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糖尿病 25分で読める 18回

糖尿病と睡眠の関係|夜間頻尿・低血糖・無呼吸のサインと対策

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厚生労働省の資料によれば、糖尿病があると夜間頻尿・夜間低血糖・睡眠時無呼吸症候群という3つの経路によって睡眠が浅くなりやすく、逆に睡眠不足や睡眠の質の低下はインスリンの効きを悪くして血糖値を上げてしまいます[1]。

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高血糖のときは夜中に何度もトイレに起きやすく、インスリンや一部の薬を使っている人は明け方の低血糖に注意が必要です。いびきや無呼吸を指摘されたことがある人は、糖尿病治療と並行して睡眠の状態も医師に相談することをおすすめします。

要点まとめ

  • 睡眠に問題のある人は糖尿病になるリスクが約1.5〜2倍という報告があります[1]。
  • 血糖値が60〜70mg/dL未満になると冷や汗・動悸などの症状が、50mg/dL未満になると意識障害などが起こり得ます[4]。
  • 糖尿病教育入院患者を対象にしたある調査では、睡眠時無呼吸症候群の合併が21.8%にみられました[5]。
  • 厚生労働省は成人に「6時間以上」の睡眠を目安としていますが、米国睡眠医学会などは「7時間以上」を推奨しており、基準に差があります[2][8]。
  • 意識がなくなる・けいれんを起こす等の症状が出た場合は低血糖の重症サインであり、様子を見ず対応が必要です[4]。

編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会・査読論文と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(更新日・確認日:2026年7月時点)。誤りや古い情報にお気づきの際はお知らせください。事実を確認のうえ訂正します。

🔧 セルフチェック:夜中に目が覚める原因を切り分ける

目が覚めるタイミング・様子 考えられる原因 目安となる対応
のどが渇いてトイレに行きたくて目が覚める。尿の量が多い 高血糖による夜間頻尿(多尿)[3] 日中の血糖コントロールを主治医と見直す
冷や汗・動悸・強い空腹感で目が覚める。特にインスリンや一部の薬を使用中 夜間低血糖[4] すぐに糖分を摂り、翌日の量・タイミングを主治医に相談
いびきを指摘されている、呼吸が止まっていると言われる、朝の頭痛がある 睡眠時無呼吸症候群の合併[5] 呼吸器内科・睡眠外来で検査を相談
特に上記の身体症状はないが、寝つきが悪い・早朝に目が覚めてしまう 不眠症状(生活習慣病のリスクにも関連)[1] 生活リズムの見直し、改善しなければ受診

あくまで振り分けの目安であり、診断ではありません。複数の原因が重なっていることも少なくありません。

糖尿病はなぜ眠りを妨げるのか?4つの経路

厚生労働省の資料によれば「糖尿病があると眠りが浅くなる」という現象は、単一の原因ではなく、複数の経路が絡み合って起こります[1]。主なものは、①高血糖による夜間頻尿(後述する日本泌尿器科学会の調査)、②治療薬による夜間低血糖(厚生労働省の調査)、③睡眠時無呼吸症候群の合併(学会誌の調査)、④血糖コントロール自体への睡眠不足の悪影響、の4つです。厚生労働省のe-ヘルスネットの解説によれば、慢性的な睡眠不足が続くと、食欲を抑えるホルモンであるレプチンの分泌が減り、食欲を高めるホルモンであるグレリンの分泌が増えるとともに、インスリンの働きが現れにくくなる「インスリン抵抗性」が生じ、同じ食事をとっても血糖値が上がりやすくなると報告されています[1]。つまり、糖尿病が睡眠を妨げるだけでなく、睡眠不足が血糖コントロールを悪化させるという「双方向の悪循環」が生まれるのです。


上図:厚生労働省 e-ヘルスネットの情報をもとにJHO編集部が作図。健康な状態では深い睡眠が朝まで続く一方、糖尿病がある状態では夜間頻尿・夜間低血糖・睡眠時無呼吸により途中で目が覚めやすくなることを示しています[1]。

同じe-ヘルスネットの記事では、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などの不眠症状がある人は、良眠している人に比べて糖尿病になるリスクが1.5〜2倍になることが紹介されています[1]。これは「糖尿病になったから眠れなくなる」だけでなく、「眠れないことが糖尿病のリスクを高める」という逆方向の関係も存在することを意味します。さらに、閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんでは、夜間の頻回の呼吸停止による低酸素状態と交感神経の緊張、酸化ストレス、レプチン抵抗性・インスリン抵抗性などが積み重なり、5〜10年後には高血圧・心不全・虚血性心疾患・脳血管障害などに罹りやすくなるとも報告されています[1]。

