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心血管疾患 39分で読める 221回

脂質異常症(高脂血症): 原因、日本の診断基準、そして厚労省の指針に基づく包括的治療法

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脂質異常症は、LDLコレステロール140mg/dL以上・HDLコレステロール40mg/dL未満・中性脂肪150mg/dL以上(非空腹時175mg/dL以上)のいずれかに当てはまると診断される、動脈硬化を静かに進める状態です(日本動脈硬化学会の指針)[1]。

自覚症状はほとんどなく、放置すると心筋梗塞や脳梗塞につながります。厚生労働省の集計では治療を受けている人だけで約401万人にのぼり[3]、健康診断で指摘されたら症状がなくても医療機関を受診し、日本動脈硬化学会のガイドラインに沿った生活習慣改善・必要に応じた薬物療法を始めることが重要です[1]。

要点まとめ

  • 診断基準はLDL-C 140mg/dL以上・HDL-C 40mg/dL未満・中性脂肪150mg/dL以上(非空腹時175mg/dL以上)のいずれか1つでも該当すること[1]。
  • 2007年に日本動脈硬化学会が病名を「高脂血症」から「脂質異常症」へ変更した理由は、HDLコレステロールが低い状態もリスクだと分かったため[2]。
  • 厚生労働省の患者調査(令和2年)では治療中の患者数は約401万人と報告されている[3]。
  • 治療の土台は生活習慣改善(食事・運動)であり、薬物療法が始まっても並行して続けるべきとされている[2]。
  • 自覚症状がほぼないため、健康診断で「要再検査」「要治療」と言われたら、症状がなくても受診が必要[6]。

編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、厚生労働省・日本動脈硬化学会などの公的機関・学会情報およびCochraneレビュー等の査読文献と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っていますが、医師による個別診断の代わりにはなりません。診断基準・数値は今後のガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点の情報です)。

自分の数値をすぐ確認:脂質異常症セルフチェック早見表

検査項目 基準値(mg/dL) 該当した場合
LDLコレステロール 140以上(120〜139は境界域) 高LDLコレステロール血症 [1]
HDLコレステロール 40未満 低HDLコレステロール血症 [1]
中性脂肪(トリグリセリド) 150以上(空腹時)/175以上(非空腹時) 高トリグリセリド血症 [1]
Non-HDLコレステロール 170以上(150〜169は境界域) 高non-HDLコレステロール血症 [1]

1つでも該当したら、症状がなくても内科・循環器内科の受診を検討してください。実際の治療方針(薬を始めるかどうか)は、この数値だけでなく年齢・喫煙・血圧・糖尿病の有無などを合わせた総合的なリスク評価で決まります(日本動脈硬化学会の指針)[1]。

脂質異常症とは?血管の中で起きていること

脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪の値が基準値から外れた状態です(日本動脈硬化学会の指針)[2]。日本動脈硬化学会は2007年に、それまでの「高脂血症」という病名を「脂質異常症」へ改めました。「高脂血症」は脂質が高い状態しか表せませんが、研究が進み、HDL(善玉)コレステロールが低いこと自体も動脈硬化のリスクになると分かったためです[2]。

脂質異常症は主に3タイプに分かれます。LDLコレステロールが多すぎる「高LDLコレステロール血症」、HDLコレステロールが少なすぎる「低HDLコレステロール血症」、中性脂肪が多すぎる「高トリグリセリド血症」です(日本動脈硬化学会の解説)[6]。血中のLDLコレステロールが過剰になると、血管の一番内側にある内皮細胞の隙間から血管壁の中へ入り込み、酸化されて「酸化LDL」に変化します。体はこれを異物とみなし、マクロファージという免疫細胞を送り込んで処理させますが、酸化LDLを大量に取り込んだマクロファージは「泡沫細胞」となり、血管壁に蓄積していきます。この泡沫細胞の死骸やコレステロールの塊が、おかゆのようなドロドロした物質「プラーク(粥腫)」を形成し、これが動脈硬化の始まりです(日本動脈硬化学会の解説)[6]。プラークが大きくなるにつれて血管の内腔は狭くなり、同時に血管の壁は弾力性を失って硬くもろくなっていきます。プラークが破れると血栓ができて血流を塞ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします(日本動脈硬化学会の解説)[6]。

プラークの形成やそれに続く血管の狭窄・閉塞という同じ動脈硬化の過程は、心臓や脳の血管だけでなく、手足(特に下肢)の動脈でも起こり得ます。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、冠動脈・大動脈以外の動脈に生じる動脈硬化性疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、代表例が下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)であるとしています[1]。PAD患者は冠動脈疾患や脳血管障害を高率に合併することが国内の研究でも示されており、ある前向き観察研究ではPAD患者557名を3年間追跡した結果、心血管死6.3%、心疾患11.3%、脳血管障害7.0%、下肢イベント16.9%が認められたと報告されています[1]。PADのスクリーニングには、上腕の血圧に対する足関節の血圧の比を測定する足関節上腕血圧比(ABI)という、痛みを伴わない簡便な検査が用いられ、この値が0.90以下の場合に下肢の閉塞性病変が疑われます[1]。海外のコホート研究では、ABIが0.9以上の糖尿病患者の心血管疾患発症率が年間1,000人あたり28.4件であったのに対し、ABIが0.9未満(PADが疑われる)糖尿病患者では102.0件と、約3.6倍に上ったと報告されており、ABI異常がPADだけでなく心血管疾患全体のリスクの高さを示す指標になり得ることがうかがえます[1]。歩いているとふくらはぎなどが痛み、休むといったん軽快する「間欠性跛行」という症状がある場合は、PADの可能性があるため、循環器内科や血管外科など専門的な評価ができる医療機関への相談が勧められます。

