【医師監修】舌の腫れは何の病気？考えられる10の原因と危険なサイン、診療科まで徹底解説

【最優先】直ちに救急受診を！舌の腫れに伴う危険なサイン（アナフィラキシーと気道閉塞）

舌の腫れにおいて最も警戒すべきは、アナフィラキシーという重篤なアレルギー反応です。これは生命を脅かす緊急事態であり、一刻も早い対応が求められます²。以下のリストにあるような症状が一つでも見られる場合は、絶対に様子を見たり、自分で病院へ向かおうとしたりせず、ためらわずに119番通報で救急車を呼んでください³。

舌の腫れの背景にある医学的メカニズム：血管性浮腫とは？

舌の腫れの多くは、医学的に「血管性浮腫（Angioedema）」という現象によって説明されます。これは、皮膚の深い層である真皮深層から皮下組織にかけて、血管から水分（血漿成分）が漏れ出すことで生じる、限局性の腫れ（浮腫）のことです¹。一般的に知られる「蕁麻疹（じんましん）」が皮膚の浅い層（真皮上層）の浮腫であり、強いかゆみを伴うことが多いのに対し、血管性浮腫はより深い部分の腫れであり、かゆみは軽度か、全くないことが多いのが特徴です⁴。この血管性浮腫は、主に二つの異なるメカニズムによって引き起こされ、この違いを理解することが適切な治療法を選択する上で極めて重要です。

ヒスタミン起因性血管性浮腫

食物アレルギーや特定の薬物アレルギーなどで見られる、最も一般的なタイプです。アレルゲンが体内に入ると、マスト細胞（肥満細胞）という免疫細胞が活性化され、ヒスタミンなどの化学伝達物質を大量に放出します。このヒスタミンが血管に作用し、血管の透過性を高める（血管を広げ、壁に隙間を作る）ことで、水分が漏れ出して腫れを引き起こします。このタイプの浮腫は、通常、抗ヒスタミン薬やステロイド薬による治療が有効です。

ブラジキニン起因性血管性浮腫

こちらは、血圧のコントロールなどに関わる「ブラジキニン」という物質が体内で過剰に蓄積することが原因です。ブラジキニンもヒスタミンと同様に強力な血管透過性亢進作用を持ちますが、ヒスタミンとは異なる経路で作用します。代表的な原因として、特定の降圧薬（ACE阻害薬）の副作用や、遺伝性血管性浮腫（HAE）という稀な遺伝性疾患が挙げられます¹。このタイプは、ヒスタミンが関与しないため、抗ヒスタミン薬やステロイド薬が効きません。治療には、ブラジキニンの産生を抑えたり、その働きをブロックしたりする特殊な薬剤が必要となります。

【原因別】舌の腫れを引き起こす主な病気と状態

舌の腫れは、単純な物理的刺激から生命を脅かす疾患まで、多岐にわたる原因によって引き起こされます。ここでは、考えられる主な病気や状態をカテゴリー別に詳しく解説します。

3.1. アレルギー反応

アレルギー反応は、舌の腫れの最も一般的な原因の一つです。

食物アレルギー

特定の食物を摂取した直後（通常2時間以内）に、免疫システムが過剰に反応して起こります。日本においては、鶏卵、牛乳、小麦、甲殻類（エビ、カニ）、ナッツ類、ソバなどが主要な原因アレルゲンとして知られています²。舌の腫れのほか、口の中のかゆみ、蕁麻疹、腹痛、嘔吐、そして重篤な場合にはアナフィラキシーショックを引き起こします。

口腔アレルギー症候群（OAS / PFAS）

花粉症を持つ人が、特定の生の果物や野菜を食べた際に、口の中、特に唇や舌、喉にかゆみや腫れ、ピリピリ感などを引き起こす特殊なアレルギーです。これは、花粉に含まれるアレルゲンと、果物や野菜に含まれるタンパク質の構造が似ているために起こる「交差反応」が原因です²。多くの場合、原因となるタンパク質は加熱によって変性するため、加熱調理したものでは症状が出ないのが特徴です。

その他

歯磨き粉や洗口液に含まれる香料や成分、化粧品、歯科治療で用いる金属、ゴム製品に含まれるラテックス（ラテックス・フルーツ症候群）なども、稀にアレルギー反応を引き起こし、舌の腫れの原因となることがあります⁵。

