糖尿病とED(勃起障害)の関係|原因と受診の目安・治療法
この記事でわかること
目次
糖尿病はED(勃起障害)の主な原因のひとつであり、高血糖による血管の損傷と、自律神経の障害という2つの仕組みが重なって起こると考えられています。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」は、勃起障害を糖尿病の自律神経障害の代表的な症状のひとつとして位置づけ、薬物療法が必要な場合はホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害薬であるシルデナフィルやバルデナフィルが有効だとしています[1]。ただし同ガイドラインは、狭心症などの治療で硝酸薬(ニトログリセリンや亜硝酸薬)を使用している場合、PDE5阻害薬の使用は重篤な血圧低下を招くおそれが大きいため禁忌だと明記しています[1]。心当たりのある症状がある場合は、自己判断せず泌尿器科を受診してください。
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要点まとめ
- 日本糖尿病学会のガイドラインは、勃起障害を糖尿病の自律神経障害の代表的な症状のひとつとして分類している[1]
- 日本泌尿器科学会によると、糖尿病がある人の42%がEDを経験していたという調査データがある[4]
- 【最重要】狭心症などで硝酸薬(ニトログリセリン等)を使用中の人はPDE5阻害薬を使用できない——重篤な血圧低下のおそれがあり、独立行政法人PMDAの患者向医薬品ガイドも明記している[5]
- 日本泌尿器科学会は、EDが心筋梗塞・狭心症など心血管疾患の発症前に現れることが多いとし、「たかが、EDと侮ってはいけません」としている[4]
- NCBI Bookshelfの総説によると、2型糖尿病がある女性の20〜80%に性機能障害がみられ、血管障害・神経障害・ホルモン変化が関わるとされる[6]
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、日本糖尿病学会・日本泌尿器科学会・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)・国立健康危機管理研究機構(糖尿病情報センター)・NCBI Bookshelfの一次資料と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別の診断・治療の代わりにはなりません。ガイドラインの数値・推奨は改定により変わることがあります(2026年7月時点の情報)。内容に誤りや古い情報にお気づきの際はページ下部からご連絡ください。事実を確認のうえ訂正します。
糖尿病とED(勃起障害)——まず知っておきたいこと
「最近、勃起の勢いが弱くなった」「維持できないことが増えた」——糖尿病がある男性からよく聞かれる悩みです。加齢のせいだと自己判断して受診をためらう人も少なくありませんが、日本泌尿器科学会は「EDは局所だけの疾患ではなく、全身疾患の一つとしてとらえなければならない」としたうえで、主な原因として「加齢、糖尿病、肥満と運動不足、心血管疾患および高血圧、喫煙、テストステロン低下、慢性腎臓病と下部尿路症状、神経疾患、外傷および手術、心理的および精神疾患的要素、睡眠時無呼吸症候群」などを挙げています(同学会)[4]。同学会によれば、服用中の薬剤の副作用が原因でEDとなる場合もあるとされています[4]。同学会は「単に『年のせい』だけなく、メタボリック症候群のような生活習慣病もEDの大きな原因なのです」と述べており、糖尿病はその代表格に位置づけられています[4]。この記事では、糖尿病とEDがなぜ関係するのか、どんな症状で泌尿器科を受診すべきか、そして治療薬を使ううえで命に関わる注意点(硝酸薬との飲み合わせ)を、日本糖尿病学会・日本泌尿器科学会などの一次資料にもとづいて解説します。
