マダニに刺されたらどうする?SFTSの症状と正しい対処法
この記事でわかること
目次
結論:マダニに刺されているのを見つけたら、自分で無理に引き抜いてはいけません。厚生労働省によると、皮膚に残った口器が化膿の原因になるだけでなく、まれに致死率の高いSFTS(重症熱性血小板減少症候群)に感染することがあります[2]。
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厚生労働省によると、正しい対応は無理に引っ張らず、皮膚科などの医療機関で除去してもらうことです[2]。厚生労働省の集計では、SFTSの国内患者数は2025年に過去最多の183名にのぼり、国立健康危機管理研究機構の研究では致命率は27%と報告されています[3]。まずは慌てず、この記事の「絶対にしてはいけないこと」を確認してください。
要点まとめ
- 国立健康危機管理研究機構によると、マダニは無理に引き抜かず、皮膚科など医療機関で除去してもらう。口器が皮膚に残ると化膿し、体液の逆流で感染のリスクも上がる[4]
- 同機構によると、SFTSの潜伏期間は6日から14日(通常7日から10日)[1]。致命率は日本で27%とする研究がある[3]
- 同機構によると、2024年6月に抗ウイルス薬ファビピラビルが承認されたが、ワクチンはまだない[1][7]
- 厚生労働省によると、SFTSウイルスに感染した猫や犬との接触でも感染した例が報告されている。ただし発症していない動物や室内飼いの動物からの感染例はこれまで報告されていない[2][3]
- 厚生労働省によると、刺された後は数週間、発熱や体調の変化に注意し、症状が出たら「マダニに刺されたこと」を必ず医師に伝える[3]
編集方針:JHO編集部がAIツールの支援を受け、厚生労働省・国立健康危機管理研究機構(JIHS)・日本感染症学会・自治体の感染症情報センター等の公的情報源と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別診断の代わりにはなりません。本記事で扱う患者数や致命率はガイドラインの改定・年次報告の更新により変わることがあります(2026年7月25日時点の公開情報にもとづきます)。
マダニに刺された後のセルフチェック
- □ マダニがまだ皮膚についている → 東京都健康安全研究センターによると、自分で引き抜かず、皮膚科・外科を受診する[6]
- □ すでに自分で取ってしまった → 口器が残っていないか患部を確認し、心配なら皮膚科で診てもらう
- □ 刺された場所や日付をメモした → 受診時に「いつ・どこで・どこを刺されたか」を医師に伝える準備ができている[3]
- □ 刺されてから数週間は体温・体調をゆるく記録している → 国立健康危機管理研究機構によると、発熱や消化器症状が出たらすぐに受診する[4]
- □ 弱っている野生動物や体調不良のペットの体液に直接触れていない → 厚生労働省によると、触れた場合は手袋・マスクを着用し、動物病院や医療機関に相談する[3]
マダニ咬傷とSFTSとは?かまれる仕組み
マダニは草むらや藪、里山の裏山や畑のあぜ道など、シカやイノシシ、野ウサギといった野生動物が出没する環境に多く生息する、体長3から8ミリ程度の大型のダニです[4]。家庭内に生息するチリダニやツメダニとはまったく別の生き物で、肉眼で確認できます[6]。
東京都健康安全研究センターによると、マダニは皮膚のやわらかい部分に咬みつくと、セメント状の物質を分泌してその場に固着し、麻酔のような物質を含む唾液を出しながら長時間にわたって吸血します。国立健康危機管理研究機構によると、吸血の時間は長く、10日間以上に及ぶこともあるとされています[4]。同センターによると、咬まれた直後は痛みをほとんど感じないため、2〜3日たってから、あるいは1週間近くたってから「できもの」のようなものに気づくケースも少なくありません[6]。
マダニがこれほどしっかり皮膚にとどまっていられるのは、口器(口にあたる部分)の構造によります。口器の表面には「かえし」と呼ばれる細かな突起があり、いったん皮膚に刺し込まれると釣り針のように引っかかって抜けにくくなります。ここに、自己流で引き抜くと危険な理由があります。
厚生労働省のQ&Aは、この構造をふまえて「無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがある」[3]と説明しています。かえしのある口器が引っかかったまま体を強く引っ張ると、口器だけが皮膚の中に折れて残り、しかもその体を圧迫することで体内の病原体が逆流して人の体に入りやすくなる可能性がある、ということです。
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絶対にしてはいけないこと
マダニがついているのを見つけたときに、絶対にしてはいけないこと
