はじめに
斜視手術は、目の筋肉のバランスを調整することにより、両眼視機能を向上させると同時に、見た目における視線のズレを改善する重要な医療行為です。日常生活や社会生活において、視線の乱れは本人の心理面や対人関係に深く影響することがあり、対象物を正しくとらえられない状態は大きな精神的負担となる場合があります。そのため、手術で視線のズレを整え、より自然な見た目と両眼視を獲得することは、心理的な自信回復にもつながります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
しかし、実際に手術を検討する段階になると、「手術は具体的にどのような手順で進むのか」「費用はどの程度かかるのか」「術後の回復にはどれほどの期間が必要なのか」といった切実な疑問が浮かぶのも事実です。こうした疑問や不安を解消するためには、正確かつ信頼性の高い情報が必要不可欠です。
JHO編集部では、斜視手術を検討している方々や、そのご家族・知人に向けて、信頼のおける専門知識と医療機関の情報をまとめました。本記事が、これから手術を受ける方やその周囲の方々にとって、有益な参考資料となることを願っています。
専門家への相談
本記事は、長年の研究実績と臨床経験に裏打ちされた確かな医学的根拠と権威ある情報源に基づき執筆されています。たとえば、American Academy of OphthalmologyやCleveland Clinicなど、視覚・眼科分野で世界的に高い評価を得ている医療機関が公開している資料を参照しています。これらの機関は、豊富な研究や臨床データに基づいて最新かつ正確な知見を提供しているため、斜視に関する情報収集の際には非常に信頼度が高いとされています。
さらに、本記事の末尾にある参考資料には、視覚や斜視に関して詳細な説明を掲載している信頼性の高いウェブサイトが挙げられています。読者が自主的に確認・検証できる形で情報源を示すことで、情報の透明性と正確性を担保しています。こうしたエビデンスや専門家の知見をもとに、読者が安心して読み進められる内容を提供することを目指しています。
斜視手術に関する基本情報
斜視手術とは何か?
斜視とは、一方の目が正面の対象物を注視している際に、もう一方の目が異なる方向を向いてしまう状態のことです。原因は多岐にわたり、遺伝的要因、神経や筋肉の制御の問題、生後早期の視覚発達過程でのトラブルなどが考えられます。斜視は見た目だけでなく、両眼視の際に重要となる立体視や深視力の獲得にも影響を及ぼし、放置すると片眼の視力が低下して弱視に傾く場合もあるため、生活の質(QOL)の観点からも見逃せない問題です。
斜視手術では、筋肉バランスの崩れを外科的に整えることで視線の向きを修正します。具体的には、眼球を動かす筋肉の付着位置や長さを調整し、両眼がより自然かつ整合性のある方向を向くようにします。手術は比較的安全とされ、一般的な成功率は約80〜90%と高い傾向にあります。ただし、視線が整うことで外見上の問題や両眼視の機能は改善しても、必ずしも視力そのものが向上するわけではありません。そのため、弱視が疑われる場合などは術後に別途トレーニングや視力矯正が必要になる可能性もあります。手術を受ける前にこれらの点を把握しておくことで、より現実的な期待値をもって治療に臨むことができます。
なお、近年では斜視の病態解明に関する研究がさらに進んでおり、たとえば筋肉の走行と眼球の回旋との関連を調査した報告(Chang MYら, 2020, Investigative Ophthalmology & Visual Science, 61(13):41, doi:10.1167/iovs.61.13.41)では、外直筋の位置関係が斜視の種類によって変化しうることが示唆されています。このような新たな知見により、手術手技や方針のさらなる最適化が検討されています。
斜視手術の適用時期
斜視手術は、視覚発達の観点から、できるだけ早期に行うことが望ましいとされています。特に成長期の小児では、両眼視機能の獲得・維持に「視線の整合性」が極めて重要だからです。幼少期から視線をそろえておくことで、立体的に物を見る力や両眼視の協調が正常に育ちやすくなり、長期的な視覚QOLを高めることが期待できます。もっとも、手術の最適時期は患者ごとの状態や合併症の有無、年齢、生活環境、全身の健康状態などにより大きく異なります。そのため、担当医と十分に相談しながら、総合的に判断することが大切です。
実際に、内斜視(内側に偏るタイプ)を持つ乳幼児を対象として筋肉後転術を行った研究(Wang Yら, 2022, Journal of AAPOS, 26(6):325.e1-325.e4, doi:10.1016/j.jaapos.2022.07.003)では、早期(1〜2歳前後)に手術を受けた群ほど術後の両眼視機能の獲得率が高い傾向が報告されています。日本国内でも、小児の斜視矯正においては「学齢前の視機能発達のピーク」に合わせて治療を進めるケースが多く、早期介入のメリットが指摘されています。
斜視手術の前に知っておくべきこと
手術前の準備
