糖尿病の断食は危険?低血糖リスクと安全な進め方を解説
この記事でわかること
目次
糖尿病の断食(ファスティング)は、血糖値が70mg/dL(3.9mmol/L)未満まで下がる低血糖を起こしやすく、薬の種類によっては危険を伴います。[2]
この症状、いつ受診すべきか確認しますか?
回答に合わせて必要な質問だけを表示します。診断は行いません。
症状はいつから続いていますか?
回答により質問数が変わります・途中でいつでも記事に戻れます
糖尿病の断食では特にスルホニル尿素(SU)薬やインスリンを使っている方は注意が必要です。ラマダン断食中の研究では、SU薬を使う人の最大約20%、インスリンを使う人の約19%に低血糖が起きたと報告されています[2]。一方で、食事療法のみ・血糖値を下げにくい薬のみの方は低血糖の頻度がずっと低いとされます[2]。断食を考えている場合は、自己判断で薬を止めたり食事を抜いたりせず、必ず事前に主治医に相談してください。
この記事では、糖尿病の断食(ファスティング)を検討する際に知っておきたい低血糖の仕組み、薬剤ごとのリスクの違い、危険なサインの見分け方、そして断食を安全に検討するための具体的な相談ポイントを、公的機関の情報と査読済み医学論文のデータをもとにまとめています。「知恵袋」的な体験談ではなく、数値で裏付けられた情報として活用してください。
要点まとめ
編集方針:JHO編集部がAIツールの支援を受け、日本糖尿病学会(JDS)および査読付き医学論文(Abdelrahim et al., Frontiers in Endocrinology, 2021)と照合して作成しました。最終確認は人の目でおこなっています。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値や分類はガイドラインの改定により変わることがあります。
更新日:2026年8月時点の情報です。誤りや古い情報にお気づきの際は、お問い合わせフォームからお知らせください。内容を確認のうえ訂正いたします。
🔧 断食前に自分でチェックできるリスト
- 直近3か月以内に、意識を失う・人の助けが必要になるような重い低血糖を起こしたことがある → 断食は避けるべき対象です
- SU薬(グリメピリド、グリクラジドなど)またはインスリンを使っている → 主治医に薬の減量・調整を相談してから断食を検討します
- DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬など、低血糖を起こしにくい薬のみを使っている → 比較的リスクは低いとされますが、自己判断ではなく事前相談が前提です
- 妊娠中である、または慢性合併症(腎症・網膜症など)が進行している → 断食は推奨されない場合が多く、必ず主治医の判断を仰いでください(糖尿病の危険因子5つもあわせて確認してください)
- 血糖自己測定器やCGM(持続血糖測定器)を持っていない → 断食中は体調の変化に気づきにくくなるため、測定手段の確保についても主治医に相談してください
このチェックリストはあくまで一般的な目安であり、医学的な診断や薬の変更を自分で判断するためのものではありません。当てはまる項目がある場合は、断食を始める前に必ず主治医に相談し、個別の状況に応じた指示を受けてください。
糖尿病の断食で低血糖が起きる仕組み
糖尿病の断食で低血糖が起きる仕組みを理解するには、まず健康な人の体の働きを知ることが役立ちます。健康な人の体は、食事をとらない時間が続いても血糖値を一定の範囲に保つ仕組みを持っています。肝臓に蓄えられたグリコーゲンが分解されてブドウ糖として血液中に放出され、インスリンの分泌も自然に減っていくため、血糖値は大きく下がりすぎません。ところが、糖尿病の治療でSU薬やインスリンを使っている人は、体内のインスリン作用の量やタイミングが薬で決められた量になっています。食事をとらない断食中も薬の量がそのままだと、体が必要とする以上にインスリンの働きが強くなり、血糖値が下がり続けてしまいます。これが断食中に低血糖が起きやすくなる基本的な仕組みです[2]。
言い換えると、SU薬は「膵臓にもっとインスリンを出すよう促す薬」であり、インスリン注射は「体の外から直接インスリンを補う治療」です。どちらも、食事によって血糖値が上がることを前提にして効果を発揮する仕組みのため、食事がとれない断食中は、薬の働きと体の状態のバランスが崩れやすくなります。反対に、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬など、血糖値が高いときだけ効果を発揮しやすい薬は、断食中の血糖値が下がりすぎる方向には作用しにくいため、比較的低血糖のリスクが低いとされています。
