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精神・心理疾患 51分で読める 437回

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の完全ガイド:症状・原因から最新治療法、家族の支え方まで徹底解説

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国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の解説によれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、命の危険を感じるような出来事を体験・目撃した後に、フラッシュバックや悪夢という形でその記憶が繰り返し思い出され、不安・緊張が続く精神疾患です[1]。日本における生涯有病率は1.3%と報告されており、決して珍しい病気ではありません[2]。

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症状が1か月以上続き、日常生活や仕事に支障が出ている場合は、精神科・心療内科への相談が勧められます。「死にたい」という気持ちが強いときは、この記事の「相談窓口」を今すぐご覧ください。

要点まとめ

  • JSTSSガイドラインの報告によれば、PTSDの症状は①侵入(再体験)②回避③認知・気分の否定的変化④過覚醒の4つに分類され、これらが1か月以上続き苦痛や生活への支障がある場合に診断が検討されます[3]。
  • NCNPガイドラインの報告では、日本での生涯有病率は1.3%、一生のうちに生死に関わる体験(トラウマ体験)をする人は約60%にのぼります[2]。
  • 治療の柱は、トラウマに焦点化した認知行動療法(持続エクスポージャー療法など)とSSRI(パロキセチン・セルトラリンなど)で、国内外のガイドラインが推奨しています[2][3]。
  • 被害後数か月は自然に回復する人も多いですが、6か月を過ぎても症状が続く、あるいは強い苦痛がある場合は専門的な治療の対象になります[2]。
  • 厚生労働省の案内によれば、「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが強いときは、抱え込まず、いのちの電話やよりそいホットラインなど無料・匿名の相談窓口をすぐに利用してください[5]。

編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)「こころの情報サイト」および同センター精神保健研究所「トラウマ診療ガイドライン」、日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS)「PTSDの薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために」、厚生労働省「こころの耳」「まもろうよ こころ」の公開情報と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。本記事は医師による個別診断の代わりにはなりません。診断基準・治療薬の承認状況はガイドライン改定や薬事審査により変わることがあるため、必ず最新の情報を主治医にご確認ください(2026年7月時点で公開されている情報に基づき作成)。

受診前のセルフ確認リスト(自己診断ではありません):①命の危険を感じるような出来事(事故・災害・暴力・虐待などの体験、または目撃)から、どのくらい経ちましたか? ②その記憶が、フラッシュバックや悪夢として繰り返し思い出されますか? ③その記憶を思い出させる場所・状況を避けていますか? ④常に神経が張りつめて、驚きやすくなっていますか? ⑤①〜④が1か月以上続き、仕事や日常生活に支障が出ていますか? この5項目に複数当てはまる場合は、精神保健研究所の解説にある評価尺度(PTSD3・PDSなど)を用いた専門的な評価が可能ですので、精神科・心療内科や、お住まいの精神保健福祉センターにご相談ください[2]。

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第1章 PTSDの定義:見えない傷の本質

PTSD(Posttraumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)とは、NCNPこころの情報サイトの解説によれば、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする、NCNP解説にいう状態です[1]。NCNPこころの情報サイトは「PTSDは決して珍しいものではなく、精神医療においては『ありふれた』病気のひとつであると言える」と述べています[1]。

厚生労働省「こころの耳」の用語解説では、PTSDは「強烈な精神的衝撃を受けた後に、長期にわたり恐怖感、無気力、睡眠障害、悪夢など様々な症状を示す障害」であり、同解説によれば地震・洪水・火事のような災害、事故・戦争といった人災、監禁・虐待・強姦など犯罪をはじめ多様な原因で起こり、数週間〜数か月の潜伏期間があることもあると説明されています[4]。

NCNP精神保健研究所の「トラウマ診療ガイドライン」は、ベトナム戦争帰還兵やレイプ被害者などに共通の精神症状が認められたことから、1980年出版のDSM-Ⅲに診断分類として初めて記載され、日本では1995年の阪神淡路大震災を一つの契機として広く知られるようになったと解説しています[2]。

NCNPガイドラインの疫学データによれば、世界保健機関(WHO)による世界精神保健調査の日本データでは、一生のあいだに生死に関わる体験(トラウマ体験)をする率は約60%である一方、PTSDの生涯有病率は1.3%と報告されており、これはパニック障害の生涯有病率1.0%よりも高い数字であることから、同ガイドラインはPTSDを「ありふれた精神疾患」ということができ、どこでも当たり前に診断され、支援や治療を受けられるようになる必要があると述べています[2]。同ガイドラインはまた、様々なトラウマ体験ごとにPTSDの発症率が異なることが米国で報告されているとし、自然災害ではやや低く、戦闘やレイプでは高いと解説しています。これは、災害の場合は生死の危険が比較的低い者も含まれるのに対し、戦闘やレイプでは定義からして軽度の体験ということがあり得ないためであり、また災害では直後から支援を受けやすいのに対し、レイプでは体験それ自体を他人に打ち明けることができず支援を受けにくいことも一因と考えられると同ガイドラインは指摘しています[2]。

PTSDでは、被害の際に放出されたノルエピネフリンなどにより扁桃体の反応性が高まり、海馬の記憶整理が追いつかず断片化した記憶が残ることで、フラッシュバックや悪夢として繰り返し想起されると考えられています[2]。出典:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「トラウマ診療ガイドライン」をもとにJHO編集部が作図

NCNPガイドラインは、PTSDの生理的病態について、外傷的出来事の最中に感じた恐怖や無力感が記憶として過剰に固定化される状態が病態形成に関与していると解説し、生物学的には扁桃体や海馬が記憶の固定化と消去に重要な役割を果たしており、被害の際に青斑核から大量のノルエピネフリンが分泌されて扁桃体の反応性が亢進し、恐怖条件付けが形成されやすくなること、視床下部―下垂体―副腎皮質系(HPA axis)にも機能障害が認められることをNCNPガイドラインは挙げています[2]。同ガイドラインは、過覚醒症状は交感神経系(アドレナリン系)の過剰興奮であり、カフェイン・激しい運動・飲酒・大音響の音楽などの刺激で症状が悪化しうるため、被害者にカフェインを勧めることは推奨できないと明記しています[2]。同ガイドラインは、日本ではカフェインの有害作用はさほど指摘されていないものの、1日摂取量300mgを超えると中毒症状が出るリスクが高まり、コーヒーチェーン店のコーヒーには100mg程度のカフェインが含まれることがあるため、被害者本人のおおよそのカフェイン摂取量を聞いておく必要があるとしています[2]。

NCNPガイドラインは、PTSDの心理的病態についても解説しており、トラウマ体験の記憶に対しては恐怖条件付けが形成されているものの、通常の条件付けとは異なり、トラウマ体験を間接的に想起させるような様々な刺激に対しても恐怖が関連付けられている点が特徴だとしています。患者のトラウマ体験の記憶は断片化しており、その断片化した記憶のイメージには、恐怖などのネガティブな感情に加え、自責感・恥辱感・無力感などが様々に結びつけられているため、記憶は不安定でコントロールを失って想起されるとNCNPガイドラインは説明しています[2]。同ガイドラインによれば、トラウマからの回復とは、こうした断片化した記憶を結び合わせ、「過去にそのようなことがあったが、現在はもう過ぎ去っている」という一般的な記憶に統合していく過程であり、多くの患者ではこの回復は自然発生的に生じるとされています[2]。

