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糖尿病 27分で読める 14回

糖尿病合併症があっても運動していい?専門医の基準でわかる安全な運動法

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糖尿病に合併症があっても、多くの場合は運動をやめる必要はありません。実際、日本糖尿病学会は2型糖尿病の運動療法を最も強い推奨グレードAで位置づけています[1]。ただし「前増殖網膜症以上」「顕性腎症以上」「重度の神経障害」など、合併症の種類と重さによっては、ジャンプ・いきむ動作・激しい有酸素運動が禁忌となる場合があります[1]。

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合併症があるからといって自己判断で運動を完全にやめてしまうと、血糖コントロールの悪化や筋力・QOLの低下につながりかねません。大切なのは「やめる」ことではなく、自分の合併症の程度を把握したうえで「安全な運動の種類・強さ」に調整することです。この記事では、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」の運動療法の章に基づき、合併症別にできること・控えるべきことを具体的な数値つきで整理します。

  • 2型糖尿病の運動療法は【推奨グレードA】。合併症があっても「運動そのものが禁止」になるケースは限定的[1]
  • 禁忌になりやすいのは「前増殖網膜症以上」「顕性腎症以上」「重度の末梢・自律神経障害」「不安定な心血管疾患」の4つ(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]
  • 目安は週150分以上の中強度有酸素運動+週2〜3回のレジスタンス運動。1日の歩数目安は約8,000歩(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]
  • ジャンプ・いきむ動作(Valsalva手技)・頭を下げる動作は、網膜症が進んでいる場合は避ける(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]
  • 運動を始める前に、糖尿病の主治医と(網膜症があれば)眼科医に必ず相談を(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]

編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点)。

合併症別・運動の目安チェック表

あなたの状態 有酸素運動 レジスタンス運動 特に注意
合併症なし・血糖コントロール良好 通常どおりOK 通常どおりOK 特になし
単純網膜症(軽度) 通常どおりOK 通常どおりOK 定期的な眼科受診
前増殖網膜症以上 軽い運動のみ いきむ動作は禁忌 眼科医の確認が先
微量アルブミン尿 通常どおりOK 通常どおりOK 運動後の一時的な尿蛋白増加は問題なし
顕性腎症以上 症例ごとに要相談 症例ごとに要相談 主治医と運動処方を個別調整
末梢神経障害(軽〜中等度) 通常どおりOK 足に負担の少ないもの 運動前後の足の観察が必須
足潰瘍・重度の感覚障害 体重をかけない運動へ 座位での運動を検討 体重負荷活動を制限
自律神経障害(中等度以上) 低強度から慎重に 低強度から慎重に 起立性低血圧・無自覚性低血糖に注意

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第4章 運動療法 CQ4-2に基づきJHO編集部が整理[1]

糖尿病の運動療法とは?合併症があると何が変わるのか

運動療法は、食事療法・薬物療法と並ぶ糖尿病治療の三本柱のひとつです[3]。運動によって筋肉が糖や遊離脂肪酸を取り込みやすくなり、インスリン感受性の改善・血糖コントロールの改善・脂質代謝の改善・血圧低下・心肺機能の向上といった効果が得られます(厚生労働省)[3]。日本糖尿病学会のガイドラインでも「2型糖尿病の血糖コントロールに,有酸素運動,レジスタンス運動が推奨される」と明記され、これは推奨グレードのうち最も強い【推奨グレードA】、合意率100%で採択されています[1]。メタ解析では、8週間以上の運動療法(平均週3.4回、18週間)でHbA1cが有意に改善(−0.66%)したことが報告されており、体重減少がなくてもHbA1cは改善したという点が重要です[1]。心肺機能についても、最大酸素摂取量の50〜75%の強度の運動を1回約50分、週3〜4回、20週間続けた場合、最大酸素摂取量が有意に増加(11.8%)したことが報告されています[1]。運動療法は血糖コントロールだけでなく、「1型・2型糖尿病にかかわらず,心血管疾患のリスクファクター」の改善にもつながり、特に有酸素運動は心肺機能を、レジスタンス運動は骨格筋量・筋力を高めることが推奨理由として挙げられています[1]。

