糖尿病の運動療法ガイドライン|有酸素・レジスタンスの頻度と禁忌
この記事でわかること
目次
- 要点まとめ
- 🔧 合併症別・運動の可否早見表
- 有酸素運動・レジスタンス運動の基準値・分類
- 自覚的運動強度(RPE)と心拍数の対応表
- 糖尿病の運動療法の基本:合併症がなく血糖コントロールが安定している場合
- 第2部:合併症があり、運動に制限がかかる可能性がある場合
- 網膜症がある場合
- 腎症がある場合
- 末梢神経障害がある場合
- 自律神経障害がある場合
- 骨・関節に問題がある場合
- 心血管疾患のスクリーニングは全員に必要か
- 第3部:血糖の状態そのものが運動の可否を左右する場合
- 運動の時間が取れない日は「座りすぎない」だけでも意味がある
- 高強度が難しい人・体力に不安がある人の始め方
- 判断フレーム:この状態なら、こう考える
- 🚦 受診の目安
- 食事と運動のNẾU-THÌ(もし〜なら、こうする)
- 🌍 最新研究より:レジスタンス運動単独でも意味があるという知見
- よくある質問
- 結論:糖尿病の運動療法は合併症で変わる
- 参考文献
糖尿病の運動療法ガイドライン|有酸素・レジスタンスの頻度と禁忌
結論から言うと、糖尿病の運動療法は有酸素運動を中強度で週150分以上・週3回以上(2日以上続けて休まない)、レジスタンス運動を連続しない日程で週2〜3回行うことが、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」で推奨グレードA(合意率100%)として示されています[1]。ただし、前増殖網膜症以上の網膜症、進行した末梢神経障害や自律神経障害、血糖コントロールが著しく乱れている場合には、運動の種類や強度に制限がかかることがあり[1]、開始前のメディカルチェックが前提になります。「みんな同じメニューをやればいい」という話ではなく、合併症の有無で「やっていい運動」が変わるという点が、この記事でもっとも伝えたい核心です。この記事では、糖尿病の運動療法について、合併症別の可否・具体的な頻度と強度の数値・血糖やケトン体による中止の目安まで、根拠となる一次資料を明記したうえで整理しています。
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要点まとめ
- ✓ 日本糖尿病学会のガイドラインでは、有酸素運動は中強度(最大酸素摂取量40〜60%)で週150分以上・週3回以上、レジスタンス運動は週2〜3回・連続しない日程が基本の目安[1]
- ✓ 同ガイドラインでは、前増殖網膜症以上で激しい有酸素運動・ジャンプ・頭を下げる動作・いきむ動作(Valsalva手技)が禁忌となる場合があるとしている[1]
- ✓ 日本糖尿病学会のガイドラインによれば、顕性腎症以上でも運動が腎症を悪化させるという明確な根拠はなく、基本的には身体活動を維持する方向で指導される[1]
- ✓ 米国糖尿病学会(ADA)は、血糖値が高くケトン体が中等度以上出ている状態での運動を明確に禁止している[2]
- ✓ レジスタンス運動は週2〜3回・8〜12回で限界に達する負荷を1〜3セットが目安で、単独でもHbA1cを平均0.55%改善させたとする2025年のメタ解析がある[3]
本記事は、糖尿病の運動療法についてJHO編集部がAIツールの支援を受け、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」および米国糖尿病学会(ADA)の公式声明、査読付き医学論文(PubMed収載)と照合のうえ作成し、最終確認は人の目で行っています。当サイトに医師による監修はありません。数値の根拠となる一次資料はすべて参考文献にリンクしています。ご自身の運動可否は、必ず主治医または理学療法士にご確認ください。