国立健康危機管理研究機構と厚生労働省は、無理に引き抜こうとせず、医療機関で処置してもらうよう呼びかけています[4][3]。米国CDCは、さらに次のような自己流の方法を避けるよう具体的に挙げています[12]。
- 熱いものを近づけて「あぶり出す」
- ワセリンや油、マニキュアなどを塗って窒息させようとする
- 指先でつぶす・押しつぶす
油やワセリンを塗る、熱を近づけるといった民間療法について、米国CDC(疾病予防管理センター)は、ワセリンや熱、マニキュアなどの物質を使って皮膚から離そうとしてはいけないと注意を促しています。刺激を与えると、感染した体液が皮膚の中に押し出されることがあるためだと説明されています[12](原文は英語のため、ここでは趣旨を訳して紹介しています)。厚生労働省も、無理に引き抜こうとするとマダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがあると説明しており[3]、驚かせる・刺激するような対処を避けるべき理由として近い仕組みを挙げています。
耳の中に虫が入り込んだときも、自己流で無理に取り出そうとしてかえって奥に押し込んでしまうことがあり、落ち着いて専門の医療機関に任せることが勧められています。あわせて耳に虫が入ったときの正しい対処法も参考にしてください。
厚生労働省[2]、国立健康危機管理研究機構[4]、自治体の感染症情報センターは、いずれもマダニがついているのを見つけたら無理に引き抜こうとせず、皮膚科等を受診して除去してもらうよう呼びかけています。皮膚科がすぐに見つからない場合は、外科でも除去してもらえます[6]。
数字で見るSFTSの基準
国立健康危機管理研究機構によると、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、SFTSウイルスによるダニ媒介性の感染症です。国立健康危機管理研究機構は、主な感染経路について「ウイルスを保有するマダニの刺咬、感染動物や患者の血液・体液との接触である」としており、日本では少なくともフタトゲチマダニとキチマダニがヒトへの感染に関与しているとされています。感染症法では四類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る義務があります[1]。
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 潜伏期間 | 6日〜14日(通常7〜10日) | ヒトからヒトへの感染や、猫にかまれて感染した場合はより短いことがある[1][3] |
| 主な症状 | 発熱、全身倦怠感、消化器症状(食欲不振・嘔気・嘔吐・下痢・腹痛) | 頭痛、筋肉痛、意識障害等の神経症状、リンパ節腫脹、出血症状を伴うこともある[2] |
| 致命率 | 27%(国立健康危機管理研究機構の研究) | 日本感染症学会は25〜30%、東京都感染症情報センターは27%とする報告があるとしている[3][7][5] |
| 治療 | 対症療法が中心。2024年6月に抗ウイルス薬ファビピラビルが承認 | 製薬メーカーへの事前登録が必要で、病状の進行が予期される場合に使用が検討される[3][7] |
| ワクチン | 承認されたワクチンはない | 予防は刺されないことが基本になる[1] |
| 国内の患者数 | 2025年は過去最多の183名(2025年11月2日時点) | 2021年以降、毎年100名を超える患者が報告されている[3][2] |
出典:国立健康危機管理研究機構「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」[1]/厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」第8版[3]/日本感染症学会 感染症クイック・リファレンス[7]
致命率という言葉の意味について、厚生労働省のQ&Aは「ある特定の病気にかかったと診断され、報告された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合を示したもの」と説明しています。海外との比較では、中国では10%とする報告もあるとされ[3]、国や集計時期によって数値に幅があります。
SFTSにかかりやすい年齢については、厚生労働省のQ&Aによると、これまでに確認された患者の年齢層は5歳から90歳代までと幅広いものの、全患者の約90%が60歳以上で、亡くなった患者の多くは50歳以上だったとされています。同省は、このことから高齢者ほど重症化しやすいと考えられるとしています[3]。
すべてのダニがSFTSウイルスを持っているわけではありません。厚生労働省のQ&Aによると、日本には命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでの調査でSFTSウイルスの遺伝子が検出されたのはフタトゲチマダニやキチマダニなど一部の種類にとどまり、日本国内でのウイルス保有率は地域や季節により違いがあるものの0から数%程度とされています[3]。刺されたからといって必ず感染するわけではありませんが、見た目だけで保有の有無を判断することはできないため、刺された後の経過観察が大切になります。