先に結論を述べると、糖尿病によるEDは「気のせい」でも「年齢のせい」だけでもなく、血管と神経という体の仕組みに起きている変化のサインであることが多いとされています[1]。放置せず早めに泌尿器科で相談することが、ED自体の改善だけでなく、隠れた心血管疾患の早期発見にもつながります[4]。また、日本泌尿器科学会は「決して恥ずかしいことではなく、むしろ良いカップルライフを送る上で大変重要なこと」だとも述べており、周囲に言い出しにくい悩みであっても、医療の対象として相談してよいテーマだと位置づけています[4]。
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第10章および日本泌尿器科学会の資料をもとにJHO編集部が作図
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数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
なぜ糖尿病でEDが起こりやすいのか——血管へのダメージ
国立健康危機管理研究機構が運営する糖尿病情報センターは、糖尿病の慢性合併症のひとつである大血管症について、心臓の血管や脳の血管、足の血管が傷つく病気だと説明しています[2]。同センターによると、糖尿病がある人は糖尿病でない人と比べて心筋梗塞の危険度が数倍高いとされ、その背景には血管の動脈硬化(血管の老化)が進みやすいことがあります[2]。同センターは、この動脈硬化の進行を防ぐために「糖尿病・血圧・脂質のコントロール、減量、禁煙」に配慮する必要があるとしています[2]。
勃起という現象は、陰茎海綿体に大量の動脈血が流れ込むことで起こる、いわば「細い血管の働き」に強く依存する現象です。日本泌尿器科学会は、勃起の仕組みについて、性的興奮により勃起に関係する神経から特殊な物質が放出され、陰茎海綿体に信号を送ることで動脈血が多く流れ込むと説明しています[4]。糖尿病による高血糖が続くと、この血流を支える血管の内側(血管内皮)が傷つきやすくなります。体の中でもとりわけ細い血管が集まる陰茎の血流には、心臓や脳の太い血管より早く変化が現れやすいと考えられており、これが「ED=血管トラブルの早期サイン」という考え方の土台になっています(詳しくは後述します)。
もうひとつの経路——自律神経障害
血管の問題と並んでもうひとつ重要なのが、神経の障害です。糖尿病情報センターは、糖尿病性神経障害の分類のひとつとして自律神経障害を挙げ、「骨盤にある膀胱や生殖器の働きには自律神経が関わっています」としたうえで、代表的な症状として膀胱の機能障害(排尿障害、残尿)とならんで勃起障害を挙げています[3]。同センターは、排尿障害や勃起障害については、症状を緩和する薬を使用する場合があるとも説明しています[3]。
日本糖尿病学会の診療ガイドライン2024も同様に、自律神経障害の症状として、瞳孔機能異常・起立性低血圧・心臓神経の障害(無痛性心筋梗塞など)・発汗異常・消化管の運動障害とならんで、膀胱の機能障害・勃起障害・無自覚性低血糖を挙げ、これらは日常生活を大きく損なうことがあると述べています[1]。つまり糖尿病性のEDは、血管の障害(動脈硬化による血流不足)と、神経の障害(自律神経が勃起の信号をうまく伝えられなくなること)という、2つの経路が重なって起こる合併症だと理解できます。どちらか一方というより、糖尿病の罹病期間が長くなるとともに、両方が少しずつ関わってくることが多いと考えられます。
| 経路 | 体で起きていること | 関わる主な資料 |
|---|---|---|
| 血管の障害(血管性ED) | 高血糖による血管内皮の損傷・動脈硬化で、陰茎海綿体への血流が不足する | 糖尿病情報センター「大血管症」[2] |
| 神経の障害(神経性ED) | 自律神経が勃起の信号をうまく伝えられなくなる | 日本糖尿病学会ガイドライン2024・糖尿病情報センター「神経障害」[1][3] |