第2章 PTSDの四つの顔:症状への深い探求

JSTSSガイドラインは、PTSDの診断ではまず出来事(トラウマ体験)を確定し、その後で症状を確認する必要があると述べています。PTSD症状が存在するからといって、その原因となる出来事があったと逆に推論するのは診断を誤るもとであり、出来事については本人の陳述だけでなく、可能であれば客観的な証拠で確認することが望ましいとしています。また、DSM-5が定めるトラウマ的出来事に該当しない出来事でも一時的にPTSD症状を生じることはありますが、その場合は適応障害などの診断や他の要因を検討すべきであり、比較的軽微な出来事によって半年以上PTSD症状が続くことは例外的だとしています[3]。トラウマ的出来事の範囲には、直接の体験・目撃・近親者に生じた出来事を知ることに加え、遺体収容者や虐待事案に繰り返し対応する警察官など職業上その詳細に繰り返しさらされる場合も含まれますが、テレビ・映画・写真などの電子媒体を通して間接的にさらされる場合は含まれないとされています[3]。

日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS)のガイドラインは、DSM-5に基づくPTSDの症状を次の4つのカテゴリーに整理しています。1か月以上持続し、大きな苦痛や職業・家庭生活への影響をもたらす場合に診断が検討されます[3]。

症状群 主な内容 必要な項目数
①侵入(再体験)症状群 反復する非自発的な記憶、トラウマに関連した悪夢、フラッシュバックのような解離反応、トラウマを思い出す刺激による強い苦悩・身体反応 1つ以上[3]
②回避 トラウマに関連した考え・気持ちの回避、人や場所などトラウマを思い出させるものからの回避 1つ以上[3]
③認知や気分の異常 出来事の想起不能、自分や世界への持続する否定的信念、歪んだ自責・他責感情、否定的感情の持続、興味の著しい減少、他者との疎隔感、肯定的な気持ちになれない 2つ以上[3]
④過覚醒 易刺激的・攻撃的な行動、自己破壊的・無謀な行動、過剰な警戒心、驚愕反応、集中困難、睡眠障害 2つ以上[3]

出典:日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDの薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために」(2013年)[3]

NCNPこころの情報サイトは、それぞれの症状を次のように説明しています。「突然、つらい記憶がよみがえる」――事件や事故のことをすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時につらい体験の感情がよみがえり、恐怖だけでなく苦痛・怒り・哀しみ・無力感などが混じった記憶として、同じ悪夢を繰り返し見ることもあるとNCNPは解説します[1]。「常に神経が張りつめている」――つらい記憶がよみがえっていない時でも緊張が続き、常にイライラしている、ささいなことで驚きやすい、警戒心が極端に強くなる、ぐっすり眠れないといった過敏な状態が続くとNCNPは説明します[1]。「記憶を呼び起こす状況や場面を避ける」――何度も記憶を呼び起こすうちに、きっかけとなる場所や状況を避けるようになり、本人も意識できないまま行動が制限されて日常生活・社会生活が送れなくなることも少なくないとNCNPは指摘します[1]。「感覚が麻痺する」――つらい記憶に苦しむことを避けるために感情や感覚が麻痺し、家族や友人への愛情や優しさを感じられなくなることがあり、これはつらい経験の記憶から心を守るための自然な反応だとNCNP解説は述べています[1]。

JSTSSガイドラインは、PTSDにはうつ病(症例の約半数が併発)、アルコール依存、睡眠障害(不眠と悪夢が中核症状)、不安障害などが合併しやすいと指摘しており、他の精神疾患の存在は必ずしもPTSDの否定にはつながらないこと、自殺念慮・自傷行為・アルコール等依存症への注意はどの治療段階でも必要であることをJSTSSガイドラインは強調しています[3]。同ガイドラインが挙げる併存疾患ごとの薬物療法の要点は次の通りです。うつ病を併発する場合はSSRI・SNRI・ミルタザピンが第一選択薬として国内外のガイドラインで推奨されています。アルコール依存を併発する場合は、不眠への対処や症状を紛らわせる目的で使われることが多く、依存症と診断される場合はその治療が優先されます。睡眠障害を併発する場合、PTSDではベンゾジアゼピン系薬物(睡眠薬・抗不安薬)に対して心理的依存を生じやすく、多くのガイドラインで推奨されていません。海外のオープン試験ではミルタザピン、トラゾドン、オランザピンやクエチアピン、プラゾシン(α1受容体拮抗薬)の有効性が報告されていますが、いずれも本邦では適応外であり、むずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群など合併する睡眠関連疾患があればその治療も併せて求められるとJSTSSガイドラインは述べています[3]。不安障害を併発する場合、日本ではフルボキサミン(デプロメール®・ルボックス®)が強迫性障害に、パロキセチン(パキシル®)がパニック障害・強迫性障害に、セルトラリン(ジェイゾロフト®)がパニック障害に、それぞれ承認を取得しています[3]。

JSTSSガイドラインはさらに、精神病症状が40%ものPTSD患者に認められるとし、トラウマの侵入体験や解離体験と関連する反応が生じやすいほか、明確な幻覚・妄想へと発展する場合があるとしています。この場合、精神病症状がPTSD症候群の部分症状なのか、あるいは併存する精神病性障害によるものなのかを明らかにする必要があり、前者であればPTSDの治療が求められるものの治療抵抗性の報告が多いと指摘しています[3]。また、双極性障害の躁状態が併存する場合、多動・気分の変動・易刺激性・攻撃性・睡眠障害は過覚醒症状との鑑別が求められ、躁状態における抗うつ薬の使用は躁状態を悪化させるリスクが高いともJSTSSガイドラインは注意を促しています[3]。

すぐに専門家へ相談・受診が必要なサイン(受診の目安)

  • NCNPガイドラインによれば、被害から6か月を経過しても症状が続く、あるいは悪化する傾向がみられる場合[2]
  • JSTSSガイドラインが指摘する通り、自殺念慮・自傷行為がある、またはアルコール・薬物への依存が強まっている場合[3]
  • NCNPこころの情報サイトが挙げる通り、行動が制限され、通常の日常生活・社会生活が送れなくなっている場合[1]
  • 「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが強いとき――一人で抱え込まず、今すぐこの記事内の「相談窓口」を確認してください

第3章 トラウマの根源:原因と脆弱性

NCNPこころの情報サイトは、「PTSDになる人はこころの弱い人なのでしょうか」という疑問に対して、「実際にはそんなことはなく、これまでは何の問題も無く生活していた人がPTSDに悩まされている例もたくさんあります」と明確に否定しています[1]。PTSDは性格の弱さの問題ではなく、体験した出来事の性質やその後の環境によって誰にでも起こりうる病気です。

NCNPこころの情報サイトは、生死に関わる体験をしたからといって全員がPTSDになるわけではなく、どのような出来事を体験したかが重要だと解説しています。米国の研究では、被災者のうちPTSDを発症する人は数パーセントである一方、レイプ・戦闘体験の場合は過半数がPTSDを発症するとされ、これはこうした体験が常に重度の恐怖への直面を伴っているためだと考えられています[1]。

また、被害後の社会的サポートが不足していたり生活のストレスが大きかった人にはPTSDが発症しやすいこと、恐怖反応の引き金となるアドレナリンの分泌が大きい人(スポーツマンタイプの人や危機に直面して人を救出する人々)もリスクが高いこと、以前にトラウマ体験や児童期の虐待などの逆境体験が複数ある人にはリスクが高くなることが分かっているとNCNP解説は述べています[1]。NCNP精神保健研究所のガイドラインも、被害後の社会的サポートの不足と生活ストレスの強さが回復不良と有意に相関する一方、過去の精神疾患や収入・学歴などは必ずしも相関していないと整理しています[2]。同ガイドラインは、交通事故被害者を対象とした研究では、事故時に感じた絶望感(死の確信)がPTSD発症にもっとも強く関係していたことも紹介しています[2]。このことから、被害後の社会的サポートを提供し生活のストレスを軽減するための支援が検討されており、心理的応急処置(Psychological First Aid:PFA)はその一例だとNCNPガイドラインは紹介しています[2]。NCNPのストレス・災害時こころの情報支援センターは、PFAについて「支援者が被災者や犯罪の被害を受けた方などと関わるとき、人の心理的回復を支えるための、人道的、支持的、かつ実際の役に立つ様々な支援をまとめたもの」だと説明しており、WHO版PFAなどの研修・資料を提供しています[9]。同センターは、急性期に生じる多くの症状の回復には個人差があり様々な経過を示すため、その歩みを見守りながら必要な時に手をさしのべる支援が重要だとしています[9]。