SFTSの治療は今どうなっているか
SFTSに特効薬と呼べる治療は長らくありませんでしたが、状況は変わりつつあります。厚生労働省のQ&Aは治療について「対症療法が主体となりますが、国内では、抗ウイルス薬(ファビピラビル)が、2024年6月に承認されており、病状の進行が予期される場合には、使用することも検討されます。また、合併症の病態に応じて、免疫抑制薬・調整薬、抗菌薬が使用されることもあります」と同省は説明しています[3]。日本感染症学会によると、ファビピラビルの効果を高めるためには早期の投与が重要とされ、処方には製薬メーカーへの事前登録が必要です[7]。国立健康危機管理研究機構によれば、ワクチンはまだ承認されていないため、現時点での対策の中心は、刺されないための予防と、刺された後の早期受診だといえます[1]。
医療従事者や家族が患者に接する際の注意点も報告されています。厚生労働省のQ&Aは「患者血液や分泌物との直接接触が原因と考えられるヒト-ヒト感染の事例も報告されています。SFTSは致命率が高い疾患であることを考慮すると、標準感染予防策に加えて接触感染予防策を実施し」、医療提供者や家族等が感染しないように予防策を徹底することが重要だとしています[3]。家庭で看病する場合も、血液や体液に直接触れないよう手袋を使うなど、医療現場に準じた対応が参考になります。日本感染症学会は、重症患者の診療ケアについて「ウイルス量が高いと予想される重症患者の診療ケアにおいては、接触および飛沫予防策も実施することが望ましい」[7]としています。
入院先についても、実は目安があります。日本感染症学会は「SFTS患者の症状は通常重く、特に高齢になるほど、症状は重く、致命率も高い。また、厳重な感染予防策を実施した上で治療がなされる必要があることから、感染症専門医のいる中核病院等の専門施設に搬送することが推奨される」[7]としています。近くの診療所で疑いが持たれた場合も、保健所との連携を通じて、こうした専門施設につながる流れになっています[3]。
SFTSの発生状況——広がる地域と流行の季節
SFTSは西日本を中心に報告されてきましたが、その範囲は年々広がっています。厚生労働省によると「2013年1月、SFTSの患者(2012年秋に発症)が国内で初めて確認されて以降、2020年まで毎年60~100名程度の患者が報告されていました」が、2021年以降は毎年100名を超える患者が報告されるようになり[2]、2025年には過去最多の183名(2025年11月2日時点)に達しています[3]。国立健康危機管理研究機構の集計では、2013年から2025年4月30日までに117名の死亡事例を含む1,071名の報告があり、増加傾向にあるとされています[4]。
日本感染症学会は、患者の発生地域について「主に九州、四国、中国地方、関西、北陸で患者が発生し、近年関東(千葉県)でSFTS患者が初めて確認された」[7]としています。東京都感染症情報センターによると、推定される感染地は静岡県などを含む29府県に広がっており(2025年4月30日現在)[5]、厚生労働省のQ&Aも「2025年に関東や北海道で感染した症例が報告されました」としたうえで、「そのため、全国的に感染リスクがあると考えられ」るとしています[3]。これまで患者が報告されていない地域でも油断はできません。
季節については、国立健康危機管理研究機構の集計で4月から8月に多く発症しているものの、数は少ないながら冬期の感染も確認されているとされています[4]。春から秋にかけての野外活動シーズンはとくに注意が必要ですが、一年を通じて油断しないことが大切です。
SFTSは日本だけの病気ではない
SFTSは日本だけで見られる病気ではありません。厚生労働省のQ&Aによると「2011年に中国で初めて報告されました。以降、日本、中国、韓国、台湾、ベトナム、タイ及びミャンマーで患者発生が確認されており、東アジアや東南アジアで発生しています」[3]。周辺国での流行状況を知っておくと、海外への渡航や滞在の際にも役立ちます。
検査所見にも特徴があります。厚生労働省のQ&Aは、SFTSにかかったときの検査所見について「血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少、血清酵素異常(AST、ALT、LDH、CKの上昇)、尿検査異常(タンパク尿、血尿)などが見られます。骨髄検査が実施される場合が比較的多く、骨髄検査ではほぼ全例で血球貪食症候群の所見が認められます」と同省は説明しています[3]。血液検査で血小板や白血球の減少が見つかった際に、医師が野外活動歴や動物との接触歴を尋ねるのは、こうした特徴的な所見とSFTSを結びつけて考えるためです。
すぐに受診が必要な危険なサイン
マダニに刺された後、こんな症状が出たらすぐに医療機関を受診してください