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🔧 合併症別・運動の可否早見表
| 合併症の状態 | 有酸素運動 | レジスタンス運動 | 特に避けたい動作 |
|---|---|---|---|
| 合併症なし・血糖コントロール安定 | 中強度で週150分以上OK | 週2〜3回OK | 特になし(正しいフォームは必須) |
| 単純網膜症 | 制限なく可能な場合が多い | 制限なく可能な場合が多い | 症状により眼科医の判断を優先 |
| 前増殖網膜症以上 | 激しい強度は禁忌となる場合あり | いきむ動作は避ける | ジャンプ・頭を下げる動作・息を止めていきむ動作[1] |
| 微量アルブミン尿 | 制限は基本的に不要 | 制限は基本的に不要 | 運動直後の一時的な尿タンパク増加は病状悪化ではない[1] |
| 顕性腎症以上 | 個別評価のうえ実施が基本方針 | 個別評価のうえ実施が基本方針 | 主治医と相談のうえ強度を調整[1] |
| 末梢神経障害 | 中強度のウォーキングは可 | 重度の場合は評価が必要 | 足潰瘍がある場合は体重をかける運動を制限[1] |
| 自律神経障害 | 暑い環境を避ける | 急な体勢変化を避ける | 脈拍で強度を決めにくい点に注意[1] |
| 血糖250〜350mg/dL+ケトン中等度以上 | 実施しない | 実施しない | ケトンが陰性であれば運動可(米国糖尿病学会=ADA基準)[2] |
| 血糖350mg/dL以上 | 高強度の運動は延期 | 高強度の運動は延期 | ケトンの有無にかかわらず慎重に[2] |
※この表は目安です。個々の合併症の進行度や服薬内容によって判断は変わるため、必ず主治医の評価を受けてください。
有酸素運動・レジスタンス運動の基準値・分類
| 項目 | 導入期の目安 | 慣れてきた後の目安 |
|---|---|---|
| 有酸素運動の強度 | 最大心拍数の50〜60%、自覚的運動強度(RPE)11〜12「楽である」 | 最大心拍数の60〜70%、RPE12〜13「ややきつい」、4〜6メッツ程度 |
| 有酸素運動の頻度・時間 | 週150分以上を目安に、運動しない日が2日以上続かないように | 体力があれば週75分の高強度・インターバル運動でも代替可 |
| 脈拍の目安(簡易法) | 50歳未満:1分間100〜120拍/50歳以上:1分間100拍未満 | 自律神経障害やβ遮断薬服用中は脈拍での強度設定が困難[1] |
| レジスタンス運動の頻度 | 連続しない日程で週2〜3回 | 上半身・下半身の主要筋群を含む5種類以上 |
| レジスタンス運動の負荷 | 10〜15回繰り返せる負荷、またはごく軽い負荷から開始 | 徐々に増加し、8〜12回で限界に達する負荷を1〜3セット |
| 歩数の目安 | 1日あたり現状+2,000歩を目標に段階的に増やす | 最終的に1日8,000歩程度が目安(週150分の有酸素運動=約15,000歩相当)[1] |
自覚的運動強度(RPE)と心拍数の対応表
| 自覚的運動強度(RPE) | 体感の目安 | 主な目標段階 |
|---|---|---|
| 11〜12 | 楽である〜やや楽である | 運動を新しく始めるときの導入段階 |
| 12〜13 | ややきつい | 運動に慣れてきた後の段階(4〜6メッツ程度) |
| 目安の脈拍 | 50歳未満:1分間100〜120拍/50歳以上:1分間100拍未満 | 自律神経障害・β遮断薬服用中は参考程度に留める |
糖尿病の運動療法の基本:合併症がなく血糖コントロールが安定している場合
日本糖尿病学会のガイドラインでは、2型糖尿病の血糖コントロールに対して有酸素運動とレジスタンス運動はいずれも推奨グレードA(合意率100%)として位置づけられています[1]。同ガイドラインでは、有酸素運動は心肺機能を、レジスタンス運動は骨格筋量・筋力を向上させる効果がそれぞれ期待されており、両方を組み合わせることでより大きな血糖改善効果が見込めるとされています[1]。