米国の児童期逆境体験研究(ACE研究)からは、児童期のトラウマなどの逆境体験が累積すると、成人してからの難治性うつ病・アルコール依存・自殺企図が有意に増加することが報告されており、NCNPガイドラインは人生早期のトラウマ被害への適切な対応と、脆弱性を有する児童・青年への早期の支援・治療の必要性を述べています[2]。

第4章 トラウマが慢性化するとき:経過と併存する問題の理解

NCNPガイドラインによれば、外傷体験後こうした反応は誰にでも生じうるものの、多くの場合は1か月以内で自然に回復するとされ、被害の直後には心理的な保護・社会的な支援を与え、必要に応じて対症療法的な治療を行いながら回復経過を見守ることが勧められています[2]。一方で、時間が経っても楽にならなかったり、かえって辛くなることもあり、数か月から数年経ってからPTSD症状がはっきりしてくる場合もあるとNCNP解説は述べています[1]。

JSTSSガイドラインは、米国での調査における生涯有病率は約8%で、最大で50%が慢性化の傾向をたどると報告しており、被害後数か月以上経ってからPTSD症状が発生する遅発発症の場合、何らかの精神症状が先行していることが多いと解説しています[3]。NCNPガイドラインも、外傷的出来事から1年以内は自然回復の可能性が比較的高い一方、PTSD患者の約3分の1は治療の有無にかかわらず寛解が得られないとされ、わが国における経過・予後の詳細データは存在しないため不明であるとしています[2]。同ガイドラインは、6か月を経て自然回復しない事例では、記憶への回避や統合の阻害が強化されていると考えられ専門的な治療・支援が必要となるものの、この段階であっても自分の体験が理解され受け止められたと感じることによって回復への道を歩むこともあるとしています。より確かな治療効果を得るためには、エビデンスのある薬物療法・認知行動療法を受けることが必要だと強調しています[2]。

複雑性PTSD(CPTSD)とは:長期反復的なトラウマがもたらす違い

日本心理学会「心理学ワールド」に掲載された、NCNP精神保健研究所の丹羽まどか氏・金吉晴氏による解説によれば、複雑性PTSD(complex post-traumatic stress disorder:CPTSD)は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11回改訂版(ICD-11)にて新たに採用された診断項目です。児童期虐待などの持続的反復的なトラウマ体験によって、通常のPTSD症状以外の多様な症状が出現することは多くの臨床家・研究者に認識されていたものの、国際的な診断基準で独立した診断項目として採用されたのはICD-11が初めてだとされています[8]。

同解説によれば、PTSDとCPTSDはいずれも「著しい脅威または恐怖を与えるような出来事」に続いて起こり、体験した出来事の種類によって両者を区別することはできません。CPTSDについては「最も一般的には、逃げることが困難であるか不可能な持続的あるいは反復的な出来事に続く」とされ、例として拷問、奴隷、大量虐殺、持続的なドメスティック・バイオレンス、反復的な児童期の性的・身体的虐待が挙げられていますが、これは出来事基準の定義そのものではないと説明されています。単回性のトラウマからCPTSDが生じることも、持続的トラウマから通常のPTSDが生じることもあるとされています[8]。

PTSDとCPTSDを区別するのは臨床症状です。PTSDは①再体験症状②回避症状③脅威の感覚の高まりという3つの中核症状カテゴリーを有し、それが機能障害を伴って続く場合に診断されます。一方、CPTSDはPTSDの3症状カテゴリーに加えて、自己組織化の障害(disturbance of self-organization:DSO)と呼ばれる①感情調整の困難②否定的な自己概念③対人関係の困難という3症状カテゴリーの症状をすべて有し、それらが機能障害を伴って続く場合に診断されるとされています。なお、CPTSD患者は必ずPTSDの診断基準を満たしますが、CPTSD患者に対してPTSDの併存疾患の診断は付けないとされています[8]。

症状カテゴリー PTSD CPTSD 説明
再体験 ○ ○ 鮮明で侵入的な記憶、フラッシュバック、悪夢などによる出来事の再体験[8]
回避 ○ ○ 出来事に関する記憶・思考の回避、思い出させる活動・状況・人の回避[8]
脅威の感覚の高まり ○ ○ 過剰な警戒心や予期せぬ音に対する驚愕反応などで示される、現在も脅威にさらされているという持続的な認識[8]
感情調整の困難 ― ○ 比較的軽微なストレスに対しても圧倒されるように感じる、動揺した時に気持ちを落ち着かせるのが難しい、感情が麻痺したり解離したりするなど[8]
否定的な自己概念 ― ○ 自分は弱く、敗北した、価値がないという信念、トラウマ的出来事に関連した恥・罪悪感・失敗の感情を伴う[8]
対人関係の困難 ― ○ 対人関係を維持したり他者に親密感を抱くことの困難[8]

出典:丹羽まどか・金吉晴「複雑性PTSDの診断と特徴、および治療」日本心理学会『心理学ワールド』97号(2022年)(ICD-11の記載を筆者が整理)[8]

治療について、同解説はオーストラリアの治療ガイドラインが、CPTSDを抱える人々への対応の原則として、トラウマインフォームドケアに基づく対応(トラウマの影響を理解し、身体的・心理的な安全を重視し、コントロール感を取り戻すような働きかけ)を推奨していると紹介しています。専門的な治療では、国際トラウマティックストレス学会や英国のNICE(国立医療技術評価機構)による治療ガイドラインで、トラウマ焦点化治療がCPTSDにも期待できること、個別の症状に合わせた多様な治療的介入やより長期的な治療が求められることなどが記載されているとしています[8]。複数の無作為化比較試験で有効性が検証された治療としてSTAIR Narrative Therapy(全16回、毎週60分)が紹介されており、前半のSTAIR段階で現在の感情調整や対人関係の困難さを扱い、後半のNarrative Therapy段階でPTSD症状の解消やトラウマ記憶の感情的処理に焦点をあてるという2段階構成になっているとされています[8]。

薬物療法については、CPTSDに相当する病態は現行のDSM(米国精神医学会の診断基準)ではPTSDに含まれ両者の区別がないため、薬物療法においても区別はなく、日本ではSSRIであるセルトラリン・パロキセチンが保険適用となっていると同解説は述べています。ただし、CPTSDに特異的な薬物療法についてはまだ知見が十分ではないとも指摘されています[8]。

日本国内の医療機関における複雑性PTSDの診断・治療体制の整備状況(CPTSDに対応できる医療機関の数や地域差など)の詳細については、今回参照した資料には十分な記載が見当たりませんでした。長期反復的なトラウマ(虐待・DVなど)を経験された方は、この記事の「PTSDの薬物療法の役割」や「相談窓口一覧」もあわせてご参照のうえ、精神科医に直接ご相談いただくことをお勧めします。医学情報は日々更新されるため、本記事の内容も今後の改訂により変わる可能性があります。