中性脂肪が高い場合は、LDLコレステロールが小型化して血管壁に入り込みやすくなり、HDLコレステロールが減りやすくなるため、間接的に動脈硬化を進めます。一方、HDLコレステロールは血管壁にたまった余分なコレステロールを回収して肝臓へ戻す「掃除役」の働きを持ち、これが低下すると動脈硬化が進みやすくなります(日本動脈硬化学会の解説)[6]。

今の血圧・脈拍を確かめる

数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。

身長と体重からBMIも調べる

これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。

日本の診断基準とリスク管理:JAS 2023年版ガイドライン解説

日本における脂質異常症の診断は、日本動脈硬化学会(JAS)が発行する動脈硬化性疾患予防ガイドラインの基準に基づきます[1]。同学会は2023年に「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版」を公開し、従来の空腹時採血に加えて、食事の影響を受ける非空腹時採血における中性脂肪の基準値(175mg/dL以上)を明確化しました[2]。

診断基準(日本動脈硬化学会)
脂質指標 基準値(mg/dL) 分類
LDLコレステロール 140以上 高LDLコレステロール血症
120〜139 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセリド(中性脂肪) 150以上(空腹時) 高トリグリセリド血症
175以上(非空腹時)
Non-HDLコレステロール 170以上 高non-HDLコレステロール血症
150〜169 境界域高non-HDLコレステロール血症

出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」[1]

基準に当てはまったからといって、全員がすぐ薬物治療を始めるわけではありません。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、年齢・喫煙・血圧・糖尿病の有無など他の危険因子を合わせて将来の心血管疾患リスクを評価し、リスクの高さに応じて生活習慣改善を優先するか薬物療法を検討するかを判断する枠組みが示されています[1]。具体的な管理目標値は個々の危険因子によって異なるため、健診結果を持って医師に相談することが推奨されます。

診断基準の4指標に加えて、日本動脈硬化学会のガイドラインではnon-HDLコレステロール(総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値)も重視されています。LDLコレステロールだけでなく、動脈硬化を進めやすいレムナントリポ蛋白なども含めて評価できるためで、国内の疫学研究では、45歳男性の生涯における心血管疾患リスクは、non-HDLコレステロールが190mg/dL以上の群で41.5%、190mg/dL未満の群で12.7%と、190mg/dL以上の群で有意に高かったと報告されています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。このためガイドラインでは170mg/dL以上を高non-HDLコレステロール血症のスクリーニング基準とし、150〜169mg/dLを、他の危険因子の重複を慎重に判断すべき境界域としています[1]。

根本原因を探る:遺伝的要因(原発性)と生活習慣(続発性)

脂質異常症の原因は「原発性」と「続発性」に分けられます。原発性は生まれ持った遺伝子の変異が原因で脂質代謝そのものに問題があるタイプで、代表例が家族性高コレステロール血症(FH)です(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]。日本動脈硬化学会のFHガイドラインでは、日本人におけるヘテロ接合体FHの頻度は約200〜500人に1人と推定されており、決して稀な病気ではないとされています[7]。FHはLDL受容体などの遺伝子変異によりLDLコレステロールが生まれつき高く、未治療のまま放置すると若年(目安として男性55歳未満・女性65歳未満)で心筋梗塞を起こすリスクが高いとされています(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]。

続発性脂質異常症は脂質異常症の大部分を占め、後天的な要因で起こります(日本動脈硬化学会の解説)[6]。動物性脂肪(肉の脂身・バターなど)やトランス脂肪酸の多い食事はLDLコレステロールを上げ、糖質やアルコールの摂りすぎは中性脂肪を上げます。運動不足はHDLコレステロールを下げ、内臓脂肪型の肥満は中性脂肪を増やしHDLコレステロールを減らす典型的なパターンと関連します。喫煙はHDLコレステロールを減少させ、血管内皮を傷つけて動脈硬化を直接進めます(日本動脈硬化学会の解説)[6]。また、甲状腺機能低下症や腎臓病(ネフローゼ症候群)、糖尿病、ステロイドなど一部の薬剤も、二次的に脂質異常症を引き起こすことがあります(日本動脈硬化学会の解説)[6]。

血液検査を受けるときに知っておきたいこと

従来、脂質検査は10時間以上の絶食を伴う空腹時採血が基本とされてきましたが、日本動脈硬化学会の2023年版ガイドでは、食事の影響を受ける非空腹時(随時)採血における中性脂肪の基準値(175mg/dL以上)が明確化され、健康診断などで偶然発見される機会が広がりました[2]。とはいえ、より正確な評価のために医師から空腹時採血を指示されることもあります。健診の案内に「絶食」「空腹時」の指示がある場合は、指示に従って受診することが推奨されます。また、直前の激しい運動や大量の飲酒は数値に影響することがあるため、検査前日の生活にも注意が必要です。数値は日によって変動することもあるため、1回の結果だけで一喜一憂せず、複数回の結果や医師の総合判断を踏まえることが大切です。

検査値の計算方法にも留意点があります。LDLコレステロールは、空腹時採血であればFriedewald式(総コレステロール−HDLコレステロール−中性脂肪÷5)で算出するのが従来の方法ですが、中性脂肪が400mg/dL以上の場合や随時(食後)採血の場合はこの計算式が使えないため、LDLコレステロールを直接測定する「直接法」や、総コレステロールからHDLコレステロールを引いたnon-HDLコレステロールを用いて評価します(日本動脈硬化学会の指針)[1]。採血前日の多量の飲酒は中性脂肪の上昇を遷延させることがあるため、健診前日の飲酒は控えめにすることが勧められます[1]。また、採血は少なくとも5分間座った状態で安静にしてから行うことが望ましいとされ、急性の体調不良(心筋梗塞発症直後など)の際に測定した脂質値は一時的に低下することがあるため、体調が落ち着いてから改めて確認することも大切です[1]。