8週間以上の運動療法を対象としたメタ解析(平均3.4回/週、18週間)では、有意な体重減少は見られなかったものの、HbA1cは平均で0.66%有意に改善したと報告されています[1]。また、最大酸素摂取量の50〜75%の強度で1回約50分、週3〜4回、20週間継続した場合には、最大酸素摂取量が11.8%有意に増加したという報告もあります[1]。
有酸素運動の目標強度は、リスクと効果のバランスから中強度(最大酸素摂取量の40〜60%)が勧められています。日本糖尿病学会のガイドラインでは、導入時は「楽である」〜「やや楽である」程度の強度から始め、慣れてきたら「ややきつい」程度まで段階的に引き上げていく進め方が基本とされています[1]。同ガイドラインは、運動強度が強いほどHbA1cの改善が期待できる一方で、けがのリスクも上がるため、体力レベルに合わせた無理のない設定が重要だとしています[1]。
日本糖尿病学会のガイドラインによれば、もっとも取り組みやすい有酸素運動はウォーキングで、同ガイドラインが引用するメタ解析でも歩行運動だけで血糖コントロールが改善することが示されています[1]。時間で管理するより、目標歩数を歩数計で自己管理するほうがアドヒアランス(継続のしやすさ)や血糖低下効果が良好だったという報告もあり、週150分の有酸素運動はおよそ15,000歩の歩行に相当するとされています[1]。
レジスタンス運動は、マシン・ダンベル・バーベル・ゴムバンド・自重など、個々の体力や環境に合ったものを選んで行います。同ガイドラインでは、高強度の負荷(最大挙上重量の75〜100%)のほうが血糖改善効果は高いとされていますが、フォームが崩れるとけがのリスクが上がるため、初めて取り組む場合や高強度に挑戦する場合は、フィットネスクラブなど専門の指導者がいる環境の利用が勧められています[1]。同ガイドラインは、全身の筋肉の約7割は下半身に集中しているため、時間が限られる場合はスクワットのような下半身中心の種目から始めるのも現実的な選択だとしています[1]。
なお、運動の最初の5分と最後の5分は、それぞれウォームアップ・クールダウンとして徐々に負荷を上げ下げすることが勧められています[1]。強度の目安として使われる自覚的運動強度(RPE)は、本人の主観で「どれくらいきついか」を段階的に評価する指標で、数値が低いほど楽、高いほどきついことを示します。心拍数を測る機器がなくても、「会話をしながら続けられるかどうか」を目安にすると、日常生活の中でも強度を大まかに把握しやすくなります。
第2部:合併症があり、運動に制限がかかる可能性がある場合
日本糖尿病学会のガイドラインでは、運動療法を始める前に糖尿病の代謝コントロール状態に加えて、網膜症・腎症・末梢神経障害・自律神経障害などの合併症、整形外科的な問題を含む身体状態を把握し、運動制限の必要性を検討することが前提とされています[1]。
網膜症がある場合
糖尿病網膜症では、新生血管がもろく、硝子体出血や網膜剥離を誘発するリスクがあります。そのため前増殖網膜症以上の段階では、激しい強度の有酸素運動、ジャンプ、体に衝撃が加わる動作、頭を下げる動作、息を止めていきむ動作(Valsalva手技)が禁忌となる場合があります。日本糖尿病学会のガイドラインでは、激しい運動療法を始める前には眼科医による網膜症のチェックが必要だとされています[1]。米国糖尿病学会(ADA)の声明でも、重度の非増殖網膜症または不安定な増殖網膜症では「激しい運動・ジャンプ・衝撃を伴う動作・頭を下げる動作・息こらえを避ける」としています[2]。同ガイドラインでは、レジスタンス運動でいきむ動作をすると血圧が急上昇し、網膜症を悪化させる可能性があるため、運動開始前に禁忌がないかメディカルチェックを受けることが推奨されています[1]。