第5章 診断への道筋:日本で助けを求める

NCNPこころの情報サイトは、「PTSDかもしれない」と思ったときの相談先について、体験が犯罪被害の場合は警察の相談窓口や行政の相談窓口、犯罪被害者支援センター等への相談を、地震などの大規模災害の際は救護チームに派遣される精神科医・公認心理師への相談を挙げています。同サイトは、犯罪被害者等基本法に基づく医療費の給付金制度もあると紹介しています[1]。そのほか、地元の精神保健福祉センターや、精神科・心療内科などPTSDに知識のある医師・公認心理師のいる施設も選択肢になるとしています[1]。同サイトは、性的被害や家庭内の虐待などは人に相談しにくく、特に女性や子どもなど立場の弱い人が一人で悩み我慢していることが少なくないとし、「一人でがまんせず、精神科を受診するか、保健所などの相談窓口を通じて、信頼できる精神科やカウンセラーを紹介してもらうのも良い」と述べています[1]。

NCNPガイドラインは、診断・評価にあたって、トラウマ要因(加害者との同居など原因となった出来事が現在も持続していないか)、PTSDより優先すべき精神医療上の問題(差し迫った自殺の危険、寛解していない精神病性障害、未治療のアルコール・薬物依存など)、被害からの時期を確認する必要があるとし、評価尺度としてスクリーニングのPTSD3、自己記入式診断尺度のPDSをNCNPガイドラインは挙げています[2]。JSTSSガイドラインも、出来事インパクト尺度改訂版(IES-R)という22項目の自己記入式質問紙を紹介しており、強いストレスを伴う出来事に巻き込まれた人に後になって生じることのある症状(例:「どんなきっかけでも、そのことを思い出すと、そのときの気もちがぶりかえしてくる」「神経が敏感になっていて、ちょっとしたことでどきっとしてしまう」など)について、直近1週間の程度を0〜4点で回答する形式で、保険診療でも心理検査[操作が容易なもの]として80点が付与されているとしています[3]。これらは医療者が用いる専門的な評価尺度であり、自己判断のための診断ツールではありません。

JSTSSガイドラインは、PTSDの診断は一度の診察のみで確定することは容易ではなく、治療が進むにしたがって判明していく場合も珍しくないため、治療初期の時点で確定診断を急ぐ必要は必ずしもないとしています。ただし、その可能性を念頭に置いて以降の治療を計画することが求められ、診断には法的な問題が絡みうるため専門医による正確な診断が経過の中で求められることも少なくないとしています[3]。

日常診療の限られた時間内でPTSDの多彩な症状を捉えるための簡便なスクリーニング尺度として、JSTSSガイドラインは出来事インパクト尺度改訂版(IES-R、22項目の自己記入式、日本ではカットオフ値25点が目安)と、PTSD診断尺度(PDS、性的暴行を受けた米国女性138名を対象とした研究でカットオフ値27点)を紹介しています。同ガイドラインは、これらの評価尺度はPTSD症状のリスクを評価する補助的なツールであり、数値のみをもって治療開始の判断を行うべきではないと注意を促しています[3]。

JSTSSガイドラインによれば、IES-Rのカットオフ値25点は、工場労働者・阪神淡路大震災被災者・毒物混入事件被害者・地下鉄サリン事件被害者という日本国内の4集団を対象とした研究に基づくものであり、PDSのカットオフ値27点は、性的暴行を受けた米国女性138名を対象とした研究に基づくものだとされています[3]。

IES-Rの他の質問項目には、「そのことを思い出させるようなものには近よらない」「ものごとに集中できない」といった回避・集中困難に関する項目も含まれているとJSTSSガイドラインは紹介しています[3]。IES-R・PDS・PTSD3の具体的な採点方法や、医療機関での実施費用(保険点数以外の自由診療の相場)については、今回参照した資料には十分な記載が見当たりませんでした。評価尺度はあくまで医療者が用いる補助ツールであり、この記事を読んで自己採点し自己診断することは推奨されません。気になる症状がある場合は、直接医療機関にご相談ください。

トラウマを体験した患者への対応の基本と社会資源への橋渡し

JSTSSガイドラインは、患者にとって悲惨な体験を話すことには大きな抵抗が生じるため、信頼関係が築けないうちは主治医に対して出来事の詳しい内容や正確な症状を話さないことがあり、治療が進んでようやく自分の体験を語ることも珍しくないと解説しています。そのため、患者の苦悩や受診に踏み切った行動に対して共感的に接すること(例:「本当につらい体験をされましたね、よくがんばってここまでいらっしゃいました」といった声かけ)が求められるとしています[3]。特に最初の段階では、そのトラウマ体験を共感的に丁寧に聴くことが患者の安心や信頼関係の構築につながるとし、プライバシーの保たれる安全な環境で時間をかけて、ときには複数回に分けて話を聞く配慮が有用だとJSTSSガイドラインは述べています。性被害など異性の主治医に話しにくいと思われる場合には同性の陪席者を置くなどの工夫も求められ、家庭内の暴力や虐待の事案で加害者である配偶者や家族が同席している場合には、本人だけをプライバシーの保たれる環境で診察する配慮が求められるとしています[3]。同ガイドラインは、患者のトラウマ体験を丁寧に聴くことは求められるものの、それを患者から強引に聞き出してはならず、患者が自分自身のペースで話し、いわゆる二次被害を与えないことが重要だとも強調しています。治療の関係上どうしても詳しく聞かざるを得ない際には、そのことを前置きしたうえで尋ねることが求められるとし(例:「これからの治療のために必要なのでお聞きしますが、レイプの被害だったということでしょうか?」など)、患者の対応を非難したり被害を軽視したりする発言(悪い例:「被害にあったのは、あなたにもすきがあったからではありませんか」「そんなことは大したことではありません。気にしすぎです」など)は控えるべきだとJSTSSガイドラインは注意を促しています[3]。

JSTSSガイドラインによれば、PTSD患者の多くは自身の症状に十分な病識を持たなかったり、症状が出るのは自らの性格の弱さだと考えていたりするため、トラウマ体験の後は誰にでも起こりうる病態であることを説明する疾病教育が重要だとされています。性暴力被害者など出来事の原因が自分にあると責めている患者に対しては、「(加害者が悪いのであって)あなたが悪いのではない」ことを伝えて罪責感を軽減することも有用だとしています。具体的な対処法としては、呼吸法・筋弛緩法・自律訓練法などが、猛烈な不安やフラッシュバックが生じた際にコントロール感を取り戻す上で役立つと紹介されています[3]。

JSTSSガイドラインは、配偶者間暴力(DV)や虐待、ストーカー被害者では身の安全が守られているかが喫緊の問題であり、安全が確保できていない場合は警察や相談機関、支援団体への相談が優先されるとしています。医師には、DVについての情報が得られた場合、可能な限り本人の意思を尊重しつつも配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努める法律的義務があり、本人の同意が得られない場合でも情報守秘義務には抵触しないことが法的に定められているとも解説しています(配偶者暴力防止法)[3]。同ガイドラインは、急性期の性暴力被害者の場合には産婦人科への受診をすすめることも求められ、犯罪被害者では刑事手続き上の問題を抱えていることもあると指摘しています。これらは基本的に患者自身が対処すべきことですが、医療機関では「優先順位の整理」「(患者が)判断できるように一緒に考える」「必要な機関の紹介」などの支援が提供可能だとJSTSSガイドラインは述べています[3]。

