高血圧緊急症とは|症状・使われる降圧薬と受診の目安
この記事でわかること
目次
- Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
- 要点まとめ
- 第1部:急な血圧上昇の基本と日常生活の見直し
- 1.1. 血圧の基本と高血圧緊急症のイメージ
- 1.2. 悪化させてしまうNG習慣
- 第2部:身体の内部要因 — 高血圧を招く病気やホルモンの変化
- 2.1. 原発性高血圧と二次性高血圧
- 2.2. 【特に女性】妊娠高血圧症候群・子癇など
- 2.3. 高齢者・既往歴のある人での注意点
- 第3部:高血圧緊急症と病院で使われる主な降圧薬
- 3.1. 高血圧緊急症と高血圧切迫症の違い
- 3.2. ラベタロール:多くの場面で使われるβ遮断薬
- 3.3. ニカルジピン:現在の第一選択となることが多いカルシウム拮抗薬
- 3.4. ニトログリセリン:心筋梗塞・急性心不全で重要な薬
- 3.5. ニトロプルシド:即効性が高いが慎重な使用が必要な薬
- 3.6. 舌下薬(舌の下で溶かすタイプ)の役割と注意点
- 第4部:今日から始める血圧管理・予防アクションプラン
- 第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
- 5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- よくある質問
- 結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
- この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
- 参考文献
「いつもより頭痛が強い」「胸が締めつけられる感じがする」と思って血圧を測ったら、上が180を大きく超えていて不安になった……。そんな経験はありませんか。
この症状、いつ受診すべきか確認しますか?
回答に合わせて必要な質問だけを表示します。診断は行いません。
症状はいつから続いていますか?
回答により質問数が変わります・途中でいつでも記事に戻れます
血圧が一時的に高くなること自体は誰にでも起こり得ますが、「高血圧緊急症」や「高血圧切迫症」と呼ばれる状態になると、脳卒中や心筋梗塞、大動脈解離、急性心不全など命に関わる合併症につながるおそれがあります。
この記事では、日本のガイドラインや公的資料をもとに、以下のポイントをわかりやすく整理します。
- 高血圧緊急症・高血圧切迫症とは何か、どんな症状が危険サインなのか
- 病院で使われる代表的な「即効性のある降圧薬」の種類と役割(ラベタロール、ニカルジピン、ニトロプルシド、ニトログリセリンなど)
- 一部で使われる舌下薬(舌の下で溶かす薬)について、知っておきたい注意点
- 自宅でできる高血圧の予防・急な血圧上昇のリスクを減らす生活習慣の整え方
- 「この血圧だと救急要請した方がいい?」という悩みに対する受診・救急受診の目安
急激な血圧上昇はとても不安になりますが、正しい知識があれば、「慌てて危険な自己判断をしてしまう」リスクを減らし、必要なときに適切な医療につながりやすくなります。ご自身やご家族の安心のために、ぜひ落ち着いて読み進めてみてください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」1や厚生労働省が公表している重症高血圧の対応マニュアル2、MSDマニュアル日本語版などの専門的な資料3、および世界のガイドライン・総説論文456を一次情報源とし、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:重症高血圧の対応マニュアルや薬剤性高血圧に関する資料2、統計資料など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本高血圧学会ガイドライン(JSH2019)1、欧州心臓病学会(ESC)高血圧部会のポジションペーパー5、国際高血圧学会(ISH)のグローバルガイドライン6、高血圧緊急症の総説論文4などを中心に、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています。