腎症がある場合
微量アルブミン尿の段階では、運動直後に一時的に尿タンパク量が増えることがありますが、これは腎症の進行そのものには影響しないと考えられており、むしろある程度の身体活動が腎症の発症・進行を抑制する可能性が同ガイドラインで示唆されています[1]。同ガイドラインでは、顕性腎症以上の患者でも運動は身体機能やQOLを改善しうるため、基本的には身体活動を高める方向での指導が勧められますが、症例ごとの個別判断が必要だとしています[1]。米国糖尿病学会(ADA)も、微量アルブミン尿から顕性腎症の段階まで「ほとんどの活動は問題ない」としており、腎症を理由に運動を一律に制限する考え方はJP・US双方で否定されています[2]。
末梢神経障害がある場合
末梢神経障害があると四肢の痛覚が低下し、痛みの閾値が高くなるため、運動による皮膚障害・感染・Charcot関節破壊のリスクが上がります。同ガイドラインでは、特に重度の末梢神経障害がある場合は感覚障害によるリスクを事前に評価する必要があるとしています[1]。一方で、適切な靴を使用していれば、中強度のウォーキングが足潰瘍や再潰瘍のリスクを高めることはなく、週150分の適度な運動が糖尿病性ニューロパチーの転帰を改善したという報告もあります[1]。末梢神経障害がある人は全員、適切な靴を履き、毎日足を観察して傷や潰瘍を早期に見つけること、傷がある場合は体重をかける運動を控えることが重要です[1]。
自律神経障害がある場合
自律神経障害があると、運動負荷に対する循環応答の低下、起立性低血圧、体温調節障害、視力障害、無自覚性低血糖などにより、運動誘発性の有害事象が起こりやすくなります。特に心血管系の自律神経障害は心血管死や無症候性心筋梗塞の独立した危険因子であり、同ガイドラインでは、その程度によって運動療法の可否が決まるとされています[1]。米国糖尿病学会(ADA)も自律神経障害では「暑い環境での運動を避け、十分な水分補給を行う」「急な体勢変化を避ける」ことを求めています[2]。
骨・関節に問題がある場合
日本糖尿病学会のガイドラインでは、変形性関節症など骨・関節疾患がある場合は整形外科と連携しながら、柔軟運動や患部の関節に配慮したレジスタンス運動など、負荷をかけすぎない適度な運動を選ぶことが基本とされています[1]。「関節に負担がかかるから運動をやめる」のではなく、水中運動や座位でできるレジスタンス運動など、負荷の種類を変えることで運動療法を継続できる場合が多いです。膝や股関節に痛みがある場合は、体重がかかりにくいプールでのウォーキングから始めると、関節への負担を抑えながら有酸素運動の頻度を確保しやすくなります。
心血管疾患のスクリーニングは全員に必要か
無症状の糖尿病患者に対する心血管疾患スクリーニングの最良のプロトコールは、いまだ明確になっていません。ただし、ADAや米国スポーツ医学会(ACSM)は、運動処方の前に全例へルーチンの検査を行うことを必ずしも推奨していません[1]。無症状で、行う運動が速歩程度の軽度〜中強度(日常生活活動の範囲内)であれば、運動負荷試験などのスクリーニングは基本的に不要とされています。一方で、普段より高強度の運動を新たに始める場合、高コレステロール血症・喫煙・心血管疾患の家族歴などリスクの高い患者、ふだんほとんど座って過ごしている人が中強度以上の運動を始める場合には、主治医によるスクリーニングと、必要に応じた運動負荷試験の実施が患者の利益になるとされています[1]。同ガイドラインでは、高リスクの患者には低強度の運動を短時間から開始し、忍容性を見ながら徐々に強度と時間を増やしていくことが勧められています[1]。日頃から医療従事者が病歴を聴取し、労作時の胸痛・息切れ・運動耐容能の低下など、冠動脈疾患の非典型的なサインに注意を払うことも重要だと同ガイドラインは述べています[1]。