相談内容 公的な相談窓口
犯罪被害全般 警察の犯罪被害者支援窓口[3]
犯罪被害全般(民間) 民間被害者支援団体(全国犯罪被害者支援ネットワーク)[3]
法律・司法手続き 法テラス(日本司法支援センター)[3]
DV(配偶者からの暴力) 配偶者暴力相談支援センター[3]
児童虐待 児童相談所[3]
地域の精神保健全般 各都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センター[3]

出典:日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDの薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために」(2013年)[3]

JSTSSガイドラインは、こうした問題解決は患者本人あるいは医療者のみでは対処できないことが多く、刑事司法手続きや生活支援はそれぞれ専門的な支援機関があるため、それら社会的資源に患者をつなげることが求められると述べています。後述する治療を実施してもPTSD症状が改善しない場合、うつ病・アルコール依存症などの合併障害がある場合、自殺行為・自傷行為の危険がある場合には、入院施設を備えた精神科医療への紹介が求められるともしています[3]。

第6章 傷を癒す:科学的根拠に基づく心理療法

JSTSSガイドラインは、PTSD患者の多くに精神療法が有用であり、治療者が患者の語りをよく聴き理解して支持すること(支持的精神療法)が治療における基本的姿勢として求められるとした上で、特にトラウマに特化した認知行動療法(CBT)のエビデンスは豊富でその有用性が実証されていると述べています。ただし、CBTを提供できる医療施設は精神科専門機関であっても希少で、十分でないのが実情だとJSTSSガイドラインは指摘しています[3]。

NCNPガイドラインによれば、日本でランダム化比較試験(RCT)が終了し保険適用となっているトラウマへの認知行動療法は持続エクスポージャー療法(PE)のみで、各種研究では一貫して効果量は1.5を超え、適応のある患者に施行した場合は効果が高いとされています。実施には米国から認定された指導者による症例指導(スーパーバイズ)を受けることが推奨されており、1回90分、10〜12回程度で効果が認められることが多いとされています[2]。この治療は、安全な環境と治療的支援のなかでトラウマ記憶に安全に触れ、断片化した内容を整理し、記憶と現実の被害が異なることを確認して患者を安心させることをNCNPガイドラインは目的として説明しています[2]。同ガイドラインは、認知処理療法(CPT)、EMDR(眼球運動脱感作療法)なども国際的には認められている手法として挙げています[2]。

認知処理療法(CPT)やEMDR(眼球運動脱感作療法)は国際的にはエビデンスが認められた手法とされていますが、今回参照したNCNPガイドラインによれば、日本国内でRCTが完了し保険適用となっているトラウマ焦点化認知行動療法はPEのみです。CPT・EMDRの国内における保険適用の可否や、対応できる医療機関の分布については、今回参照した資料に十分な記載が見当たりませんでした。これらの治療を希望する場合は、事前に医療機関へ実施可否をご確認ください。

NCNPこころの情報サイトも、PTSD治療の上で最も効果があるのはトラウマを扱う認知行動療法であり、代表的なものに持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)があると紹介した上で、こうした特殊な治療を受けられなくても、信頼できる先生によく話を聞いて理解してもらえたと感じるだけである程度良くなる場合があり、特殊な技法を求めるよりもまず自分の話をよく聞いてくれる信頼のできる医師・公認心理師を見つけることが先決だとNCNPこころの情報サイトは述べています[1]。

第7章 PTSD治療における薬物療法の役割

⚠ 以下は医療情報の紹介であり、薬の使用・変更・中止は必ず主治医の指示に従ってください。自己判断での服薬調整は危険です。

PTSDの薬物療法にあたっては、International Pharmacological Algorithm Project(IPAP)によるPTSD薬物療法アルゴリズム、英国のNational Institute of Clinical Excellence(NICE)、International Society for Traumatic Stress Studies(ISTSS)等のガイドラインが国内外で発刊されているとJSTSSガイドラインは紹介しています[3]。

JSTSSガイドラインは、PTSDの薬物療法において第一選択薬となっているのはSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬で、ランダム化比較試験により効果が認められ米国FDAに認可されているのはパロキセチン(paroxetine)とセルトラリン(sertraline)だと解説しています。日本では、パロキセチン(パキシル®、後発品あり)はうつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害に、セルトラリン(ジェイゾロフト®)はうつ病・うつ状態、パニック障害に対して発売・適応を取得していますが、同ガイドライン執筆時点(2013年)ではPTSDそのものへの承認は受けていないと明記されています[3]。

一方、NCNP精神保健研究所のガイドラインは、PTSDに対する効果がRCTによって検証され、米国のFDAおよび日本の保健医療で適用が認められているのはsertraline・paroxetineのみだが、効果量は0.5を下回っており必ずしも高くはないと記載しています[2]。

⚠ 2つの専門家向け資料の間で、パロキセチン・セルトラリンの「PTSDそのものへの適応(保険承認)」の記載に食い違いがあります。JSTSSガイドライン(2013年公開)は「本邦ではPTSDの承認を受けていない」と明記する一方、NCNPガイドラインはより後年に作成された資料ですが「適用が認められている」としています。薬剤の適応・承認状況は薬事審査によって変わるため、本記事では断定を避け、両方の記載を時点とともに紹介しています。実際に処方を受ける際は、現在の添付文書上の適応と主治医の判断を必ず確認してください。

NCNPガイドラインが紹介する処方例(レベル3対応・専門的治療の一環として)は、ジェイゾロフト25mg 1〜2錠 眠前、またはパキシル10〜20mg 1錠 眠前で、症状に応じて最大用量まで漸増し、最大効果の発現までに4〜8週を要するとされています。同ガイドラインは、SSRI開始初期に生じうるアクティベーション(賦活)による焦燥感の増悪を、PTSD症状としての過覚醒と混同しないよう注意を促しています[2]。JSTSSガイドラインも、SSRIは即効性に乏しく、適切な用量から投与を開始してもどんなに早くとも1〜2週間は効果が見られず、臨床的にある程度の反応が期待できるのは4〜6週間後、12週間後には多くの患者が改善し少なくとも50%の症状軽減が期待できるとしています。投与開始から3〜6か月後の寛解が治療目標とされ、寛解後は再発防止のため維持療法として1年間の投与継続が報告されています[3]。JSTSSガイドラインは、症状の改善度は4〜6週間ごとに吟味して薬物の治療効果を判定し、治療効果が部分的な場合は継続可能な最大用量への増量、または別の薬剤への変更を考慮するとしており、評価尺度(IES-RやPDSなど)を実施する時間的余裕があれば、その数値は大きな判断材料になるとしています。新たな薬物の工夫を行っても寛解に至らない場合は、専門医への相談・紹介、治療の見直し、症状に応じた追加治療の併用が考えられるとJSTSSガイドラインは述べています[3]。なお、セルトラリンでは反応に12週間以上を要する場合があり、12週間後の時点で部分的な反応しか示していなかった対象者が後に完全な反応を示した例も報告されています[3]。

NCNPガイドラインは、SSRIの効果が不完全な場合の追加的な処方例も紹介しています。過覚醒症状が強い患者には、α1遮断薬・β2遮断薬(ミニプレス0.5〜1mg 2錠 分2、またはインデラル10mg 3錠 分3)が2〜3日で効果が発現することがあり、1〜2週間投与して無効であれば中止するとされています。SSRIの効果が不完全な場合の増強療法としてイフェクサー37.5〜75mg 1錠 分1朝を用いることもありますが、エビデンスは弱いとされています。再体験症状がフラッシュバックのように幻覚性を帯びるときには、エビリファイ1〜3mgまたはリスパダール1〜2mg 1錠 眠前など少量の向精神病薬が有効なことがあるとされています。ただし、これらはいずれもPTSDへの正式な適用はなく、RCTによるエビデンスも不足しているとNCNPガイドラインは注意を促しています[2]。