斜視手術では、対象者の年齢や健康状態によって麻酔方法が異なります。小児では手術中に動かないようにする必要もあるため、全身麻酔を用いるケースが多いです。全身麻酔で眠った状態なら、子どもが手術中の恐怖や不安を感じにくいだけでなく、医師側もより安全かつ正確に操作を行いやすくなります。一方、成人では局所麻酔を選択し、意識を保ったまま手術を受けられる場合もあります。局所麻酔では、患者が手術中に状況を把握しやすいメリットがある一方で、精神的緊張を感じる方もいるため、術前に医師との十分な相談が必要です。
また、通常は短時間で終了し、日帰り手術として行われることが多いですが、術後の経過観察を慎重に行うために入院となる場合もあります。手術前には、視力や両眼視機能を評価する検査が行われたり、点眼薬の使用やコンタクトレンズの中止期間が設定されたりすることがあります。医師の指示通りに準備を進めることで、トラブルを最小限に抑え、安全な手術を受ける体制を整えましょう。
手術のリスクと副作用
斜視手術は安全性が高いとされますが、外科的手技である以上、リスクや副作用はゼロではありません。代表的なリスクや副作用としては、以下のような例が挙げられます。
- 目の痛み・充血:手術による組織の刺激で、一時的に目が赤く充血したり、軽い痛みを感じたりすることがあります。多くの場合、時間経過とともに落ち着きます。
- 二重視:両眼の視線を新しい位置に調整した後、脳が環境に順応するまで一時的に二重に見えることがあります。数日から数週間程度で改善するケースがほとんどです。
- 感染症・出血:まれではあるものの、手術部位に感染や軽度の出血が発生するリスクは完全に否定できません。痛みや発熱、分泌物などの異常がある場合は、早めに専門医に相談しましょう。
- 瘢痕形成:結膜や筋肉周囲に小さな瘢痕が生じる場合がありますが、通常は見た目や機能に大きな影響を及ぼすことは少ないです。
- 極めてまれなケースとしての視力低下:手術手技や術後の経過中に何らかの重篤な合併症が発生し、視力へ悪影響が及ぶ可能性は非常に小さいながら存在します。
これらのリスクを正しく理解し、実績のある専門医や医療施設を選ぶことが重要です。術後のフォローアップもしっかり受けることで、リスクを軽減しながらより良い手術成果につなげられます。
手術の流れ
手術の具体的な流れ
斜視手術では、筋肉の「緩め」または「締め」の手技によって眼位を修正します。一般的には、以下の2つの方法が代表的です。
- 筋肉を緩める方法
緊張が強い筋肉を一旦眼球から切り離し、後方にずらして再固定することで、過度な張力を和らげる手技です。たとえば内斜視の場合、内側直筋の後転術を行うことで、内側に引っ張られていた目をより正面に向けやすくします。 - 筋肉を締める方法
弱くなった筋肉を短縮し、より前方に固定し直すことで、その筋肉が目を動かす力を強化する手技です。外転運動が苦手な場合、外側直筋を短縮して外方向への可動域を確保する、などの対処が行われます。
さらに、成人の斜視手術では、調整可能な縫合(可変縫合)が取り入れられることがあります。これは術後に患者の協力が可能な場合、縫合糸を微調整して最適な眼位を探る手法で、術後の両眼視機能の仕上がりをより正確に調整しやすくなる利点があります。一方、小児では溶ける縫合糸を用いることが一般的で、おおむね6週間ほどで自然に消失します。
手術後の様子
手術直後は、目の充血や軽い痛み、まぶたの腫れなどが生じやすいです。場合によっては光に対して過敏になり、一時的に視界がぼやけたり、ものが二重に見えたりすることもあります。これらは体が新たな視線位置に慣れるための一時的な現象で、数日から1〜2週間で軽減することがほとんどです。
また、医師からは炎症を抑える点眼薬や感染予防のための軟膏などが処方される場合があります。指示に従って使用を続けることで、合併症のリスクを最小限に抑え、回復を早める効果が期待できます。術後しばらくは激しい運動や長時間のパソコン・スマートフォン使用など、目に大きな負担をかける行為は避け、十分な休養をとることが大切です。
術後の回復と注意事項
術後の回復期間
回復期間には個人差がありますが、多くの場合、6週間程度で外科的な傷口は安定し、眼位も落ち着いてきます。小児の場合は、術後に視機能トレーニングやアイパッチ療法などを組み合わせることで、弱視の予防や両眼視機能の向上が期待できます。手術で視線を揃えるだけでは十分に両眼視機能を確立できないケースでは、こうした追加的ケアが極めて重要です。
また、感染リスクを避けるために、一定期間は温泉やプールなどを控えるように指導されることが多いです。湿気の高い場所や水中では雑菌が繁殖しやすく、術後の傷口を通じて感染が起こる恐れがあるためです。もし眼に強い痛みや視力低下、異常な分泌物がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診しましょう。
費用と施術場所