働き方も見逃せない要因です。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、交替勤務(シフトワーク)に入ることで、体温・ホルモン・代謝・免疫などさまざまな生体機能のリズムと生活時間との間にタイミングのずれが生じる「内的脱同調」が起こり、これが生体機能の低下を招くと説明されています[1]。夜間には体内時計を調節する遺伝子から作られるタンパク質(BMAL1)が活性化し、これは脂肪を蓄積して分解を抑える働きを持つため、「夜食べると太る」という経験則には科学的な裏づけがあるとされています[1]。同記事は、交替勤務に従事している人は不眠や眠気だけでなく、胃腸障害・高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病、さらには発がんのリスクも高いことを紹介しており、国際がん研究機関(IARC、WHO関連機関)は「概日リズム障害を伴う交代勤務」を人に対しておそらく発がん性がある(Group 2A)に分類しています[1]。厚生労働省の調査をもとにすると、国内で深夜業(6カ月間平均して月4回以上、22時から翌5時の間に行われる業務)に従事する労働者と交替制勤務者は、2012年時点の推計でそれぞれ約1,200万人・約638万人にのぼり、その後も増加しているとされています[1]。夜勤やシフト勤務がある人は、勤務形態そのものを変えられなくても、「勤務明けの食事のタイミング」や「休日の過度な寝だめを避ける」といった工夫が、体内時計のずれを小さくするうえで役立つ可能性があります。

日中の眠気そのものも見過ごせないサインです。厚生労働省が令和元年に全国の20歳以上の成人約5,700人を対象に行った国民健康・栄養調査によれば、「この1カ月間に、週3回以上、日中に眠気を感じた」人は34.8%にのぼり、20歳代が43.6%と最も多く、年齢が上がるにつれて減少するものの、70歳以上でも31.1%が眠気を感じていたと報告されています[7]。同資料は、眠気の原因は睡眠不足だけでなく、睡眠の質が低下する睡眠障害、持病の薬剤の副作用、うつ病などの精神疾患でも起こりうるとし、生活スタイルの見直しとともに、眠気が強い場合は診察や検査を受けることの大切さを強調しています[7]。糖尿病がある人が日中に強い眠気を感じる場合、単なる「寝不足」ではなく、夜間の血糖変動や睡眠時無呼吸が背景にある可能性も考えておく価値があります。

今の血圧・脈拍を確かめる

数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。

身長と体重からBMIも調べる

これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。

糖尿病神経障害と「むずむず脚症候群」— 脚の不快感で眠れないとき

糖尿病がある人の中には、就寝時に脚がむずむずする、じっとしていられない、脚を動かすと楽になるといった症状のために寝つけない、という悩みを抱える人がいます。これは「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、RLS)」と呼ばれる神経学的な病気で、国際的な系統的レビューとモデリング分析(52論文・23カ国のデータを統合した2024年の解析)では、糖尿病はRLSと有意に関連する因子の一つとして報告されており、そのオッズ比は1.54(95%信頼区間 1.19〜1.97)でした[9]。同じ解析では、高齢であること(オッズ比1.13)、喫煙(オッズ比1.46)、うつ(オッズ比1.71)もRLSと関連する因子として挙げられています[9]。

なぜ糖尿病がRLSと関連するのか、その正確な機序(末梢神経障害そのものが原因なのか、鉄代謝など別の経路が関わるのか)について、今回参照した国際的な系統的レビューには詳細な機序の記載までは見当たりませんでした。糖尿病の神経障害がRLSのリスクに部分的に関与すると考える研究者もいますが、確定的な結論として断定できる段階ではありません。

むずむず脚症候群による入眠困難は、夜間頻尿や低血糖とは別の経路で睡眠を妨げるため、「トイレにも行っていないし低血糖の症状もないのに脚の違和感で眠れない」という場合は、この可能性も含めて主治医に相談してみることをおすすめします。