第3部:血糖の状態そのものが運動の可否を左右する場合
合併症とは別に、そのときの血糖値・ケトン体の状態そのものが運動の可否を左右します。米国糖尿病学会(ADA)の声明では、血糖値が250〜350mg/dLの範囲でケトン体が中等度〜多量に出ている場合には運動を行わないとされ、血糖値が350mg/dL以上の著しい高血糖では、ADAの声明では、ケトンの有無にかかわらず高強度の運動は延期することが求められています[2]。血糖値が高いだけでケトンが陰性であれば、運動そのものが禁忌になるわけではありません[2]。
反対に、インスリンやSU薬などの薬物療法中に空腹時に運動をすると、低血糖を起こす可能性があります。食後に運動する場合は運動前の追加インスリンの減量を検討し、運動前の血糖値が低い場合は補食を行うことが基本です。日本糖尿病学会のガイドラインによれば、運動による血糖低下作用は48時間程度持続するため、基礎インスリンの減量も考慮の対象になります[1]。ただし、これらのインスリン量の調整は主治医の指示のもとで行うべきものであり、自己判断でインスリン量を変更することは避けてください。1型糖尿病でも同様の注意が必要ですが、運動強度によって血糖値が上昇する場合と低下する場合があり、個々の症例で反応が異なるため、血糖自己測定やCGM(持続血糖モニター)を用いたきめ細かな調整が同ガイドラインで求められています[1]。なお、運動を多く行っている群は、行っていない群に比べて、網膜症や尿中微量アルブミンの発症が有意に低く、DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)や昏睡を伴う重症低血糖(高齢女性を除く)も少なかったとする研究があり[1]、「運動は危険だから避ける」という発想ではなく「状態を見きわめて実施する」という考え方が両国の資料に共通しています。
運動の時間が取れない日は「座りすぎない」だけでも意味がある
「まとまった運動の時間が取れない」という悩みは非常に多いですが、日常生活で座っている時間そのものを減らすことにも独立した効果があります。横断研究では、1日あたり座っている時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の有病率が22%、メタボリックシンドロームの有病率が39%それぞれ増加することが示されています[1]。長時間の座位は、身体活動量で統計的に調整してもなお、2型糖尿病・死亡率・心血管疾患の増加と関連することが報告されています[1]。
介入研究では、2型糖尿病の成人が食後8時間の間に30分ごとに3分間の低強度ウォーキングや簡単なレジスタンス運動を行うことで、食後の血糖値・インスリン値・C-ペプチド値・中性脂肪値が低下したと報告されています[1]。また、1日約14時間の座位時間を、30分ごとに10分程度の立位や軽い歩行に置き換えて座位時間を約4.7時間/日減らした実験では、CGM(持続血糖モニター)で測定した24時間血糖値・高血糖の時間・インスリン感受性の改善が確認されています[1]。これらの根拠から、「座位時間が30分を超えたら一度中断し、軽い運動をはさむ」ことが勧められています[1]。運動のためにジムへ行く時間が取れない日でも、テレビを見ながら30分に一度立ち上がる、デスクワークの合間に階段を1往復するといった工夫は、ガイドラインの根拠に基づいた「立派な運動療法の一部」です。
高強度が難しい人・体力に不安がある人の始め方