- 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:大学病院・総合病院の解説ページ7や専門誌の記事3などを参考に、日本の医療現場で実際に行われている診療の流れをイメージしやすいよう補足しています。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。
要点まとめ
- 高血圧緊急症は、血圧が急激に高くなるだけでなく、脳や心臓、腎臓などの臓器障害が進行している危険な状態を指し、早急な入院治療・点滴による降圧が必要です。
- 高血圧緊急症の治療では、ラベタロールやニカルジピン、ニトログリセリン、ニトロプルシドなど静脈内投与の降圧薬が用いられますが、どの薬を使うかは「脳卒中」「大動脈解離」「急性心不全」「妊娠高血圧症候群」などの病態によって変わります。
- 「とにかく早く血圧を下げたい」と思って自己判断で薬を飲み足したり、家族の薬を分け合ったりすることは危険です。急激すぎる降圧は脳や腎臓への血流を減らし、かえって障害を悪化させることがあります。
- 舌下錠やスプレーなど舌の下で溶かす薬(ニトログリセリンなど)は、医師の指示のもとで使う場合がありますが、「頭痛がするから血圧を下げたい」といった目的で自己判断で使用するものではありません。
- 日頃からの減塩、体重管理、定期的な血圧測定、飲み忘れのない内服が、そもそも高血圧緊急症を起こさないために最も大切です。特に日本高血圧学会は、1日6g未満の食塩摂取を推奨しています1。
- 「上が180以上・下が120以上」「今まで経験したことのない激しい頭痛・胸痛・呼吸困難・片側の麻痺・意識障害」などがある場合は、迷わず119番通報を含めて救急受診を検討すべきサインです23。
「血圧計の数字がいつもより高いだけで救急車を呼んでもいいの?」「どこまでが自宅で様子を見てよくて、どこからが危険なの?」──そんな悩みを抱えて、一人で不安になっている方も少なくありません。
本記事では、まず日常生活やストレスなど身近な原因で血圧が上がるケースから整理し、それでも改善しない場合や、脳や心臓の病気が隠れている可能性があるケースまで、段階的に理解できるように構成しています。
あわせて、生活習慣の見直しに役立つ総合ガイドや、より専門的なテーマについて解説した詳細解説記事など、関連ページにも自然な流れで橋渡しができるよう意識しています。
読み進めていただくことで、「自分の状態をどう見極めればよいか」「いつどの診療科に相談すべきか」「今からできる具体的な予防策は何か」が、イメージしやすくなることを目指しています。
今の血圧・脈拍を確かめる
数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
身長と体重からBMIも調べる
血圧手帳(この端末に保存)
これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
第1部:急な血圧上昇の基本と日常生活の見直し
まずは、「そもそも血圧が上がるとはどういうことか」「生活の中で血圧を押し上げてしまう習慣にはどんなものがあるか」を整理していきます。専門的な病気を疑う前に、多くの人に当てはまりやすい日常のポイントを見直すことで、ご自身の状態を客観的に振り返りやすくなります。
1.1. 血圧の基本と高血圧緊急症のイメージ
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の内側を押す力のことです。上の値(収縮期血圧)は心臓がギュッと縮んで血液を送り出すときの圧、下の値(拡張期血圧)は心臓が少し休んでいるときの圧を表します。
日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室血圧で140/90mmHg以上が高血圧と定義されていますが1、一度の測定でこの数字を超えたからといって即座に危機的状態というわけではありません。運動直後や強いストレス時には、一時的に大きく上がることもあるからです。