厚生労働省は、マダニに刺された後に次のような症状が出たら、すぐに医療機関を受診するよう呼びかけています[2]。
- 38度前後以上の発熱が続く
- 食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状
- 強い全身倦怠感
日本感染症学会は、さらに次の症状も受診の目安として挙げています[7]。
- 頭痛、筋肉痛、意識がぼんやりする・言葉が出にくいなどの神経症状
- リンパ節の腫れ、皮下出血や下血など出血しやすい症状
厚生労働省によると、これらの症状は、発熱や消化器症状という点では急性胃腸炎やインフルエンザのような病気とも似ており、区別がつきにくいことがあります。だからこそ、同省は、受診の際にマダニに刺された、あるいは山林や草地に立ち入ったという事実を医師に伝えることが、正しい診断につながる重要な手がかりになると呼びかけています[3]。
厚生労働省のQ&Aは、医療機関向けの説明として「初期症状は急性胃腸炎、インフルエンザ様疾患の症状と類似し区別がつきません」としたうえで、刺し口がある場合の鑑別疾患として「つつが虫病、日本紅斑熱、ライム病、エーリキア症及びアナプラズマ症などが鑑別疾患として挙げられます」と同省は説明しています。また同省は「体調の悪い動物の体液と接触した数日後に発熱、全身倦怠感、消化器症状等の症状が出現した患者を診た場合には、SFTSも鑑別診断に挙げる必要があります」とも説明しており[3]、動物との接触歴も診断の手がかりになることがわかります。
興味深いのは、刺し口が見つからなくても診断が否定されるわけではないという点です。厚生労働省のQ&Aは「マダニに刺されたことが確認されず、さらに上記すべての症状や検査結果が認められない場合であってもSFTSは否定できません」[3]と説明しています。症状が典型的でなくても、心配な体調の変化があれば医療機関に相談してよいということです。
医師が診断を疑ったときの流れも押さえておくと安心です。厚生労働省のQ&Aは、医療機関向けに「発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、AST・ALT・LDHの上昇を認めた場合、本疾患を疑います。ただし、全ての症状や検査所見が認められる訳ではありません」としたうえで、「SFTSが疑われる場合には、最寄りの保健所に報告するとともに、検査を依頼してください。地方衛生研究所や国立健康危機管理研究機構においてウイルス学的検査が実施されます」[3]と説明しています。ウイルス学的な検査は一般のクリニックではなく、保健所を通じて地方衛生研究所や国立健康危機管理研究機構で行われる、専門的な検査だということです。
マダニが媒介するほかの病気との違い
マダニに刺されて起こる病気はSFTSだけではありません。大阪府の資料では、日本紅斑熱やつつが虫病もあわせて紹介されています[8]。潜伏期間や症状には違いがあるため、簡単に比較します。
| 病気 | 病原体・媒介 | 潜伏期間 | 主な症状 |
|---|---|---|---|
| SFTS | SFTSウイルス/マダニ[1] | 6日〜14日[1] | 発熱、消化器症状、重症例で出血傾向や意識障害[1] |
| 日本紅斑熱 | 紅斑熱群リケッチア/マダニ[9] | 2日〜8日[9] | 発熱・発疹・刺し口の三徴候[9] |
| ライム病 | ボレリア属菌/マダニ[10] | 通常3日〜30日程度[10] | 遊走性紅斑、筋肉痛、関節痛、重症化で神経症状や心疾患[10] |
| つつが虫病 | つつが虫病リケッチア/ツツガムシ(マダニとは別の生き物)[11] | 5日〜14日[11] | 高熱、特徴的な刺し口、発疹[11] |
出典:国立健康危機管理研究機構「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」[1]/同機構「日本紅斑熱」[9]/同機構「ライム病」[10]/同機構「つつが虫病」[11]
大阪府によると、ツツガムシはダニの一種ですが、マダニとは分類が異なる生き物で、大きさも吸着後で0.5ミリメートル程度とマダニよりずっと小さく、肉眼では見つけにくいという特徴があります。大阪府によると、マダニは春から秋にかけて、ツツガムシは主に秋から初冬(東北や北陸地方ではあわせて春から初夏)に活動が活発になるとされています。同府は、いずれの病気も刺し口や発熱に気づいたら山林や草地に入ったことを医師に伝えるよう呼びかけています[8]。
猫や犬から感染することもある——あまり知られていない事実
マダニに刺されること以外にも、SFTSウイルスに感染したペットとの接触によって人が感染した例が報告されています。厚生労働省は感染経路について「SFTSウイルスに感染した猫や犬との接触により感染したと考えられる症例も報告されています」[2]と説明しています。