自律神経障害は、EDだけが単独で現れるとは限りません。日本糖尿病学会のガイドラインは、自律神経障害の症状として、瞳孔機能異常・発汗異常・起立性低血圧・心臓神経の障害(突然死、無痛性心筋梗塞)・消化管の運動障害(便秘、下痢)・胆嚢無力症・膀胱機能障害・勃起障害・無自覚性低血糖など、多彩な病態を挙げています[1]。つまり、EDと同時に「立ちくらみが増えた」「便通が不安定になった」「低血糖のときに震えや冷や汗が出にくくなった」といった変化がある場合、単独の悩みとしてではなく、自律神経障害というひとつの合併症の一部として、まとめて医師に伝えることが診断の助けになります。
| 自律神経障害の症状 | 体で起きていること |
|---|---|
| 勃起障害・膀胱機能障害 | 骨盤の膀胱・生殖器の働きに関わる自律神経の障害[3] |
| 起立性低血圧 | 急に体を起こした時に血圧が下がり、たちくらみが起きやすくなる[3] |
| 無痛性心筋梗塞 | 心臓神経の障害により、心筋梗塞が起きても胸の痛みが出ないことがある[1] |
| 胃不全麻痺 | 胸焼け・吐き気・食欲低下・消化不良などが起きやすくなる[3] |
| 無自覚性低血糖 | 震えや冷や汗などの低血糖症状が起きにくく、自覚しづらくなる[3] |
| 発汗異常 | 汗をかかなくなる、乾燥肌になるなどの変化[3] |
神経障害についてさらに詳しく知りたい方は「糖尿病性ニューロパチーとは|症状と治療法をガイドラインで解説」もあわせてご覧ください。手足のしびれと同じ「糖尿病性神経障害」というひとつの病気の中に、勃起障害も含まれていることがわかります。自律神経の障害全般については「自律神経障害のすべて:原因、症状から最新治療法までを徹底解剖」でも解説しています。
どれくらいの男性に起こるのか
日本泌尿器科学会は、公式サイトの中で「多くの心血管疾患(心筋梗塞、狭心症など)の患者さんが、その発症前にEDを自覚しています」としたうえで、「高血圧で41.6%、糖尿病で42%、高脂血症で20%の患者さんがEDであったというデータもあります」と紹介しています[4]。つまり、糖尿病がある男性のおよそ4割強がEDを経験していたという調査結果が示されていることになります[4]。ただし、この割合は調査対象や重症度の判定方法によって変わりうる数字であり、「糖尿病になったら必ずEDになる」という意味ではありません。
今回参照した日本糖尿病学会の診療ガイドライン2024の該当章には、全国規模の統計値としての有病率は明記されていませんでしたが[1]、自律神経障害の代表的な症状としてEDが位置づけられていることから、糖尿病の罹病期間が長く、血糖コントロールの状態が悪いほど、EDを含む自律神経症状のリスクが高まると考えられます[1]。
EDは心臓病の「早期警告サイン」かもしれない
ここが、この記事でもっともお伝えしたいポイントです。日本泌尿器科学会は「多くの心血管疾患(心筋梗塞、狭心症など)の患者さんが、その発症前にEDを自覚しています」としたうえで、「EDになったら他の全身疾患が進行しつつあるかもしれない」「たかが、EDと侮ってはいけません」と述べ、早めに泌尿器科を受診するよう呼びかけています[4]。
この背景には、先ほど説明した血管の仕組みが関わっています。陰茎の血管は心臓や脳の血管に比べて細く、動脈硬化による血流の変化が早い段階で症状として現れやすいと考えられています。糖尿病情報センターが説明する「糖尿病の方は心筋梗塞の危険度が数倍高い」という大血管症のリスクは[2]、心臓の血管だけでなく全身の血管に共通する変化であり、EDはその変化がいち早く現れる場所のひとつだといえます。心臓病がある方の性生活における注意点は「【心臓病と性生活】性行為はどこまで安全?リスクと対策・受診の目安をやさしく解説」でも詳しく解説しています。
だからこそ、EDを「年齢のせい」「恥ずかしいこと」として放置せず泌尿器科を受診することには、ED自体の改善だけでなく、血糖・血圧・脂質など全身の健康状態を見直すきっかけになるという意味があります[4]。EDと診断・治療の全体像を幅広く知りたい方は「勃起不全(ED)の包括的理解:最新の国際的・国内的診療ガイドラインに基づく原因、診断、治療法の全貌」もあわせてご覧ください。
受診の目安——何科に行けばいい?費用は?