NCNPガイドラインは、レベル2対応(対症的な症状軽減)の段階で、心疾患・貧血・ホルモン異常・投薬を含む薬物による不安や焦燥を除外する必要があるとし、特に抗精神病薬によるアカシジアや、抗うつ薬によるアクティベーション・シンドロームを見逃さないことの重要性を強調しています[2]。

薬剤の位置づけ 代表的な薬剤名 備考
第一選択(エビデンス最も高い) パロキセチン(パキシル®)、セルトラリン(ジェイゾロフト®) SSRI。日本では、うつ病・パニック障害等に承認。PTSDそのものへの承認可否はガイドラインにより記載が異なる[2][3]
報告はあるが推奨度は低い SNRI(デュロキセチン等)、ミルタザピン、オランザピン、クエチアピン 効果を示す報告はあるがSSRIとのエビデンスの差から推奨度は概ね低い[3]
推奨されない ベンゾジアゼピン系抗不安薬 即効性の抗不安作用はあるがPTSDの中核症状には無効。心理的依存を生じやすく長期連用は推奨されない[3]

出典:日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDの薬物療法ガイドライン」(2013年)[3]/国立精神・神経医療研究センター「トラウマ診療ガイドライン」[2]

JSTSSガイドラインは、抗精神病薬(オランザピン・クエチアピンなど)について、SSRIとのエビデンスの差から推奨の度合いは概ね低いものの、衝動性の強い例や治療抵抗例には有効性が報告されているとも解説しています。また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、即効性の抗不安作用は認めるもののPTSDの中核症状には無効であり、薬剤性の健忘や依存を形成しやすいことから長期連用は推奨されないと注意を促しています[3]。

JSTSSガイドラインは有害事象についても注意を促しています。SSRI・SNRIの急激な増量は賦活症候群(activation syndrome)を引き起こしうり、不安・焦燥、興奮、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジアが現れることがあり、不安・焦燥により自殺念慮・自殺のリスクが高まる懸念があるため、添付文書では24歳以下の症例への注意が喚起されています。逆に、SSRI・SNRIの急激な減量や突然の中止は離脱症候群(withdrawal syndrome)を起こしうり、めまい・知覚障害・睡眠障害(悪夢を含む)・身体症状・不安焦燥・興奮・意識障害が生じることがあるとJSTSSガイドラインは報告しています[3]。

第8章 回復への包括的な道筋

NCNPガイドラインは、治療方針を3段階のレベルで整理しています。レベル1対応は心理社会的な対応で、症状を悪化させる有害な刺激を避けつつ被災者・患者が落ち着きを取り戻し支援を受けていると感じられるようにすること、患者の体験を聞き出すのではなく言葉にならない感情に耳を傾けるつもりで穏やかに支持的に対応することをNCNPガイドラインは目的としています[2]。同ガイドラインによれば、レベル1対応はアウトリーチによる災害直後の被災者支援や、被害直後の患者・トラウマ被害について初めて相談する患者を診察する際に、この対応から始めることが安全だとされ、これ以上の心理的被害から保護し治療・支援への信頼感を育てることが目標とされています。具体的には、精神医療以外の生活上のニーズ、福祉サービス、治療を要する身体症状、生活習慣を確認し、トラウマ被害についてある程度の情報が得られた場合には、患者の症状がトラウマに対する自然な反応であり回復し得ることについての心理教育(ノーマライゼーション)を行い、必要に応じて家族などの理解を得るようにするとNCNPガイドラインは述べています[2]。レベル2対応は対症的な症状軽減を目標とし、医療機関に来院した患者にはできるだけ早くこのレベルの対応を行い、災害時などアウトリーチで被災者・被害者と関わる場合には心理的回復を望んでいることを確認したうえで実施するとされています。同ガイドラインは、被害後の早期にPTSDの発症そのものを予防する介入方法は、心理療法・薬物療法を含めてまだ証明されていないと明記した上で、リラクゼーションとして呼吸法・ストレッチなど不安緊張の軽減法を一緒に練習すること、認知行動療法モデルに基づき不安の軽減法としての認知修正を試みること、症状が耐えがたいときには対症療法的な投薬を行うこと(ただしベンゾ系は心理的依存形成に注意)を挙げています[2]。レベル3対応は精神疾患としてのPTSDの治療対応で、6か月を経過して回復傾向が認められない場合、あるいはそれ以前でも症状による苦痛・機能障害が強い場合に、薬物療法あるいは心理療法(トラウマへの認知行動療法)を行うとNCNPガイドラインは述べています[2]。

NCNPガイドラインは、治療前の評価として、①トラウマ要因(原因となった出来事が現在も持続している場合は治療効果が望みにくく、法的保護・ケースワークが必要)、②PTSDより優先すべき精神医療上の問題(差し迫った自殺の危険など)、③被害からの時期(通常、被害から数か月間は自然寛解が多い)を確認する必要があるとしています。ただしこれは大規模な社会介入の指針であり、診察室で被害直後の患者を前にしたときに数か月間待機させるという意味ではなく、自然経過を説明した上で心理教育・家族環境調整を交えつつ対症療法を行うことは認められるとしています[2]。

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

受診時に医師へ伝えると役立つチェックリスト:①きっかけとなった出来事の内容とおおよその時期 ②フラッシュバック・悪夢の頻度と内容 ③避けている場所・状況の具体例 ④眠れているか、驚きやすくなっていないか ⑤仕事・学業・家族関係への影響の具体例 ⑥「死にたい」と思うことがあるか、正直に伝える ⑦現在服用中の薬(市販薬・サプリメントを含む) ⑧これまでに精神科・心療内科の受診歴があるか。この項目を紙に書いて持参すると、初診時の診察がスムーズになります。

第9章 PTSDに苦しむ大切な人を支える方法

NCNPこころの情報サイトは、原因がわからないまま心の不安定な症状が続くと本人も周りの人もつらく疲れてしまうが、それが過去の体験に関係していると気づくことができれば回復への第一歩になるとNCNPこころの情報サイトは述べています[1]。同サイトは、周りから見ると何もないのに突然感情が不安定になり、取り乱したり涙ぐんだり怒ったりするため理解に苦しむことになると説明しており、これはPTSD症状のひとつであってわがままや性格の問題ではないことを家族が理解しておくことも助けになります[1]。家族・友人としては、本人を問い詰めて体験を聞き出そうとするのではなく、話したいときに話を聞く姿勢で寄り添うこと、そして本人が「一人で抱え込まず専門家に相談する」ことを後押しすることが助けになります。

NCNPガイドラインが指摘する通り、PTSDでは感覚が麻痺し、家族や友人に対してこれまで持っていたような愛情や優しさを感じられなくなることがありますが、これはつらい経験の記憶から心を守るための自然な反応であり、本人の意志や家族への気持ちが変わったわけではありません[1]。この点を家族があらかじめ理解しておくことは、関係の悪化を防ぐ助けになります。

DSM-5とICD-11:PTSD診断基準の国際的な違い

PTSDの診断基準は、米国精神医学会のDSM-5と、世界保健機関(WHO)のICD-11とで枠組みが異なります。JSTSSガイドラインが解説するDSM-5は、①侵入(再体験)②回避③認知や気分の否定的変化④過覚醒という4つの症状カテゴリーで診断します[3]。一方、日本心理学会に掲載されたNCNP研究者の解説によれば、ICD-11のPTSDは①再体験症状②回避症状③脅威の感覚の高まりという3つの中核症状カテゴリーで診断され、DSM-5にある「認知や気分の否定的変化」に相当する広範な項目は、PTSD単体の診断基準には含まれていません[8]。