厚生労働省のQ&Aによると、国内ではSFTSウイルスに感染して発症した猫、犬、そしてチーターが報告されており、感染した動物では発熱、元気消失、嘔吐、黄疸(黄疸は猫のみ)といった症状がみられ、猫は約6割、犬は約4割が死亡するとされています。感染した動物の血液や唾液などの体液に直接触れた場合、人がSFTSウイルスに感染する可能性があり、実際に猫にかまれたことが原因で感染した事例や、発症した動物の体液に接触したことが原因と考えられる獣医療関係者の感染事例も報告されています[3]。日本感染症学会も、伴侶動物(猫・犬)にかまれて、あるいは直接触れて感染した事例や、獣医療関係者のいわゆる職業関連感染事例を報告しています[7]。
ただし、過度に恐れる必要はありません。厚生労働省のQ&Aは「発症していないネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告されていません」と明記しています。リスクが高まるのは、体調を崩して症状が出ている動物の血液・体液に直接触れた場合であり、健康なペットや室内飼いのペットに触れること自体が危険というわけではありません[3]。
動物の側からもリスクの広がりが確認されています。厚生労働省のQ&Aによると「国内において、シカ、イノシシ等の野生動物やネコやイヌの血液を検査したところ、SFTSウイルスに対する抗体を持っている(=過去にSFTSウイルスを保有するマダニに吸血されて、SFTSウイルスに感染したことのある)動物がいることが分かっています」。そして「これまで、西日本を中心に感染した動物が報告されておりましたが、徐々に東日本での報告も増えており、ヒトでの患者が報告されている地域と重なります。一般的に動物がSFTSウイルスに感染した場合、多くは症状を示さない(不顕性感染)と考えられています」[3]。つまり、元気そうに見える動物でも、過去に感染していたことがあるという意味で、油断はできません。ただし、これは症状のない動物からヒトへの感染事例が報告されていないという先ほどの説明と矛盾するものではなく、あくまで抗体という「感染の痕跡」が広い範囲の動物で見つかっているという疫学的な事実です。
もう一つ、国内で初めて報告された変化があります。厚生労働省のQ&Aによると、2024年3月に国内でも初めてのヒトからヒトへの感染事例(患者から医療従事者への感染)が報告されており[3]、患者の血液や分泌物との直接接触が感染の原因になったと考えられています。日本感染症学会は、重症患者を診療・介護する際には接触感染予防策を徹底することが望ましいとしています[7]。
厚生労働省によると、ペットを飼っている場合の予防としては、動物に付着したダニを適切に駆除すること、動物が体調不良のときはマスクや手袋を着用してかまれたり舐められたりしないよう注意しながら動物病院を受診すること、口移しでエサを与えたり動物を布団に入れて寝たりするような過剰な触れ合いを控えることが、同省の資料で挙げられています。動物に触れたら手を洗う、弱っている野生動物には触れない、といった一般的な習慣も大切だとされています[3]。猫による咬傷やひっかき傷そのものについては、狂犬病の心配は少ない一方で別の感染症に注意が必要とされており、詳しくは猫の咬傷・掻傷の完全ガイドで解説しています。
受診の目安——経過観察の期間と、医師に伝えるべきこと
東京都健康安全研究センターによると、マダニに刺されたことに気づいた時点で発症するとは限らず、症状が出ていない段階で検査をすることはできません[6]。そのため、刺された後どのくらいの期間、体調の変化に注意すればよいかが重要になります。
厚生労働省のQ&Aは「マダニに刺された後、数週間程度は体調の変化に注意をし、発熱等の症状が現れた場合はすみやかに医療機関で診察を受けてください」[3]としており、国立健康危機管理研究機構も、数週間程度は体調の変化に注意するよう呼びかけています[4]。大阪府の資料では、より具体的に「山林や草地に立ち入って、1から2週間してから発熱などの症状が出た場合にも、念のため医療機関を受診しましょう」[8]としています。東京都健康安全研究センターのQ&Aでは、ライム病の潜伏期間の長さもふまえて3週間程度の経過観察を勧めており、SFTSの発症までの期間はおよそ6日から2週間程度とあわせて説明されています[6]。数字に多少の幅はあるものの、いずれの情報源も、刺された直後だけでなく数週間は体調の変化に注意するよう呼びかけています。情報源ごとの目安をまとめると、次のようになります。
| 情報源 | 経過観察の目安 |
|---|---|
| 厚生労働省 | 数週間程度[3] |
| 国立健康危機管理研究機構 | 数週間程度[4] |
| 大阪府 | 1から2週間程度[8] |
| 東京都健康安全研究センター | 3週間程度(ライム病もふまえた目安)[6] |
出典:厚生労働省[3]・国立健康危機管理研究機構[4]・東京都健康安全研究センター[6]・大阪府[8]の公表資料。数字に幅があるのは、それぞれ想定している病気の範囲がわずかに異なるためです。迷ったときは、長いほうの目安(3週間程度)を意識しておくと安心です。
