意に関連していたと報告されています(P<0.01)2。
| 項目 | 前方出血 | 後方出血 | |
|---|---|---|---|
| 出血源 | キーゼルバッハ部位(鼻の入り口付近) | 鼻の奥の比較的太い血管 | |
| 頻度 | 多い(大部分を占める)7 | 少ないが高齢者に多い2 | |
| 止血の目安 | 圧迫止血で対応可能なことが多い1 | 専門的な処置が必要になりやすい2 | |
| 再出血リスク | 比較的低い | 吉見氏らの研究で出血部位と再出血が有意に関連(P<0.01)2 |
第2部:鼻血の多様な原因 – あなたはどれに当てはまる?
鼻血の原因は一つではありません。日常的な習慣から季節的な要因、さらには年齢や全身の状態まで、様々な要素が複雑に関与しています。ご自身の状況と照らし合わせながら、まずはどのパターンが自分に近いか、下の一覧で確認してみましょう。
| 主な原因カテゴリー | 特徴 | とくに注意したい点 |
|---|---|---|
| 物理的刺激・乾燥 | 鼻をいじる癖、強くかむ習慣、乾燥した室内環境 | キーゼルバッハ部位の粘膜が直接傷つく、最も頻度の高い原因 |
| アレルギー性鼻炎 | 慢性的な炎症で血管が拡張し傷つきやすい状態に3 | 「かゆみ→こする」の悪循環で繰り返しやすい |
| 加齢・服薬(高齢者) | 血管の脆弱化、抗凝固薬・抗血小板薬の服用7 | 止まりにくく、後方出血の割合が高い2 |
| 全身疾患・まれな原因 | 血友病などの血液凝固異常、鼻腔内腫瘍など7 | 頻度は低いが、繰り返す・様子が違う場合は要精査 |
2.1. 最も一般的な原因:物理的刺激と乾燥
鼻血の最大の原因は、キーゼルバッハ部位の粘膜への直接的な物理的刺激です。無意識に鼻をいじる癖や、鼻を強くかむ習慣は、粘膜の血管を傷つける代表的な行為です。また、空気が乾燥する環境では鼻の粘膜も乾燥して脆くなり、わずかな刺激でも出血しやすくなります。とくに冬場の暖房や夏場の冷房が効いた室内は湿度が下がりやすく、加湿による対策が有効とされています。日中こまめに鼻を触る癖がある人は、まずその癖に気づくことが予防の第一歩になります。
2.2. アレルギー性鼻炎と鼻血の悪循環
スギやヒノキの花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎は、日本で鼻血の大きな引き金の一つです。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の解説によれば、アレルギー反応が起きると鼻の粘膜に慢性的な炎症が生じ、血管が拡張して傷つきやすい状態になります3。この状態で「くしゃみ・鼻水・鼻のかゆみ」に悩まされ、鼻を頻繁にかむ、目や鼻をこするといった物理的刺激が加わることで、炎症を起こした脆弱な粘膜が容易に出血してしまいます。これは多くの人が経験する悪循環であり、鼻血そのものを止めるだけでなく、アレルギー症状を耳鼻咽喉科やアレルギー専門医と一緒にコントロールすることが根本的な予防につながります。
2.3. 子どもの鼻血:なぜ頻繁に起きるのか
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、子どもの鼻血について次のように説明しています。「上気道炎による鼻炎やアレルギー性鼻炎、鼻の中に傷がある子どもは、鼻がかゆくていじるために鼻血が出やすくなります。副鼻腔炎による粘膜の炎症や、鼻中隔弯曲症なども鼻出血の原因になります。」3 子どもの鼻の粘膜は大人よりも薄く、血管が表面近くに分布しているため、わずかな刺激で出血しやすい特徴があります。多くは成長とともに自然に減少していく一過性のものですが、頻度が極端に多い、出血量が明らかに多い、あざが増えるなど他の出血傾向がある場合は、小児科や耳鼻咽喉科への相談が勧められます。
2.4. 高齢者の鼻血:注意すべき背景