一方で、「高血圧緊急症」は、血圧が非常に高いだけでなく、脳(意識障害・けいれん・視力障害など)、心臓(胸痛・息切れ)、腎臓(尿量の低下)などの臓器障害が急速に進んでいる状態を指します。厚生労働省のマニュアルでは、多くの場合「180/120mmHg以上」の高度血圧上昇が見られ、脳卒中や急性心不全、急性腎不全、大動脈解離などが合併してくると説明されています2。
反対に、血圧は非常に高いけれど臓器障害の所見がはっきりしない状態は「高血圧切迫症(hypertensive urgency)」と呼ばれ、多くの場合は数時間〜数日のあいだに内服薬でゆっくり血圧を下げていく方針がとられます4。どちらに当てはまるかは、自覚症状と診察・検査を総合して医師が判断します。
1.2. 悪化させてしまうNG習慣
日常生活の中には、知らないうちに血圧を押し上げたり、急な血圧スパイク(瞬間的な高血圧)を招いたりする行動がいくつもあります。いくつか代表的な例を挙げてみましょう。
- 塩分のとり過ぎ:インスタント食品、漬物、スナック菓子、外食メニューなどは味付けが濃くなりがちです。日本高血圧学会は、食塩摂取量を1日6g未満に抑えることを推奨していますが1、実際にはそれを大きく超えている人も少なくありません。
- アルコールの飲み過ぎ:少量の飲酒でも一時的に血圧が上がりますが、大量飲酒や「飲んでは寝る」を繰り返す生活は慢性的な高血圧につながりやすいことがわかっています。
- 喫煙・加熱式たばこ:紙巻きたばこだけでなく加熱式たばこも、吸うたびに血圧と脈拍を一時的に上昇させます。これが毎日続くことで、血管のダメージが積み重なります。
- 睡眠不足・不規則な生活:夜更かしやシフト勤務などで体内時計が乱れると、自律神経のバランスが崩れ、夜間血圧が高い「夜間高血圧」になりやすいことが知られています1。
- 急激ないきみ・力み:重い荷物を一気に持ち上げる、トイレで強くいきむ、寒い脱衣所で急に立ち上がるなどの行動は、一瞬で血圧を大きく変動させる原因になります。
- 処方薬・サプリの自己判断での中止・増量:血圧の薬を「調子が良いから」と自己判断で減らしたりやめてしまうと、反動で血圧が大きく上がることがあります。逆に、病院処方ではない降圧サプリを独自に追加してしまうのも危険です。
これらの行動は、「たまたま一回やってしまった」だけで高血圧緊急症になるわけではありませんが、もともと高血圧がある人や、脳・心臓の病気のリスクが高い人にとっては、きっかけになる可能性があります。まずはできるところから一つずつ、無理のない範囲で見直していくことが大切です。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 朝起きてすぐ測ると血圧が高いが、昼間は比較的落ち着いている | 夜間高血圧、睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群など |
| 仕事や家庭の強いストレスのあと、頭痛や動悸とともに血圧が一気に上がる | ストレスによる自律神経の乱れ、過度のカフェイン・アルコール摂取など |
| 寒い浴室や脱衣所で立ち上がった直後に血圧が急に上がる、めまいがする | 温度変化による血管の急激な収縮・拡張 |
| 血圧の薬を数日飲み忘れたあと、いつもより高い数値が続いている | 降圧薬の中断・飲み忘れによるコントロール不良 |
| 頭痛や肩こりがつらく、市販薬を頻繁に飲んでいる | 一部の鎮痛薬(NSAIDs)や漢方薬などによる血圧上昇の可能性 |
第2部:身体の内部要因 — 高血圧を招く病気やホルモンの変化
生活習慣を見直しても血圧がなかなか下がらない場合や、比較的若いのに血圧がとても高くなる場合、背景には腎臓の病気やホルモンの異常など、身体の内側の問題が隠れていることがあります。この章では、とくに高血圧緊急症のリスクと関連する内部要因について整理します。
2.1. 原発性高血圧と二次性高血圧