ここまでは合併症の有無にかかわらず共通の効果です。問題は「合併症があるとき、運動そのものが体に負担をかけて悪化要因になり得るかどうか」です。日本糖尿病学会のガイドラインは、運動療法を始める前に「糖尿病の代謝コントロール状態、網膜症、腎症、末梢神経障害、自律神経障害などの合併症や、整形外科的疾患などを含む身体状態を把握し、運動制限の必要性を検討する」ことを求めています[1]。つまり「運動していいか悪いか」は一律の答えではなく、合併症の種類と重症度によって個別に決まるということです。

下の図は、その分かれ道を単純化したものです。合併症がないか軽度であれば通常どおりの運動を継続でき、前増殖網膜症以上や顕性腎症以上など重い合併症がある場合は、激しい運動・ジャンプ・いきむ動作が禁忌となることがあり、眼科医や主治医の確認を経て運動内容を調整する必要があります[1]。

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第4章 運動療法 CQ4-2(2024年)をもとにJHO編集部が作図[1]

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数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。

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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。

運動を始める前のメディカルチェック — 何を確認するのか

ガイドラインは、運動療法を始める前の医学的評価(メディカルチェック)について次のように述べています。「運動療法を開始する前に糖尿病の代謝コントロール状態,網膜症,腎症,末梢神経障害,自律神経障害などの合併症や,整形外科的疾患などを含む身体状態を把握し,運動制限の必要性を検討する」[1]。

心血管疾患のスクリーニングについては、「一般的には無症状,かつ,行う運動が軽度〜中強度の運動(速歩など日常生活活動の範囲内)であれば必要ない」とされる一方で、「普段よりも高強度の運動を行う場合や,心血管疾患リスクの高い患者,現在座っていることがほとんどの患者が中強度以上の強度の運動を開始する場合は,主治医によるスクリーニングと,必要に応じて運動負荷試験などを考慮する」とされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。普段ウォーキング程度しかしていない人が急に激しい運動を始めるときほど、事前チェックの重要性が増すということです。

チェック項目 確認する専門医 目的
網膜症の有無・進行度 眼科医 眼底出血・網膜剝離のリスク評価[1]
腎機能・尿蛋白 糖尿病専門医 顕性腎症の有無の確認[1]
末梢神経障害(感覚) 糖尿病専門医 足潰瘍・Charcot関節のリスク評価[1]
自律神経障害 糖尿病専門医・循環器医 起立性低血圧・無自覚性低血糖の評価[1]
心血管疾患リスク 循環器医 高強度運動前のスクリーニング要否判断[1]

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第4章 運動療法 CQ4-2(2024年)[1]

具体的な運動処方 — 強度・頻度・時間の数値基準

合併症のない、または軽度の場合の標準的な運動処方は次のとおりです。ガイドラインは「有酸素運動は,中強度で週に150分かそれ以上,週に3回以上,運動をしない日が2日間以上続かないように行い,レジスタンス運動は,連続しない日程で週に2〜3回行うことがそれぞれ勧められ,禁忌でなければ両方の運動を行う」としています[1]。

項目 目安 備考
有酸素運動の頻度 週150分以上・週3回以上 2日以上連続で休まない[1]
導入時の強度 最大心拍数の50〜60%・RPE 11〜12(楽である程度) 徐々に強度を上げる[1]
慣れてからの強度 最大心拍数の60〜70%・RPE 12〜13(ややきつい程度) 4〜6メッツ程度[1]
脈拍数の目安(簡易法) 50歳未満:1分間100〜120拍/50歳以上:100拍未満 自律神経障害・β遮断薬使用時は不正確[1]
レジスタンス運動 週2〜3回、5種目以上、1〜3セット 連続しない日程で実施[1]
歩数の目安 1日約8,000歩(+2,000歩/日を目標に) 週150分は約15,000歩に相当[1]