夜間頻尿と糖尿病 — 高血糖が尿量を増やす仕組み

日本泌尿器科学会・日本排尿機能学会が編集した「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」では、夜間頻尿の主な原因として、多尿(水利尿・浸透圧利尿)、夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の4つが挙げられており、多尿のうち「浸透圧利尿」の代表例として糖尿病が明記されています[3]。血糖値が高い状態が続くと、腎臓が処理しきれなくなった糖が尿の中に排出されますが、このとき糖は水分を道連れにする性質(浸透圧利尿)があるため、尿の量そのものが増えます。日中はトイレの回数が増えるだけで済んでも、夜間に同じ現象が起これば、眠っている間に何度も尿意で目が覚めることになります。

同ガイドラインのCQ4(夜間頻尿と関連のある生活習慣病にはどのようなものがあるか)では、糖尿病・高血圧・脳卒中・心臓病・肥満などの生活習慣病と夜間頻尿との関連性が、多くの疫学研究をもとに示されています[3]。さらに同ガイドラインは、年齢・性別・BMI・喫煙歴・糖尿病・心疾患・腎臓病・脳卒中などの影響を統計的に取り除いても、夜間に2回以上排尿がある高齢者は、夜間排尿が1回以下の高齢者に比べて死亡率が1.98倍であったという国内の縦断的コホート研究を紹介しています[3]。海外のメタ解析でも、夜間頻尿が2回以上あると死亡率が29%、3回以上では46%増加すると指摘されています[3]。

ただし同ガイドラインは、糖尿病や心疾患の影響を除外すると、3回以上の夜間頻尿があっても死亡率とは関連しないとする別の報告もあることも併記しており[3]、夜間頻尿そのものが直接死亡リスクを高めるのか、それとも背景にある糖尿病などの生活習慣病が主因なのかについては、今回参照した資料の範囲では確定的な結論は示されていません。

「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」は、夜間多尿を伴う夜間頻尿患者に対して塩分制限を指導することを推奨しています(推奨グレードB)[3]。同ガイドラインによれば、下部尿路症状を有する患者を対象にした検討で、推定塩分摂取量が1日9.2g以上の群は、それ未満の群に比べて夜間排尿回数・夜間尿量・夜間多尿指数がいずれも有意に高く、多変量解析でも9.2g/日以上の塩分摂取量は夜間頻尿の独立したリスク因子であることが示されています[3]。一方で、日本人の平均的な塩分摂取量は男性10.8g/日・女性9.1g/日とされており、厚生労働省が推奨する1日の塩分摂取量の上限(男性8g・女性7g)を超えている人が多いのが実情です[3]。同ガイドラインが引用する研究では、食事指導によって塩分摂取量を実際に減らせた群では夜間排尿回数・夜間尿量・夜間多尿指数が有意に低下した一方、減らせなかった群ではむしろ悪化しており[3]、「言われたから薄味にする」のではなく実際に摂取量を減らせるかどうかが結果を左右するようです。ただし同ガイドラインは、夜間頻尿改善のためにどこまで塩分を落とすべきかの明確な数値目標はエビデンスが限定的であるとも述べており[3]、まずは主治医・管理栄養士と相談しながら無理のない範囲で取り組むことが現実的です。

なお、糖尿病が進行して末梢神経の障害(糖尿病神経障害)が起こると、膀胱の収縮をコントロールする神経の働きが乱れ、「神経因性膀胱」として頻尿や排尿困難が起こることもあります。これは高血糖による浸透圧利尿とは別の経路であり、両方が同時に起こっている場合もあります。夜間頻尿が急に増えた、あるいは長期間続いている場合は、自己判断で水分を極端に制限するのではなく、まずは血糖コントロールの状態を主治医とともに確認することが基本になります。

夜間の低血糖 — インスリンや薬を使っている人が特に注意すべき理由

厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」(令和5年12月改定)によれば、健常な人では空腹時でも血糖値が70mg/dLより低下することはほとんどありませんが、血糖値が60〜70mg/dL未満になると、「冷や汗がでる、気持ちが悪くなる、急に強い空腹感をおぼえる、寒気がする、動悸がする、手足がふるえる、目がちらつく、ふらつく、力のぬけた感じがする、頭が痛い」などの症状が現れます[4]。これは血糖を上げようとしてアドレナリンやグルカゴンが分泌されるために起こる「交感神経症状」と呼ばれるものです。さらに血糖値が50mg/dL未満になると、「ぼんやりする、うとうとしている、いつもと人柄の違ったような異常な行動をとる、わけのわからないことを言う、ろれつが回らない、意識がなくなる、けいれんを起こす」といった、脳の機能低下による「中枢神経症状」が出現するとされています[4]。