高齢者の鼻血は、子どもの鼻血とは異なる注意が必要です。単なる粘膜の刺激だけでなく、加齢による血管の変化や服薬状況が複雑に絡み合うため、家族が付き添って状況を確認することも大切です。
- 血管の脆弱化:加齢に伴う動脈硬化などにより、鼻の血管が傷つきやすくなります。
- 服薬の影響:心疾患や脳血管疾患の予防のために抗凝固薬(ワルファリンなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)を服用している場合、NCBI Bookshelf(StatPearls)の解説によれば、血液が固まりにくく、出血が止まりにくくなる傾向があります7。
- 後方出血のリスク:浜松医科大学の吉見氏らの研究によれば、高齢者では、鼻の奥からの後方出血の割合が高くなります2。
2.5. まれだが注意すべき原因
頻度は低いものの、繰り返す鼻血の背景に血友病などの血液凝固異常や、鼻腔内の腫瘍などが関わることがある、とNCBI Bookshelf(StatPearls)の解説は指摘しています7。まれに白血病や肝機能障害、腎不全といった全身疾患が出血傾向と関連することもあるとされており、これらの疾患が疑われるのは、鼻血の頻度や量が急に変化した場合や、あざができやすい、歯茎からも出血する、体重減少や倦怠感を伴うといった他の症状が同時に見られる場合です。「いつもの鼻血」と思い込みすぎず、これまでと明らかに様子が違う場合には、早めに医療機関で相談しましょう。逆に言えば、こうしたサインがなく、乾燥や物理的刺激に心当たりがある場合は、過度に心配しすぎる必要はありません。
第3部:【最重要】エビデンスに基づく正しい鼻血の止め方(応急処置)
いざ鼻血が出たとき、慌てて誤った対処をしてしまうと、かえって出血を長引かせたり、気分が悪くなったりすることがあります。ここでは、世界的なガイドラインで推奨されている科学的根拠に基づいた、正しい止血法を確認しておきましょう。
3.1. やってはいけないNG行動
昔から伝わる民間療法や、直感的にやってしまいがちな行動の中には、医学的に誤っているものが少なくありません。まずは代表的な3つのNG行動とその理由を確認しておきましょう。
- 上を向く:もっともよくある間違いです。上を向くと鼻血が喉の方へ流れ落ち、それを飲み込むと吐き気や気分不良の原因になります。血液が気管に入ると窒息の危険性もあります。
- 首の後ろを叩く:「首の後ろをトントン叩くと止まる」という話がありますが、止血効果を裏付ける医学的根拠はありません。
- ティッシュを奥まで固く詰める:ティッシュを固く丸めて鼻の奥まで詰め込むと、取り出す際にできかけた血の塊を一緒に剥がしてしまい、再出血の原因となります。粘膜をさらに傷つける可能性もあります。
3.2. 世界標準の圧迫止血法
米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)の診療ガイドラインでは、活動性の鼻出血に対して “firm sustained compression to the lower third of the nose, with or without the assistance of the patient or caregiver, for 5 minutes or longer”(鼻の下三分の一を、患者本人または介助者の手で、5分間以上、途切れることなくしっかり圧迫し続けること)が、AAO-HNSガイドラインで推奨されています1。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、子ども向けの解説の中で「小鼻を中心に鼻全体を親指と人差し指で約10分間しっかり押さえてください。座った姿勢にし、のどにまわった血は飲みこまないで、外に出すようにします。」「顔はやや下向きにしましょう。横になった場合でも、あお向けにはならないようにしましょう。」と日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は説明しています3。両者に共通するポイントは、①座った姿勢でうつむき加減にする、②小鼻をしっかりつまむ、③少なくとも5分、できれば10分前後は途切れさせずに圧迫を続ける、という3点です。