受診する際にもっとも重要なのは、体調の変化そのものより先に、マダニに刺されたという事実を医師に伝えることです。厚生労働省のQ&Aは、受診の際に「マダニに刺されたことを医師に説明してください」と呼びかけており、東京都のQ&Aも「いつどこでどこを咬まれたか、申告してください」[6]としています。SFTSの初期症状は急性胃腸炎やインフルエンザ様の病気と区別がつきにくいため[3]、その事実が伝わるかどうかで、医師が鑑別診断の候補にSFTSや日本紅斑熱を挙げられるかが変わってきます。
発熱にともなう病気は他にも多くあり、海外渡航歴がある場合はデング熱のように紛らわしい病気もあります。発熱の原因を見分けるポイントについてはデング熱とほかの発熱性疾患を見分けるポイントも参考になります。いずれの場合も、症状だけで自己判断せず、直前の行動(山林や草地への立ち入り、海外渡航など)を医師に伝えることが大切です。
日本とアメリカ(CDC)の対応の違い
マダニに刺されたときの対応は、実は国によって案内が異なります。日本では厚生労働省・国立健康危機管理研究機構ともに、無理に引き抜かず医療機関で除去することを勧めています[2][4]。一方、米国CDC(疾病予防管理センター)は、先の細いピンセットを使って自宅ですぐに取り除くことを基本の対応として案内しています。
| 項目 | 日本(厚生労働省・国立健康危機管理研究機構) | アメリカ(CDC) |
|---|---|---|
| 基本の対応 | 無理に引き抜こうとせず、皮膚科等の医療機関で除去してもらう[2] | できるだけ早く、先の細いピンセットで自分で取り除く[12] |
| 受診のタイミング | ついている段階で受診する[4] | 除去のために受診を待つ必要はないとしている[12] |
| 刺激することへの注意 | 厚生労働省は、無理に引っ張ったり刺激したりすると体液が逆流する恐れがあるとしている[3] | CDCは、ワセリンや熱でマダニを刺激すると、感染した体液が皮膚に押し出されることがあるとしている[12] |
出典:厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」[2]「SFTSに関するQ&A」[3]/CDC「What to Do After a Tick Bite」[12]
どちらが正しい・間違っているという話ではありません。日本と米国とでは、流行しているマダニ媒介感染症の種類や重症度が異なり、それぞれの公衆衛生当局が置かれている状況に応じて案内を出しています。ここで確認しておきたいのは、厚生労働省[2]、国立健康危機管理研究機構[4]、東京都健康安全研究センター[6]のいずれもが、無理に引き抜かないことを日本国内向けに勧めているという事実です。海外の情報を検索して自己流の対処法にたどり着いた場合でも、日本国内でマダニに刺された際は、日本の公的機関の案内にしたがってください。
なお、CDCはワセリンや熱、マニキュアなどの物質で無理に離そうとしてはいけないとしています[12]。厚生労働省も、刺激すると体液が逆流する恐れがあるとしています[3]。取り除く主体(自分か医療機関か)は異なりますが、CDCも厚生労働省も、驚かせたり刺激したりする自己流の方法は避けるべきだとしている点は押さえておきたいところです。
もう一つ、押さえておきたい点があります。CDCは、除去したダニを民間の検査機関に送って感染の有無を調べる、いわゆる「ダニ検査」について、積極的には勧めていません。CDCが挙げる理由は、ダニ検査を行う検査機関は臨床検査機関ほど厳格な精度管理を求められていないこと、検査で病原体が陽性と出ても実際に感染したとは限らないこと、逆に陰性でも別のダニに刺されて感染している可能性を否定できないことです[12]。日本の場合、SFTSが疑われるときの検査は自己判断の民間検査ではなく、保健所を通じて地方衛生研究所や国立健康危機管理研究機構で行われる仕組みになっています[3]。CDCの案内も日本の仕組みも、症状が心配なときは検査結果を待たずにまず医療機関を受診するよう勧めています。
ちなみに、ウイルスを保有する種類は国によっても違いがあります。厚生労働省のQ&Aによると「中国では、フタトゲチマダニやオウシマダニといったマダニ類からSFTSウイルスが見つかっており、韓国でもフタトゲチマダニがSFTSウイルスを保有しているとの報告があります」[3]。近隣国でも、近縁のダニがリスクになっていることがわかります。
マダニに刺されないための予防
マダニは、シカやイノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境のほか、民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道にも生息しています。国立健康危機管理研究機構は、次のような服装や行動を呼びかけています[4]。
- 野外では腕・足・首などの肌の露出を少なくする。首にはタオルを巻くか、ハイネックのシャツを着用する
