真菌性肺炎(しんきんせいはいえん)完全ガイド:アスペルギルス・カンジダ・クリプトコッカス・PCPの原因から治療まで
この記事でわかること
目次
真菌性肺炎は、カビの仲間である真菌を吸い込むことで起こる肺炎で、健康な人にはほとんど起こらず、ステロイド剤や免疫抑制剤の使用、白血病・抗がん剤治療、HIV感染、糖尿病などで抵抗力が落ちた人に発症します。[1]
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原因となる真菌にはアスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、ニューモシスチスなどがあり、日本呼吸器学会によれば肺アスペルギルス症が最も多く報告されています[1]。発熱・せき・たん・呼吸困難といった症状は細菌性肺炎と似ているため見分けにくく、血液検査や画像検査での確認が重要です。急激な呼吸困難や血痰、意識障害があらわれた場合はただちに医療機関を受診してください。
要点まとめ
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点)。
真菌性肺炎とは?肺で真菌が増える仕組み
真菌性肺炎(肺真菌症)とは、日本呼吸器学会の説明によれば「真菌を吸い込むことによって発病する感染症」です[1]。真菌はカビの仲間で、土壌やほこり、鳥の糞などに広く存在し、その胞子は日常的に空気中を漂っています。健康な人がこの胞子を吸い込んでも、肺の中にいるマクロファージという白血球が胞子を捕食して排除するため、通常は肺炎を起こしません。
しかし、日本呼吸器学会は「ステロイド剤や免疫抑制剤を飲んでいたり、白血病や抗がん剤によって正常な白血球が減っていたりするなど、抵抗力が落ちている人で発症することがある」と説明しています[1]。抵抗力が落ちた状態では、マクロファージが胞子を排除しきれず、真菌が肺の組織の中へ入り込んで増殖し、組織を傷つけながら炎症を起こします。これが真菌性肺炎の基本的な仕組みです。
日本呼吸器学会は、肺真菌症の中でも「肺アスペルギルス症が最も多く、カンジダ症、ムコール症がそれに続いて多くなっています」と述べています[1]。本記事では、この4系統に加えてHIV感染者に多いニューモシスチス肺炎(PCP)を含めた主要な真菌性肺炎について、原因・症状・診断・治療を解説します。
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主な原因菌4種+PCPの基準 — 特徴のまとめ
真菌性肺炎を起こす真菌にはいくつかの種類があり、それぞれ感染しやすい人や症状の出方が異なります。国立健康危機管理研究機構(JIHS)と日本呼吸器学会の情報をもとに、代表的な原因菌の特徴を次の表にまとめました。
| 原因菌・疾患 | 主な感染経路・好発患者 | 特徴 |
|---|---|---|
| アスペルギルス(肺アスペルギルス症) | 好中球減少・造血幹細胞移植・長期高用量ステロイド使用者 | 日本呼吸器学会によれば国内の肺真菌症で最も頻度が高い[1] |
| アスペルギルス(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症=ABPA) | 主に気管支ぜんそくの患者 | 日本呼吸器学会は喘息患者における推定発症率を約2.1%程度としている[2] |
| カンジダ(カンジダ血症) | 血液悪性腫瘍、長期の中心静脈カテーテル留置、集中治療管理下の患者 | 国立健康危機管理研究機構によると国内で最も頻度の高い侵襲性真菌症で、年間1万例前後の発症と推定されている[3] |
| クリプトコッカス(肺クリプトコックス症) | 腎疾患・膠原病・悪性腫瘍・糖尿病・ステロイド投与者はリスク増、免疫正常者での報告もあり | 国立健康危機管理研究機構は国内の患者構成について免疫不全患者が75%以上を占めるとしたうえで、C. gattiiでは免疫正常者での報告もあると説明している[4] |
| ニューモシスチス(ニューモシスチス肺炎=PCP) | HIV感染でCD4が200/μL未満の患者、臓器移植・強い免疫抑制療法中の患者 | 国立健康危機管理研究機構のハンドブックでは、HIV患者における最頻度のエイズ指標疾患と位置づけられている[5] |