特に注意が必要なのは、SU薬とインスリンを併用している場合です。研究では、SU薬に基礎インスリン(持効型インスリン)を併用している人と比べ、低血糖リスクの低い薬(GLP-1受容体作動薬の一種)に基礎インスリンを組み合わせた場合では、症状を伴う低血糖の発生割合が1.3%対6.8%と、大きな差が報告されています[2]。つまり、同じ「インスリンを使っている」状態でも、組み合わせている薬の種類によって断食中のリスクは大きく変わります。自分がどの組み合わせに当てはまるのかは、薬の名前だけでは判断が難しいため、必ず主治医に確認してください。
また、薬を替えずに断食する場合でも、断食にあたって事前の準備(あらかじめ医療者から断食時の注意点について説明を受けること)を受けていたかどうかも、低血糖の起こりやすさに関係する要因の一つとして研究に挙げられています[2]。何も準備をせずにいきなり断食を始めるより、事前に「どのタイミングで血糖を測るか」「症状が出たらどう対応するか」を決めてから始めるほうが、低血糖に早く気づき、重症化を防ぎやすくなると考えられます。
下の図は、SU薬やインスリンを普段どおりの量のまま断食した場合と、ガイドラインに沿って医師の指導のもとで薬を調整した場合の血糖値の推移イメージを示したものです。断食開始から8〜14時間以降、薬を減量しない場合は血糖値が70mg/dL未満の低血糖域まで下がりやすくなる一方、調整をおこなった場合は正常域に近い範囲で保たれやすいことがわかります。
日本糖尿病学会「1型糖尿病はどのように治療するのか?」[1]およびAbdelrahim et al., Frontiers in Endocrinology, 2021(PMC7984365)[2]のデータをもとにJHO編集部が作図
今の血圧・脈拍を確かめる
数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
身長と体重からBMIも調べる
血圧手帳(この端末に保存)
これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
「断食」「ファスティング」にはいくつかの種類がある
ひとことで「断食」「ファスティング」といっても、実際に行われている方法にはいくつかの種類があります。1日のうち食事をとる時間を限定する「時間制限食(16時間食べない・8時間の間に食事をとる、といった方法)」、週のうち特定の曜日だけ食事量を大きく減らす方法、そして今回中心的に取り上げたラマダン断食のように、日の出から日没まで長時間にわたり水分も含めて口にしない方法まで、断食時間の長さも内容も大きく異なります。断食の時間が長くなるほど、また水分もとらない方法であるほど、低血糖・脱水・起立性低血圧のリスクは高くなると考えるのが基本的な向き合い方です。
今回紹介した研究データは、日の出から日没まで水分も含めて断つラマダン断食を対象にしたものであり、日本で近年広まっている時間制限食(いわゆる16時間断食など)とは断食の長さも水分制限の有無も異なります。時間制限食であっても、SU薬やインスリンを使用している方であれば低血糖のリスクがゼロになるわけではないため、どのような方法であっても事前に主治医へ相談することが前提になります。
糖尿病の断食に関する情報を探すとき、近年は健康法・ダイエット法として断食やファスティングを紹介する情報が増えていますが、その多くは糖尿病がない健康な人を想定した内容です。糖尿病があり、血糖値を下げる薬を使っている場合は、健康な人向けの情報をそのまま実践すると低血糖などの思わぬリスクにつながることがあります。断食に関する情報を集める際は、「糖尿病がある人向けの注意点が書かれているか」を確認する視点を持つことをおすすめします。
低血糖の基準値と薬剤ごとのリスクの違い
| 薬剤・治療法 | 断食中の低血糖リスク | 備考 |
|---|---|---|
| SU薬(スルホニル尿素薬) | 最大約20% | 血糖値に関わらずインスリン分泌を促すため、リスクが高いとされる[2] |
| インスリン療法 | 約19% | 断食中の食事量や運動量の変化に合わせた減量の相談が重要[2] |
| OHA(経口血糖降下薬)単独 | 約5% | SU薬を含まない場合は相対的に低いとされる[2] |
| SU薬からシタグリプチン(DPP-4阻害薬)へ切り替え | 症状を伴う低血糖:2.1%(SU薬群は5.4%) | 血糖値70mg/dL以下を伴う症状が確認された割合。切り替えで約50%のリスク低下が報告されている[2] |