血糖値の目安 起こりやすい症状 症状の分類
60〜70mg/dL未満 冷や汗・動悸・強い空腹感・手足のふるえ・頭痛など 交感神経症状[4]
50mg/dL未満 ぼんやりする・異常な行動・ろれつが回らない・意識消失・けいれん 中枢神経症状[4]

出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」(令和5年12月改定)[4]

同マニュアルは、インスリン治療を行っているほとんどの症例が低血糖を経験しており、特に「インスリンの血中濃度がピークとなる時間帯、各食前の空腹時、深夜から早朝、運動をしている最中あるいはその後、入浴後など」に起こりやすいと説明しています[4]。「深夜から早朝」が明記されている点は、まさに就寝中の低血糖(夜間低血糖)に直結する情報です。眠っている間は自分で症状に気づきにくく、家族が「ボーッとしている」「いつもと様子が違う」「けいれんを起こしている」といった異変に気づいた場合は、薬の副作用としての低血糖の可能性を考え、すぐに医師または薬剤師に相談するよう呼びかけられています[4]。逆に、低血糖になっていても自覚症状がみられない場合も多く、医療機関を受診して血糖値を測定して初めて指摘されることもあるとされています[4]。同マニュアルは特に、低血糖を繰り返している場合や高齢者では、冷や汗や動悸などの前触れとなる症状を自覚しないまま、いきなり「ぼんやりする」「いつもと人柄の違った異常な行動をとる」「ろれつが回らない」「意識がなくなる」といった症状が出現することがあり、高齢者ではこれが認知症と間違われる場合もあると注意を促しています[4]。このような場合、周りにいる人が吸収の早い糖分やブドウ糖を食べさせる、あらかじめ主治医からグルカゴンの点鼻薬や注射を使うよう指示されている場合はその通りにする、それでも症状が良くならない、あるいは意識障害があって口から糖分を摂れない場合はすぐに主治医に連絡するか受診する、という対応が示されています[4]。同居する家族がいる場合は、「夜中に様子がおかしい」ことが低血糖のサインであり得ることを、あらかじめ共有しておくと安心です。

また、経口糖尿病治療薬の中でもスルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬は低血糖を起こしやすい一方、ビグアナイド薬・α-グルコシダーゼ阻害薬・チアゾリジン薬・DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬・イメグリミンは単独投与では低血糖を起こしにくいとされています[4]。ただし、これらの薬を複数組み合わせている場合や、食事量がいつもより少ない日、運動量が多かった日などは低血糖のリスクが変わるため、「この薬だから安心」と自己判断せず、就寝前の血糖値や体調に応じて主治医の指示に沿って調整することが大切です。

CGM(持続血糖モニター)で夜間低血糖を「見える化」する

夜間低血糖の厄介な点は、眠っている間は交感神経症状(冷や汗・動悸など)に自分で気づきにくいことです。日本糖尿病学会の「持続グルコースモニタリングデバイス適正使用指針」では、夜間低血糖について「夜間睡眠中は交感神経症状を自覚しにくく、悪夢や頭痛による覚醒時に血糖自己測定(SMBG)を行うと70mg/dL未満を示す場合」と説明されています[10]。つまり、「悪夢を見た」「起きたら頭が痛かった」という一見関係なさそうな体験が、夜間低血糖のサインになっている可能性があるのです。

同指針はさらに、「無自覚性低血糖」という概念にも触れています。これは動悸や発汗、手足のふるえといった交感神経症状が現れないまま、いきなり眠気やめまい、集中力低下などの中枢神経症状が出現し、重症の場合はけいれんや意識障害にまで至ってしまう状態です[10]。同指針では、無自覚性低血糖や夜間低血糖の既往がある人、自覚症状が出る前に対策を講じる必要がある人にとって、持続グルコースモニター(CGM)が有用と考えられるとされています[10]。CGMは皮膚に小さなセンサーを装着し、グルコース値を自動的・継続的に測定してスマートフォンなどに送信する機器で、機種によっては高血糖・低血糖を事前に知らせるアラート機能も搭載されています[10]。インスリンの自己注射を1日1回以上行っている場合など、条件を満たせば保険診療で使用できるケースもあるため、夜間低血糖が心配な人は主治医にCGMの適応について相談してみる価値があります。

睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の悪循環

日本内科学会雑誌に掲載された疫学解説によれば、米国ウィスコンシン州で30〜60歳の公務員602名を対象に行われたWisconsin Sleep Cohort Studyでは、睡眠中の無呼吸低呼吸指数(AHI)が5回/時以上の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の有病率は男性24%、女性9%であったと報告されています[6]。同解説は、体重が最も重要な発症因子であるとしながらも、日本人を含むアジア人は欧米人より肥満の程度が軽くても糖尿病や高血圧、そしてOSAを発症しやすいと指摘しており、実際にOSA患者の38%はBMIが25kg/m²未満(肥満とはいえない体格)だったというデータも紹介されています[6]。「太っている人だけの病気」という思い込みは禁物です。

糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の合併頻度について、新潟県内の病院で糖尿病教育入院をした患者を対象に行われた調査(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌、2000年)では、睡眠時無呼吸症候群の合併が21.8%にみられ、さらに高血圧症の合併がある群ではその頻度が57.1%と高率であったことが報告されています[5]。

この調査は単一の病院の教育入院患者を対象とした2000年時点のデータであり、現在の日本全体の糖尿病患者における合併率を正確に反映するものではない可能性があります。より新しい大規模調査については、今回参照した資料の範囲では確認できませんでした。

メカニズムとしては、無呼吸のたびに血液中の酸素濃度が下がり、呼吸が再開するたびに交感神経が緊張して血管が収縮し、心拍数が増加して血圧が上がることが繰り返されます[1]。この「低酸素と交感神経の緊張の繰り返し」が、酸化ストレスや炎症、レプチン抵抗性・インスリン抵抗性を引き起こし、血糖コントロールを悪化させる方向に働くと考えられています[1]。糖尿病がある人にいびきや無呼吸の指摘、日中の強い眠気があれば、糖尿病の治療と並行して睡眠時無呼吸症候群の検査(簡易検査やポリソムノグラフィー)を呼吸器内科や睡眠外来に相談する価値があります。

すぐに受診が必要なサイン(受診の目安)

  • 意識がなくなる、けいれんを起こす、ろれつが回らないなどの症状(重症低血糖の疑い)[4]——ブドウ糖などで対応しても改善しない、または本人が対応できない場合は119番
  • 「ボーッとしている」「いつもと人柄の違う異常な行動」に家族が気づいた場合[4]
  • 睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された、大きないびきが急に始まった[6]
  • 夜間の排尿回数が急激に増えた、尿の量が明らかに多い(高血糖のコントロール不良のサインである可能性)[3]

日本と米国の睡眠時間の推奨基準を比較する

厚生労働省は令和6年に改訂した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の中で、成人版の推奨事項として「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」という定量的な目標を明記しています[2]。同ガイドでは、令和元年の国民健康・栄養調査の結果として、1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合は男性37.5%、女性40.6%であり、男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代では4割以上を占めていたことも紹介されています[2]。また令和3年のOECD調査では、日本人の平均睡眠時間は調査対象33カ国の中で最も短かったとも記載されています[2]。

一方、米国睡眠医学会(AASM)と睡眠研究学会(SRS)が2015年に発表した合同コンセンサス声明では、健康な成人は「7時間以上」の睡眠を定期的にとるべきであると勧告されています[8]。同声明は、睡眠時間と健康に関する多数の研究をレビューし、専門家による複数回の投票を経てまとめられたものです[8]。

項目 日本(厚生労働省 2023年) 米国(AASM/SRS 2015年)
成人の推奨睡眠時間 6時間以上を目安[2] 7時間以上[8]
表現の性質 定量的推奨事項+定性的な生活習慣の見直しを含む「ガイド」[2] 専門家による合同コンセンサス声明[8]

なお、日本の睡眠に関する指針は、2014年の「健康づくりのための睡眠指針2014」から2023年の「睡眠ガイド2023」へと名称が変わっています。この変更について厚生労働省は、「指針」という表現が「全ての国民が等しく取り組むべき事項であるという誤解を与える可能性」を考慮し、「ガイド」という名称にしたと説明しています[2]。つまり「6時間以上」という数字も、万人に一律に強制する基準ではなく、個々の生活スタイルに応じて活用する目安として位置づけられているということです。