- 姿勢:椅子に座り、顔をやや前に傾けます。血液が喉に流れ込むのを防ぎます。
- 圧迫部位:親指と人差し指で小鼻(鼻の柔らかい部分)を両側から強くつまみます。鼻の硬い骨の部分を押さえても出血点は圧迫できません。
- 圧迫時間:少なくとも5分間、できれば10分前後は圧迫を続けます。AAO-HNSと日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が共に指摘するように、途中で手を離すと固まりかけた血栓が剥がれ、また一からやり直しになります13。
- 血液の処理:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の指導どおり、口の中に流れてきた血液は飲み込まず、静かに吐き出してください3。
この症状はすぐに医療機関を受診すべきサイン1
- 適切な圧迫止血を20〜30分以上行っても出血が止まる気配がない
- 出血量が非常に多い(繰り返し飲み込んで嘔吐するなど)
- めまい、ふらつき、顔面蒼白、冷や汗など貧血やショックを疑う症状がある
- 頭や顔面を強くぶつけた後に起きた鼻血
- 抗凝固薬・抗血小板薬を服用中で出血が止まりにくい
- 鼻血以外の場所(歯茎など)からも出血がある
3.3. 応急処置後に鼻に残った血の塊の対処法
止血ができた後、鼻の中に血の塊が残って不快に感じることがありますが、無理に指やティッシュで取り除くのは避けてください。血の塊は傷ついた血管を保護する「かさぶた」の役割を果たしているため、これを剥がすと再出血のリスクが非常に高まります。基本的には自然に体外に排出されるのを待つのが最も安全で、不快感が強い場合は市販の生理食塩水ミストなどで湿らせてから優しく片方ずつ鼻をかむ程度に留めましょう。とくに就寝前に血の塊が気になっても、寝ている間に無意識にいじってしまわないよう注意することも、翌朝の再出血を防ぐポイントの一つです。
3.4. なぜ「5〜10分」が目安なのか
「本当に止まっているか気になって、すぐ手を離してしまう」というのは、鼻血の対処でもっとも多い失敗の一つです。血栓(血の塊)が傷口をしっかりふさぐには一定の時間が必要で、圧迫を早く解除すると固まりかけた血栓が崩れ、また出血が再開してしまいます。時計やスマートフォンのタイマーで時間を計りながら、途中で様子を確認したい衝動を我慢して圧迫を続けることが、結果的にもっとも早く出血を止める近道です。
第4部:日本と海外のガイドライン比較
鼻血の止め方は国際的にほぼ共通していますが、圧迫時間の表現には細かな違いがあります。両者を比べることで、実践すべき「安全な最低ライン」が見えてきます。日本国内の情報だけを見ていると気づきにくい視点ですが、海外の大規模ガイドラインと比較することで、家庭での対処法により自信を持って取り組めるようになります。
| 項目 | 日本(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会) | 米国(AAO-HNS、2020年) |
|---|---|---|
| 圧迫部位 | 小鼻を中心に鼻全体3 | 鼻の下三分の一(lower third of the nose)1 |
| 圧迫時間 | 約10分間3 | 5分間以上(5 minutes or longer)1 |
| 姿勢 | 座って、顔はやや下向き。仰向けは避ける3 | 座位を基本とし、活動性出血への即時対応を重視1 |