「週150分」「週2〜3回のレジスタンス運動」という数字を見ると、体力に自信がない人ほど「自分には無理かもしれない」と感じやすいものです。しかし、ガイドラインが強調しているのは、あくまで個々の体力レベルに合わせて段階的に強度を上げていくという考え方です。有酸素運動を新しく始めるときの目安は、最大心拍数の50〜60%、自覚的運動強度(RPE)でいえば「楽である」〜「やや楽である」程度で構わないとされており、いきなり「ややきつい」強度を目指す必要はありません[1]。
高齢の糖尿病患者では、糖尿病でない人に比べて筋肉量が低下しやすいことが示唆されており、今後の高齢化社会においてはサルコペニア(加齢による筋力・筋肉量の低下)予防の観点からも、レジスタンス運動がより重視されるべき運動様式と同ガイドラインで位置づけられています[1]。国内のフィットネスクラブを利用したレジスタンス運動を含む運動プログラムで、血糖コントロールの改善や糖尿病発症予防効果が報告された例もあり、自己流で無理をするより、専門の指導者がいる環境を活用する選択肢も現実的です[1]。運動用ゲームやアプリを使った12週間の介入研究では、空腹時血糖値・HbA1c・体重・BMIの有意な改善が報告されており、ジムに通う以外の選択肢にも一定の根拠があります[1]。
判断フレーム:この状態なら、こう考える
- もし血糖値が250mg/dL以上で尿ケトンが中等度以上出ているなら、その日は運動を見送り、主治医に連絡してください[2]。
- もし前増殖網膜症以上と診断されているなら、ジャンプ・頭を下げる動作・いきむ動作を避け、激しい運動の前に眼科医のチェックを受けてください[1]。
- もし足に傷や潰瘍があるなら、体重をかける運動は控え、水泳や上半身の運動など負荷のかからない方法に切り替えてください[1]。
- もしインスリンやSU薬を使用していて空腹時に運動する予定があるなら、事前に血糖値を確認し、低ければ補食してから始めてください[1]。
- もし運動中にめまい・強い動悸・冷や汗・意識がもうろうとする感覚があるなら、直ちに運動を中止し、可能な場所で休み、必要ならブドウ糖を摂取してください。
🚦 受診の目安
🟢 通常どおり運動を続けてよい目安:血糖値が安定しており、合併症のスクリーニングで運動制限を指摘されていない場合。
🟡 運動前に主治医・理学療法士へ相談すべき目安:網膜症・腎症・神経障害のいずれかを指摘されたことがある、新たに高強度の運動やこれまでより負荷の高いレジスタンス運動を始めたい、心血管疾患のリスク因子(高コレステロール血症・喫煙・心血管疾患の家族歴など)がある場合[1]。
🔴 運動を中止しすぐに医療機関を受診すべき目安:胸痛・強い息切れ・意識がもうろうとする・冷や汗を伴う強い動悸がある、血糖値350mg/dL以上かつケトン体陽性の状態が続く[2]。判断に迷う症状があれば、内科(糖尿病内科)または当該症状の専門科(網膜症なら眼科、しびれなら神経内科)を受診してください。窓口に迷う場合は、まずかかりつけの糖尿病内科に電話で症状を伝え、指示を仰ぐのが確実です。
食事と運動のNẾU-THÌ(もし〜なら、こうする)
もし運動の直後に急激な空腹感や動悸が出るなら、その症状は低血糖のサインである可能性があるため、ブドウ糖10g程度またはジュース150〜200mlを目安に補食し、15分後に症状が改善するか確認してください[1]。もし食後に運動できる時間帯があるなら、食後高血糖の改善が期待できるため、食後30分〜1時間を目安に取り入れることが勧められます[1]。もし運動のための時間をまとめて確保できないなら、座っている時間を減らすことにも一定の効果があるため、1回30分ごとに軽く体を動かす、あるいは座位時間を1日あたり約4.7時間減らすといった工夫も選択肢になります[1]。
🌍 最新研究より:レジスタンス運動単独でも意味があるという知見