- シャツの袖口は軍手や手袋の中に、シャツの裾はズボンの中に入れる
- 山林に入るときはズボンの裾に靴下をかぶせ、農作業や草刈りではズボンの裾を長靴の中に入れる
- 明るい色の服は、付いたときに見つけやすい
- そうした場所では、半ズボンやサンダル履きは避ける
野外活動のあとは上着や作業着を家の中に持ち込まず、シャワーや入浴でマダニが付いていないか確認しましょう。特に首、耳、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏を重点的にチェックすることが勧められています[4][3]。
虫除け剤(忌避剤)も補助的な対策として有効です。国立健康危機管理研究機構によると、マダニに対する忌避剤は2013年から新たに認可され、現在はディート(DEET)とイカリジンという2種類の有効成分を含む製品が市販されています。同機構によれば、忌避剤の使用でマダニの付着数は減少するものの、付着を完全に防ぐわけではないため、服装などほかの対策とあわせて使うことが呼びかけられています[4]。
| 成分 | 国内で販売されている濃度 | 特徴 |
|---|---|---|
| ディート(DEET) | 5〜30%の製品 | 濃度が高いほど効力の持続時間が長い。30%の製品は12歳未満に使用しないなど年齢制限がある。高濃度の製品はプラスチックや化学繊維、皮革を傷めることがある[4] |
| イカリジン | 5〜15%の製品 | 濃度が高いほど効力の持続時間が長い[4] |
出典:国立健康危機管理研究機構「マダニ対策、今できること」[4]
虫除け剤に過度に頼らず、様々な防護手段を組み合わせて対策をとることが大切だと国立健康危機管理研究機構は繰り返し呼びかけています[4]。デング熱を媒介する蚊など、ほかの虫が媒介する感染症とあわせて対策を知りたい方は虫が媒介する感染症とリスク対策の全体ガイドもあわせてご覧ください。
場面別に考える対策
登山やキャンプ、草刈りなど、シチュエーションによって注意のポイントは少し変わります。
- 登山・ハイキングの後:帰宅したらすぐにシャワーや入浴をし、首・耳・わきの下・足の付け根・手首・膝の裏を中心に体をチェックしましょう[4][3]。
- 庭仕事・畑仕事の前:長袖・長ズボンを着用し、袖口とすそを軍手やズボン下に入れて、肌の露出をなくしてから作業を始めましょう[4]。
- 犬の散歩中に犬の体でマダニを見つけたら:飼い主が無理に取ろうとせず、かかりつけの獣医師に相談する。厚生労働省のQ&Aは「マダニが咬着している(しっかり食い込んでいる)場合は、無理に取らず、獣医師に除去してもらうのがよいでしょう」[3]としている。
- ペットが体調を崩したとき:マスクや手袋を着用し、咬まれたり舐められたりしないよう注意したうえで動物病院を受診しましょう[3]。
厚生労働省によると、ペットを飼っている場合は散歩後に体表を確認し、目の細かい櫛をかけるのも効果的です。厚生労働省のQ&Aは、ペットに付いている段階そのものについて「ペットに付いているマダニに触れたからといって感染することはありません。しかし、マダニに刺されれば、その危険性はあります」[3]と説明しており、過度に恐れず、正しい知識で対応することが勧められています。
受診時に医師に伝えることチェックリスト(印刷して持参できます)
- 刺された、または刺されたと思われる日
- 刺された場所(体のどこか、山林・草地・畑・自宅の庭など、どんな環境だったか)
- どう対処したか(自分で取った/病院で除去した/まだついている)
- 現在の症状(発熱・消化器症状・発疹・倦怠感など)と、いつから始まったか
- 体調不良のペットや野生動物の血液・体液に触れた覚えがあるか
- 持病や現在服用している薬
まとめ——覚えておきたい3つのポイント
最後に、この記事の要点を3つに絞って振り返ります。
一つ目は、対処の順番です。厚生労働省によると、体についているのを見つけた段階では無理に引っ張らず、皮膚科などの医療機関で除去してもらうことが基本です[2]。CDCによると、熱を近づけたり油やワセリンを塗ったりする民間療法も避けるべきだとされています[12]。慌てて自己流の対処をすることが、かえってリスクを高めてしまう可能性があります[3]。
二つ目は、経過観察と申告です。厚生労働省・国立健康危機管理研究機構・東京都健康安全研究センターによると、刺された直後に何ともなくても数週間は発熱などの体調変化に注意してください[3][4][6]。そして厚生労働省と東京都健康安全研究センターによると、万が一体調を崩したときは症状そのものだけでなく、いつどこで刺されたか(あるいは山林や草地に立ち入ったか)を必ず医師に伝えてください[3][6]。この一言が、診断のスピードを左右します。