🚦 次に当てはまる場合は、自己判断で様子を見ず、早めに医療機関に相談してください。
- 勃起の勢いの低下・維持の困難が3か月以上続いている
- これまで問題なかったのに、比較的急に勃起しにくくなった
- 糖尿病治療中で、足のしびれ・立ちくらみなど他の神経障害の症状もある[3]
- 胸痛・強い息切れ・動悸を伴う場合は、EDの相談より先に循環器科または救急を受診してください
受診先について、日本泌尿器科学会は明確に「EDを自覚したら泌尿器科を受診してください」としています[4]。すでに糖尿病で内科(糖尿病内科・内分泌代謝内科)に通院している場合は、まず主治医に相談したうえで、必要に応じて泌尿器科を紹介してもらう流れでも問題ありません。日本糖尿病学会のガイドラインも、PDE5阻害薬が無効な場合は泌尿器科医へ紹介するという診療の流れを示しています[1]。
費用については、ED自体の診察・治療薬は、多くの場合、公的医療保険が適用されない自由診療として扱われます。一方で、糖尿病治療そのもの(血糖・血圧の管理や神経障害の検査・治療)は通常の保険診療の対象で、自己負担は原則3割(年齢や所得により1〜2割の場合もあります)です。実際の費用は医療機関や検査内容によって異なるため、詳しくは受診先の窓口で確認してください。
治療の選択肢——まず薬の見直しから
日本糖尿病学会のガイドラインは、自律神経障害全体への対応について「自律神経障害が軽症の場合は、血糖コントロールの改善と生活習慣の改善を行えば、これらの機能障害は改善することが多い。しかし、神経障害が進行し、日常生活を障害する場合は、症状に応じた薬物による対症療法が必要である」という基本方針を示しています[1]。つまりEDについても、まず血糖・生活習慣の見直しから始め、それでも改善しない場合に薬物療法を検討する、という順序が基本になります。そのうえで同ガイドラインは、勃起障害への具体的な対応について「まず勃起障害をきたしやすい薬剤の中止が必要である」としています[1]。降圧薬や一部の薬など、EDの原因になりうる薬を服用している場合、自己判断で中止するのではなく、医師に相談して薬の見直しを検討することが最初のステップです[1]。
そのうえで薬物療法が必要な場合、同ガイドラインは「ホスホジエステラーゼ阻害薬であるシルデナフィルあるいはバルデナフィルが有効である」としています[1]。PDE5阻害薬は陰茎海綿体の血管を広げる働きを助けることで勃起を起こりやすくする薬で、性欲を高める薬(催淫剤)ではありません[5]。PMDAの患者向医薬品ガイドも、この薬について「勃起不全や他の病気を診断するために過去にかかった病気の調査や検査を行い、治療が必要と判断された人に限り、医師の判断により処方されます」と明記しており、市販で気軽に使える薬ではなく、医師の診察と処方が前提の薬であることがわかります[5]。
同ガイドラインが「ホスホジエステラーゼ阻害薬が無効の場合は泌尿器科医へ紹介する」としているように[1]、薬が効かない場合や他の治療法を検討したい場合は、泌尿器科でさらに詳しい検査・治療の選択肢について相談することになります。自宅でできるセルフケアの工夫を知りたい方は「糖尿病性足病変とは?早期発見で防ぐ切断リスク」も、血管・神経が重なって合併症につながる仕組みを理解するうえで参考になります。
受診時、医師は何を確認するのか
PMDAの患者向医薬品ガイドによれば、PDE5阻害薬は「治療が必要と判断された人に限り、医師の判断により処方されます」とされているとおり[5]、処方前には丁寧な問診が行われます。PMDAの患者向医薬品ガイドは、次のような人はこの薬を「使用することはできません」としています[5]。
- 硝酸薬・NO供与剤(ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなど)を使用している人
- 心臓に障害があるなど、性行為が不適当と考えられる人
- 肝臓に重い障害がある人
- 低血圧の人、または治療を受けていない高血圧の人
- 最近6か月以内に脳梗塞・脳出血・心筋梗塞を起こしたことがある人
- 網膜色素変性症の人
- アミオダロン塩酸塩(経口剤)やsGC刺激剤(リオシグアト)を使用している人