出典:一般社団法人日本呼吸器学会「肺真菌症」「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症/真菌症」[1][2]/国立健康危機管理研究機構「カンジダ症」「播種性クリプトコックス症」「ニューモシスチス肺炎(PCP)」[3][4][5]
なお、カンジダ属の中でも近年注目されているのが多剤耐性のCandida aurisです。国立健康危機管理研究機構は「93%の分離株がフルコナゾール耐性」であり、「環境中での長期間生存」が確認されていると報告しています[3]。この菌は院内での集団感染事例が報告されており、医療機関での感染対策上の注意が必要とされています[3]。同機構はまた、カンジダ属の中でもCandida albicansが最も頻出する菌種であるとしたうえで、C. glabrata・C. parapsilosis・C. tropicalisを含めた主要4菌種で全体の約90%を占めると説明しています[3]。菌種によって効きやすい抗真菌薬が異なるため、血液培養で原因菌の種類まで確認することが、適切な薬剤選択につながるとされています[3]。
なりやすい人・危険因子 — 抵抗力が落ちる原因
真菌性肺炎は健康な人にはまれで、何らかの理由で免疫の働きが弱くなっている人に多く発症します。日本呼吸器学会は危険因子として「ステロイド剤や免疫抑制剤を飲んでいたり、白血病や抗がん剤によって正常な白血球が減っていたりする」状態を挙げています[1]。抗がん剤治療や好中球減少症により白血球(特に好中球)が減少すると、真菌を排除する力が大きく低下します。
- ステロイド剤・免疫抑制剤の長期使用:日本呼吸器学会が肺アスペルギルス症の主要な危険因子として説明[1]
- 白血病・抗がん剤治療による好中球減少:日本呼吸器学会が肺真菌症全般の危険因子として説明[1]
- 気管支ぜんそく:日本呼吸器学会によればアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の主な背景疾患[2]
- HIV感染(CD4低下):国立健康危機管理研究機構はCD4が200/μL未満の高度免疫不全状態をニューモシスチス肺炎の主要な危険因子としている[5]
- 腎疾患・膠原病・悪性腫瘍・糖尿病:国立健康危機管理研究機構はクリプトコッカス症のリスク因子として挙げている[4]
- 血液悪性腫瘍・長期の中心静脈カテーテル留置:国立健康危機管理研究機構はカンジダ血症の背景として挙げている[3]
これらの危険因子は重なり合うことも多く、たとえば血液がんの治療で抗がん剤を使いながらステロイドも併用している場合は、真菌性肺炎のリスクがさらに高くなると考えられます。心当たりのある治療を受けている方は、発熱やせきが続いた際に自己判断で様子を見ず、早めに主治医へ相談することが大切です。
特に注意が必要なのは、複数の危険因子が同時に重なる時期です。たとえば造血幹細胞移植の直後は、日本呼吸器学会が挙げる「白血病や抗がん剤によって正常な白血球が減っている」状態に加えて[1]、移植片対宿主病(GVHD)の予防や治療のためにステロイドや免疫抑制剤が併用されることが多く、真菌性肺炎への警戒がもっとも必要な時期の一つとされています。同様に、HIV感染症の治療を始めたばかりでCD4値がまだ回復していない時期も、国立健康危機管理研究機構が示す200/μL未満という基準に近い状態が続くため[5]、ニューモシスチス肺炎への注意が必要です。糖尿病についても、国立健康危機管理研究機構はクリプトコッカス症の危険因子の一つとして挙げており[4]、血糖値の管理が不十分な状態が続くことも、真菌感染症全般に対する抵抗力に影響し得ると考えられています。
症状 — 細菌性肺炎との違い
真菌性肺炎の症状は、日本呼吸器学会によれば「発熱やせき、たん、血痰、だるさ、呼吸困難などの症状が現れます」とされ、「結核や肺炎などと似た症状」であるため、症状だけで細菌性肺炎と見分けることは困難です[1]。この点は、当サイトの黄色ブドウ球菌性肺炎の記事でも触れているように、細菌性肺炎も同様の症状で始まるため、症状の種類ではなく背景にある病気や検査結果で見分ける必要があります。
一方で、原因菌によって症状の出方には特徴があります。国立健康危機管理研究機構のハンドブックによれば、ニューモシスチス肺炎の典型的な3つの症状は「労作時呼吸苦、乾性咳嗽、および発熱」ですが、必ずしもすべてがそろうわけではないとされています[5]。同機関は「低酸素の割に自覚症状に乏しく、気胸発症リスクが高いのが特徴」であるとも説明しており、動くと息が切れるのに本人はそれほど苦しく感じていない、というギャップが特徴です[5]。息切れ(呼吸困難)が続く場合は、原因を調べるためにも早めの受診が勧められます。