出典:Abdelrahim D, et al.「Impact of Ramadan Diurnal Intermittent Fasting on Hypoglycemic Events in Patients With Type 2 Diabetes」Frontiers in Endocrinology, 2021(PMC7984365)[2]
低血糖だけではない、断食にともなうその他のリスク
糖尿病がある人の断食では、低血糖以外にもいくつかのリスクが報告されています。Abdelrahimらの研究では、断食にともなうリスクとして低血糖(HE)に加えて、起立性低血圧(立ちくらみ)、脱水、血液の粘度が高まることによる糖尿病性ケトアシドーシス、そして特に1型糖尿病では血栓症のリスクが挙げられています[2]。低血糖はこの中でも糖尿病の管理において最も深刻で対応が難しい合併症の一つとされています[2]。
脱水や起立性低血圧は、長時間水分をとらないことに加え、暑い時期の断食や、利尿作用のある薬(SGLT2阻害薬など)を併用している場合にリスクが高まります。立ちくらみやめまいを感じた場合は、無理に断食を続けず、水分(可能であれば経口補水液など)を摂取し、それでも改善しない場合は医療機関に相談してください。ケトアシドーシスは主に1型糖尿病の方や、インスリンを大幅に減らしすぎた場合に起こりやすいとされ、強い喉の渇き・吐き気・呼吸が荒くなるなどの症状が特徴です。これらの症状がある場合も、低血糖のサインと同様に、自己判断で断食を続けず医療機関に連絡してください。
これらのリスクは、低血糖のように「数値」だけで判断できるものばかりではありません。だからこそ、断食中は体調の変化に普段以上に注意を払い、少しでもいつもと違うと感じたら断食を中断する判断を優先することが大切です。「断食を最後まで続けること」よりも「安全に体調を保つこと」を優先する姿勢が、糖尿病がある方の断食では特に重要になります。
誰が特にリスクが高いか — 年齢・罹病期間・事前の準備
低血糖の起こりやすさは、使っている薬の種類だけでなく、複数の要因(研究では「モデレーター」と呼ばれます)によっても変わることが報告されています。研究がまとめた要因には、性別、居住地域、体格指数などの身体的指標、季節、食事の内容、断食する時間の長さ、糖尿病と診断されてからの期間、そして断食前の教育(あらかじめ医療者から断食時の注意点の説明を受けているかどうか)が含まれます[2]。
断食前の教育がなぜ重要かというと、リスクを知っていても断食そのものをやめる人は少ないという実態があるためです。EPIDIAR研究(複数の国のイスラム教徒を対象にした調査)では、1型糖尿病の42.8%、2型糖尿病の78.7%が、リスクがあるとされているにもかかわらずラマダン期間中15日以上断食を継続していたと報告されています[3]。この結果から、断食を「やめさせる」ことよりも、断食を行う前提で安全に進めるための知識を伝える「断食前教育」が重要だと考えられています[3]。
特に、糖尿病の罹病期間が長い人ほど、体内でインスリンを分泌する力が弱くなっていたり、すでに薬の種類・量が変更されている場合が多く、断食による血糖変動の影響を受けやすい傾向があります。研究に含まれたある大規模な前向き観察研究では、対象者の罹病期間の中央値は9.1年で、約半数(46.7%)が罹病期間10年以上でした[2]。長く糖尿病を患っている人ほど、断食を検討する前に主治医との相談を丁寧に行う必要があるといえます。
季節や気候も低血糖・脱水のリスクに影響する要因として研究に挙げられています[2]。気温が高い時期に水分制限のある断食を行うと、脱水や熱中症のリスクが重なりやすくなります。日本で断食・ファスティングを検討する場合も、真夏の高温期は特に慎重な判断が必要です。断食を行う季節や時間帯を選べるのであれば、気温が比較的穏やかな時期を選ぶことも、リスクを下げる一つの工夫になります。
| リスクに影響する要因 | 断食中のリスクへの関わり方 |
|---|---|
| 使用している薬の種類(SU薬・インスリンなど) | 低血糖リスクに最も直接影響する要因[2] |
| 糖尿病の罹病期間 | 長いほどインスリン分泌力が弱く、影響を受けやすい傾向[2] |
| 季節・気温 | 暑い時期は脱水・熱中症のリスクが重なりやすい[2] |
| 断食前の教育の有無 | 事前に注意点の説明を受けているかどうかがリスクに関わる[2] |
| 断食する時間の長さ | 長時間・水分制限を伴うほどリスクが高まる傾向[2] |
出典:Abdelrahim D, et al., Frontiers in Endocrinology, 2021(PMC7984365)[2]