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第4章 運動療法 CQ4-3(2024年)[1]

最大心拍数は「220−年齢」で簡易的に推定できますが、ただし「自律神経障害を伴う場合や高齢者,降圧薬(β遮断薬)を内服している場合などでは,脈拍数で運動強度を決定することは難しい」とされており、その場合は自覚的運動強度(RPE、「楽である」〜「ややきつい」の体感)を目安にします(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。また、これまで週150分が目標とされてきましたが、「最新のメタ解析ではそれ以下の100分/週でも血糖改善効果が時間依存的に望める可能性がある」ことも示されており、150分に届かないからといって効果がゼロになるわけではありません(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。厚生労働省のe-ヘルスネットも同様に「運動の頻度は週に150分かそれ以上、週に3回以上」「運動持続時間は20分以上」を目安として挙げています[2]。

運動の始め方・終わり方にもコツがあります。ガイドラインは「運動の最初の5分と最後の5分はウォームアップ,クールダウンとしてそれぞれ徐々に負荷を上げ下げする」ことを勧めており[1]、いきなり本格的な強度で始めたり、運動後にすぐ止まったりせず、体を慣らしながら始め、少しずつ落ち着かせて終えることが基本です。心血管疾患のリスクが高い人については、「高リスクの患者には,低強度の運動を短時間で開始し,忍容性に従って徐々に強度と時間を増加させるよう奨励される」ともされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。合併症がある人ほど「いきなり週150分」を目指すのではなく、短時間・低強度からスタートし、体の反応を見ながら少しずつ増やしていく進め方が安全です。

レジスタンス運動については、いきむ動作に注意が必要です。ガイドラインは「レジスタンス運動でいきむ動作を行ってしまうと,血圧を上昇させ,心血管疾患や網膜症が悪化する可能性があるため,運動開始前に禁忌がないかメディカルチェックを受けることが推奨される」とし、「動作中は,一般的には,筋肉が収縮する(重りを上げる)段階では息を吐き,筋肉がストレッチする(重りを下げる)段階では息を吸い,呼吸をできるだけ止めないようにする」ことを勧めています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

糖尿病網膜症がある場合の運動 — なぜジャンプ・いきみが危険なのか

前増殖網膜症以上では、激しい運動・ジャンプ・いきむ動作が禁忌になることがあります

  • 「新生血管は脆弱で硝子体出血や網膜剝離を誘発するリスクがある」(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]
  • 「前増殖網膜症以上の症例では,激しい強度の有酸素運動やジャンプ,身体に衝撃の加わる活動,頭位を下げるような活動,呼吸を止めていきむような活動(Valsalva手技)は,禁忌となる場合がある」(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]
  • 「激しい運動療法を行う前には,眼科医による網膜症のチェックを行う」(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]

糖尿病網膜症は、血糖コントロールが不良な状態が続くことで網膜の細かい血管が傷み、もろい新生血管ができる病気です。この新生血管は非常に破れやすく、血圧が急に上がるような動作(力む、頭を下げる、ジャンプの着地衝撃など)がきっかけで眼底出血や網膜剝離を起こすことがあります。だからこそ、「網膜症だから運動禁止」ではなく「網膜症の進行度によって避けるべき動作の種類が変わる」というのが正確な理解です。

実務的な観点では、網膜症の進行度が上がるほど許容される運動の強さは狭まっていくと考えられます。ジャンプなど体に衝撃を与えるもの、頭を下げておこなう運動(前屈系のヨガのポーズなど)、息をこらえるような動作(重い荷物を持ち上げる、力んで排便するような姿勢)は、前増殖網膜症以上に進んでいる人ほど注意が必要です(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。逆に言えば、単純網膜症(軽度)の段階でガイドラインが名指しで禁忌としている動作は見当たらず、通常の運動を続けながら定期的に眼科で進行度を確認していく、という向き合い方が基本になります[1]。