受診の目安(すぐに受診・相談が必要なサイン)

  • 健康診断でLDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪のいずれかが基準値を超えていた場合(症状がなくても)(日本動脈硬化学会の指針)[1]
  • 「要再検査」「要精密検査」「要治療」の判定が出た場合
  • 血縁の近い家族が若年(目安:男性55歳未満・女性65歳未満)で心筋梗塞や狭心症になった場合(家族性高コレステロール血症の可能性)(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]
  • まぶたやアキレス腱に黄色いしこり(黄色腫)がある場合(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]

下記は動脈硬化が進行した結果としての緊急事態のサインです。ためらわず119番、または救急外来を受診してください。

  • 突然の激しい胸痛や締め付けられるような圧迫感が続く(心筋梗塞の疑い)
  • 片方の手足に力が入らない、ろれつが回らない、顔の半分が歪む(脳梗塞の疑い)
  • 突然の意識障害、呼びかけに反応しない

治療の土台:包括的な生活習慣改善プロトコル

脂質異常症の治療は生活習慣の改善が基本であり、薬物治療が必要になった場合でも並行して続ける必要があります(日本動脈硬化学会の指針)[2]。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、飽和脂肪酸を減らし食物繊維の多い食品を増やすことがLDLコレステロール低下に有効だとされています[2]。

食事療法の主な目標
栄養素 方向性 主な食品源・対策
飽和脂肪酸(肉の脂身・バターなど) 減らす 赤身肉を選び、加工肉(ソーセージ・ベーコン)を控える[2]
トランス脂肪酸(マーガリン・ショートニング) できる限り控える 成分表示を確認する習慣をつける[2]
糖質・アルコールの過剰摂取 控える 中性脂肪を上げやすいため量を見直す[2]
青魚(サバ・イワシ・サンマ) 増やす 中性脂肪を下げやすいn-3系脂肪酸(EPA・DHA)を含む。中性脂肪の低下を目的に、魚油由来のn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やすことが推奨されています[2]
食物繊維(野菜・海藻・未精製穀物) 増やす コレステロールの吸収を抑えると考えられている[2]

出典:日本動脈硬化学会「脂質異常症診療ガイド2023年版」の食事療法に関する記載を基に編集部作成[2]

具体的な数値目標として、日本動脈硬化学会のガイドラインでは、総エネルギー摂取量を年齢・身体活動量に見合った目標体重の範囲に保ったうえで、脂肪由来のエネルギー比率を20〜25%、飽和脂肪酸由来のエネルギー比率を7%未満、食事からのコレステロール摂取量を1日200mg未満に抑えることを推奨しています(日本動脈硬化学会の指針)[2]。炭水化物由来のエネルギー比率は50〜60%を目安とし、食物繊維は未精製穀類・野菜・海藻・大豆製品などから1日25g以上摂ることが目標とされています[2]。アルコールは純エタノール換算で1日25g以下(日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合程度に相当)にとどめ、食塩は1日6g未満を目標とすることも同ガイドラインに示されています[2]。具体的な1日の食事イメージとしては、主食の一部を白米から玄米や全粒粉パンなどの未精製穀類に置き換え、主菜は脂身の多い部位を避けて赤身肉や鶏むね肉、青魚を中心にし、毎食に野菜・海藻・きのこなど食物繊維の多い副菜を1品加えるといった組み合わせが、これらの目標値に近づけるための実践例として挙げられます。魚の摂取を増やす際は、刺身・塩焼き・煮魚など油を足さない調理法を選ぶと、余分な飽和脂肪酸を追加せずにn-3系脂肪酸を摂取しやすくなります。揚げ物や加工肉(ソーセージ・ベーコン)、スナック菓子の頻度を週1〜2回程度に抑え、間食を果物やナッツに置き換えることも、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の摂取を減らすうえで役立つとされています。なお、日本人のトランス脂肪酸摂取量は1日1人当たり平均0.92〜0.96gで、総エネルギー摂取量の0.44〜0.47%程度とされ、WHOが目標とする「総エネルギー摂取量の1%未満」を全体としては下回っています[2]。ただし、これは平均値であり、脂質の多い菓子類やマーガリン・ショートニングを多く使った食品を習慣的に食べ過ぎている場合は、平均を上回る摂取量になる可能性があるため注意が必要です(日本動脈硬化学会の指針)[2]。

運動については、厚生労働省 e-ヘルスネットの生活習慣病予防に関する情報でも、中強度以上の有酸素運動を定期的に行うことが推奨されています[2]。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどの有酸素運動はHDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果が期待できるとされ、週150分程度を目安に、無理のない範囲で継続することが大切です(日本動脈硬化学会の指針)[2]。より具体的には、日本動脈硬化学会のガイドラインは、1日合計30分以上の中強度以上の有酸素運動を週3回以上(可能であれば毎日)、または週150分以上実施することを、血清脂質の改善を目的として推奨しています(エビデンスレベル1・推奨レベルA)[2]。ウォーキング・速歩・水中運動などの有酸素運動は、非実施群と比較してHDLコレステロールを有意に上昇させ、特に週150分以上継続した研究ではLDLコレステロールの低下も認められたと報告されています[2]。有酸素運動に加えて、筋力トレーニングなどのレジスタンス運動も血清脂質の改善に有用であるとして提案されており、有酸素運動と組み合わせて週2〜3回程度取り入れることが望ましいとされています[2]。禁煙も、それ自体が動脈硬化の危険因子であるため必須とされています(日本動脈硬化学会の解説)[6]。

高度な治療:薬物療法の選択肢の概要

生活習慣の改善を一定期間続けても脂質管理目標を達成できない場合や、心血管疾患のリスクが高い場合には薬物療法が検討されます。第一選択薬は主にスタチン系薬剤です(日本動脈硬化学会の指針)[1]。