その代わり、ICD-11では、児童期虐待などの持続的反復的なトラウマ体験を経た患者について、PTSDの3症状に加えて①感情調整の困難②否定的な自己概念③対人関係の困難という自己組織化の障害(DSO)を伴う場合に、複雑性PTSD(CPTSD)という独立した診断名を新たに設けました。DSM-5にはCPTSDに相当する独立診断がなく、該当する病態はPTSDに含めて扱われるため、日米欧の診断基準を横断してPTSDについて調べる際は、どちらの基準に基づく情報かを確認することが重要です[8]。

項目 DSM-5(米国精神医学会) ICD-11(世界保健機関)
PTSDの症状カテゴリー数 4つ(侵入・回避・認知や気分の否定的変化・過覚醒)[3] 3つ(再体験・回避・脅威の感覚の高まり)[8]
複雑性PTSD(CPTSD)の扱い 独立診断名なし。該当病態はPTSDに含む[8] PTSDとは別の独立した診断名として新設[8]

出典:日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDの薬物療法ガイドライン」[3]/日本心理学会「心理学ワールド」97号[8]

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国内の専門家ガイドラインにおける薬物療法の承認状況をめぐる記載の違い

項目 JSTSS「PTSDの薬物療法ガイドライン」(2013年) NCNP「トラウマ診療ガイドライン」
パロキセチン・セルトラリンのPTSDへの日本国内承認 「執筆時点において、PTSDの承認は受けていない」と明記[3] 「米国のFDAおよび日本の保健医療で適用が認められている」と記載(ただし効果量は0.5未満)[2]
第一選択の心理療法 トラウマに特化したCBT全般を推奨するが、提供できる施設が希少と指摘[3] 持続エクスポージャー療法(PE)を保険適用のある治療として明記[2]

2つの専門家向けガイドラインの間で薬剤の承認状況の記載に食い違いがあります。薬事承認は審査により更新されるため、実際の処方の可否は必ず現在の添付文書と処方医の説明で確認してください。この食い違いをそのまま提示するのは、どちらか一方を「正解」として簡略化すると実態を誤って伝えるリスクがあるためです。

PTSDの日本国内における年齢・性別ごとの詳細な発症率、複雑性PTSD(C-PTSD)の診断基準の詳細、児童・思春期のPTSDに特有の治療プロトコル、および個々の医療機関における通院・カウンセリングの費用相場については、今回参照した資料には十分な記載が見当たりませんでした。これらは個々の患者の状態や医療機関によって判断・対応が分かれる部分が大きいため、本記事では踏み込んだ記載をあえて避けています。気になる点は、受診の際に直接医師にご確認いただくことをお勧めします。

よくある質問

PTSDは自然に治りますか?
NCNPのガイドラインによれば、外傷体験後の反応は誰にでも生じうるものの、多くの場合は1か月以内に自然に回復するとされています[2]。ただし、6か月を経過しても症状が続く場合や、悪化する傾向がみられる場合は、専門家への相談が推奨されます[2]。JSTSSガイドラインも同様に、被害の直後には心理的な保護・社会的な支援を与えて回復経過を見守ることが勧められるとした上で、自然に回復しない場合(3〜6か月を経て病状が持続している場合)や、苦痛が強く病状の好転が見られない場合には治療の対象となるとしています[3]。
PTSDの原因になった出来事を思い出すのがつらく、詳しく話せません。治療を受けられますか?
NCNPのガイドラインは、特殊な治療技法を求めるよりもまず、自分の話をよく聞いてくれる信頼できる医師・公認心理師を見つけることが先決だとしています[1]。持続エクスポージャー療法などトラウマに焦点化した治療は、安全な環境の中で少しずつ進める形で行われるため、いきなり詳細をすべて話す必要はありません。まずは相談することから始められます。
PTSDの薬は一生飲み続ける必要がありますか?
JSTSSガイドラインによれば、投与開始から3〜6か月後の寛解が治療目標とされ、寛解後は再発防止のため維持療法として1年間程度の投与継続が報告されています[3]。その後の継続・減薬の判断は主治医が症状の経過を見ながら行うものであり、自己判断で中止すると離脱症候群を起こすことがあるため、必ず医師の指示に従ってください[3]。
複雑性PTSD(C-PTSD)とPTSDは何が違いますか?
日本心理学会に掲載されたNCNP研究者の解説によれば、PTSDは①再体験②回避③脅威の感覚の高まりの3症状で診断されるのに対し、複雑性PTSD(CPTSD)はこの3症状に加えて①感情調整の困難②否定的な自己概念③対人関係の困難という自己組織化の障害(DSO)を伴います。児童期虐待などの持続的・反復的なトラウマ体験がある場合にCPTSDのリスクが高いとされていますが、単回性のトラウマからCPTSDが生じることもあるとされています[8]。CPTSD患者は必ずPTSDの診断基準も満たすため、通常のPTSD治療に加えて、感情調整や対人関係の困難さに対応する治療(STAIR Narrative Therapyなど)が必要になることがあり、精神科医への相談が勧められます[8]。
子どもがPTSDになることはありますか?
はい、子どももPTSDになり得ます。日本トラウマティック・ストレス学会は「心的外傷(トラウマ)になるような出来事に対する子どもの年齢別の反応」や「危機後の子どものストレスに対処するために」といった資料を公開し、子どものトラウマ反応や保護者の対応の考え方を紹介しています[7]。ただし、児童・思春期のPTSDに特有の診断基準の詳細や治療プロトコルの個別解説については、今回参照した医療者向けガイドライン(JSTSS・NCNP)には十分な記載が見当たりませんでした。お子さんに気になる様子がある場合は、小児科・児童精神科、または地域の精神保健福祉センターにご相談ください。
PTSDの相談は誰にでも無料でできますか?
はい。厚生労働省「まもろうよ こころ」が案内する電話相談窓口(いのちの電話、よりそいホットラインなど)は、無料・匿名で利用できるものが多くあります[5]。まずはこうした窓口で話してみることから始められます。
家族がPTSDかもしれません。どう接すればいいですか?
NCNPのガイドラインによれば、PTSDの症状で感覚が麻痺し、家族への愛情や優しさを感じられなくなることがありますが、これはつらい記憶から心を守るための自然な反応です[1]。問い詰めずに本人のペースを尊重し、専門家への相談を後押しすることが助けになります。
「死にたい」と言われたら何をすればいいですか?
まず本人の話を否定せずに聞き、一人にしないようにしてください。そのうえで、いのちの電話(0570-783-556、毎日16時〜21時)や、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間対応)など無料の相談窓口に一緒に連絡することを勧めてください。厚生労働省の案内の通り、差し迫った危険を感じる場合は、迷わず119番(救急)または精神科救急に連絡してください[5]。
PTSDでは幻覚や妄想のような症状も出ますか?
JSTSSガイドラインによれば、精神病症状は40%ものPTSD患者に認められ、トラウマの侵入体験や解離体験と関連する反応が生じやすいほか、明確な幻覚・妄想へと発展する場合もあるとされています[3]。この場合、PTSD症候群の部分症状なのか、併存する精神病性障害によるものなのかを見極める必要があるため、専門医の診察が重要です。
カフェインはPTSDの症状に影響しますか?
NCNPガイドラインによれば、過覚醒症状は交感神経系の過剰興奮であり、カフェインなどの刺激で症状が悪化しうるとされています。日本では1日摂取量300mgを超えるとリスクが高まるとされ、コーヒーチェーン店のコーヒーには100mg程度のカフェインが含まれることがあるため、摂取量に注意が必要です[2]。
DVや虐待の被害を受けている場合、誰に相談すればいいですか?
JSTSSガイドラインは、身の安全が確保できていない場合は警察や配偶者暴力相談支援センターなどの相談機関、支援団体への相談が最優先だとしています。医師にも、DVの情報を把握した場合に配偶者暴力相談支援センターまたは警察官へ通報するよう努める法律的義務があります[3]。