多くの人の高血圧は、遺伝体質と生活習慣が重なって起こる原発性高血圧です。一方で、全高血圧の約10%前後は、腎臓病や内分泌の病気などが原因となる二次性高血圧と考えられています1。
- 腎臓の病気:慢性腎臓病(CKD)、腎血管の狭窄などは、塩分や水分の排泄がうまくいかなくなり、血圧を上げる大きな要因になります。
- 内分泌(ホルモン)の病気:原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫などは、血圧を急激に変動させる原因となり、高血圧緊急症の誘因になることがあります2。
- 薬剤性高血圧:一部の抗がん剤、免疫抑制薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、漢方薬、サプリメントなどが原因で、急激な血圧上昇(薬剤誘発性高血圧緊急症)が起こることも報告されています2。
特に、もともと血圧がそれほど高くなかった人が、短期間のうちに急に重度の高血圧になった場合や、複数の降圧薬を飲んでもコントロールが難しい場合は、二次性高血圧を疑って精密検査が必要になることがあります。
2.2. 【特に女性】妊娠高血圧症候群・子癇など
妊娠中の高血圧は、母体と胎児の双方に大きな影響を与える重大な問題です。日本高血圧学会のガイドラインでも、高血圧緊急症の定義の中に「高度の高血圧を伴う妊婦」が追記されており4、適切な管理の重要性が強調されています。
- 妊娠高血圧症候群(妊娠高血圧・子癇前症など):妊娠20週以降に発症する高血圧で、むくみや蛋白尿を伴う場合があります。頭痛、視覚障害、右上腹部痛などが出現すると、子癇やHELLP症候群など重篤な状態が疑われ、緊急対応が必要になります。
- 子癇(しかん):妊娠高血圧症候群にけいれん発作を伴った状態であり、母体・胎児ともに命に関わることがあります。血圧管理と同時に、けいれんの予防・治療、場合によっては早期分娩などが検討されます。
妊娠中は使える降圧薬に制限があり、ラベタロールなど妊娠中でも比較的安全性が高いとされる薬が選択されることが多いと報告されています35。一方で、ニトロプルシドのように胎児への影響が懸念される薬は、基本的に避けられます。
妊娠中に上の血圧が160mmHg以上、下が110mmHg以上が続く、激しい頭痛・目がチカチカする・お腹の張りが強いなどの症状がある場合は、自己判断で様子を見るのではなく、すぐに産科・救急外来に相談してください。
2.3. 高齢者・既往歴のある人での注意点
高齢者や、すでに脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎臓病の既往がある人では、同じ血圧の数字でも臓器へのダメージが起こりやすくなります。そのため、急激な降圧はかえって脳や腎臓の血流を減らしてしまうことがあり、非常に慎重なコントロールが必要です46。
高齢者の場合、「普段は上が130台だが、ある日だけ180を超えた」というような変動が重要なサインになることもあります。日々の血圧手帳をつけておくと、医師が「急激な変化なのか」「慢性的に高いのか」を判断しやすくなり、適切な治療選択につながります。
第3部:高血圧緊急症と病院で使われる主な降圧薬
ここからは、実際に病院で高血圧緊急症と判断されたとき、どのような流れで治療が行われ、どのような降圧薬が使われるのかを解説します。ご自身が薬を選んだり、点滴を調整したりすることはありませんが、「何のためにこの薬が使われているのか」を知っておくと、不安が少し軽くなるかもしれません。
3.1. 高血圧緊急症と高血圧切迫症の違い
高血圧緊急症と高血圧切迫症は、どちらも非常に高い血圧を伴いますが、「臓器障害が進行しているかどうか」が大きな違いです45。
- 高血圧緊急症(Emergency):血圧は一般に180/120mmHg以上と非常に高く、脳卒中、くも膜下出血、高血圧性脳症、大動脈解離、急性心筋梗塞、急性左心不全(肺水腫)、急性腎不全、子癇などの臓器障害が進行している状態。入院のうえ、静脈内投与の降圧薬で数時間以内に血圧をコントロールする必要があります。