2025年に発表された43件のランダム化比較試験(対象2,012人、平均年齢57.8歳、うち女性55.8%)を統合したメタ解析では、レジスタンス運動が中高年の2型糖尿病患者においてインスリン抵抗性・筋機能・全身性炎症を改善することが報告されています。具体的には、空腹時血糖が平均6.99mg/dL、HbA1cが平均0.55%改善し、筋肉量は平均0.89kg増加、上半身・下半身の筋力にも有意な改善が見られました[3]。これは「有酸素運動だけが糖尿病に効く」わけではなく、レジスタンス運動単独でも血糖・筋力の両面に効果があることを裏づけるデータです。
日本糖尿病学会のガイドラインは有酸素運動「週150分以上・週3回以上」、レジスタンス運動「連続しない日程で週2〜3回」を推奨グレードA(合意率100%)としています[1]。米国糖尿病学会(ADA)の声明も同様に、有酸素運動「週150分以上、少なくとも週3日、2日以上続けて休まない」、レジスタンス運動「連続しない日程で週2〜3回」という同水準の頻度を挙げています[2]。数値そのものはほぼ同じですが、両者の推奨の「強さ」を示す方式(日本糖尿病学会の推奨グレードと、ADAの声明の記載形式)は異なるため、単純に「同じ強さで推奨されている」と言い切ることは避け、数値の並びとして紹介します。一方で、運動を制限すべき血糖・ケトンの具体的な数値(250mg/dL、350mg/dLなど)を明記しているのはADAの声明であり、日本糖尿病学会2024年版のガイドラインには、この記事で確認できた範囲では、同水準の数値基準の明記は見当たりませんでした。血糖・ケトンによる運動可否の数値的な線引きについては、現時点で日米のガイドラインの間に記載の詳しさの差がある、という点は正直にお伝えしておきます。
また、2025年のメタ解析は「中高年(平均57.8歳)」を対象としたデータであり、若年の1型糖尿病患者や、進行した合併症を持つ患者にそのまま当てはまるとは限りません。研究の対象者と、ご自身の年齢・病歴・合併症の有無が近いかどうかを意識して数値を読むことが、正しい活用につながります。運動療法の効果に関する数値は、あくまで「集団としての平均的な傾向」であり、個人の反応を保証するものではない、という前提も踏まえたうえで参考にしてください。
よくある質問
糖尿病の運動療法は毎日行わないといけませんか?
毎日である必要はありません。日本糖尿病学会のガイドラインでは、有酸素運動は週3回以上・運動をしない日が2日以上続かないようにすること、レジスタンス運動は連続しない日程で週2〜3回が目安とされています[1]。無理に毎日行うより、継続できる頻度で長く続けるほうが重要です。
運動療法だけで血糖値は下がりますか?
運動療法単独でもHbA1cの改善は報告されていますが(メタ解析で平均0.55〜0.66%の改善)[1][3]、食事療法・薬物療法と組み合わせるのが基本です。運動だけで血糖コントロールが目標値に届かない場合は、主治医と治療方針を相談してください。
網膜症があると運動は一切できませんか?
一律に禁止されるわけではありません。日本糖尿病学会のガイドラインでは、単純網膜症の段階では制限なく運動できることが多い一方、前増殖網膜症以上では激しい運動・ジャンプ・頭を下げる動作・いきむ動作が禁忌となる場合があるとしています[1]。まず眼科医に運動の可否を確認することが第一歩です。
レジスタンス運動で息を止めるのは、なぜだめなのですか?
息を止めていきむ動作(Valsalva手技)は血圧を急上昇させ、心血管疾患や網膜症を悪化させる可能性があるためです[1]。重りを上げるときに息を吐き、下ろすときに息を吸う呼吸法を意識すると、この動作を避けやすくなります。
運動する時間帯に決まりはありますか?
厳密な決まりはありませんが、食後に運動すると食後高血糖の改善が期待できます[1]。インスリンやSU薬を使用している場合は、空腹時の運動で低血糖を起こしやすいため、運動前の血糖確認や補食のタイミングに注意してください[1]。
足にしびれがあっても運動していいですか?