これとは別に、PMDAの同ガイドは「腎臓に重い障害がある人」「血液の病気(鎌状赤血球性貧血など)がある人」「陰茎の構造に欠陥がある人」などは、使用できないわけではないものの「特に注意が必要」で、使い始める前に医師・薬剤師に伝えるべき人として挙げています[5]。糖尿病がある人は、これらの確認項目のうち高血圧・心血管疾患・腎機能障害と重なりやすいため、正直に病歴や服用中の薬をすべて伝えることが、安全に治療を受けるための前提になります[5]。
🖨️ 泌尿器科を受診する前に確認しておきたいチェックリスト(印刷して持参できます)
- 狭心症・心筋梗塞の既往があり、硝酸薬(ニトログリセリン等)を使用しているか
- sGC刺激剤(リオシグアト)やアミオダロン塩酸塩を使用しているか
- 最近6か月以内に脳梗塞・脳出血・心筋梗塞を起こしたことがあるか
- 現在治療を受けていない高血圧・低血圧があるか
- 糖尿病の罹病期間、直近のHbA1c、他の神経障害の症状(しびれ・立ちくらみなど)の有無
- 現在服用中のすべての薬(降圧薬・抗不整脈薬を含む)の名前
これらを整理してから受診すると、医師が禁忌の基準に該当するかを短時間で確認しやすくなります。
絶対に知っておくべき禁忌の基準——硝酸薬との飲み合わせ
🚨 命に関わる注意点:狭心症・心筋梗塞などの治療で硝酸薬(ニトログリセリン、亜硝酸薬など)を使用している人は、PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)を使用してはいけません。
日本糖尿病学会のガイドラインは、「虚血性心疾患に対してニトログリセリンや亜硝酸薬を使用している場合は、ホスホジエステラーゼ阻害薬の使用は重篤な血圧低下をきたすおそれが大きいことから禁忌である」と明記しています[1]。
PMDAが公開しているバイアグラ錠(シルデナフィルクエン酸塩)の患者向医薬品ガイド(2024年7月更新)も、同じ注意点を次のように説明しています。「この薬とニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなどの硝酸剤等を併用した場合、過度に血圧が低下することがあります」[5]。そのうえで、使用できない人として「ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなどの硝酸剤等を使用している人」を挙げ、あわせて「可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤(リオシグアト)を使用している人」「アミオダロン塩酸塩(経口剤)を使用している人」も使用できないとしています[5]。
| 状態・服用中の薬 | PDE5阻害薬(シルデナフィル等)は |
|---|---|
| 硝酸薬・NO供与剤を使用中(ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなど) | 使用不可(禁忌)。重篤な血圧低下のおそれ[1][5] |
| sGC刺激剤(リオシグアト/アデムパス)を使用中 | 使用不可(禁忌)[5] |
| アミオダロン塩酸塩(経口剤)を使用中 | 使用不可(禁忌)[5] |
| 最近6か月以内に脳梗塞・脳出血・心筋梗塞を起こした | 使用不可[5] |
| 治療を受けていない高血圧、または低血圧 | 使用不可[5] |
| 性行為が不適当と考えられるほどの心臓の障害がある | 使用不可[5] |
この表はシルデナフィル製剤(バイアグラ)の患者向医薬品ガイドの内容にもとづいていますが[5]、日本糖尿病学会のガイドラインが示すとおり、硝酸薬との併用禁忌はPDE5阻害薬というグループ全体に共通する注意点です[1]。狭心症の発作時に使う舌下錠タイプの硝酸薬(ニトログリセリン舌下錠など)を持っている方は、EDの薬を使う前に必ず処方医に伝えてください。PMDAも指摘するとおり、ED治療薬をインターネットの個人輸入や知人からの譲渡で入手し、自己判断で使うことは、この禁忌を確認できないまま服用することにつながり、大変危険です[5]。
ED治療薬を安全に使うために——偽造品への警告