いずれのガイドラインも「座って・下向き・小鼻をしっかりつまむ」という基本は共通しており、圧迫時間は「最低5分、できれば10分前後」を目安にすると両方の推奨を満たせます。表現の違いは「最低限の目安」か「余裕を持った目安」かという伝え方の差であり、内容が対立しているわけではありません。実際に鼻血が起きたときは、短く切り上げたい気持ちを抑え、長めの時間で圧迫しておくほうが再出血を防ぎやすいという点は共通しています。
また、AAO-HNSガイドラインは鼻腔パッキングの種類選択や、抗凝固薬服用中の患者への対応、難治性の場合の外科的・血管内治療まで幅広く扱っており、家庭での応急処置だけでなく、医療機関での専門的な治療方針を検討するうえでも国際的に参照される基準となっています1。日本国内で治療を受ける場合も、耳鼻咽喉科医はこうした国際的なエビデンスと日本国内の学会見解の両方を踏まえて治療方針を決定しています。
第5部:最新研究より — トラネキサム酸(TXA)局所使用の効果
近年、止血作用のあるトラネキサム酸(TXA)を染み込ませた綿を出血部位に当てる局所療法が研究されています。この治療法に関する系統的レビューでは、局所トラネキサム酸を評価した研究の結果は一様ではなく、効果を示さなかった研究がある一方で、対象規模が最も大きかった研究では急性の鼻出血に対する有意な効果が報告されています5。この治療は医療機関で行われるものであり、家庭での自己判断による使用は推奨されません。研究間で結果にばらつきがあるため、今後さらなる大規模研究での検証が待たれる分野です5。
トラネキサム酸はもともと止血目的で広く使われてきた薬剤で、鼻出血への応用は比較的新しい研究テーマです。系統的レビューでは、対象とした複数の研究のうち、規模が大きい研究ほど良好な結果を示す傾向が見られた一方、小規模な研究では有意差が確認できなかったものもあり、KamhiehとFoxによる系統的レビューでは、研究デザインや対象患者の違いが結果に影響している可能性が指摘されています5。実際にこの治療を受けるかどうかは、担当医が出血の状況や患者の背景(服薬状況や既往歴など)を踏まえて判断するものであり、患者自身が薬局等で入手して自己流に試みることは避けるべきです。
第6部:病院へ行くべき? – 受診のタイミングと専門的な治療法
ほとんどの鼻血は家庭での応急処置で対応可能ですが、中には専門的な治療が必要なケースや、危険なサインが隠れている場合があります。「どこまでが自宅で様子を見てよい範囲で、どこからが受診が必要なラインなのか」を知っておくことは、とても重要です。
家庭での圧迫止血で止まらない場合や、繰り返す鼻血の原因を調べる必要がある場合、耳鼻咽喉科では以下のような専門的な治療が検討されます。AAO-HNSガイドラインは、鼻腔パッキングと焼灼術という2つの初期治療の選択、抗凝固薬服用中の患者への対応、難治性の場合の外科的・血管内治療まで、一連の診療方針を扱っています1。
医療機関ではまず、鼻鏡や細いカメラである内視鏡(ファイバースコープ)を使って鼻の奥まで詳しく観察し、どこから出血しているのかを突き止める診察が行われます。これにより、前方からの出血か、より専門的な処置が必要な後方からの出血かを判断します。必要に応じて、貧血の程度や血液の凝固機能を調べる血液検査、副鼻腔や腫瘍の有無を確認する画像検査(CTスキャンなど)が行われることもあります。
5.1. 焼灼(しょうしゃく)療法:出血点をピンポイントで塞ぐ
出血している血管そのものを焼き固めて止血する方法です。外来で比較的簡便に行える化学焼灼(硝酸銀などを用いる方法)と、より確実な止血が必要な場合に行う電気焼灼(バイポーラなど)があります。この方法は強力ですが、まれに鼻の左右を隔てる壁(鼻中隔)に穴が開く「鼻中隔穿孔」というリスクもあるため、医師が出血部位や範囲、患者の状態を見極めたうえで慎重に選択します。
5.2. 鼻腔パッキング(タンポン)