🚦 すぐに受診・救急対応が必要なサイン
- 手足の震え(振戦)、冷や汗、動悸、強い空腹感が急に現れた → まず血糖値を測定し、糖分(ブドウ糖約10〜15g相当のジュースや飴玉など)を摂取してください
- 糖分を摂取しても15分程度で症状が改善しない、または血糖値が70mg/dL未満のまま → 再度糖分を摂取し、それでも改善しなければ医療機関に連絡してください
- ろれつが回らない、言動がおかしい、強い眠気や混乱、意識がもうろうとしている → 低血糖による意識障害の可能性があります。自分で糖分を摂取できない状態であれば、周囲の人はためらわず119番通報してください
- けいれんを起こした、呼びかけに反応しない → ただちに119番通報し、救急対応を受けてください
受診の目安となる診療科は内科・糖尿病内科です。低血糖による救急搬送の場合は健康保険が適用され、自己負担は通常3割です(高額療養費制度の対象になる場合もあります)。
日本と海外(ラマダン断食研究)のガイドライン比較
日本ではイスラム教のラマダンのような宗教的断食を行う人は少数ですが、糖尿病があるまま長時間食事をとらない断食・ファスティング全般に共通するリスクの考え方として、ラマダン断食中の糖尿病患者を対象にした海外の大規模なシステマティックレビュー(Abdelrahim et al., 2021)は参考になります。この研究は3,389件の研究から68件(無作為化比較試験35件、観察研究33件)を精査し、低血糖の頻度と関連要因をまとめたものです[2]。数千件規模の研究から厳選された68件のデータであるため、断食中の低血糖という限定的なテーマにおいては、現時点で入手できる中でも情報量の多い資料の一つと考えられます。
| 項目 | 日本糖尿病学会の基本的な考え方 | 海外のラマダン断食研究(Abdelrahim et al., 2021) |
|---|---|---|
| 断食・体調不良時の対応 | 体調不良(シックデイ)や食事量が減る場面では、インスリンなどの量を自己判断で変えず主治医に相談することを基本方針としている[1] | 薬剤の種類ごとに断食中の低血糖リスクを数値化し、SU薬からより低血糖リスクの低い薬剤への切り替えを検討する研究データを提示[2] |
| 低血糖の基準 | 「低血糖」という状態そのものへの注意喚起が中心で、断食に特化した数値基準は一般向け資料には明記されていない | 血糖値70mg/dL(3.9mmol/L)未満を低血糖の定義として統一的に採用[2] |
日本糖尿病学会の一般向け資料は、断食という行為そのものに特化した数値基準までは示しておらず、体調不良時や食事量が変化する場面での薬剤調整を主治医と相談するという原則を伝えるにとどまっています[1]。海外のラマダン断食研究は、薬剤ごとの低血糖発生割合を具体的な数値で示している点で情報量が多く、日本の医療機関でも治療方針を考えるうえでの参考データとして活用され得ます。ただし、対象者の生活習慣や食事内容は日本の一般的な断食・ファスティングとは異なるため、数値をそのまま自分に当てはめず、必ず主治医と相談してください。
断食にともなうリスクを考えるうえでは、糖尿病の合併症とは?体への深刻な影響と受診の目安や、罹病期間・年齢によるリスクの違いを解説した糖尿病になりやすいのは何歳から?年代別のリスクと対策もあわせて確認しておくと、自分自身のリスクをより具体的に把握できます。
ここで大切なのは、「日本の学会が断食に特化した数値を出していないから安全」という意味ではない、という点です。日本糖尿病学会の資料が伝えているのは、断食に限らず食事量が変化するあらゆる場面(体調不良時・シックデイなど)に共通する薬剤調整の考え方であり、断食であっても同じ原則が当てはまると理解するのが適切です[1]。数値基準がないことを「大丈夫」の根拠にせず、海外の研究データも参考にしながら、主治医と一緒に自分自身のリスクを確認する姿勢が重要です。
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
断食を考えたときに主治医に相談すべきタイミングと内容
断食(ファスティング)を検討している場合、始める直前ではなく、できれば数週間前から主治医に相談することが望ましいとされます。理由は、薬の種類によっては減量や切り替えに時間をかけて様子を見る必要があるためです。特にSU薬やインスリンを使用している方は、断食期間中の血糖モニタリングの頻度を増やす、あるいは断食中止の目安となる血糖値をあらかじめ主治医と決めておくといった準備が重要になります。