- 高血圧切迫症(Urgency):血圧は非常に高いものの、急性の臓器障害の証拠が明らかではない状態。多くの場合は、数時間〜数日のあいだに内服薬を調整して緩やかに血圧を下げることが推奨されます。
多くのガイドラインでは、高血圧緊急症の場合、まず1時間以内に平均血圧をおおよそ25%程度低下させ、その後24〜48時間かけて目標値に近づけるような段階的な降圧を推奨しています456。急激に血圧を下げすぎると、脳や腎臓の血流が不足し、かえって障害を悪化させるおそれがあるためです。
3.2. ラベタロール:多くの場面で使われるβ遮断薬
ラベタロールは、α1遮断とβ遮断の両方の作用を持つ降圧薬で、心拍数を極端に増やさずに血管を拡張し、血圧を下げることができます3。日本語のMSDマニュアルなどでは、多くの高血圧緊急症で使用可能な薬として紹介されています3。
静脈内投与で用いられ、少しずつ速度を調整しながら、目標とするレベルまで血圧をコントロールしていきます。妊娠高血圧症候群など妊娠中の高血圧にも比較的よく用いられる薬の一つです5。
一方で、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、重い心不全、著しい徐脈(脈が極端に遅い)がある方には使用できない場合があります3。これは、β遮断薬の作用により気道が収縮したり、心臓の働きが落ちたりするおそれがあるためです。
3.3. ニカルジピン:現在の第一選択となることが多いカルシウム拮抗薬
ニカルジピンは、血管の平滑筋に作用して血管を広げる「ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬」です。静脈内投与では数分以内に作用が現れ、点滴速度を調整することで比較的コントロールしやすいとされ、多くのガイドラインで高血圧緊急症の第一選択薬の一つに挙げられています345。
特に、脳出血やくも膜下出血など脳血管障害を伴う高血圧緊急症では、血圧を下げつつも脳への血流を維持する必要があります。ニカルジピンは、このバランスをとりやすい薬の一つとして広く用いられています37。
副作用としては、頻脈(脈が速くなる)、頭痛、顔のほてり、静注部位の静脈炎などが知られています3。急性心不全がある患者さんでは、慎重な使用が必要になります。
3.4. ニトログリセリン:心筋梗塞・急性心不全で重要な薬
ニトログリセリンは、心臓の冠動脈や静脈を拡張し、心臓の負担を減らす薬です。特に、急性心筋梗塞や狭心症の発作、急性左心不全(肺水腫)を伴う高血圧緊急症で重要な役割を果たします34。
病院では点滴で一定速度から開始し、血圧と症状を見ながら少しずつ調整していきます。頭痛、顔の紅潮、頻脈、吐き気などの副作用が出ることがあり、長期間高用量で使用すると「耐性」がついて効きにくくなることも知られています3。
ニトログリセリンは、舌下錠やスプレーの形で在宅治療に用いられることもありますが、それは主に狭心症の発作時の使用であり、「血圧が高いからとりあえず舌下錠を使う」という使い方は推奨されません。特に、ED治療薬(シルデナフィルなど)を服用している場合には、命に関わる低血圧を来すおそれがあり、絶対に自己判断での併用は避けなければなりません。
3.5. ニトロプルシド:即効性が高いが慎重な使用が必要な薬
ニトロプルシドは、非常に強力で即効性の高い血管拡張薬で、投与開始から1分以内に血圧低下が始まり、中止すると数分で効果が切れるとされています46。そのため、以前は高血圧緊急症の代表的な治療薬として広く用いられてきました。
ただし、長時間または高用量で使用するとシアン化物(シアン)やチオシアン酸塩の蓄積による中毒のリスクがあり、腎機能障害がある人や高齢者では特に注意が必要です4。また、頭蓋内圧が高いときには脳の血流に影響を与える可能性があり、慎重な適応判断が求められます7。
こうした理由から、近年ではニカルジピンやニトログリセリン、クリベジピンなど、より扱いやすく安全性の高い薬が第一選択として用いられることが増えています36。
3.6. 舌下薬(舌の下で溶かすタイプ)の役割と注意点