播種性クリプトコックス症では、国立健康危機管理研究機構によると「脳髄膜炎や真菌血症に起因する発熱や頭痛、嘔吐、意識障害などの神経症状」が主要な臨床徴候とされ、肺だけでなく脳にまで広がることがある点が特徴です[4]。同機構は潜伏期間についても触れており、感染から症状が出るまでにおよそ6〜7か月程度かかるとされているため、発症時点では感染の原因となった出来事を本人が思い出せないことも珍しくありません[4]。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では、日本呼吸器学会によれば喘息に似た「咳や痰」に加えて、「茶褐色で円柱状の粘液栓の排出」がみられることがあり、重症例では「発熱、食欲不振、血痰、喀血、息苦しさ」を伴うとされています[2]。ふだんの喘息発作とは違う痰の色や量の変化に気づいたときは、自己判断で吸入薬を増やすのではなく、一度呼吸器内科を受診して確認することが勧められます。
診断の流れ — 画像検査・血液マーカー・培養検査
真菌性肺炎の診断には、症状だけでなく複数の検査を組み合わせる必要があります。日本呼吸器学会は診断方法として「胸部X線検査、CT検査、痰培養検査、気管支鏡検査、血液検査」を挙げています[1]。国立健康危機管理研究機構のハンドブックによれば、ニューモシスチス肺炎の胸部画像では「両側に左右差なくびまん性のスリガラス様陰影」を認めることが多いとされます[5]。この画像所見は肺の他の病気でもみられることがあり、間質性肺炎など他の疾患との鑑別が必要になる場合があります。
| 検査・マーカー | 何がわかるか | 出典 |
|---|---|---|
| 血清β-Dグルカン | 国立健康危機管理研究機構によれば、ニューモシスチス肺炎の確定診断例ではほぼ全例で陽性となり、陰性であればPCPの可能性をほぼ否定できる[5] | [5] |
| LDH・KL-6 | 国立健康危機管理研究機構は、ニューモシスチス肺炎の病勢を反映するマーカーとして血液検査で上昇がみられると説明している[5] | [5] |
| 血液培養 | 国立健康危機管理研究機構は、カンジダ血症の診断で血液培養が最重要検査であるとしている[3] | [3] |
| 髄液・血液からの病原体分離 | 国立健康危機管理研究機構は、播種性クリプトコックス症の診断に髄液や血液からの病原体分離・同定、莢膜抗原検出を用いるとしている[4] | [4] |
| 胸部CT(すりガラス様陰影) | 国立健康危機管理研究機構は、ニューモシスチス肺炎で両側性・びまん性のすりガラス様陰影がみられると説明している[5] | [5] |
出典:国立健康危機管理研究機構「ニューモシスチス肺炎(PCP)」「カンジダ症」「播種性クリプトコックス症」[5][3][4]
カンジダ血症については、国立健康危機管理研究機構は「病変部からの培養検査が重要」であるとしたうえで、「血清β-D-グルカン測定が有用」な補助診断であると述べています[3]。また、カンジダ血症では「カンジダ眼内炎の合併率は19.5%」と報告されており、血液培養でカンジダが検出された場合は眼科での眼底検査もあわせて行われることがあります[3]。
診断で重要なのは、真菌性肺炎を疑ったときに単一の検査だけで判断しないことです。日本呼吸器学会が挙げる胸部X線・CT・喀痰培養・気管支鏡・血液検査は[1]、それぞれ得意とする点が異なります。画像検査は病変の場所や広がりを、培養検査は原因菌の種類を、血液中のβ-Dグルカンなどのマーカーは真菌感染の活動性を、それぞれ別の角度から示します。国立健康危機管理研究機構が示すように、ニューモシスチス肺炎ではβ-Dグルカンが陰性であれば可能性をほぼ否定できる一方で[5]、陽性であっても他の真菌感染との鑑別が必要になるため、画像所見や培養結果とあわせて総合的に医師が判断します。血液のがんの治療中など複数の検査値が同時に変化しやすい状況では、こうした複数検査の組み合わせがとりわけ重要になります。
治療薬と治療期間
真菌性肺炎の治療の中心は抗真菌薬です。日本呼吸器学会は「抗真菌薬による治療が主」であり、「病変が1カ所に限定している場合には手術で切除する場合もある」と説明しています[1]。原因菌ごとに使われる薬剤や治療期間は異なります。