斜視手術の費用は、患者の症状の重症度や合併症の有無、保険適用の範囲、医療施設の設備などにより大きく変動します。場合によっては入院の必要が生じることもあり、その分の費用が加算されることもあります。たとえば、一例として1眼あたり約30万〜50万ベトナムドンという目安が提示されるケースもありますが、これはあくまでも状況によって増減する参考値にすぎません。
手術を検討する場合は、実績が豊富で信頼度の高い医療機関を選択することが非常に重要です。経験豊富な医師や看護師がいる施設であれば、術前のカウンセリングから術後のケアまで、包括的かつ質の高いサポートを受けられます。
JHO編集部では以下の医療機関を参考情報として挙げています。
- Bệnh viện Mắt Trung Ương (Hà Nội) – 住所: 85 Bà Triệu, Phường Nguyễn Du, Quận Hai Bà Trưng, Hà Nội
- Bệnh viện Mắt TP.HCM – 住所: 280 Điện Biên Phủ, Phường 7, Quận 3, TP.HCM
- Trung tâm Mắt Kỹ thuật cao 30/4 – 住所: 9 Sư Vạn Hạnh, Phường 9, Quận 5, TP.HCM
これらは眼科医療において専門性と実績を重ねてきた施設とされており、手術に関する豊富な経験と充実したアフターケアが期待できます。もちろん、最終的には自身や家族の都合、費用面、立地、担当医との相性なども含めて慎重に検討し、十分な説明を受けたうえで決定することが大切です。
結論と提言
結論
斜視手術は、安全性と成功率が比較的高く、可能であれば幼少期から早期に行うことで、両眼視機能の発達や視線の整合性改善に大きく寄与します。見た目の面でも両目がそろうことで、対人関係や自己肯定感の向上が期待できるのも重要なメリットです。ただし、弱視の傾向がある場合などは手術だけで十分な視力を得られないこともあり、術後に視力矯正やトレーニングを組み合わせる必要が生じます。斜視手術はあくまで「視線を整える」ものであり、視力を改善する目的の治療とは異なることを理解しておきましょう。
提言
斜視手術を考慮する際は、以下のポイントを意識するとより安心です。
- 信頼できる医療専門家との相談
実績豊富な眼科専門医に相談し、手術手技やリスク、費用、術後の回復期間などを納得いくまで確認しましょう。リスクとベネフィットを把握することで、より現実的な判断が可能となります。 - 早期手術によるメリット
特に小児期に行うことで、両眼視機能の正常な発達を促し、将来的により良好な視力・視覚QOLを得られる可能性が高まります。視覚発達が続いている年齢での手術には、大きな意義があります。 - 追加的治療の視野
手術だけで十分な視力が得られない場合は、弱視トレーニングや必要に応じたメガネ・コンタクトレンズなどの視力矯正を併用することで、長期的な視機能の向上を目指せます。術後経過のなかで専門医が最適な治療プランを提案してくれるため、定期的な通院とフォローアップが欠かせません。
これらの点を踏まえ、斜視手術の目的や限界、潜在的なリスクを正しく理解しながら、専門家からのアドバイスを参考に治療計画を立てることが重要です。長期的な視力保護と快適な生活を見据えて、多角的に検討を行うことで、より満足度の高い結果につながるでしょう。
※本記事で紹介する情報は、医療上の一般的な参考情報を目的としたものであり、個人の症状や状態によっては必ずしも当てはまらない場合があります。具体的な治療や判断は、必ず眼科専門医など医療の専門家と十分に相談したうえで行ってください。
参考文献
- Strabismus Surgery アクセス日: 19/10/2022
- Lazy Eye Surgery Facts アクセス日: 19/10/2022
- Strabismus (Crossed Eyes) アクセス日: 19/10/2022
- Strabismus (Misaligned Eyes, Crossed Eyes, or Wall Eyes) アクセス日: 19/10/2022
- Eye Muscle Surgery アクセス日: 19/10/2022
- Strabismus (crossed eyes) アクセス日: 19/10/2022
- Chang MY, Velez FG, Demer JL. (2020). “Relationship between the lateral rectus muscle path and ocular torsion in strabismus.” Investigative Ophthalmology & Visual Science, 61(13):41. doi:10.1167/iovs.61.13.41
- Wang Y, Thompson E, Henderson R, Freedman SF. (2022). “Outcomes of bilateral medial rectus recession for infantile esotropia.” Journal of AAPOS, 26(6):325.e1-325.e4. doi:10.1016/j.jaapos.2022.07.003