日本では、救急外来へのアクセスが難しい地域や夜間など、すぐに点滴ができない状況で、例外的に舌下投与の薬が使われることがあります。代表的なものに、ニトログリセリン舌下錠・スプレー、カプトプリル、クロニジン、ラベタロールの内服薬などがあります411。
ただし、これらはあくまで医師の明確な指示のもとで使用されるべき薬であり、「手元にあるから」「血圧が高いから心配」という理由だけで、自己判断で服用量を増やすことは非常に危険です。
- カプトプリル舌下錠:ACE阻害薬で、比較的速やかに血圧を下げますが、腎機能やカリウム値に影響を与えることがあります。
- クロニジン:中枢性に交感神経を抑える薬で、眠気や口渇、徐脈などの副作用があり、急に中止するとリバウンド高血圧を起こすことがあります。
- ラベタロール内服:β遮断薬として、既に述べたように喘息などでは使えない場合があります。
舌下薬は「とても便利な緊急用スイッチ」のように見えますが、誤ったタイミング・量で使うと、かえって脳梗塞などのリスクを高めてしまう可能性があります。医師から具体的な使用方法を教わっている場合を除き、自己判断で新たにこうした薬を使用することは避けましょう。
第4部:今日から始める血圧管理・予防アクションプラン
高血圧緊急症の治療は医療機関で行う必要がありますが、「そもそもそこまで血圧が上がらないようにすること」は、日頃の生活の中で少しずつ実践することができます。この章では、今日から取り入れやすいアクションをレベル別に整理します。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 塩分と刺激を少し減らし、リラックスして眠る準備をする | 夕食の味付けを「いつもの8割程度」にする/インスタント食品はスープを全部飲まない/就寝前2時間はカフェイン・アルコールを避ける/ぬるめのお風呂にゆっくりつかり、深呼吸をする |
| Level 2:今週から始めること | 家庭血圧の記録と軽い運動を習慣にする | 毎朝・毎晩、同じ条件で血圧を測りノートやアプリに記録する/エレベーターではなく階段を使う/通勤の1駅分を歩く/テレビを見ながらストレッチを行う |
| Level 3:1〜3か月かけて整えること | 体重・睡眠・ストレスマネジメントを見直す | 体重の5%減量を目標に、間食や甘い飲み物を見直す/寝る時間と起きる時間をなるべく一定にする/仕事の合間に「3分ストレッチ」や「1分の深呼吸タイム」を取り入れる/必要であれば産業医やカウンセラーに相談する |
| Level 4:主治医と一緒に取り組むこと | 薬の飲み方・種類の調整、二次性高血圧のチェック | 飲み忘れを防ぐためにピルケースやアラームを利用する/副作用がつらいときは我慢せず医師に相談し、薬の種類や量を調整してもらう/必要に応じて腎臓やホルモンの検査を受ける |
どのレベルから始めても構いません。一度にすべてを完璧に行おうとするとストレスになり、続きません。ご自身の生活の中で「これならできそう」と思えるものから一つずつ試してみてください。
また、仕事や家事・育児が忙しいと、「自分の健康は後回しになりがち」です。特に40〜50代で親の介護も始まると、心身の負担が重なり、高血圧緊急症のリスクが高まることもあります。ご自身の体調を守ることは、家族を守ることにもつながります。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「このくらいの血圧なら様子を見てもいいのか」「今すぐ救急車を呼ぶべきなのか」は、多くの人が迷うポイントです。ここでは、あくまで一般的な目安として、受診や救急受診を検討すべき危険なサインや、診療科の選び方、診察時に役立つ情報のまとめ方を紹介します。
5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 上の血圧が180mmHg以上、または下の血圧が120mmHg以上で、以下のような症状が一つでもある場合は、高血圧緊急症の可能性があります23。
- 突然の、今まで経験したことのないような激しい頭痛
- 片側の手足が動かしにくい・しびれる、ろれつが回らない、視界が欠けるなどの神経症状