相談窓口一覧:電話・SNSで話せる場所

厚生労働省「まもろうよ こころ」は、電話・SNSで相談できる窓口を複数案内しています。話す相手や時間帯に合わせて選べます[5]。

窓口名 電話番号・利用方法 対応時間
#いのちSOS 0120-061-338(フリーダイヤル・無料) 月〜日 24時間[5]
よりそいホットライン 0120-279-338(フリーダイヤル・無料)/福島県からは0120-279-226 24時間対応[5]
いのちの電話 0120-783-556(フリーダイヤル)/0570-783-556(ナビダイヤル) 毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時(フリーダイヤル)/10時〜22時(ナビダイヤル)[5]
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(ナビダイヤル、通話料有料) 都道府県により異なる[5]

出典:厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口(2026年7月時点)[5]

電話が苦手な方には、厚生労働省が案内するSNS・チャット相談窓口もあります。特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンクによるLINE相談「生きづらびっと」、特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエアによる「こころのほっとチャット」、特定非営利活動法人 あなたのいばしょによる24時間365日対応のチャット相談などが、厚生労働省の窓口案内に掲載されています[5]。

法的な問題への対応と災害時の支援

JSTSSガイドラインは、PTSDはトラウマ体験となった出来事との因果関係を明瞭に認めている診断であるため、補償や裁判などの様々な法的問題に直面することがあり、DVや虐待などの例では緊急の法的手続きが必要な場合も多いと解説しています。こうした手続きの支援は警察や民間被害者支援団体等が行いますが、その過程で診断書・意見書・法廷での証言を医師が求められる可能性があるとしています。診断書等における診断の妥当性、現症状の評価、今後の経過の見通しなどについては専門医の判断が求められる場合があり、その際は専門医への紹介がすすめられるとJSTSSガイドラインは述べています[3]。

また、大規模な災害時には、急性期・中長期ともに訪問型支援(アウトリーチ・サービス)が有効であり、保健所等の行政機関と連携しつつ精神面での支援にとどまらない包括的ケアの提供が求められるとJSTSSガイドラインは述べています[3]。

日本トラウマティック・ストレス学会は、災害時の心理的支援に役立つ資料として「被災者に心理的支援を行う方のための資料集」や「リーダーのストレスマネジメント」「大量死の現場での遺体への感情的反応に関する初期対応者における重要点」なども公開しており、支援者自身のセルフケアについても情報発信を行っています[7]。

結論

PTSDは、命の危険を感じるような体験の後に誰にでも起こりうる、決して珍しくない精神疾患です[1]。この記事で見てきた通り、症状は侵入(再体験)・回避・認知や気分の否定的変化・過覚醒という4つの群に整理され、これらが1か月以上続き生活に支障が出ている場合に診断が検討されます[3]。原因となる出来事は事故・災害・犯罪被害・虐待など多様で、レイプや戦闘体験のように重度の恐怖への直面を伴う体験ほど発症率が高くなることが分かっています[1]。

被害後の数か月は自然に回復する人も多い一方、6か月を過ぎても症状が続く場合や、自殺念慮・自傷行為がある場合は、専門的な治療の対象になります[2]。NCNP・JSTSS両ガイドラインが示す通り、トラウマに焦点化した認知行動療法(持続エクスポージャー療法など)やSSRI(パロキセチン・セルトラリンなど)といった、科学的根拠のある治療法が存在します[2][3]。薬の承認状況などガイドラインによって記載が異なる点もありますが、実際の治療方針は主治医との相談の中で決めていくものです。

そして何より、一人で抱え込まないことが回復への第一歩です。信頼できる医師・公認心理師に相談すること、家族や友人に支えてもらうこと、そして「死にたい」という気持ちが強いときは今すぐこの記事の相談窓口に連絡することを、忘れないでください。

更新日:2026年7月19日。本記事の内容に誤りやお気づきの点がございましたら、お問い合わせフォームよりご指摘いただけますと幸いです。JHO編集部が確認のうえ、必要に応じて内容を更新いたします。

国の取り組みと学会の役割

日本トラウマティック・ストレス学会は、子どものトラウマ反応に関する資料も公開しています。同学会は「心的外傷(トラウマ)になるような出来事に対する子どもの年齢別の反応」(2022年公開)、「危機後の子どものストレスに対処するために」(2022年公開)、「保護者のための災害後のストレスマネジメント」(2022年公開)、「子どもにやさしい空間」ガイドブック(2022年公開)といった資料を通じて、子どものトラウマ反応や保護者・支援者による対応の考え方を紹介しています[7]。また、大切な人を亡くした場合のケアについても、「大切な人を喪った子どもの心のケア」(2024年公開)、「大切な人との死別による悲しみの理解と対応」(2024年公開)といった資料を公開しており、トラウマだけでなく死別による悲嘆への対応も学会の情報発信の対象となっています[7]。これらの資料はいずれも一般向けの手引きであり、個別の症状の評価や治療については、小児科・児童精神科など専門医療機関への相談が必要です。同学会はこのほか、「学校でしばしば見られるトラウマ~その被害と対応~」や「戦争について子どもに話す際に」といった、教育・支援の現場で参照できる資料も公開しています[7]。

厚生労働省は、国立精神・神経医療研究センターに委託する形で「PTSD対策専門研修」を実施しており、災害・事故・犯罪・児童虐待などのトラウマ的体験をした人々に基本的な精神保健医療対応(こころのケア)を提供できる人材の確保と、地域におけるトラウマ支援ネットワークの形成を目的としています[6]。また、日本トラウマティック・ストレス学会は、PTSDに関する学術大会・学会誌を通じた研究の紹介や、犯罪被害者支援・災害時の心理的支援に関する情報発信を継続的に行っている専門学会であり、被災者・被害者支援に役立つ実践的な資料を継続的に公開しています[7]。PTSDについてさらに詳しく知りたい場合は、精神疾患(こころの病気)の総合ガイドやメンタルヘルスの総合ガイドもあわせてご覧ください。

参考文献

  1. 国立精神・神経医療研究センター. こころの情報サイト「PTSD」. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=iGkwv4PNzgWhQ9xI
  2. 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所. トラウマ診療ガイドライン. https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/phn/trauma_guideline.pdf
  3. 一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会. PTSDの薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために(第1版、2013年9月6日). https://www.jstss.org/docs/2013090600351/file_contents/guideline.pdf
  4. 厚生労働省. こころの耳「PTSD(心的外傷後ストレス障害)用語解説」. https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1675/
  5. 厚生労働省. まもろうよ こころ「電話相談窓口」. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
  6. 厚生労働省. 令和6年度 PTSD対策専門研修 募集要項. https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001302097.pdf
  7. 一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会. PTSDカテゴリ. https://www.jstss.org/categories/bunya/ptsd/
  8. 丹羽まどか, 金吉晴. 複雑性PTSDの診断と特徴、および治療. 日本心理学会「心理学ワールド」97号(2022年). https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/97-20-21.pdf
  9. 国立精神・神経医療研究センター. ストレス・災害時こころの情報支援センター. https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/
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Trinh Van Dieu

Trinh Van Dieu

ITエンジニア(17年)・Japanese Health 運営者

ベトナム在住のITエンジニア。17年の技術経験を活かし、日本の公的医療機関の情報をAI技術で整理・発信しています。

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