3.2. 薬剤の副作用（薬剤性血管性浮腫）

服用している薬の副作用として、舌の腫れ（血管性浮腫）が起こることがあります。これは時に重篤な副作用となるため、医薬品医療機器総合機構（PMDA）も注意喚起を行っています¹。

3.3. 感染症

ウイルスや細菌、真菌などの感染が原因で、舌に炎症が起こり腫れることがあります。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎（溶連菌感染症）

主に子どもに見られる細菌感染症で、発熱や強い喉の痛みを伴います。特徴的な症状として、舌の表面のブツブツが赤く目立ち、まるでイチゴのように見える「いちご舌」が現れることがあります⁸。

川崎病

主に4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の疾患で、全身の血管に炎症が起こります。日本川崎病学会の診断の手引きによると、以下の6つの主要症状のうち5つ以上を満たすと診断されます⁹。溶連菌感染症と同様に「いちご舌」が見られるため、他の症状と合わせて慎重な鑑別が極めて重要です。

• 5日以上続く高熱
• 両目の充血
• 唇が赤く腫れる、舌がイチゴ状になる、喉が赤くなる
• 体に不定形の発疹が出る
• 手足の先が赤く腫れる
• 首のリンパ節が腫れる

口腔カンジダ症

口の中に常在するカンジダという真菌（カビの一種）が、ステロイド薬の長期使用や免疫力の低下などによって異常に増殖することで発症します。舌の表面に、こすると剥がれる白い苔（白苔）が付着し、舌がヒリヒリと痛んだり、腫れぼったく感じられたりすることがあります¹⁰。

その他

ヘルペスウイルスによる口内炎（ヘルペス性口内炎）や、稀ですが梅毒などの性感染症によっても口腔内に症状が現れ、舌の腫れやただれを引き起こすことがあります。

3.4. 自己免疫疾患・皮膚粘膜疾患

自身の免疫システムが誤って体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患や、皮膚・粘膜に特有の病気が舌の腫れの原因となることもあります。

口腔扁平苔癬（こうくうへんぺいたいせん）

頬の内側の粘膜や舌に、レース状や網目状の白い病変ができる慢性的な炎症性疾患です。びらん（ただれ）や潰瘍を伴うと、接触痛（食べ物がしみるなど）が強くなります¹¹。原因は完全には解明されていませんが、免疫系の異常が関与していると考えられています。歯科金属アレルギーとの関連が指摘されることもあり、また、ごく稀に癌化するリスクがあるため、定期的な経過観察が重要です。

シェーグレン症候群

涙腺や唾液腺などが自己免疫によって破壊され、重度のドライアイやドライマウスを引き起こす疾患です。唾液の分泌が著しく減少するため、舌が乾燥してひび割れたり、炎症を起こして腫れたように感じられたりします。日本では厚生労働省の指定難病となっています¹²。

3.5. 遺伝性・その他の稀な原因

遺伝性血管性浮腫（HAE）

血液中のC1インヒビターというタンパク質の機能異常によって、ブラジキニンが過剰に産生される稀な遺伝性疾患です¹³。顔や手足、そして舌や喉に、かゆみを伴わない腫れの発作を繰り返します。腹部に発作が起きると激しい腹痛を伴うこともあります。若年で発症することが多く、家族歴がある場合に疑われます。HAEも日本の指定難病です。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの分泌が不足する病気で、重症化すると粘液水腫という状態になり、全身のむくみと共に、舌全体が大きく肥大する「巨舌（きょぜつ）」をきたすことがあります。BMJ Case Reportsに掲載された症例報告でも、巨舌が甲状腺機能低下症の初発症状であったケースが示されています¹⁴。

メルケルソン・ローゼンタール症候群

顔面神経麻痺、唇の持続的な腫れ、そして溝状舌（舌に深いシワができる状態）を3つの主要な徴候とする、極めて稀な原因不明の疾患です¹⁵。

3.6. 物理的刺激・外傷

熱い食べ物による火傷、誤って舌を強く噛んでしまったことによる血腫、サイズが合わない入れ歯や尖った歯が常に舌に当たるなどの慢性的な刺激も、炎症や浮腫を引き起こし、舌の腫れの原因となります。