- 胸が締め付けられるような痛み、背中へ放散する強い痛み
- 息が苦しい、横になると呼吸がさらに苦しくなる
- 意識がもうろうとする、会話がかみ合わない、けいれんする
- 尿が極端に少なくなる、またはまったく出ない
- 妊娠中で、頭痛・目がチカチカする・お腹の強い張りや痛みがある
- こうした症状がある場合は、血圧の数字にこだわりすぎず、迷ったときは119番に相談することも選択肢の一つです。救急担当者に「いつから」「どのような症状が」「どのくらいの血圧が続いているか」を伝えられると、搬送の必要性を判断しやすくなります。
- 一方で、高い数値が出ても症状がまったくなく、測り直すと下がっている場合などは、慌てて救急車を呼ばず、まずは落ち着いて再度測定し、翌日以降にかかりつけ医へ相談することが推奨されるケースもあります。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- まずどこに相談すればよいかわからない場合:総合内科・循環器内科のあるクリニックや病院が入り口として適しています。地域の医療情報サイトや自治体の案内を活用しましょう。
- 胸痛・息切れが強い場合:心筋梗塞や急性心不全の可能性を考慮し、循環器内科・救急外来が適切です。
- 片麻痺・言葉が出にくい・視覚障害などがある場合:脳卒中を疑い、救急車で脳卒中センターや脳神経外科・脳神経内科のある病院へ搬送されることが望ましいとされています15。
- 妊娠中の場合:できるだけ早く、産科(産婦人科)や周産期センターに相談することが重要です。
- 「血圧は高いが症状が乏しい」場合:まずはかかりつけ医・近くの内科で相談し、必要に応じて循環器内科や腎臓内科などの専門医に紹介してもらう流れが一般的です。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 血圧手帳・家庭血圧の記録:いつ・どのくらいの血圧が続いているかを医師が把握するための重要な情報です。可能であれば、朝・晩の血圧と、そのときの体調をメモしておきましょう。
- お薬手帳・飲んでいるサプリ・市販薬のリスト:薬剤性高血圧の可能性を評価するうえで役立ちます。「市販薬だから大丈夫」と自己判断せず、漢方薬や健康食品も含めてすべて伝えることが大切です。
- 過去の検査結果(健康診断・人間ドックなど):腎機能・脂質・血糖値など、背景にある病気を推測する材料になります。
- 費用の目安:日本では多くの場合、公的医療保険が適用されます。3割負担の場合、外来受診は数千円〜、救急受診やCT・MRIなどを行う場合は1万円を超えることもあります。高額療養費制度なども活用しながら、無理のない範囲で必要な検査・治療を受けていきましょう。
よくある質問
Q1: 血圧が180/100以上になったら、すぐに救急車を呼ぶべきですか?
一度180/100mmHg以上の数字が出ても、症状がまったくなく、その後測り直すと下がっている場合もあります。そのため、「数字だけ」で救急車を呼ぶかどうかを決めることは推奨されていません。
一般的には、強い頭痛・片麻痺・ろれつ障害・胸痛・息切れ・意識障害・けいれんなどの症状が一つでもある場合、高血圧緊急症の可能性があるため、119番通報を含めて救急受診を検討すべきとされています23。迷ったときは、症状と血圧の値を伝えながら救急相談窓口に相談してみてください。
Q2: 高血圧緊急症は、どのくらい早く治療しないと危険ですか?
高血圧緊急症は、放置すると数時間〜数日のうちに脳出血や心筋梗塞、急性心不全などを引き起こし、命に関わる可能性がある状態です45。そのため、多くのガイドラインで「診断がついたら直ちに降圧療法を開始する」ことが推奨されています。
ただし、「早ければ早いほど良いから、とにかく急激に下げればいい」というわけではありません。一般的には、最初の1時間で平均血圧を約25%低下させ、その後24〜48時間かけて目標値に近づけていくような段階的降圧が推奨されています46。これは、脳や腎臓への血流を保ちながら安全に血圧を下げるための工夫です。
Q3: 家にある降圧薬をいつもより多く飲んで、血圧を一気に下げてもよいですか?