焼灼が難しい場合や出血点が特定できない場合に、ガーゼやスポンジ状の素材を鼻の中に隙間なく詰め込み、内側から出血点を圧迫して止血する方法です。素材にはいくつかの種類があります。従来から用いられているガーゼなどの非吸収性パッキングは、数日後に医師が取り出す必要があります。一方、ジェルフォームや酸化セルロースといった、体内で自然に溶けて吸収される吸収性パッキングは抜去の必要がなく患者の苦痛が少ないため、AAO-HNSガイドラインは、とくに抗凝固薬を使用している患者に推奨しています1。処置後は数日間、鼻づまりや頭痛、涙が止まらないといった不快な症状を伴うことがあり、医師の指示に従って無理に鼻をかんだりいじったりしないことが大切です。
5.3. 難治性の場合:外科的治療・血管内治療
上記の処置を尽くしても止血が困難な、まれな難治性のケースでは、内視鏡を使って出血に関わる動脈をクリップで留めたり焼き固めたりする「内視鏡下蝶口蓋動脈結紮術」などの外科的治療や、足の付け根などからカテーテルを血管内に挿入して出血している動脈を塞ぐ「血管塞栓術」といった血管内治療が検討されることがある、とAAO-HNSガイドラインは述べています1。これらはいずれも、家庭での応急処置では対応できない場合の最終的な選択肢であり、専門医が出血部位・全身状態・服薬状況を含めて総合的に判断したうえで実施されます。高齢者や全身疾患を抱える患者では、こうした処置に伴うリスクとベネフィットを慎重に見極める必要があるため、複数の診療科が連携して治療方針を決めることも少なくありません。
第7部:繰り返す鼻血を防ぐために – 日常生活でできる予防策
一度きりの鼻血であれば適切な応急処置で十分ですが、頻繁に繰り返す場合は、日常生活の中に原因が潜んでいる可能性があります。日々の少しの工夫で、鼻血のリスクを大幅に減らすことができます。
4.1. 鼻粘膜を健やかに保つ
- 保湿が鍵:鼻粘膜の乾燥は鼻血の大きな要因の一つです。空気が乾燥する季節や冷暖房を使用する環境では、加湿器を使って室内の湿度を50〜60%程度に保つことが有効とされています。就寝時に濡れマスクを着用することも、睡眠中の鼻の乾燥を防ぐ工夫の一つです。
- 直接保湿:白色ワセリンや市販の鼻用保湿ジェルなどを、清潔な綿棒で鼻の入り口(キーゼルバッハ部位あたり)に優しく薄く塗布することも、粘膜を乾燥や刺激から守る手段の一つとして知られています。
- 刺激を避ける:鼻をいじる癖がある場合は意識してやめ、鼻をかむ際は片方ずつ優しくかむことを心がけましょう。アレルギー性鼻炎がある人は、抗ヒスタミン薬の内服や点鼻ステロイド薬の使用によって症状そのものをコントロールすることが、鼻粘膜への刺激を減らし、鼻血の根本的な予防につながります。
4.2. 全身状態の管理
- 血圧管理:高血圧そのものが出血の直接的な原因になるとは限りませんが、AAO-HNSガイドラインは血圧が高い状態にある患者の鼻出血管理を扱っており、既往のある方は定期的な受診と生活習慣の管理が勧められます1。血圧が高いと、いったん始まった出血の勢いが強くなり、止まりにくくなる場合があるためです。健康診断などで高血圧を指摘されている方は、減塩や適度な運動といった生活習慣の改善も、鼻血の予防という観点から意味を持ちます。
- 禁煙:喫煙は血管の収縮や血流にも影響を与えるだけでなく、鼻の粘膜を乾燥させ、刺激することが知られています。禁煙・節煙は鼻血だけでなく全身の血管の健康にとってもプラスに働きます。
- 止血後の過ごし方:止血できた後もしばらくは血管が再出血しやすい状態にあります。鼻を強くかむ、長時間の熱い入浴、激しい運動、飲酒といった血圧を上げやすい行動は控えめにするとよいでしょう。
- 抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の人:薬を自己判断で中止・減量せず、鼻血が頻繁に起きる場合は処方医に相談したうえで、NCBI Bookshelf(StatPearls)の解説が勧めるとおり、耳鼻咽喉科でも粘膜の状態を確認してもらうと安心です7。血栓症の再発リスクと鼻血のリスクを天秤にかけた判断は、必ず処方医が行うべきものです。