この1時間の差をどう受け止めるべきかについて、今回参照した両資料の間で直接の見解の一致・不一致を論じた記述は見当たりませんでした。厚生労働省側は国民の実際の睡眠時間の短さ(4割以上が6時間未満)を踏まえた現実的な目標として「6時間以上」を示している面があると読み取れ、一律に「7時間未満だから危険」と単純化することは避けるべきでしょう。ただし、糖尿病がある人や血糖コントロールに不安がある人にとっては、どちらの基準であっても「まずは自分の平均睡眠時間を把握する」ことが出発点になります。

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今日からできる対策と、何科に相談すればよいか

厚生労働省の睡眠ガイド2023は、朝食の欠食が体内時計の後退を介して睡眠不足を招きやすいこと、就寝前の夜食や間食が翌朝の睡眠休養感を低下させるだけでなく、糖尿病や肥満、さらには睡眠時無呼吸のリスクも高めることを紹介しています[2]。また、日中に摂取した食塩の過剰分は睡眠中に排泄されるため夜間の排尿回数が増えるとし、減塩を心がけることで夜間頻尿が軽減し、夜中に目覚める頻度が減少することが期待できるとも述べています[2]。糖尿病があってもなくても、朝食を抜かない・就寝前の夜食を控える・減塩を意識するという3点は、今日から取り組める具体的な行動です。また同ガイドは、日中に摂取したカフェインを含む飲料との付き合い方や、寝室の温度・光・音といった睡眠環境の見直し、就寝前のリラクゼーションなども、睡眠休養感を高める要素として紹介しています[2]。糖尿病の治療そのものを見直すことと、こうした生活習慣の小さな見直しは、どちらか一方ではなく両輪として取り組むことが勧められます。

相談先の目安としては、血糖コントロールそのものは糖尿病内科・内分泌内科、いびきや無呼吸が疑われる場合は呼吸器内科や睡眠外来(睡眠時無呼吸症候群の検査を行っている医療機関)、夜間頻尿が主な悩みで排尿の状態そのものに疑問がある場合は泌尿器科が窓口になります。ただし糖尿病がベースにある場合は、まず糖尿病の主治医に夜間の症状(頻尿・低血糖・いびき等)を伝え、必要に応じて専門科へ紹介してもらう流れが一般的です。

🖨️ 受診時に伝えるためのチェックリスト(印刷してお使いください)

  • 夜中に目が覚める回数と、だいたいの時間帯(例:深夜1時頃、明け方4時頃など)
  • 目が覚めたときの症状(トイレに行きたい/冷や汗や動悸/いびき・呼吸が止まっていたと言われた/特に症状はない)
  • 現在使用している糖尿病治療薬・インスリンの種類と、それを使い始めた時期
  • 直近で測定した血糖値(可能であれば就寝前・起床時の数値)
  • 家族から指摘されたこと(いびき、呼吸が止まっている、様子がおかしかった、など)
  • 医師に聞きたいこと(例:夜間の症状は薬が原因か、睡眠検査は必要か)