主な薬物療法の位置づけ
薬剤群 主な作用 位置づけ
スタチン系薬剤 肝臓でのコレステロール合成を抑え、LDLコレステロールを低下させる 第一選択薬[1]
エゼチミブ 小腸でのコレステロール吸収を阻害 スタチン効果不十分・不耐容時の併用・代替薬[9]
PCSK9阻害薬 LDL受容体の分解を防ぎLDLコレステロールを強力に低下 家族性高コレステロール血症やスタチン最大量でも効果不十分な高リスク例[7]
フィブラート系薬剤 PPARαを活性化し、リポ蛋白リパーゼの働きを高めて中性脂肪の分解を促進、HDLコレステロールを増加させる 高トリグリセリド血症が主体の場合の選択肢のひとつ[2]
EPA製剤(イコサペント酸エチル) 中性脂肪の低下・血小板凝集の抑制・動脈壁の柔軟性維持 高トリグリセリド血症、閉塞性動脈硬化症に伴う症状の改善[2]
ニコチン酸誘導体 末梢脂肪組織での脂肪分解を抑制し、中性脂肪を低下・HDLコレステロールを上昇 高LDL血症・高TG血症の補助的な選択肢[2]
陰イオン交換樹脂(レジン) 腸管内で胆汁酸を吸着し、コレステロールの吸収を抑制 スタチンに忍容性がない場合や妊娠中の代替薬[1]

Cochraneレビュー(Taylor F, et al. 2013)は、心血管疾患の既往がない集団(一次予防)を対象にした複数の無作為化比較試験を統合し、スタチンが総死亡・心血管イベントを減少させたと報告しています[8]。効果の大きさは対象集団のベースラインリスクによって変わるため、同レビューは絶対リスクが低い集団ではイベント予防による利益と、筋肉症状や肝機能への影響などの不利益とのバランスを個別に検討する必要があるとしています[8]。日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、スタチン服用中に原因不明の筋肉痛・脱力感・褐色尿が出た場合は横紋筋融解症の可能性があるため速やかに医師へ相談するよう注意喚起しています[10]。エゼチミブとスタチンの併用については、システマティックレビューのプロトコルで有効性・安全性の統合解析が進められています[9]。エゼチミブ10mgと通常用量のスタチンを併用すると、LDLコレステロールが約35〜50%低下し、これはスタチンだけを単独で最大量投与した場合とほぼ同程度の効果になると報告されています(日本動脈硬化学会の指針)[2]。

スタチンとフィブラート系薬剤(あるいはニコチン酸誘導体やシクロスポリンなど)を併用すると、単剤に比べて横紋筋融解症(骨格筋の細胞が融解・壊死することで筋成分が血液中に流出する重篤な副作用)のリスクが高まることが知られています。PMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアルによれば、スタチン服用者全体で筋肉痛が2〜7%、CK上昇や筋力低下が0.1〜1.0%の頻度で生じ、重篤な筋障害(横紋筋融解症)は約0.08%の頻度で生じるとされ、100万人のスタチン服用者のうち約0.15人が横紋筋融解症により死亡すると推計されています[13]。フィブラート系薬剤との併用は薬物動態を変化させて血中濃度を上昇させ、横紋筋融解のリスクをさらに高めるため、特に腎機能が低下している患者や高齢者では、開始前のCK値・腎機能評価と定期的な観察が必要とされています[13]。ニコチン酸誘導体は、末梢脂肪組織での脂肪分解を抑制し肝臓でのリポ蛋白合成を抑えることでHDLコレステロールを上昇させる作用があり、単剤投与で中性脂肪を約26%低下させたとする報告があります。主な副作用として、皮膚のかゆみや末梢血管拡張による顔面のほてり、高尿酸血症があり、インスリン抵抗性を悪化させる可能性があるため糖尿病患者では注意して用いる必要があります(日本動脈硬化学会の指針)[2]。陰イオン交換樹脂(レジン)は、腸管内で胆汁酸を吸着してコレステロールの吸収を抑制する薬剤で、全身にはほとんど吸収されないという特徴があります。副作用は便秘や腹部膨満感などの消化器症状が中心で、これまで重篤なものは認められていませんが、スタチンやジギタリス、ワルファリンなど他の薬剤の吸収を妨げることがあるため、服用の間隔をずらすなどの服薬指導が必要です。また、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)や葉酸の吸収も妨げられる可能性があるため、長期間服用する場合は補給を検討することがあります(日本動脈硬化学会の指針)[1]。副作用の少なさとスタチンとの併用効果から、スタチンに忍容性がない患者や、妊娠中・妊娠の可能性がある女性で薬物療法が必要な場合の代替薬として位置づけられています[1]。PCSK9阻害薬(エボロクマブなど)は、内服薬ではなく数週間おきに自己注射する注射薬で、肝臓のLDL受容体を分解する体内の蛋白質(PCSK9)の働きを阻害します。これによりLDL受容体が肝細胞表面にとどまる時間が長くなり、血液中のLDLコレステロールを効率よく取り込めるようになるため、他の薬剤では得られないほど強力にLDLコレステロールを低下させることができます。家族性高コレステロール血症や、最大耐用量のスタチンを使用しても効果不十分な高リスク患者、スタチンに対する忍容性がない患者などが投与対象となります(日本動脈硬化学会の指針)[2]。長期投与における安全性については、現時点でも注意深い観察が必要とされています[2]。

日本と欧米のガイドライン比較

ガイドラインの比較
項目 日本(日本動脈硬化学会 2022/2023年版) 米国(ACC/AHA系レビュー・Cochrane 2013)
診断の切り口 LDL-C・HDL-C・TG・non-HDL-Cの4指標+危険因子によるリスク層別化[1] 心血管リスクスコアを用いて治療開始を判断する考え方が主流[8]
非空腹時TG基準 175mg/dL以上を明確に基準化(2023年版)[2] 研究により採血条件の扱いが異なる[8]
第一選択薬 スタチン系薬剤[1] スタチン系薬剤(Cochraneレビューが一次予防での有効性を支持)[8]