日本糖尿病学会のガイドラインによれば、適切な靴を履いていれば、中強度のウォーキングが足の潰瘍リスクを高めることはないとされています[1]。ただし、すでに足に傷や潰瘍がある場合は、体重をかける運動を控える必要があります。毎日の足の観察を習慣にしてください[1]。
どのくらいの強度が「中強度」の目安になりますか?
日本糖尿病学会のガイドラインによる簡易的な目安として、脈拍は50歳未満で1分間100〜120拍、50歳以上で1分間100拍未満とされています。自覚的には「楽である」〜「やや楽である」から始め、慣れてきたら「ややきつい」程度まで引き上げるのが基本です[1]。ただし自律神経障害やβ遮断薬服用中は脈拍で強度を判断しづらいため、自覚的な感覚を優先してください[1]。
運動前に必ず医師の検査を受けなければいけませんか?
無症状で、行う運動が速歩程度の軽度〜中強度であれば、必ずしもルーチンの検査は必要ないとされています。ただし、普段より高強度の運動を始める場合や心血管疾患のリスクが高い場合、ふだんほとんど座って過ごしている人が中強度以上の運動を始める場合は、主治医によるスクリーニングが勧められます[1]。
合併症の種類によって、運動の答えはまだはっきりしていないこともありますか?
あります。日本糖尿病学会のガイドラインでは、たとえば1型糖尿病における運動療法の血糖コントロールへの有効性については、現時点で一定の見解が得られていない(推奨グレードU)としています[1]。「運動すれば必ず改善する」と単純化せず、個々の状態に応じた判断が必要な領域が残っている、という点も正直にお伝えします。
まとまった運動時間が取れない日はどうすればいいですか?
座っている時間そのものを減らすだけでも意味があります。30分ごとに3分程度の軽いウォーキングをはさむと、食後の血糖値・インスリン値が低下したという報告があり[1]、階段を使う、家事の合間に立ち上がるといった小さな工夫の積み重ねも運動療法の一部として位置づけられています。
膝や腰に持病があっても運動療法はできますか?
できます。日本糖尿病学会のガイドラインでは、整形外科と連携しながら、柔軟運動や患部に配慮したレジスタンス運動など、負荷をかけすぎない種目を選ぶことが基本とされています[1]。水中運動や座位でできる運動に切り替えることで、無理なく継続できる場合が多くあります。
結論:糖尿病の運動療法は合併症で変わる
糖尿病の運動療法は、有酸素運動を中強度で週150分以上・週3回以上、レジスタンス運動を連続しない日程で週2〜3回行うことが、日本糖尿病学会2024年版ガイドラインの基本方針です[1]。ただし、前増殖網膜症以上・進行した神経障害・血糖やケトンの急激な乱れがある場合には、運動の種類や強度に制限がかかることがあり、自己判断ではなく主治医への相談が前提になります[1][2]。この記事の合併症別早見表を印刷して、次の診察のときに主治医に確認する材料として活用してください。数値は今後のガイドライン改定で変わる可能性があるため、最新版は必ず日本糖尿病学会の公式情報で確認することをおすすめします。
参考文献
- 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024 4章 運動療法.https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/04_1.pdf ↩
- Colberg SR, Sigal RJ, Yardley JE, Riddell MC, Dunstan DW, Dempsey PC, Horton ES, Castorino K, Tate DF. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39(11):2065-2079. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6908414/
- Wang J, Fan S, Wang J. Resistance training enhances metabolic and muscular health and reduces systemic inflammation in middle-aged and older adults with type 2 diabetes: a meta-analysis. Diabetes Res Clin Pract. 2025. PMID 41106502. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41106502/
更新日:2026年8月11日。内容に誤りや古い情報にお気づきの際は、サイト下部のお問い合わせよりお知らせください。事実を確認のうえ訂正いたします。制度・ガイドラインは改定されることがあります。
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