「進行度合いを自分では判断できない」という人も多いはずです。だからこそガイドラインは、激しい運動を始める前の眼科受診を明確に求めています[1]。ウォーキング程度の軽い運動であれば多くの場合問題になりませんが、ジムでの高強度トレーニングや衝撃の大きいスポーツを始めたい場合は、事前に眼科で網膜の状態を確認してもらいましょう。「頭位を下げるような活動」が禁忌に含まれている点も見落とされがちです(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。前屈系のヨガのポーズや、頭を心臓より下げる姿勢を伴う運動も、前増殖網膜症以上の人にとっては注意すべき動作のひとつに含まれます。

糖尿病腎症がある場合の運動 — 進行段階で対応が変わる

腎症についてガイドラインは次のように述べています。「微量アルブミン尿を有する患者では,運動後に一時的に尿タンパク量が増える可能性があるが,腎症の進行には影響しないと考えられており,むしろある程度の身体活動が腎症の発症や進行に抑制的に働く可能性も示唆されている」[1]。つまり、初期の腎症(微量アルブミン尿の段階)であれば、運動後に一時的に尿蛋白が増えても心配しすぎる必要はなく、むしろ適度な運動が腎症の進行を抑える可能性があるということです。

一方で、腎症がさらに進行した場合の考え方は次のとおりです。「顕性腎症以上の患者の場合でも,運動は身体機能やQOLを改善し得るため,基本的に身体活動を高めるような指導が勧められるが,症例ごとの検討が必要である」(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。顕性腎症以上だからといって運動が一律禁止になるわけではなく、腎機能や全身状態を踏まえて主治医と相談しながら個別に運動処方を決めていく段階に入る、と理解しておくとよいでしょう。

透析導入後の運動療法(透析中・透析日の運動の可否や強度の具体的基準)については、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした。透析を受けている方は、透析施設の医師・リハビリスタッフに直接相談することをおすすめします。

神経障害がある場合の運動 — 足を守りながら続けるコツ

末梢神経障害があると、痛みの感じ方が変化することが運動のリスクにつながります。ガイドラインは「末梢神経障害を有する患者では,四肢の痛覚が低下し,痛みの閾値が高くなると,運動による皮膚障害,感染,Charcot関節破壊のリスクが高くなる」と説明しています[1]。つまり、足にマメや傷ができても痛みに気づきにくく、発見が遅れて悪化しやすいということです。

ただし、神経障害があるからといって歩くこと自体を避ける必要はありません。「中程度の強度のウォーキングは,適切な靴を使用している末梢神経障害者の足潰瘍や再潰瘍のリスク上昇につながらない」ことが示されており、さらに「150分/週の適度な運動は,糖尿病性ニューロパチー患者の転帰を改善することが報告されている」ともされています[1]。大切なのは「靴」と「毎日の足の観察」です。ガイドラインも「末梢神経障害を持つすべての人は,適切な靴を履き,病変を早期に発見するために毎日足を観察し,足の怪我や開放性潰瘍がある人は,体重をかける活動を制限する必要がある」と述べています[1]。国立国際医療研究センター糖尿病情報センターも、足病変は「痛みなどの症状が出現しにくく,重篤な状態になるまで気づかれないこともあります」としたうえで、「足を毎日よく観察することが最も大事」と強調しています[6]。

自律神経障害がある場合はさらに別の注意が必要です。「自律神経障害を有する患者では,運動負荷に対する循環応答の低下,起立性低血圧,体温調節障害,視力障害,無自覚性低血糖などの要因により,運動誘発性の有害事象が多いとされる」とガイドラインは指摘しています[1]。急に立ち上がるとふらつく(起立性低血圧)、暑い環境で体温調節がうまくいかない、低血糖になっても症状に気づきにくい(無自覚性低血糖)——これらは自律神経障害があるとリスクが高まる代表例です。「特に心血管系の自律神経障害は,心血管死や無症候性心筋梗塞の独立した危険因子であり,その程度により運動療法の可否を決定する」ともされており、中等度以上の自律神経障害がある場合は、運動強度を急に上げず、体調変化に敏感になることが重要です(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