両者とも「まずスタチンで治療」という大枠は共通していますが、日本のガイドラインは日本人の疫学データに基づく独自のリスク評価法を採用している点が異なります[1]。海外の大規模試験の対象者は欧米人が中心であるため、体格や遺伝的背景が異なる日本人にそのまま数値を当てはめられるとは限らない点に注意が必要です。

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

受診に持っていくメモ(コピーしてお使いください)

  • 直近の健康診断結果(LDL・HDL・中性脂肪の数値と日付)
  • いつから指摘されているか(初めて/何年目か)
  • 現在服用中の薬・サプリメント(名前が分かるもの)
  • 血縁者に若くして心筋梗塞・狭心症になった人がいるか
  • 医師に聞きたいこと(薬は必要か、いつまで生活改善だけで様子を見てよいか等)

薬物治療をいつまで続けるべきか、あるいは減量・中止できるタイミングの個別具体的な判断については、今回参照した公的資料には一般化した記載が見当たりませんでした。生活習慣の改善状況や検査値の推移を踏まえ、主治医と相談のうえ判断することが必要です。

治療開始後のフォローアップの目安

スタチンなどの薬物治療を始めた後は、定期的な検査で効果と安全性を確認します。一般的な目安として、脂質パネル(LDL-C・HDL-C・TG)は治療開始後1〜3か月、その後は安定すれば半年〜1年ごとに測定されます。肝機能(AST・ALT)も治療開始後1〜3か月を目安に確認されることが多く、CK(クレアチンキナーゼ)は筋肉に関連する症状(痛み・脱力感)が出た場合に測定されます(PMDAの情報)[10]。効果の現れ方には個人差がありますが、一般にLDLコレステロールの低下は治療開始後数週間で見られ始めます。3か月以上治療を継続しても脂質管理目標を達成できない場合や、説明のつかない筋肉の痛み・倦怠感・褐色尿などが出現した場合は、速やかに医師に相談することが重要です(PMDAの情報)[10]。

妊娠中・高齢者など特別な配慮が必要な場合

妊娠中・授乳中の方は、胎児・乳児への影響が懸念されるため、スタチンなど一部の脂質異常症治療薬は原則として使用できないとされています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。妊娠初期に偶然スタチンを使用していたケースでは、催奇形性を疑う報告もあるとされ、妊婦・妊娠している可能性のある女性・妊娠を希望する女性・授乳中の女性にはスタチンを使用しないことが明確にされています[1]。薬物療法がどうしても必要な場合は、スタチンの代わりに、腸管内で胆汁酸を吸着してコレステロールの吸収を抑える陰イオン交換樹脂(レジン)が選択肢となることがあります。レジンは全身にほとんど吸収されない薬剤であるため、妊娠中でも比較的使用しやすいと考えられています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。妊娠を希望する場合や妊娠が分かった場合は、自己判断で薬を中止・変更せず、必ず主治医に相談してください。高齢者では複数の持病や薬剤を併用していることが多く、薬物相互作用や副作用のリスクを踏まえて、より慎重な用量調整とモニタリングが行われる傾向があります。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、冠動脈疾患の既往がある高齢者に対する二次予防目的のスタチン治療は推奨できるとされ、前期高齢者(65〜74歳)の高LDLコレステロール血症についても、冠動脈疾患や非心原性脳梗塞の一次予防を目的としたスタチン治療が期待できるとされています[1]。一方、後期高齢者(75歳以上)における一次予防効果については明確なエビデンスが乏しかったところ、日本人の後期高齢者高LDLコレステロール血症患者3,796人を対象としたEWTOPIA75試験で、エゼチミブによる脂質低下療法が心筋梗塞・脳卒中などの複合心血管イベントの発生を34%抑制したことが示され、75歳以上でも脂質低下治療による一次予防が期待できると位置づけられました(ただし85歳以上での明確な有用性は示されていません)[1]。また、高齢者はフレイル(加齢に伴い心身の予備能力が低下し、要介護状態に陥りやすい脆弱な状態)を合併しやすく、フレイルそのものが動脈硬化性疾患のリスクにもなるため、高齢者の脂質管理では薬物療法の効果だけでなく、フレイルの評価も合わせて行うことが提案されています[1]。腎機能や肝機能の状態によっても薬剤の選択が変わり、複数の医療機関にかかっている場合は情報が分散しやすいため、お薬手帳を活用し、服用中の薬をすべて医師・薬剤師に伝えることが安全な治療につながります。専門施設を探す際は、厚生労働省が提供する医療機能情報提供制度(ナビイ)で地域や診療科目から医療機関を検索できます[12]。

職場・地域の健康診断とどう付き合うか

多くの会社員は年に1回の定期健康診断で脂質項目(LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪)を測定しています。40歳以上を対象とした特定健診(いわゆるメタボ健診)でも、これらの項目は基本的な検査項目に含まれています。結果票に「要再検査」「要精密検査」の判定がある場合、多くの人が「忙しいから」「症状がないから」と再受診を後回しにしがちですが、脂質異常症は自覚症状がないまま進行するからこそ、健診で見つかったタイミングを逃さないことが重要です[2]。健診結果は使い捨てにせず、数年分をファイルにまとめておくと、数値の変化の傾向(悪化しているのか、改善しているのか)を医師と一緒に確認しやすくなります。特定保健指導の対象になった場合は、保健師や管理栄養士による無料の生活改善サポートを受けられることもあるため、案内が来た際は積極的に活用することが勧められます。会社の健診結果を紙で保管している場合は、スマートフォンで撮影しておくと通院時に提示しやすく、年ごとの数値の比較もしやすくなります。脂質値に異常が見つからなかった場合でも、少なくとも年1回は健康診断で確認することが基本です。境界域や軽度の異常が見つかった場合は、ただちに薬物療法が必要とは限りませんが、生活習慣の改善に取り組みながら数か月おきを目安に定期的に再検査を行い、数値がどう変化しているかを医師と一緒に確認していくことが勧められます(日本動脈硬化学会の指針)[2]。