日本泌尿器科学会は、ED治療薬について「ED治療薬は勃起を良くするだけではなく、全身の血管の働きも良くする作用も認められています」とし、現在3種類のED治療薬が国内で使用できるとしています[4]。一方で、同学会は強い調子で次のように注意を呼びかけています。「インターネットなどで販売されている薬は偽物が多く、有害な物質が含まれている可能性があるので、決して手を出さないようにしてください」[4]。そのうえで「本物(正規)のED治療薬は医師の処方箋が必要なので、ためらうことなく泌尿器科を受診してください」と述べています[4]。
この警告は、本記事で紹介した硝酸薬との禁忌ともつながっています。個人輸入や海外通販の薬は、成分量が表示と異なっていたり、そもそも何が入っているか分からなかったりするリスクがあるだけでなく、処方前に行われるはずの問診(硝酸薬の使用有無、心臓病の既往、血圧など)を一切経ないまま服用することになります[5]。糖尿病があり心血管疾患のリスクも重なりやすい人にとって、この「問診なしでの服用」は、通常より大きな危険をともなうと考えられます。
自己判断で薬をやめない・変えない
糖尿病の治療薬とEDの関係についても注意が必要です。血糖・血圧をコントロールする薬の中には、EDに関わりうる薬もあるとされていますが[1]、だからといって自己判断で糖尿病の薬を中止したり量を減らしたりすることは、血糖コントロールの悪化という、より大きなリスクにつながります。薬の変更や中止は、必ず処方した医師に相談したうえで検討してください[1]。糖尿病治療薬全般の注意点は「糖尿病治療薬で注意すべき5つのポイント」でも解説しています。
女性糖尿病患者の性機能障害も知っておきたい
ED(勃起障害)は男性に特有の言葉ですが、糖尿病による性機能への影響は女性にも及びます。米国国立生物工学情報センター(NCBI)が運営する医学書データベースBookshelfに掲載された総説は、女性の性機能障害(FSD)が2型糖尿病のある女性の20〜80%にみられる糖尿病の重要な合併症のひとつであり、血管の損傷・神経障害・ホルモンバランスの変化・心理的要因など複数の要因が関わると説明しています[6]。同Bookshelf掲載の総説によると、高血糖が続くことは血管を傷つけて一酸化窒素の産生を低下させ、腟への血流や潤滑(うるおい)に影響することがあるとされています[6]。
男性のEDと同じく、血管と神経へのダメージという共通の仕組みが背景にあると考えられます。性交痛や性欲の低下、潤滑不足などの症状がある場合も、恥ずかしがらず婦人科・かかりつけの糖尿病内科に相談してみてください。NCBI Bookshelfの総説によれば、血糖コントロールの改善や潤滑剤の使用など、対応できる選択肢があります[6]。
もし〜なら、こう考える
今日からできること——生活習慣の見直し
日本糖尿病学会のガイドラインは、糖尿病性神経障害(自律神経障害を含む)の発症・進行に関わるリスクファクターとして、血糖コントロールの不良・糖尿病罹病期間・高血圧・脂質異常・喫煙・肥満を挙げています[1]。糖尿病情報センターも、動脈硬化の進行を防ぐために糖尿病・血圧・脂質のコントロール、減量、禁煙が重要だとしています[2]。これらはそのまま、糖尿病性EDの予防・改善にもつながる土台になります。
- 血糖管理を続ける:自己判断で食事療法・運動療法・薬物療法を中断せず、主治医と決めた血糖コントロールの目標を維持してください。ガイドラインが示すとおり、自律神経障害が軽症のうちは、血糖コントロールと生活習慣の改善だけで機能障害が改善することも多いとされています[1]。
- 禁煙する:喫煙は血管の血流を悪化させ、動脈硬化を進めるリスク因子とされています[1][2]。禁煙が難しい場合は、自己流でやめようとせず、禁煙外来など医療機関のサポートを利用する方法もあります。
- 血圧・脂質を管理する:高血圧・脂質異常はいずれも、EDと共通する血管への負担として、糖尿病の診療で通常から重視される管理項目です[1]。日々の数値目標を主治医と確認し、無理のない範囲で維持することが役立ちます。
- 体重を見直す:肥満は自律神経障害の危険因子のひとつとされています[1]。極端な食事制限は低血糖など他のリスクを高めることがあるため、運動量や食事内容の見直しは主治医・管理栄養士と相談しながら進めてください。