相談の際に役立つ考え方として、次の3つを押さえておくと医師とのやりとりがスムーズになります。第一に「現在使っている薬の種類(低血糖リスクが高いか低いか)」、第二に「直近3か月以内の低血糖の既往(重症だったか、意識障害を伴ったか)」、第三に「断食の方法・期間(水分をとらないのか、時間制限食なのか)」です。これらの情報を整理したうえで相談すると、薬の減量が必要かどうか、そもそも断食を避けるべきかどうかの判断材料になります。
なお、断食中に体調不良(発熱・下痢・嘔吐など、いわゆるシックデイ)が重なった場合は、断食の継続よりも体調管理を優先すべき場面です。日本糖尿病学会も、体調不良時にはインスリンなどの量を自己判断で変えず主治医に相談することを基本方針として示しています[1]。断食中にシックデイが重なった場合は、無理に断食を続けず、いったん中止して医療機関に相談することを優先してください。
断食を検討する際に押さえておきたい一般的な注意点
断食を安全に検討するための一般的な考え方として、次のような点を押さえておくと、主治医との相談もスムーズになります。まず、断食を始める前後で血糖値を測る回数を普段より増やし、変化のパターンを把握しておくことです。断食開始後、いつ頃から血糖値が下がり始めるかは人によって異なるため、自分自身のデータを持っておくことが安全につながります。
次に、低血糖が起きたときにすぐ対応できるよう、ブドウ糖約10〜15gなど吸収の早い糖分を必ず手元に置いておくことです。断食中であっても、低血糖の症状が出た場合は糖分を摂取することが優先されます。これは断食の「失敗」ではなく、安全のための正しい対応です。糖尿病があることを示すカード(糖尿病連携手帳など)を携帯しておくと、万が一意識障害を起こして周囲の人が対応する場合や、救急搬送された場合にも、迅速で適切な処置につながりやすくなります。
さらに、断食を一人で行わず、家族や周囲の人に断食していることを伝えておくことも大切です。特に意識障害を伴う重い低血糖は、本人が自分で対応できない状態になることがあるため、周囲が異変に気づける環境を整えておくことが安全性を高めます。運転や高所での作業など、意識が低下すると危険を伴う活動は、断食中、特に空腹時間が長くなる後半の時間帯は避けることが望ましいと考えられます。
最後に、断食を終える(食事を再開する)タイミングにも注意が必要です。長時間の空腹の後に一度に大量の食事をとると、今度は血糖値が急激に上昇しやすくなります。空腹の反動で炭水化物や糖分の多いものを一気に食べてしまうと、断食前より血糖コントロールが乱れる場合もあります。食事を再開する際は、消化のよいものから少量ずつとり、血糖値の急な変動を避けることも、断食を安全に行ううえでの一つのポイントです。断食を終えた後の食事内容についても、事前に主治医や管理栄養士に相談しておくと、血糖値の急な上下動を防ぎやすくなります。
🖨️ 受診時に医師に伝えるためのチェックリスト(印刷して持参できます)
診察時間は限られていることが多く、聞きたいことを事前にまとめておくと、限られた時間の中でも必要な情報を的確に伝えられます。以下の項目を印刷し、当てはまる内容を記入したうえで受診時に持参することをおすすめします。
- 断食(ファスティング)をいつから始めたいか、期間はどれくらいか
- 現在使用している糖尿病治療薬の名前と量(SU薬・インスリンを含むかどうか)
- 過去3か月以内に低血糖(意識障害・救急搬送を伴うものを含む)を起こしたことがあるか
- 直近の血糖値・A1C検査の推移
- 妊娠の可能性、腎症・網膜症などの合併症の有無
- 医師に聞きたいこと:断食中の薬の減量方法、低血糖が起きたときの対応、断食を中止すべき血糖値の目安
高齢の方・妊娠中の方が特に注意したいこと
高齢の方は、低血糖の症状(震え・冷や汗など)を自覚しにくくなっていることがあり、周囲が気づいたときにはすでに症状が進んでいるケースもあります。また、複数の持病でいくつもの薬を併用している場合、薬同士の影響で血糖値の変動が予測しにくくなることもあります。高齢の方が断食を検討する場合は、若い世代以上に慎重な事前相談と、家族など周囲の見守り体制を整えることが大切です。
妊娠中に糖尿病がある方(妊娠糖尿病を含む)は、母体だけでなく胎児への影響も考慮する必要があるため、断食は基本的に推奨されない場合が多いとされています。空腹時間が長くなることで母体の低血糖だけでなく、胎児の発育への影響も懸念されるためです。妊娠中に断食を検討している場合は、自己判断は避け、産婦人科と糖尿病の主治医の両方に必ず相談してください。
今回紹介した研究データの限界