糖尿病足病変を防ぎながら運動を続けるには

神経障害と並んで運動時に注意したいのが足病変です。国立国際医療研究センターの糖尿病情報センターは、糖尿病足病変の原因について「足の血管が狭くなることや神経の機能が弱くなることによって,潰瘍ができたり,細菌や真菌の感染を起こしたりしやすい」と説明しています[6]。症状が進むと「足に生じる水虫や細菌の感染,足の変形やタコ,また,ひどい状態になると足の組織が死んでしまう(これを足壊疽といいます)」ことがあるとされ、しかも「痛みなどの症状が出現しにくく,重篤な状態になるまで気づかれないこともあります」という点が、運動との関係で特に重要です(糖尿病情報センター)[6]。

だからこそ同センターは「糖尿病足病変を早めに発見するために,糖尿病の方は足を毎日よく観察することが最も大事です」とし、「足に合った靴や爪の切り方を確認し,予防をすることが重要です」と呼びかけています[6]。運動前後に靴の中に小石や異物が入っていないか確認する、靴下を履いて素足での運動を避ける、運動後にお風呂で足の裏・指の間まで目で見て確認する——これらは特別な道具がなくても今日から実践できる習慣です。傷や水ぶくれ、赤みに気づいたら、運動を続けるかどうかも含めて早めに受診することが勧められます。

運動前チェックリスト(診察時に医師へ見せる用)

  • 網膜症の診断を受けたことがあるか・最後に眼科を受診したのはいつか
  • 尿蛋白・アルブミン尿を指摘されたことがあるか
  • 足のしびれ・感覚の低下を感じることがあるか
  • 立ち上がったときにふらつくことがあるか(起立性低血圧の有無)
  • 低血糖の自覚症状(冷や汗・動悸など)を感じにくくなっていないか
  • 今どんな運動を、週に何回・何分くらい始めたいか
  • 今使っている薬(インスリン・スルホニル尿素薬など)と低血糖リスク

心血管疾患がある場合・血糖コントロールが不安定なときの注意

虚血性心疾患などの合併症がある場合、高強度のレジスタンス運動は推奨されません(厚生労働省)[2]。厚生労働省のe-ヘルスネットも「虚血性心疾患などの合併症患者などでは高強度のレジスタンス運動の実施は勧められない」としています[2]。心血管疾患のリスクが高い人(高コレステロール血症、喫煙者、心血管疾患の家族歴がある人など)が普段より強い運動を始める場合や、普段ほとんど座って過ごしている人が中強度以上の運動を新たに始める場合は、主治医によるスクリーニングや、必要に応じて運動負荷試験を検討することが勧められています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

血糖コントロールそのものが不安定なときも注意が必要です。厚生労働省のe-ヘルスネットは、「運動により高血糖,高ケトン血症を生じる可能性がある方」「発熱時」にも注意を促しています[2]。国立国際医療研究センターの糖尿病情報センターは、空腹時血糖値が「≧250mg/dL」の場合は運動を制限する目安を示しています[5]。極端な高血糖の状態で激しい運動をすると、かえって血糖値やケトン体が上昇することがあるため、まず主治医に相談し血糖値を落ち着かせることが優先されます。

骨・関節疾患がある場合は、整形外科と連携しながら柔軟運動や負荷をかけ過ぎないレジスタンス運動を選ぶことが勧められています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。肥満がある場合も、膝や足首の関節を痛めないよう、水中運動や座位でできる運動など関節への負担が少ない種目から始め、ある程度体重を落としてから通常の運動に移行する方法が現実的です。

低血糖を防ぎながら運動するコツ

インスリンやスルホニル尿素薬などで治療している人は、運動によって低血糖を起こしやすくなります。厚生労働省のe-ヘルスネットは「インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている方の場合は低血糖になりやすいため,運動量の多い場合には,補食をとる,あるいは,運動前後のインスリン量を減らすなどの注意が必要」としています[2]。