受診時に医師へ伝えたいことメモ(印刷して持参できます)
診察の限られた時間の中で状況を正確に伝えられるよう、受診前に以下の項目をメモにまとめておくと、原因の特定や治療方針の判断がスムーズになります。
- 鼻血はいつから、どのくらいの頻度で起きているか
- 1回あたりの出血量・血の塊の大きさと頻度
- 現在服用中の薬(とくに抗凝固薬・抗血小板薬の有無)
- 頭や顔をぶつけた出来事の有無
- めまい・貧血症状・他の場所からの出血の有無
- アレルギー性鼻炎や高血圧など、既往歴の有無
- 医師に確認したいこと(自宅での圧迫時間、再発予防のポイントなど)
妊娠中の鼻血の頻度変化や、鼻血と特定の食生活・サプリメント摂取との関連性については、今回参照した学会ガイドライン・臨床研究の中には明確な数値データの記載が見当たりませんでした。ホルモンバランスの変化により粘膜がむくみやすくなるといった一般的な説明はありますが、定量的な発生率までは確認できていません。個別の状況については産婦人科や耳鼻咽喉科に直接ご相談ください。
よくある質問
なぜ朝起きると鼻血が出ていることがあるのですか?
血液をサラサラにする薬を飲んでいますが、鼻血が出たら自己判断で中止しても良いですか?
鼻血で貧血になることはありますか?
レバーのような大きな血の塊が出てきましたが、病気でしょうか?
子どもが頻繁に鼻血を出しますが、心配すべきですか?
鼻血が止まった後、すぐお風呂に入っても大丈夫ですか?
鼻血が20分以上止まりません。救急車を呼ぶべきですか?
片方の鼻だけ繰り返し出血するのは何か特別な意味がありますか?
鼻血を予防するために毎日できることはありますか?
結論
鼻血とそれに伴う血の塊は、多くの場合、体の正常な止血反応です。キーゼルバッハ部位からの前方出血が一般的であり、「うつむいて小鼻をしっかり圧迫する」という世界標準の応急処置を知っておけば、大半のケースは家庭で安全にコントロールできます。同時に、乾燥やアレルギー、高齢での服薬、後方出血など多様な背景があることも事実です。日々の保湿やアレルギー症状のコントロール、血圧・服薬の管理といった予防策を地道に心がけることが、繰り返す鼻血からの解放につながります。そして最も大切なのは、「止まらない」「量が多い」「頻繁に繰り返す」といった危険なサインを見逃さないことです。これらに気づいたときは、決して自己判断で放置せず、ためらわずに耳鼻咽喉科を受診してください。その一歩が、あなた自身とご家族の健康を守るうえでもっとも確実な行動です。
重要:専門医への相談
この記事で提供された情報は、ご自身の症状を理解するための参考です。しかし、最終的な診断や治療方針は必ず専門医による診察に基づいて決定されるべきです。不安な症状が続く場合や本記事の「危険信号」に当てはまる場合は、速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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突然の鼻血や血の塊を見ると誰しも動揺してしまうものですが、まずは深呼吸をして落ち着くことが大切です。全体像を把握することで、いざという時に冷静に行動できるようになります。耳鼻咽喉科疾患 完全ガイドも参考にしてください。
出血が起きた際、最も重要なのは「正しく止めること」です。確実な鼻血の止め方を実践することで、大半の出血は家庭で安全にコントロールできます。
繰り返す鼻血を防ぐには環境要因への対策も欠かせません。エアコンによる鼻の乾燥は粘膜を傷つけやすくするため、加湿や保湿ケアが再発予防の鍵となります。
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