三つ目は、正しく恐れることです。厚生労働省によると、SFTSは致命率が高い病気ですが、刺されたら必ず感染するわけではなく、健康なペットや室内飼いの動物と接すること自体が危険なわけでもありません[3]。むやみに怖がって野外活動やペットとのふれあいをやめる必要はなく、服装や行動を工夫して予防し、体調の変化にだけ注意を払う——それが、国立健康危機管理研究機構が呼びかけている現実的な向き合い方です[4]。
SFTSの国内での地域別・年齢別の詳しい発症率の推移や、猫・犬以外の動物(鹿やイノシシなど)から人への直接的な感染リスクの大きさについては、今回参照した資料の範囲では詳細な数値までは確認できませんでした。ワクチンの開発状況や、抗ウイルス薬による治療がどの程度予後を改善するかについての長期的なデータも、今回の資料だけでは確認しきれていません。継続して報告される最新の発生動向は、国立健康危機管理研究機構やお住まいの自治体の感染症情報センターの発表を確認することをおすすめします[1]。
よくある質問
マダニは自分で取ってもいいですか?
マダニに刺されたら何科を受診すればいいですか?
マダニに刺されたことに気づかなかった場合はどうなりますか?
虫除けスプレーはマダニに効果がありますか?
身の回りの消毒は特別な薬剤が必要ですか?
子供や高齢者は特に注意が必要ですか?
刺されたら必ず感染しますか?
マダニは家の中にもいますか?
感染した野生動物の肉を食べても大丈夫ですか?
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」(更新日:2025年6月19日) https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/severe-fever-with-thrombocytopenia-syndrome/index.html
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」(第8版 令和7年11月21日作成) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html
- 国立健康危機管理研究機構「マダニ対策、今できること」(最終更新日:2025年8月7日) https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/tick-borne-diseases/tick-prevention/index.html
- 東京都感染症情報センター「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」(更新日:2026年5月11日) https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/sfts/
- 東京都健康安全研究センター「マダニにご注意! ~マダニQ&A~」 https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_kankyo/madani/
- 日本感染症学会「感染症クイック・リファレンス 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」(最終更新日:2025年4月13日) https://www.kansensho.or.jp/ref/d31.html
- 大阪府「マダニ等による感染症に注意しましょう!」(更新日:2026年7月13日) https://www.pref.osaka.lg.jp/o100030/iryo/osakakansensho/sfts.html
- 国立健康危機管理研究機構「日本紅斑熱」(更新日:2025年7月24日) https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/japanese-spotted-fever/index.html
- 国立健康危機管理研究機構「ライム病」(更新日:2026年3月23日) https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/lyme-disease/index.html
- 国立健康危機管理研究機構「つつが虫病」(更新日:2026年1月28日) https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/tsutsugamushi-disease/index.html
- CDC「What to Do After a Tick Bite」(2025年7月15日/cdc.govが自動アクセスを遮断するためweb.archive.orgのアーカイブ版) https://web.archive.org/web/20260721194038/https://www.cdc.gov/ticks/after-a-tick-bite/index.html
更新日:2026年7月25日
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