ガイドラインも同様に、「運動前の血糖値が低値である場合は補食をする」「運動の血糖低下作用は48時間程度続くため,基礎インスリンの減量も考慮する」と述べています[1]。運動した日の夜間や翌日にも低血糖が起こりうるということです。運動のタイミングについては「有酸素運動の実施タイミングに関しては,食後であれば食後高血糖の改善が期待できる」とされ、食後1〜2時間ごろの運動が血糖値の観点からは効率的とされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

状況 対応の目安
運動前の血糖値が低め 補食をとってから運動する[1]
インスリン・SU薬を使用中で運動量が多い日 補食を増やす、または運動前後のインスリン量を減らす[2]
運動後〜翌日 血糖低下作用は約48時間続くため夜間低血糖にも注意[1]
空腹時血糖値が高い(目安250mg/dL以上) 運動を控え主治医に相談[5]

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」・厚生労働省e-ヘルスネット・糖尿病情報センター[1][2][5]

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有酸素運動とレジスタンス運動、どちらが効くのか — 組み合わせ・高強度インターバルの新常識

「有酸素運動と筋トレ、どちらを優先すべきか」という疑問もよく聞かれます。ガイドラインの答えは「両方」です。「有酸素運動単独,レジスタンス運動単独と,それらの組み合わせを比較した検討では,両者を組み合わせることでHbA1c低下効果が高まることが示されているメタ解析もある」とされています[1]。さらに「レジスタンス運動のHbA1c低下効果が,有酸素運動に劣らないことも示されており,高齢者などで有酸素運動の実施が困難な患者での選択肢となる可能性がある」ともされ、膝や心肺機能の問題でウォーキングがつらい人でも、座ってできる筋トレだけで一定の効果が期待できます(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

レジスタンス運動の負荷についても具体的な目安があります。「一般的には週に2〜3日,連続しない日程で,上半身・下半身の主要な筋肉群を満遍なく含んだ5種類以上のレジスタンス運動を行う」こと、負荷は「10〜15回繰り返すことができる程度の負荷,もしくはごく軽い負荷から開始」し、慣れてきたら「8〜12回で限界に達する繰り返す負荷で1〜3セット行うことを目標にする」ことが勧められています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。「筋力向上が高いほうがHbA1cの改善効果が高いこと」「高強度の負荷(最高に扱える重量の75〜100%)でレジスタンス運動をしたほうが血糖コントロールに有効なこと」も示されていますが、これは体力に余裕があり、かつ合併症による禁忌がない人向けの話です(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。全身を鍛える時間がない場合は「下半身の筋肉は全身の約7割を占めており」、スクワットなど下半身中心の種目が効率的とされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

近年注目されている高強度インターバルトレーニング(HIIT)についても触れておきます。「若年者や,体力的に適合する糖尿病患者では,短時間(週に最低75分)の高強度運動やインターバルトレーニングは有効であることが示唆されているが,臨床的には適合する症例は多くない」とされ(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]、体力に自信のある人にとっては時間効率のよい選択肢になり得る一方、万人向けの方法ではありません。実際、HIITと中強度運動を比較した系統的レビューでは「体重,BMI,HbA1c,最大酸素摂取量の有意な改善を認めたものの,運動を行わない対照群との比較では,最大酸素摂取量のみしか有意な改善を認めなかった」とされ、「HbA1cに対する効果は結論が出ていない」というのが現時点での評価です(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。ヨガや太極拳も選択肢のひとつです。「ヨガは空腹時血糖値やHbA1cを改善させるだけでなく,筋力と心肺機能も向上させ,太極拳は血糖値とバランス能力を改善させる」というメタ解析があり、激しい瞬発的な動きを伴わないため高齢者にも導入しやすいとされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。ただし網膜症が進んでいる場合は、頭を下げる前屈系のポーズを避けるなど、種目の選び方に注意が必要です。