よくある質問

糖尿病があると必ず眠れなくなりますか?
必ずではありません。血糖コントロールが安定していれば、夜間頻尿や低血糖による睡眠妨害は起こりにくくなります。ただし睡眠に問題のある人は糖尿病になるリスクが高まるという報告があるため[1]、糖尿病の有無にかかわらず睡眠の質にも注意を払う価値があります。
夜中に何度もトイレに起きるのは糖尿病のせいですか?
高血糖による浸透圧利尿は夜間頻尿の原因の一つですが、唯一の原因ではありません[3]。加齢による膀胱機能の変化、前立腺の問題(男性)、水分の摂りすぎ、睡眠障害なども関与するため、自己判断せず医療機関で相談することをおすすめします。
夜間低血糖はどうやって気づけばよいですか?
冷や汗・動悸・強い空腹感などで目が覚めた場合は夜間低血糖の可能性があります[4]。一方で自覚症状がないまま低血糖が起きていることもあるため、インスリンなど低血糖を起こしやすい薬を使っている場合は、主治医と相談のうえ就寝前の血糖測定を検討するとよいでしょう。
いびきがひどいのですが、糖尿病と関係がありますか?
睡眠時無呼吸症候群は糖尿病と相互に悪影響を与え合う関係にあることが知られています[1]。ある調査では糖尿病教育入院患者の21.8%に合併がみられました[5]。いびきや呼吸停止を指摘されている場合は、呼吸器内科や睡眠外来への相談が勧められます。
結局、何時間眠ればよいのですか?
厚生労働省は成人に「6時間以上」を目安としていますが[2]、米国睡眠医学会などは「7時間以上」を推奨しています[8]。どちらか一方が絶対的に正しいというより、まず自分の平均睡眠時間と睡眠の質(休養感)を把握することが出発点になります。
寝る前にお酒を飲むと眠れる気がするのですが、よくないのでしょうか?
今回参照した資料には、飲酒と糖尿病患者の夜間睡眠との関係を直接検証した記載は見当たりませんでした。一般に飲酒は入眠を助けるように感じられても中途覚醒を増やすことが知られていますが、糖尿病がある場合に特化したデータは確認できていません。
太っていないのに睡眠時無呼吸症候群になることはありますか?
あります。日本内科学会雑誌の疫学解説では、OSA患者の38%はBMIが25kg/m²未満だったと報告されており[6]、日本人を含むアジア人は欧米人より肥満の程度が軽くても発症しやすいとされています[6]。
夜間頻尿がある高齢者は、そうでない人より死亡リスクが高いというのは本当ですか?
国内の縦断的コホート研究では、年齢・性別・BMI・喫煙歴・糖尿病などの影響を除いても、夜間排尿2回以上の高齢者は1回以下の高齢者より死亡率が1.98倍だったと報告されています[3]。ただし糖尿病や心疾患の影響を除外すると関連が消えるとする別の報告もあり[3]、今回参照した資料の範囲では確定的な結論には至っていません。
夜中に悪夢を見たり、朝起きて頭痛があるのは低血糖と関係ありますか?
可能性はあります。日本糖尿病学会の指針では、夜間睡眠中は低血糖の交感神経症状(冷や汗・動悸など)を自覚しにくく、悪夢や頭痛で目が覚めたときに血糖を測ると70mg/dL未満だったというケースが夜間低血糖の一例として挙げられています[10]。心当たりがあれば、就寝前・起床時の血糖測定やCGMの利用について主治医に相談してみてください。
脚がむずむずして眠れないのですが、これも糖尿病と関係ありますか?
むずむず脚症候群(RLS)は糖尿病と有意に関連する(オッズ比1.54)と、国際的な系統的レビューで報告されています[9]。夜間頻尿や低血糖とは別の経路で睡眠を妨げるため、思い当たる場合は主治医に相談してみてください。
夜勤やシフト勤務をしていますが、糖尿病のリスクが上がりますか?
交替勤務は体内時計と生活時間のずれ(内的脱同調)を引き起こし、糖尿病を含む生活習慣病のリスクを高めることが厚生労働省のe-ヘルスネットで説明されています[1]。国際がん研究機関(IARC)は概日リズム障害を伴う交代勤務をGroup 2A(おそらく発がん性がある)に分類しています[1]。勤務形態をすぐに変えられなくても、勤務明けの食事タイミングや休日の寝だめを避けるなどの工夫が助けになる可能性があります。

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」(監修:三島和夫、最終更新日:2025年6月1日) https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-008.html
  2. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年9月18日一部修正) https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  3. 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会(編)「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/37_nocturia_v2-2.pdf
  4. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」(令和5年12月改定) https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d45.pdf
  5. 堀久美子ほか「糖尿病教育入院患者の睡眠時無呼吸症候群合併について」日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 10巻2号 269頁(2000年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/10/2/10_269/_article/-char/ja/
  6. 日本内科学会雑誌109巻6号「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/6/109_1059/_pdf
  7. 厚生労働省 e-ヘルスネット キーワード「睡眠障害」(国民健康・栄養調査 令和元年データ) https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/keywords/sleep-disorder.html
  8. American Academy of Sleep Medicine & Sleep Research Society. “Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement.” Journal of Clinical Sleep Medicine. 2015;11(6):591-592. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25979105/
  9. “The global and regional prevalence of restless legs syndrome among adults: A systematic review and modelling analysis.” PMID: 38843039. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11156251/
  10. 一般社団法人日本糖尿病学会「持続グルコースモニタリングデバイス適正使用指針」 https://www.jds.or.jp/uploads/files/document/cgm/CGM_usage_guideline_2026-04-01.pdf

関連する内部リンク:糖尿病(総合ガイド)/糖尿病と予備群の診断基準【2025年最新】/糖尿病管理 完全ガイド/インスリンペンのすべて/患者中心の糖尿病ケアプランニング

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Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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