今回紹介したAbdelrahimらの研究は、68件の研究(無作為化比較試験35件、観察研究33件)を統合したシステマティックレビューであり、断食中の低血糖に関する現時点で最も網羅的なデータの一つといえます[2]。ただし、対象となった研究の多くはイスラム教のラマダン断食(日の出から日没まで、水分も含めて断つ)を行う人々を対象にしたものです。国や地域、食文化、気候、断食を行う季節も研究によって異なり、含まれる研究間で結果にばらつきがあることも報告されています[2]。
また、この研究は主に2型糖尿病の方を対象としたデータが中心であり、1型糖尿病の方への当てはめには一層の注意が必要です。研究では、断食にともなう血栓症のリスクについて「特に1型糖尿病で」高まるとされています[2]。1型糖尿病はインスリンを自分でほとんど作れない状態であるため、断食中の薬剤調整はより複雑になりやすく、1型糖尿病がある方が断食を検討する場合は、2型糖尿病以上に慎重な主治医との相談が欠かせません。
数値はあくまで「研究に参加した人たちの中での割合」であり、自分自身に同じ割合でリスクが当てはまるとは限りません。年齢、罹病期間、普段の血糖コントロールの状態、他の持病の有無など、個人差が大きく影響します。この記事で紹介した数値は「傾向をつかむための目安」として活用し、自分自身のリスクの最終判断は必ず主治医に確認してください。
断食の種類(時間制限食・複数日にわたる断食など)ごとの低血糖リスクの違いについては、今回参照した資料の中には、日本語で査読を経た大規模研究は見当たりませんでした。今回紹介したデータはイスラム教のラマダン断食を対象とした海外の研究が中心であり、日本で広くおこなわれる短時間の間欠的ファスティングにそのまま当てはまるとは限りません。現時点で確定的な結論を出すことは避け、実施を検討する際は必ず主治医に相談することをおすすめします。
ここまで、糖尿病の断食(ファスティング)における低血糖の仕組み、薬剤ごとのリスクの違い、危険なサインの見分け方、そして安全に検討するための相談ポイントを紹介しました。ポイントを整理すると、低血糖の目安は血糖値70mg/dL(3.9mmol/L)未満であること、SU薬やインスリンを使っている方はリスクが高くなりやすいこと、そして断食を始める前には必ず主治医に相談し、薬の調整が必要かどうかを確認することの3点に集約されます。次のよくある質問も参考に、自分自身の状況を主治医と一緒に確認してから、断食を検討してください。糖尿病全般の症状・治療・合併症については糖尿病の総合ガイドもあわせてご覧ください。
よくある質問
低血糖の症状にはどんなものがありますか?
断食中に低血糖になったらどうすればいいですか?
断食(ファスティング)で糖尿病は改善しますか?
インスリンを使っていますが断食中はどう減らせばいいですか?
SU薬を使っていますが断食は特に危険ですか?
糖尿病の断食は知恵袋の体験談を参考にしてもいいですか?
断食中の水分補給はどうすればいいですか?
断食中にケトアシドーシスになることはありますか?
参考文献
- 日本糖尿病学会「1型糖尿病はどのように治療するのか?」https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=9
- Abdelrahim D, Faris ME, Hassanein M, et al.「Impact of Ramadan Diurnal Intermittent Fasting on Hypoglycemic Events in Patients With Type 2 Diabetes: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials and Observational Studies」Frontiers in Endocrinology, 2021 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7984365/
- Widyastuti AA, Muchtar NH, Nasarudin J, et al.「Improving knowledge on the management of diabetes mellitus during Ramadan」Journal of Taibah University Medical Sciences https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12799565/
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