「時間」よりも「歩数」で管理したほうが続けやすい、というデータもあります。「最近では,時間を目標として指導したときよりも,目標歩数を提示し歩数計で自己管理したほうが運動療法のアドヒアランスや血糖低下効果が良好であったことが示された」とされており(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]、「1週間に150分の有酸素運動は約15,000歩の歩行と同等」で、毎日均等に増やすなら「1日に+2,000歩を超える程度」、最終的には「1日トータルで8,000歩程度」が目安になります(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。歩数計やスマートフォンアプリ、ゲーム機を使ったトレーニングも研究されており、「Wii Fitを使用した12週間のRCTでは,介入群で有意に空腹時血糖値,HbA1c,体重,BMIの改善を認めて」おり、こうしたツールの活用も血糖コントロールの助けになる可能性があります[1]。

日本とアメリカのガイドライン比較 — 運動制限の考え方の違い

網膜症がある場合の運動制限について、日本糖尿病学会とアメリカ糖尿病学会(ADA)の考え方の要点を比較します。両者とも「重い網膜症では激しい運動が危険」という結論は共通していますが、線引きの表現には違いがあります。

項目 日本(日本糖尿病学会 2024) 米国(ADA Standards of Care 2023)
制限の対象となる網膜症の段階 前増殖網膜症以上[1] 重度の非増殖網膜症および不安定な増殖網膜症[7]
禁忌とされる動作 激しい有酸素運動・ジャンプ・衝撃活動・頭位を下げる動作・いきむ動作(Valsalva手技)[1] 激しい有酸素運動・レジスタンス運動、頭を下げる動作、いきむ動作[7]
想定される合併症リスク 硝子体出血・網膜剝離[1] 硝子体出血・網膜剝離[7]

日本のガイドラインは「前増殖網膜症以上」を境界線としているのに対し、ADAの資料では「重度の非増殖網膜症・不安定な増殖網膜症」という表現が使われています[7]。段階の呼び方や境界の細かな定義は資料によって異なることがあるため、「自分が今どの段階にあるか」は必ず診察を受けている眼科医に確認し、日本の主治医の判断を優先してください。国によってガイドラインの改定時期や表現が異なるのは自然なことであり、どちらが正しい・間違っているという話ではありません。

運動療法とレーザー治療(汎網膜光凝固術)を受けた直後にどのくらいの期間運動を控えるべきかという具体的な日数の基準については、今回参照した日本の資料には明確な記載が見当たりませんでした。治療を受けた場合は、担当の眼科医から直接、運動再開の時期について指示を受けてください。