他の生活習慣病との重なり — 複合リスクという考え方

脂質異常症は単独で存在するよりも、高血圧・糖尿病・喫煙・肥満など他の危険因子と重なって存在することが多く、それぞれの危険因子が組み合わさることで心血管疾患のリスクは相乗的に高まるとされています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。健康診断で脂質異常症を指摘された際には、血圧や血糖値など他の項目もあわせて確認し、複数の項目に異常がある場合は特に早めに医療機関へ相談することが勧められます。糖尿病や高血圧をあわせ持つ人は、脂質の数値が軽度の異常であっても、医師が薬物療法をより積極的に検討することがあります(日本動脈硬化学会の指針)[1]。

不飽和脂肪酸と食物繊維の役割

食事療法では「減らすもの」だけでなく「増やすもの」を意識することも重要です。オリーブオイルやキャノーラ油に含まれる一価不飽和脂肪酸、大豆油やコーン油に含まれるn-6系脂肪酸も、動物性脂肪の代わりに使うことでLDLコレステロールの改善に役立つと考えられています。野菜・きのこ・海藻・玄米や全粒粉パンなどの未精製穀物に多い水溶性食物繊維は、腸内でコレステロールの吸収を抑える働きがあるとされ、日本動脈硬化学会のガイドラインでも食物繊維の摂取が推奨されています[2]。大豆製品や野菜、海藻に含まれる植物ステロールも、腸でのコレステロール吸収を競合的に阻害すると考えられています。これらは薬物療法の代わりになるものではありませんが、生活習慣改善の柱として、無理のない範囲で日々の食事に取り入れることが勧められます。

子ども・若年者の脂質異常症について

脂質異常症は中高年の病気というイメージが強いですが、家族性高コレステロール血症のような遺伝性の脂質異常症は、子どもや若年者にも見られます(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]。日本動脈硬化学会は、小児期のFHについても診療ガイドラインを整備しており、家族に若くして心筋梗塞になった人がいる場合や、健診で著しい脂質異常が見つかった場合は、子どもであっても専門医への相談が検討されます[7]。子どもの生活習慣(食事・運動・スクリーンタイムなど)が将来の脂質プロファイルに影響することも指摘されており、家族全体で食習慣を見直すことが、本人だけでなく将来世代の予防にもつながると考えられています。小児期にLDLコレステロールが180mg/dL以上と明らかに高い場合は、複数回の検査で確認したうえで、まず生活習慣の指導を行い、1か月程度の指導後に再評価し、それでも高値が続く場合は薬物療法への移行が検討されます[7]。180mg/dLをわずかに超える程度の場合は、年に数回LDLコレステロール値を評価しながら生活習慣の指導を継続し、確実に基準を超えていることを確認したうえで治療方針を判断する、という段階的な対応が示されています(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]。学校健診などで指摘があった場合は、自己判断せず、まず小児科またはかかりつけ医に相談することが勧められます。

治療を続けるモチベーションを保つコツ

脂質異常症の治療は数か月〜数年単位の長い付き合いになることが多く、症状がない分、途中で通院や服薬が続かなくなってしまう人も少なくありません。継続のコツとしてよく挙げられるのは、数値の変化を記録して「見える化」すること、家族や周囲にも取り組みを共有すること、そして小さな達成を医師と一緒に確認しながら進めることです。完璧な食事や毎日の運動を最初から目指すのではなく、まずは「夕食の揚げ物を週1回に減らす」「エレベーターより階段を使う」といった無理のない一歩から始め、3〜6か月ごとに振り返って調整していく姿勢が、長期的な数値改善につながりやすいとされています(日本動脈硬化学会の指針)[2]。薬を飲み始めた場合も、「一生治らない病気になった」と捉えるのではなく、「将来の心筋梗塞・脳梗塞を防ぐための前向きな管理」として位置づけることが、治療を続けるうえで助けになります。

禁煙・節酒・体重管理という土台

食事・運動と並んで見落とされがちなのが、禁煙・節酒・適正体重の維持です。禁煙が難しい場合は、自己流でやめようとするより、禁煙外来などの専門的なサポートを利用する方法もあります。体重管理については、特に内臓脂肪型の肥満が中性脂肪の増加とHDLコレステロールの低下に関連が深いとされており、極端な食事制限よりも、無理なく続けられる食事と運動の組み合わせで、時間をかけて内臓脂肪を減らしていくことが現実的とされています(日本動脈硬化学会の解説)[6]。これらはどれも一朝一夕には変わりませんが、薬物療法の効果を後押しし、将来の心血管疾患リスクを下げるうえで欠かせない土台です。