これはおすすめできません。内服薬を自己判断で増量すると、数時間後に予想以上に血圧が下がってしまい、めまいやふらつき、失神・転倒、場合によっては脳梗塞のリスクを高める可能性があります。
高血圧切迫症のように急いで内服薬を調整した方がよいケースもありますが、その場合でもどの薬をどのくらい増やすかは医師が判断すべきです4。家庭でできることは、安静にし、再度測定し、症状があれば早めに受診することです。「いつもと違う」感じがあるときは、無理に自分でコントロールしようとせず、医療機関に相談してください。
Q4: 舌下錠(舌の下で溶かす薬)は、血圧が高いときに自分で使ってもいいですか?
舌下錠(ニトログリセリンなど)は、心臓の狭心症発作に対して医師の指示のもとで使用されることが多い薬です。確かに血圧を下げる作用もありますが、「血圧が高いから使う」という目的で自己判断で使用することは推奨されません。
特に、ED治療薬(シルデナフィルなど)を服用している場合や、もともと血圧がそれほど高くない場合、舌下錠の使用で危険な低血圧を招くおそれがあります。医師から「どのタイミングで」「何錠まで使用してよいか」の説明を受けている場合を除き、新たに舌下錠を使い始めることは避けてください。
Q5: 慢性的な高血圧があると、高血圧緊急症になりやすいのでしょうか?
慢性的な高血圧があると、血管や心臓・腎臓などに負担がかかり続けるため、確かに高血圧緊急症のリスクは高くなります。ただし、「普段の血圧が高いから必ず緊急症になる」というわけではありません。
むしろ重要なのは、血圧がどれくらいの期間コントロールされていないか、そして急激な変動があるかどうかです。長期間コントロール不良が続いている場合や、薬の中断・飲み忘れのあとに急に高くなった場合は、脳卒中・心筋梗塞などのリスクが高まるとされています14。
定期的な受診と家庭血圧の記録、生活習慣の見直しを組み合わせることで、こうしたリスクを減らしていくことができます。
Q6: 急に頭が痛くなったとき、血圧を測るべきですか?
激しい頭痛は、高血圧緊急症だけでなく、くも膜下出血や脳出血など、さまざまな原因で起こる可能性があります。家庭に血圧計がある場合は、落ち着いて測定することで客観的な情報が得られますが、血圧が正常でも危険な頭痛のこともある点には注意が必要です。
「今まで経験したことのない突然の激しい頭痛」「首すじが硬い」「吐き気や嘔吐を伴う」「意識がもうろうとする」などの症状があれば、血圧の値に関わらず、すみやかに救急受診を検討してください5。
Q7: 血圧が高いと言われても、自覚症状がなくて実感が湧きません。
高血圧は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるほど、自覚症状が乏しいまま進行することが多い病気です。実際、多くの人は頭痛やめまいを日常の疲れや肩こりのせいにしてしまい、「自分は大丈夫」と感じがちです。
しかし、症状がなくても、長年にわたる高血圧は少しずつ血管や臓器を傷つけ、ある日突然の脳卒中や心筋梗塞として現れることがあります16。自覚症状の有無に関わらず、健康診断の結果や家庭血圧をもとに、主治医と一緒に長期的な管理計画を立てていくことが大切です。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
高血圧緊急症は、決して珍しい病気ではなく、日本でも日々の診療の現場で対応されている重要な疾患です。血圧の数字だけにとらわれるのではなく、「いつもと違う症状があるか」「どのくらいの時間続いているか」を冷静に観察し、必要なときにはためらわず医療に頼ることが、命を守るうえでとても大切です。
一方で、今日からできる小さな生活習慣の工夫──減塩、適度な運動、十分な睡眠、ストレスのコントロール、薬の飲み忘れ防止──を積み重ねることで、そもそも高血圧緊急症に至るリスクを下げていくことができます。
この記事が、「血圧が高い」と言われて不安になっている方や、ご家族を支える立場にある方にとって、「何を怖がるべきか」「何をすればよいか」を整理し、自分のペースで一歩を踏み出すためのヒントになれば幸いです。
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参考文献
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