| 疾患 | 主な治療薬 | 治療期間・補足 |
|---|---|---|
| アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) | ステロイド薬の経口投与+抗真菌薬(ステロイド単独で効果不十分な場合) | 日本呼吸器学会は「症状や画像上の改善が見られれば、徐々に減量していく」としている[2] |
| カンジダ血症 | エキノキャンディン系またはアゾール系抗真菌薬 | 国立健康危機管理研究機構は「血液培養陰性化後最低2週間の抗真菌薬継続」を推奨している[3] |
| クリプトコックス脳髄膜炎(免疫不全者) | アムホテリシンB+フルシトシン→フルコナゾール | 国立健康危機管理研究機構によれば「2週間のアムホテリシンB点滴静注とフルシトシン経口投与の併用に引き続き、フルコナゾール経口あるいは点滴静注投与による強化・維持治療」が行われる[7] |
| ニューモシスチス肺炎(PCP) | ST合剤(第一選択)、代替はアトバコン・ペンタミジン点滴・プリマキン+クリンダマイシン | 国立健康危機管理研究機構は「9-12錠分3経口投与、21日間」とし、重症例ではステロイド併用も推奨されるとしている[5] |
出典:一般社団法人日本呼吸器学会「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症/真菌症」[2]/国立健康危機管理研究機構「カンジダ症」「ニューモシスチス肺炎(PCP)」「クリプトコックス症の治療」[3][5][7]
ニューモシスチス肺炎については、国立健康危機管理研究機構は予防投与にも触れており、CD4が200/μL以上に回復するまで「ST合剤1錠/日、またはペンタミジン吸入300mg/月」を継続することが選択肢になるとしています[5]。HIV治療中の方は、主治医の指示に従って予防内服を自己中断しないことが重要です。
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
受診時に医師へ伝えるメモ(印刷してお使いください)
- 症状(せき・たん・発熱・呼吸困難など)がいつから続いているか
- 現在治療中の病気(血液の病気、がん、糖尿病、HIV感染など)
- 現在使用中の薬(ステロイド、免疫抑制剤、抗がん剤など)とその開始時期
- 喘息の診断を受けたことがあるか、ある場合はいつからか
- 血痰・喀血の有無、意識障害や強い頭痛の有無
- 過去に真菌感染症(カンジダ症、クリプトコックス症など)と診断されたことがあるか
予後 — 治療しないとどうなるか
真菌性肺炎の経過は、原因菌と患者さんの免疫の状態によって大きく異なります。日本呼吸器学会は、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症について「約半数の患者さんで再発が報告されている」と説明しており、治療で一度症状が落ち着いても、繰り返し悪化を経験する患者さんが少なくないことがわかります[2]。同学会は、治療が不十分なまま経過すると気管支の周囲に線維化や気管支拡張が残り、最終的に呼吸不全につながる可能性があるとも述べています[2]。
カンジダ血症については、国立健康危機管理研究機構が「致死率が30〜50%程度」と報告しており[3]、血液の中に真菌が入り込む状態がいかに重篤かがわかります。早期に血液培養で診断し、抗真菌薬の投与を始めることが命を守るうえで重要だとされています[3]。播種性クリプトコックス症についても、国立健康危機管理研究機構は中枢神経系への播種によって脳髄膜炎を起こすことが多いと説明しており[4]、肺だけの感染にとどまらず脳にまで広がると、頭痛や意識障害といった神経症状が加わり、経過が重くなる傾向があります。
一方で、ニューモシスチス肺炎は、国立健康危機管理研究機構によれば適切な薬剤とステロイド併用によって治療されるとされており[5]、早期に診断し治療を始めることで回復が見込める病気でもあります。真菌性肺炎全体に共通して言えるのは、原因となっている基礎疾患(血液がん・HIV感染・膠原病など)の管理と、真菌性肺炎そのものへの早期の抗真菌薬治療の両方が予後を左右するという点です[1]。
受診の目安 — すぐに医療機関へ
すぐに受診が必要なサイン