反証と不確実性

  • 日本人データと欧米データの違い: 主要な大規模臨床試験の多くは欧米人を中心に行われています。日本人は欧米人に比べて体格や遺伝的背景、食生活が異なるため、薬の効果や副作用の現れ方が異なる可能性があります。日本動脈硬化学会が独自の基準や評価法を用いているのはこのためですが、すべての治療法で日本人固有の十分なデータがあるわけではありません[1]。
  • 一次予防における利益と不利益のバランス: 心血管疾患の既往がない人(一次予防)に対するスタチン治療の利益については、対象集団のベースラインリスクによって評価が分かれます。Cochraneレビューは、絶対リスクが低い集団ではイベント予防の利益と副作用の不利益のバランスを個別に検討する必要があると指摘しています[8]。
  • HDLコレステロールを標的とした治療の限界: HDLコレステロールが低いことがリスクであることは知られていますが、薬物によってHDLコレステロール値を上げても心血管イベントが減るという確立したエビデンスは示されていません。そのため現在の治療戦略は、主にLDLコレステロールを下げることに重点が置かれています。
  • 食事由来コレステロールの影響: かつては食事からのコレステロール摂取を厳しく制限することが重視されていましたが、近年は血中コレステロール値への影響は飽和脂肪酸・トランス脂肪酸の摂取量に比べて小さいと考えられるようになっています。ただし感受性には個人差があります(日本動脈硬化学会の指針)[2]。
  • 脳卒中とnon-HDLコレステロールの関係の複雑さ: non-HDLコレステロールは心筋梗塞との関連が比較的明確である一方、脳卒中との関連はどの病型でも明らかとは言えず、報告によって結果が異なります。国内のコホート研究では、non-HDLコレステロールと脳卒中発症リスクの間にU字型の関連がみられ、性別や脳卒中の病型(脳内出血・アテローム血栓性脳梗塞・心原性塞栓など)によって傾向が異なることが示されています[1]。そのため脳卒中リスクの評価には、non-HDLコレステロール単独ではなく、血圧や糖尿病など他の危険因子も含めた総合的な判断が必要です。
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自己監査:潜在的な誤りと対策

  • 数値・基準の改定リスク: 診断基準や治療の考え方は日本動脈硬化学会のガイドライン改定により変わることがあります。本記事は2026年7月時点の公開情報に基づいています[1]。
  • 保険・費用情報の変動: 診療報酬は改定されるため、費用の目安は将来的に変わる可能性があります。具体的な自己負担額は必ず医療機関・保険者に確認してください[11]。
  • 個別リスク評価の限界: 本記事の数値・目安は一般的な情報であり、個々の治療方針(薬を始めるか、目標値をどこに置くか)は年齢・危険因子・既往歴によって異なります。必ず主治医と相談してください。

相談先の探し方

脂質異常症についてさらに詳しく相談したい場合は、まずかかりつけの内科医に相談するのが基本です。より専門的な評価が必要な場合や、家族性高コレステロール血症が疑われる場合は、日本動脈硬化学会の公式サイトで専門医・認定施設に関する情報を確認できます[1]。薬の副作用が心配な場合は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が公開している医薬品の安全性情報も参考になります[10]。地域の医療機関を探す際は、厚生労働省の医療機能情報提供制度(ナビイ)が便利です[12]。

本記事の作成方針と扱わなかった範囲

本記事は、次のいずれかが発生した場合に見直しを行う方針です:日本動脈硬化学会によるガイドラインの改訂(通常3〜5年ごと)、診療報酬改定(薬価・診療費に関する情報の更新)、脂質異常症治療に関する大規模な臨床試験・メタ解析が主要医学誌で発表された場合。トリガーがない場合でも、半年〜1年に一度を目安に、参考文献のリンク切れ確認と統計データの更新を行います。なお本記事は成人の一般的な脂質異常症を中心に解説しており、妊娠糖尿病に伴う一時的な脂質変化や、家族性高コレステロール血症以外のまれな遺伝性脂質代謝異常症の詳細な鑑別診断には踏み込んでいません。これらについては、専門医療機関での個別評価が必要です。