- 症状を我慢しない:「恥ずかしい」「歳のせい」と自己判断せず早めに相談することが、ED自体の改善と隠れた心血管疾患の早期発見の両方につながります[4]。日本泌尿器科学会が述べるとおり、これは「決して恥ずかしいことではなく」、体の状態を知るための重要な一歩です[4]。
結論
糖尿病によるED(勃起障害)は、高血糖が引き起こす血管の損傷と自律神経の障害という、2つの仕組みが重なって起こる合併症のひとつです[1]。日本泌尿器科学会のデータでは糖尿病がある人の42%がEDを経験しており[4]、しかもEDは心筋梗塞・狭心症など心血管疾患の「早期警告サイン」である可能性が指摘されています[4]。放置せず泌尿器科を受診することは、ED自体の改善だけでなく、隠れた合併症の早期発見にもつながります。
治療薬(PDE5阻害薬)は有効な選択肢ですが、狭心症治療で硝酸薬を使用している場合は重篤な血圧低下を招くおそれがあるため、絶対に併用してはいけません[1][5]。この薬は必ず医師の診察と処方のもとで使用し、自己判断でのインターネット購入や個人輸入は避けてください[5]。
糖尿病がある男性全体のうちEDを経験する割合について、今回参照した日本糖尿病学会の診療ガイドライン2024の本章には、全国規模の有病率を示す具体的な統計値の記載は見当たりませんでした。本記事で紹介した「42%」という数字は日本泌尿器科学会が紹介する調査データにもとづくものであり[4]、調査対象や重症度の判定方法によって数字は変わりうる点にご留意ください。また、真空吸引器や陰茎プロステーシスなど、PDE5阻害薬以外の治療選択肢の詳細については、今回参照した資料の範囲では十分な情報が確認できなかったため、本記事では扱っていません。気になる場合は、受診先の泌尿器科で直接ご相談ください。
よくある質問
ED治療薬はインターネットや個人輸入で買っても大丈夫ですか?
ED治療薬は健康保険が使えますか?
何歳くらいから注意が必要ですか?
PDE5阻害薬以外の治療法はありますか?
更新日:2026年7月18日。本記事の内容に誤りや古い情報にお気づきの際は、ページ下部の連絡先からお知らせください。事実を確認のうえ訂正します。数値・推奨は各ガイドラインの改定により変わることがあります。
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参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第10章 糖尿病性神経障害 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/10.pdf
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「大血管症」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/030/01.html
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「神経障害」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/060/01.html
- 日本泌尿器科学会「勃起力(ぼっきりょく)が低下した」 https://www.urol.or.jp/public/symptom/15.html
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)患者向医薬品ガイド「バイアグラ錠25mg/バイアグラ錠50mg/バイアグラODフィルム」(2024年7月更新) https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/671450_2590018F1020_1_00G.pdf
- NCBI Bookshelf「Sexual Dysfunction in Female Patients with Diabetes」(2025年3月更新) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK612823/
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