よくある質問

糖尿病網膜症があるけど、ウォーキングだけならしていい?
単純網膜症(軽度)の段階でウォーキングのような軽い有酸素運動を名指しで禁止するような記載は、日本糖尿病学会のガイドラインには見当たりません[1]。ただし前増殖網膜症以上に進んでいる場合は、激しい強度の有酸素運動が禁忌となることがあるため(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]、まず眼科で今の進行度を確認しましょう。
筋トレ(レジスタンス運動)はしてはいけないの?
レジスタンス運動そのものが禁止というわけではありません。ただし、いきむ動作(重い重量を無呼吸で持ち上げるなど)は血圧を急上昇させ、心血管疾患や網膜症を悪化させる可能性があるため、運動開始前のメディカルチェックと、動作中に息を止めない呼吸法(重りを上げるときに息を吐く)が推奨されています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。
足がしびれている(神経障害がある)けど、運動していい?
中程度の強度のウォーキングは、適切な靴を履いていれば末梢神経障害がある人の足潰瘍リスクを上げないことが示されており、週150分程度の運動は神経障害の経過を改善することも報告されています[1]。ただし痛みを感じにくくなっている分、運動前後に足を毎日観察し、傷や開放性の潰瘍があるときは体重をかける運動を控える必要があります[1]。
腎症があると言われたら、運動はやめるべき?
初期の微量アルブミン尿の段階であれば、運動後に一時的に尿蛋白が増えても腎症の進行そのものには影響しないとされ、適度な運動はむしろ腎症の進行を抑える可能性が示唆されています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。顕性腎症以上に進んだ場合でも運動は身体機能やQOLの改善につながるとされていますが、その段階では主治医と相談しながら症例ごとに運動内容を調整する必要があります(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。
運動中に低血糖が心配。どのタイミングで運動すればいい?
食後1〜2時間ごろの運動は食後高血糖の改善が期待でき、空腹時の運動に比べて低血糖のリスクも管理しやすいとされています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。インスリンやスルホニル尿素薬を使っている場合は、運動量が多い日は補食をとる、または運動前後のインスリン量を減らすといった調整が勧められます(厚生労働省)[2]。運動の血糖低下作用は48時間ほど続くため、運動した日の夜間にも低血糖が起こりうることを覚えておきましょう(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。
1日にどれくらい歩けばいいの?具体的な歩数の目安は?
週150分の有酸素運動はおよそ15,000歩の歩行に相当するとされ、毎日均等に増やすなら1日あたり+2,000歩を超える程度が目標の目安になります。最終的には1日トータルで8,000歩程度が一つの目安です(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。ただし合併症の状況によって調整が必要なので、この歩数はあくまで合併症のない・軽度の場合の目安として捉えてください。
心臓の合併症がある場合、運動前に検査は必要?
無症状で、行う運動が軽度〜中強度(速歩など日常生活の範囲内)であれば、ルーチンの運動負荷試験は必ずしも必要ないとされています。一方で、普段より高強度の運動を新たに始める場合や、心血管疾患のリスクが高い人、普段ほとんど座って過ごしている人が中強度以上の運動を始める場合は、主治医によるスクリーニングや運動負荷試験の実施が勧められます(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。
運動をやめたほうがいい「危険なサイン」・受診の目安はある?
胸痛や息切れ、めまい、動悸、視野の異常、急な足の痛みや腫れなどが運動中・運動後に現れた場合は、無理をせず運動を中止し、速やかに主治医に相談してください。これが受診の目安の基本ラインです。特に自律神経障害がある人は無自覚性低血糖のリスクがあるため、症状がなくても定期的な自己血糖測定を組み合わせることが安全につながります(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。
高齢者や体力に自信がない場合はどうすればいい?
高齢の糖尿病患者は非糖尿病者に比べて筋量が低下しやすいことが示唆されており、レジスタンス運動はサルコペニア予防の観点からも有効と考えられています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。また、レジスタンス運動にバランス運動を併用することで転倒リスクをより軽減できる可能性も示されています(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。ヨガや太極拳は激しい瞬発的な動きを伴わず高齢者にも導入しやすいとされ、血糖値やバランス能力の改善効果を示すメタ解析もあります(日本糖尿病学会ガイドライン)[1]。

この記事で扱った運動の数値目安(強度・頻度・歩数)は、主に2型糖尿病を対象とした研究に基づくものです。1型糖尿病における長期的な血糖コントロールへの運動の効果については、「一定の見解が得られていない」とガイドライン自体が明言しており[1]、断定的な数値基準は今回参照した資料には見当たりませんでした。1型糖尿病の方は、血糖自己測定やCGM(持続血糖モニタリング)を活用しながら、主治医と一例一例の調整を行うことが基本になります。

更新日:2026年7月19日。内容に古い情報や誤りがございましたら、記事下部のお問い合わせよりお気づきの点をご指摘いただけますと幸いです。ガイドライン改定にあわせて随時見直します。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第4章 運動療法 2024年 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/04_1.pdf
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-05-005.html
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「運動療法」キーワード https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/keywords/kinesitherapy.html
  4. 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)「糖尿病の運動のはなし」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/040/040/03.html
  5. 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)「糖尿病足病変」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/040/01.html
  6. American Diabetes Association「5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2023」Diabetes Care 2023年 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9810478/
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Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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