よくある質問

コレステロール値が高くても症状がありません。本当に治療は必要ですか?
はい、症状がなくても治療の検討が必要です。脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化を進める病気で、症状が出たときにはすでに心筋梗塞・脳梗塞のリスクが高まっていることが少なくありません(日本動脈硬化学会の解説)[6]。健康診断でLDLコレステロールなどが基準値を超えていた場合は、症状がなくても医療機関に相談してください(日本動脈硬化学会の指針)[1]。
スタチンなどの薬は一度飲み始めたら一生やめられないのですか?
必ずしも一生やめられないわけではありませんが、多くの場合は長期的な服用が必要になります。自己判断での中断は数値を元に戻すおそれがあるため危険です。生活習慣の改善によって脂質値が安定的に改善した場合は、医師の判断で減量・中止が検討されることもあります(Cochraneレビューの報告)[8]。
卵などコレステロールの多い食品は避けるべきですか?
過剰摂取は避けたいところですが、神経質になりすぎる必要はありません。血中コレステロールへの影響は、食品中のコレステロール量よりも肉の脂身やバターなどに含まれる飽和脂肪酸の摂取量の方が大きいと考えられています(日本動脈硬化学会の指針)[2]。高リスク者を除き、卵などを極端に制限するより、食物繊維や不飽和脂肪酸(青魚・大豆製品・野菜など)を積極的に摂る食事全体のバランス改善が優先されます。なお中性脂肪については、糖質やアルコールの摂りすぎ・総カロリーオーバーが主な原因になりやすく、コレステロールとは着目すべきポイントが異なります(日本動脈硬化学会の解説)[6]。
中性脂肪が高いと言われました。コレステロールと何が違うのですか?
コレステロールは細胞膜やホルモンの材料、中性脂肪は主にエネルギー源として体に貯蔵される脂肪です。中性脂肪は糖質やアルコールの摂りすぎ、総摂取カロリーの超過で上がりやすいのが特徴で、まず糖質とアルコールを控えることが効果的とされています(日本動脈硬化学会の解説)[6]。
脂質異常症の治療は健康保険の対象になりますか?
医師が診断し治療が必要と判断した場合、診察・血液検査・薬剤費は公的医療保険の対象です。自己負担は年齢・所得に応じて通常1〜3割となります(厚生労働省の情報)[11]。
家族に若くして心筋梗塞になった人がいます。関係はありますか?
関係がある可能性があります。血縁の近い家族が若年(目安:男性55歳未満・女性65歳未満)で心筋梗塞などになった場合、家族性高コレステロール血症(FH)のような遺伝性の脂質異常症が背景にあることがあり、早めの専門医評価が勧められます(日本動脈硬化学会のガイドライン)[7]。
健康診断で「要精密検査」と言われました。どの診療科に行けばいいですか?
まずは内科、または循環器内科を受診してください。日本動脈硬化学会の認定専門医がいる施設を探すこともできます[1]。健診結果と、いつから指摘されているかが分かる情報を持参するとスムーズです。
運動はどのくらい・どんな種類をすればよいですか?
ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどの中強度以上の有酸素運動を、無理のない範囲で継続することが勧められています。厚生労働省 e-ヘルスネットの生活習慣病予防情報でも、定期的な有酸素運動が推奨されています[2]。持病がある場合は運動を始める前に医師に相談してください。
(医療者・研究者向け)スタチンとフィブラート系薬剤の併用時の横紋筋融解症リスクはどう考えればよいですか?
スタチンとフィブラートの併用は単剤に比べて横紋筋融解症のリスクが高まるとされ、特に腎機能低下例・高齢者・多剤併用例で注意が必要です。併用を検討する場合は、開始前のCK値・腎機能(eGFR)評価、低用量からの開始、原因不明の筋肉痛・脱力感・褐色尿が出た場合の速やかな中止と受診について患者に事前に説明することが重要です(PMDAの情報)[10]。個々の薬剤選択・用量は必ず処方医の判断によります。
脂質異常症は薬をやめれば元通りになりますか?
数値を目標範囲内にコントロールし続けることが治療の目的です。生活習慣の改善によって数値が安定的に良くなる方もいますが、体質や遺伝的な要因が関わる場合は、長期的な管理が必要になることが多いとされています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。
健康診断の結果、LDLコレステロールが境界域(120〜139)でした。まだ様子見でよいですか?
境界域は「今すぐ薬が必要」というより「他の危険因子(喫煙・血圧・血糖など)と合わせて総合的にリスクを評価すべき段階」とされています(日本動脈硬化学会の指針)[1]。自己判断で放置するのではなく、一度医療機関で他の危険因子の有無を確認し、生活習慣改善の具体的な進め方を相談することが勧められます。

参考文献

  1. 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 第2章 動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク評価」 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/02_230210.pdf
  2. 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 第3章 動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理(食事療法・運動療法)」 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf
  3. 日本生活習慣病予防協会「脂質異常症で治療を受けている総患者数は、401万人 令和2年(2020)『患者調査の概況』より」2024年 https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2024/010781.php
  4. 日本動脈硬化学会「一般の方へ」 https://www.j-athero.org/jp/general/
  5. 日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2025」 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/JAS_FH_GL2025.pdf
  6. Taylor F, Huffman MD, Macedo AF, et al. “Statins for the primary prevention of cardiovascular disease.” Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013. PMID: https://europepmc.org/article/MED/23440795
  7. Yang T, Li W, Chen W, Zhu D, Ren Y, Huang X. “Protocol for a systematic review and meta-analysis of the combination of ezetimibe and statins for hyperlipidemia.” PLoS One. 2024;19(12):e0312588. PMID: 39715179
  8. PMDA(医薬品医療機器総合機構)「患者向医薬品ガイド アトルバスタチン錠5mg「Me」・10mg「Me」」2023年11月更新 https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/171950_2189015F1236_1_00G.pdf
  9. 厚生労働省「診療報酬点数表」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
  10. 厚生労働省「医療機能情報提供制度(ナビイ)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.html
  11. PMDA(医薬品医療機器総合機構)「重篤副作用疾患別対応マニュアル 横紋筋融解症」 https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm2203036.pdf

更新履歴

更新日:2026年7月19日(Asia/Tokyo)。本記事は公的機関・学会情報をもとにJHO編集部が作成・改訂しました。内容に誤りや古い情報がございましたら、お問い合わせフォームよりご指摘・ご報告をお知らせいただけますと幸いです。速やかに確認のうえ修正いたします。

免責事項

本記事は脂質異常症に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の患者様に対する医学的アドバイス、診断、治療を推奨するものではありません。健康上の懸念がある場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。記事の内容は2026年7月19日時点の情報に基づいており、その後のガイドライン改訂により変更される可能性があります。

利益相反の開示

本記事の作成に関して、開示すべき金銭的な事項はありません。特定の製薬会社・医療機器メーカー・食品会社などからの資金提供を受けずに、JHO編集部の独立した予算で制作しました。記事中で薬剤名(スタチンなど)に言及している箇所がありますが、これは科学的エビデンスに基づき一般名で解説することを目的としており、特定の製品の使用を推奨するものではありません。

まとめ

脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気につながる危険な状態です。しかし、正しい知識を持ち、早期に対策を講じることで、そのリスクは大きく管理できます。

  • 健康診断の結果を無視せず、基準値を超えていたら症状がなくても医療機関を受診してください。
  • 治療の基本は、飽和脂肪酸を減らし青魚や野菜を増やす食事と、中強度の有酸素運動を継続することです(日本動脈硬化学会の指針)[2]。
  • 薬物治療が必要と診断された場合は、自己判断で中断せず、医師の指示通りに服用を続けることが重要です(Cochraneレビューの報告)[8]。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個人の状態は異なるため、具体的な診断や治療方針は必ず主治医と相談のうえ決定してください。

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本記事はAI技術を活用し、厚生労働省・WHO等の公的医療機関の情報に基づいて作成されています。医療専門家による個別の監修は受けておりません。健康上の判断や治療については、必ず医師にご相談ください。詳しくは編集ポリシーをご覧ください。

Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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