3.7. 悪性腫瘍（舌がん）

見逃してはならない最も深刻な原因が、舌がんです。初期症状が口内炎と非常によく似ているため、発見が遅れがちになることがあります¹⁶。「2週間以上治らない口内炎や潰瘍、しこり」は、舌がんを疑うべき重要なサインです。その他、硬いしこり、出血しやすい、舌の動きが悪くなるなどの症状が見られます。早期発見・早期治療が極めて重要であり、日本口腔腫瘍学会や日本口腔外科学会も注意を呼びかけています¹⁷。

診断と検査：病院では何が行われるか

舌の腫れで医療機関を受診すると、原因を特定するために以下のような問診や検査が行われます。

問診

正確な診断のために、医師に伝えるべき情報は非常に重要です。以下の点を整理しておくとスムーズです。

• いつから、どのように始まったか：突然か、徐々にか。
• 症状の詳細：腫れの他に痛み、かゆみ、しびれ、発熱などがあるか。
• 食事や呼吸への影響：飲み込みにくい、息苦しいなど。
• 直前の行動：何か特定の食べ物や薬を摂取したか。
• 既往歴：アレルギー、花粉症、自己免疫疾患など。
• 服用中の薬：お薬手帳を持参すると確実です。
• 生活習慣：喫煙、飲酒の習慣。

検査

疑われる疾患に応じて、様々な検査が行われます。

• 血液検査：アレルギーの原因を調べる特異的IgE抗体検査、炎症の程度を見るCRP値、自己免疫疾患に関連する自己抗体の有無、HAEが疑われる場合の補体（C4、C1-INH活性）の測定などが行われます¹⁸。
• 生検（組織検査）：舌がんや口腔扁平苔癬などが疑われる場合に、病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる、確定診断のために必須の検査です¹¹。
• その他：アレルギーの原因を特定するための皮膚テスト（プリックテストなど）や、腫瘍の広がりなどを確認するための画像検査（CT/MRI）が行われることもあります。

症状から考える受診すべき診療科

「舌が腫れているけれど、何科に行けばいいのかわからない」という方は少なくありません。以下の表を目安に、適切な診療科を選んでください。判断に迷う場合は、まずはかかりつけの内科医や耳鼻咽喉科に相談するのが良いでしょう。

舌の腫れの治療法とセルフケア

病院での治療

治療は、原因となっている疾患に対して行われます。

• アレルギー：抗ヒスタミン薬、ステロイド薬の内服や点滴。アナフィラキシーの場合はアドレナリンの筋肉注射が第一選択です。
• 感染症：原因菌に対する抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬が処方されます。
• 自己免疫疾患：ステロイド軟膏の局所塗布や、全身性の治療として免疫抑制薬などが用いられます。
• 遺伝性血管性浮腫（HAE）：発作時にはC1-INH製剤やイカチバントの注射、長期的な予防内服など、特殊な治療が行われます¹³。
• 舌がん：手術、放射線治療、化学療法（抗がん剤）を組み合わせた集学的治療が行われます。

自宅でできるセルフケア

医療機関での治療と並行して、症状を和らげるために家庭でできる対処法もあります。

• 冷却：痛みや腫れが強い場合、氷片を口に含んだり、冷たい水でうがいをしたりすることで、一時的に症状が和らぐことがあります。
• 口腔ケア：口の中を清潔に保つことは重要ですが、ゴシゴシ強く磨くのは避けましょう。刺激の少ない歯磨き粉を選び、柔らかい歯ブラシで優しく磨くことが推奨されます。
• 食事の工夫：辛いもの、酸っぱいもの、熱すぎるもの、硬いものなど、舌への刺激となる食べ物は避けるようにしましょう。
• 保湿：口腔乾燥がある場合は、こまめな水分補給を心がけ、市販の口腔保湿ジェルや人工唾液スプレーなどを使用するのも効果的です。

よくある質問 (FAQ)

結論：舌の腫れは体からの重要なサイン

舌の腫れは、口内炎のような身近なトラブルから、アレルギー、感染症、自己免疫疾患、そして見逃してはならない悪性腫瘍まで、非常に多様な原因から起こる、あなたの体からの重要なシグナルです。ほとんどの場合は適切な治療で改善しますが、中にはアナフィラキシーのように迅速な対応が命を救うケースもあります。この記事で解説した情報を参考に、まずは危険なサインがないかを確認し、症状が長引いたり、原因に心当たりがなかったりする場合には、決して自己判断で放置せず、勇気を持って専門医の扉を叩いてください。早期の的確な診断と治療が、あなたの健康を守るための最も確実な一歩となります。