日常生活で気をつけたいこと — 曝露を減らす工夫
真菌性肺炎の原因となる胞子は、身の回りの土壌やほこり、鳥の糞などに広く存在しています。国立健康危機管理研究機構は、クリプトコッカス属の真菌について「土壌や鳥糞からの吸入感染を主とします」と説明しており[4]、鳩やインコなど鳥を飼育している場所の清掃や、土いじり・園芸作業の際にほこりを大量に吸い込む状況は、抵抗力が落ちている人にとってリスクになり得ます。抗がん剤治療中やステロイドを長期に使用している方、臓器移植後の方などは、こうした作業を行う際にマスクを着用する、換気の悪い鳥小屋や倉庫での作業を避けるといった工夫が現実的な対策になります。
また、日本呼吸器学会が説明するとおり、真菌性肺炎の危険因子の多くは治療によって生じる一時的な免疫低下です[1]。ステロイドや免疫抑制剤、抗がん剤による治療を受けている間は、体調の変化に普段以上に注意を払い、発熱やせきが2〜3日以上続く場合は自己判断で市販薬に頼らず、治療を担当している医師に早めに連絡することが勧められます。ニューモシスチス肺炎については、国立健康危機管理研究機構がCD4値に応じた予防内服の継続を挙げているとおり[5]、処方された予防薬を医師の指示なく自己中断しないことも重要な対策の一つです。
日本とWHOの優先順位比較
真菌感染症への向き合い方は、国内の実際の発生状況を重視する日本の公的機関の情報と、世界的な研究開発の必要性を重視する世界保健機関(WHO)の分類とでは、見ている角度が異なります。両者を並べることで、日本国内でよく出会う真菌と、世界的に警戒されている真菌の重なりと違いが見えてきます。
| 項目 | 日本(国立健康危機管理研究機構・日本呼吸器学会) | 世界保健機関(WHO・2022年) |
|---|---|---|
| 重視する視点 | 国内での実際の発生数・臨床的な頻度[1][3] | 世界的な公衆衛生上の影響・薬剤耐性リスク[6] |
| アスペルギルス属 | 日本呼吸器学会は国内の肺真菌症で最多と説明[1] | 世界保健機関は2022年に世界で初めて真菌病原体の優先順位リストを策定し、公衆衛生上の影響や薬剤耐性リスクをもとに「critical」「high」「medium」の3群に分類した[6] |
| カンジダ属 | 国立健康危機管理研究機構は年間1万例前後のカンジダ血症発症と推定[3] | 同リストは、薬剤耐性が問題となる新興菌を含め、世界的な研究開発の必要性を基準に対象菌を選定している[6] |
| クリプトコッカス属 | 国立健康危機管理研究機構は国内で年間約150例と報告[4] | 同リストは、対象菌の順位づけを死亡数・年間発生数・薬剤耐性の傾向などをもとに行っている[6] |
世界保健機関は、このリストについて「初めて世界的に真菌病原体を体系的に優先順位付けする取り組みであり、未対応の研究開発の必要性と公衆衛生上の重要性の双方を考慮している」と説明しています[6]。個々の菌種がどの優先度群に分類されているかは公表されている報告書本体(世界保健機関「WHO fungal priority pathogens list to guide research, development and public health action」)で確認できますが、本記事では国内の公的機関が示す発生状況を中心に紹介しています。
日本の公的機関の情報と世界保健機関の枠組みでは、重視する視点そのものが異なります。国立健康危機管理研究機構は国内の実際の発生数を、日本呼吸器学会は国内の臨床現場での頻度を、それぞれ具体的な数字で示しているのに対し[1][3][4]、世界保健機関は世界規模での研究開発の遅れや薬剤耐性リスクという、将来に向けた課題を基準に優先順位を決めています[6]。国内でよく出会う真菌と世界的に警戒されている真菌が同じ顔ぶれとは限らない点に注意しつつ、両方の情報源に目を通すことが、真菌感染症への理解を深めることにつながります。
真菌性肺炎の国内における年間の総患者数(全原因菌をあわせた合計)については、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした。カンジダ血症・播種性クリプトコックス症など個別の疾患ごとの発症数は本文中に記載した通りです。また、肺アスペルギルス症やニューモシスチス肺炎について、国内での年間発症数や年代別・性別の詳細な内訳についても、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした。今後、より詳しい統計が公表された際には本記事を更新します。
結論
真菌性肺炎は、健康な人にはまれで、ステロイド剤・免疫抑制剤の使用、白血病や抗がん剤治療による白血球減少、HIV感染、糖尿病などで抵抗力が落ちた人に多く発症する感染症です[1]。原因菌はアスペルギルス・カンジダ・クリプトコッカス・ニューモシスチスなど複数あり、症状だけでは細菌性肺炎と区別しづらいため、胸部画像検査や血液検査、培養検査を組み合わせた診断が欠かせません。治療は抗真菌薬が中心で、原因菌や重症度によって薬剤や期間が異なります[1]。
今回紹介した公的機関の情報をあらためて整理すると、日本呼吸器学会は肺真菌症全体の一般的な仕組みと危険因子を[1]、国立健康危機管理研究機構はカンジダ・クリプトコッカス・ニューモシスチスそれぞれの疫学データと治療法を[3][4][5]、それぞれ異なる角度から明らかにしています。これらの情報に共通するのは、真菌性肺炎の多くが「基礎疾患や治療によって抵抗力が落ちた人」に起こるという点であり、逆に言えば、そうした治療を受けていない健康な人が過度に心配する必要はない病気だということです。
大切なのは、ステロイド・免疫抑制剤・抗がん剤治療やHIV感染症治療を受けている方自身と、その周囲のご家族が、真菌性肺炎という病気の存在とその主なサインを知っておくことです。日本呼吸器学会が示す発熱・せき・たん・血痰・だるさ・呼吸困難といった症状は[1]、決して珍しいものではなく見過ごされがちですが、抵抗力が落ちている時期にこれらの症状が続く場合は、真菌性肺炎の可能性も念頭に置いて医療機関を受診することが、重症化を防ぐ第一歩になります。抵抗力が落ちる治療を受けている方は、発熱やせきが続く、強い息切れがある、頭痛や意識障害があるといったサインに気づいたら、様子を見ずに早めに主治医へ相談してください。
よくある質問
真菌性肺炎は人にうつりますか?
真菌性肺炎と細菌性肺炎はどう見分けますか?
ステロイドを飲んでいますが、真菌性肺炎が心配です。どうすればいいですか?
真菌性肺炎は手術で治りますか?
更新日:2026年7月18日。内容に誤りや古い情報にお気づきの際はご連絡ください。
参考文献
- 一般社団法人日本呼吸器学会「A-09 肺真菌症」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-09.html
- 一般社団法人日本呼吸器学会「C-04 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症/真菌症」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-04.html
- 国立健康危機管理研究機構「カンジダ症」 https://id-info.jihs.go.jp/diseases/route/fungal/020/fungi-candidiasis.html
- 国立健康危機管理研究機構「播種性クリプトコックス症」 https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/disseminated-cryptococcosis/index.html
- 国立健康危機管理研究機構「ニューモシスチス肺炎(PCP)」(HIV感染症とその合併症「診療と治療のハンドブック」) https://www.acc.jihs.go.jp/medics/treatment/handbook/part2/no27.html
- 世界保健機関(WHO)「WHO releases first-ever list of health-threatening fungi」(2022年) https://www.who.int/news/item/25-10-2022-who-releases-first-ever-list-of-health-threatening-fungi
- 国立健康危機管理研究機構「クリプトコックス症の治療」 https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/6002-dj4286.html
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